後悔はしてません。
身体が起き上がれるようになって、歩けるようになった時、家主の炭十郎さんと葵枝さんに次に炭を売りに行く時、連れて行ってくれないかと聞いた。
町の人だけでなく、旅の商人さんや旅人さんに私を知らないか、何処かの町で届けは出ていないか聞く為だ。
本当はもう炭十郎さんが私が気を失っている時に、聞いているらしいのだけれど、直接私の顔を見てもらって見覚えはないか調べる目的がある。
数日後、私に合わせてゆっくり歩きながら町へ行った。
遅い歩みで申し訳なくて伏いていたら、炭治郎くんが手を握ってくれた。恥ずかしかったけど、心がほわほわして嬉しかった。
町へ行って炭十郎さんが炭を売っている間に炭治郎くんが、私と一緒に行き交う町の人達に聞いて回ってくれた。
皆、知らぬ存ぜぬという返事で悲しくなって、また伏いてしまった時、握っていた手を改めて強く握り直した炭治郎くんに驚いて顔を上げて見つめたら、にっこりと微笑んで
「俺が一緒に居るから大丈夫だよ」
そう言ってまた聞き込みをしてくれた。
少しの間お世話になっていたけれど、どこかで”私は一人きり、もしかして捨てられたのかな……”なんて思っていた所があった。
だから、炭治郎くんがそう言ってくれた事が嬉しくて、心がいっぱいになって、泣きたくなったけど我慢した。
優しい炭治郎くんの事だから心配すると思ったから。
その日は結局分からず仕舞いで、夕方になり帰る事になった。
それから何度も何度も炭を売りに行く時には町へ行って聞き込みをしたれど、”分からない”という事だけしか分からなかった。
悲しかった。
でも、そう思う度に炭治郎くんが一緒に居てくれて励ましてくれたり、ただ黙って一緒に居てくれたりした。
炭治郎くんはとても優しい。一緒に居ると心が暖かくてほわほわする。
正直普通だったら、もう諦めなよ。とか言ってきそうなのに炭治郎くんは諦める所か意外な事に、とても頑固で逆に焚きついたというか、全然諦めなかった。
町の人達も皆良い人ばかりで私の事を心配してくれた。
何より私達を騙して連れて行こうとした、いかにも怪しい旅の商人さんから守ってくれた炭治郎くんと、近くに居たおば様方や、お兄さん達が助けてくれた。
そういう事があって、私にも親しくしてくれる町の人達には感謝しきれない。
でも、半年経っても私の事は分からないまま。
なので、炭十郎さんと葵枝さんがうちの子にならないかってお話をしてくれた。
結局分からなかったし、どうしようって思っていたから、この話を聞いた時、申し訳ないと言う気持ちと、迷惑なのではなんていう気持ちがあって直ぐには返事出来なかった。
それは炭十郎さんと葵枝さんも分かっていたのか、じっくり考えてみて?って言ってくれた。
正直魅力的な話だった。
この竈門家の皆や、町の人達が良い人である事は分かっているから。
でも、どうしても迷ってしまう。
ある夜、縁側の戸を開けて夜風に当たっていた。
しばらく月を見ていたら、もう、皆寝ていると思っていたら、人が居る感じがしたのでそちらに目線を向けると炭治郎くんが居た。
「えっと、こんばんは」
「……こんばんは」
炭治郎くんが挨拶してきたので、挨拶をし返した。どうしてここに……。
「隣、良い?」
「うん」
そう言って炭治郎くんは隣に座った。すると夜空を見た炭治郎くんは、わぁ!って目をキラキラさせて見てる。
「月と星がきれいだね!」
「ね、とてもきれい」
私達はそう言うと、しばらく夜空を見上げて無言になった。
「……炭治郎くんはどうしてここに?」
ふと疑問に思った事を言ってみた。
「喉が渇いて厨に行ってきたんだ」
その返事にそっかと言って、また二人で見上げる。
「何か悩んでるだろ?」
「え?」
「言える事なら言ってみなよ。俺じゃ頼りないかもしれないけど、聞くくらいならできる」
そんな言葉が聞こえて思わず炭治郎くんを見ると、炭治郎くんもこちらを見つめていた。
ちょっとドキドキしたけど、さっきの返事しなくちゃ。
「実は炭十郎さんと葵枝さんから”家族にならないか”って言ってもらって……」
「悩んでるって事は断ったのか?」
「ううん、直ぐに答えが出なくて返事は保留になったよ」
それを聞いて、何故か炭治郎くんは胸に手を当ててホッとしてる。
どうしたのかな??
「家族になるのが嫌な訳じゃないんだろ?」
「……うん」
正直、改めて思うけど、とても嬉しかった。
でも、こう……なんていうか。
「……折角分かった名前を変えるのが、ちょっと」
竈門っていう名字も素敵だけど、”四季森”っていう名字を変える事は少し抵抗感を感じてしまう。
うん、きっとこれが理由かも。こんな事きっと誰が聞いても”そんな事か”って言うかもしれないけど、何故か”今じゃない”って思っている不思議。
「そっか、調は四季森っていう名前を大事にしたいんだな」
「え?」
「きっと覚えてないんだろうけど、それは調にとって大事な事なんじゃないかな」
…………大事な事。
「きっと四季森の家族が大好きだったんだよ。だから、名字を変えるかもしれないって思ったから困っちゃったんだ」
「……そっか」
なんだか、すとんって心の中で何かが落ちて収まった。
そっか、元の家族が大好きだったんだ。
そう納得すると頬に何かがつたった。
「あれ?」
私は泣いていた。ぽろぽろと涙がとめどなく出て来る。
「あれ、なんで……」
「調……別に家族になるのに、名字を変える必要はないんじゃないかな」
「え、でも……」
「大丈夫だ。父ちゃんも母ちゃんも分かってくれる」
なにより……
「俺も一緒に居るよ」
その笑顔を見た時気付いた。
ああ、私。
「……うん」
炭治郎くんの事が好きなんだ。って気付いた。
それがきっと私の大事な気持ち。そして、幼い私の初恋。
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そんな事があって、私が竈門家に拾われてから一年が経った。
炭十郎さんと葵枝さんにちゃんと話した。
私が家族になるのを躊躇してしまう理由。
二人共微笑んで”変える事はない”と言ってくれた。
一緒に居た炭治郎くんの方に顔を向けると、ほらね?って笑顔で示してくれた。
本当に暖かい人達だと思った。
そして、名字を変える事なく竈門家に迎えられた。
口では言わないけど、居候の身なので(一度言ったら怒られた。家族だろ!って)家のお仕事を葵枝さんに教わりながら過ごす。
ちなみに、この竈門家の子供である私より年下の禰豆子ちゃんも直ぐに私に懐いてくれた。よく私の後ろをついて来る。可愛い。
その下の竹雄くんは最初はちょっとだけ警戒してたけど、この子も直ぐに懐いてくれた。可愛い。
花子ちゃんも茂くんも可愛くて仕方ない。
皆、良い子で可愛いから、ついつい見入ってしまう。……私にも兄妹が居たのかな?居たら良いな、そう思う。
女の子って精神的に成長早いですから、幼くても恋はしますよ。
結構直ぐに自覚する妹。
炭治郎に惚れるのは正直しょうがないと思う。