光子、神皇宮へ行く   作:黄錦龍

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長いので中編。


第2話

先手、動いたのはカルマだった。

前傾姿勢となり竹刀は大振りの型、勢いよく肉薄しつつ武器を振り上げる姿はまさに野蛮人の突進。無策に突っ込んでいくカルマに対して、光子は冷静にカルマを見据えていた。

 

 

抜刀術の型。佐々木家秘伝の巌流剣術には当然継承システムというものがあり、初代である佐々木小次郎から現代まで延々と語り継がれ、その度に剣術の型は枝分かれのように広がりを見せた。

 

 

ーーーその全てを網羅したと言っても過言ではない光子は、無数の型の中から最初に選んだのが抜刀術の型。相手の攻め手に合わせて反撃の機会をうかがう型。

 

 

故に光子は、突貫を仕掛けるカルマを軽くいなすように刀を横凪に振り抜く。

 

 

ギリィッ!ーーー金属が擦れるような音が拡散した。竹刀であるはずのカルマの武器は、傷一つつかず光子の抜刀と鍔迫り合いをしていたのだ。

 

 

「なっーーー」

 

 

「驚いたかよ、特別製なんだよ……俺のはよォッ!!」

 

 

裂帛の如き叫びをそのままに、力任せに反撃を仕掛けた光子を押し飛ばすように竹刀を振り回した。

 

 

拮抗出来るはずもないーーーカルマの出で立ちからして、筋肉は隆々としており無駄がない。対して光子は鍛えているとはいえ女子の細腕。華奢な身体は容赦なく後方に押し飛ばされてしまう。

 

 

「くっ…!」

 

 

体勢を立て直すために、着地のまま再び刀を鞘に収めーーーる事が出来ず。

 

 

理由は明白。鬼を彷彿とさせる夜叉が、目前にいたのだから。

 

 

ーーー圧倒的腕力、そして速度。カルマだからこそ為せる暴れん坊の動き。咄嗟に光子はしゃがみ込みカルマの脇をすり抜けると同時に、カルマの横凪が風塵を舞わせた。

 

 

滑り込んで回避した光子はその最中に鞘に刀を収めて。

 

 

「取った!」

 

 

「ーーーって、思ったか?」

 

 

勢い良く振り抜かれた刃は、カルマがすかさず背を向けたまま竹刀を斜めに構えて防いだのだ。

振り向くことなく防いだ=どこに刀が迫ってくるか先読みした予測と反応速度。先程の腕力や速度と言い、どれを見てもトップクラスな実力に、光子は驚愕を隠せなかった。

 

 

その隙が命取り、と言わんばかりに。

 

 

「遅ェぞ嬢ちゃん!!」

 

 

言いながら、カルマはその身を勢い良く反転させ、勢い殺さずに回し蹴りをかましてきた。

 

 

光子は瞬時に鞘を盾の要領で構え、その蹴りを防ごうとしたーーーが。

 

 

ドゴォッ、と。華奢な肉体ではその蹴りをいなすことは出来ずに鞘が光子の身体まで押して、実質直撃してしまった小さな体はくの字に折れ曲がり10メートルほど後方に吹き飛ばされてしまう。

 

 

「が、はっ」

 

 

血反吐を撒き散らしながら吹き飛んだ光子は、容赦なく地面に叩きつけられその勢いのまま指揮官様の真横を横切り、門の戸に激突。

 

 

圧倒的なまでに、光子とカルマの実力差は開いているのはここまでの剣戟光景を見た蒼司は察しただろう。

これでも共にカルマと共に神皇様を守護する門番だ、カルマがどれだけ強いかは身をもって把握している。こうなるのはある程度予想ができていた。

 

 

方や、ACE学園の女学生。

方や、数々の刺客を撃退してきた夜叉。

潜り抜けてきた場数からして雲泥の差なのだ。

 

 

だが。

蒼司すらこうなることを予想していたにもかかわらず、指揮官様の表情は明るかった。

光子の不利、それは明白のはず。だというのに、腕組を崩さず余裕を消さず。光子に駆け寄る動きもなく、動揺すら現れてこなかった。

 

 

「……なぜです?」

 

 

思わず、傍らに立つ指揮官様に怪訝の意志のまま蒼司は尋ねた。

 

 

問いに対して、指揮官様が口を開こうとしたーーー刹那。

 

 

「まだ、です……!」

 

 

光子の声が、劈くように響き渡る。

 

 

光子が、立ち上がっていた。

カルマの猛激を受けて、未だに闘志を失うことなく。

 

 

「拙者はまだ、参ったとは言わない!!」

 

 

「……そうこなくっちゃなァ」

 

 

光子の意思に呼応するように、カルマもまた笑みを歪ませる。

 

 

再び向き合う光子の姿に唖然とする蒼司を横目に、指揮官様は言おうとした言葉をそのまま告げる。

 

 

「そう、光子はまだ参ったと言ってない。言ったろ、強いって」

 

 

「……なるほど。意志の強さ、と。若いですね」

 

 

「そりゃまだ女学生だしね」

 

 

「だからこそ伸び代がある、と。毎度ながら着眼点が優れている、流石は伝説のーーー」

 

 

蒼司が最後まで言い終える前に、光子が『鞘を左手に持ち構えて、二刀流の型』を取りカルマに肉薄を仕掛けに向かう。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

「面白ェぞ嬢ちゃん!!」

 

 

迎え撃つように袈裟斬りで立ち向かうカルマに負けじと、光子の二刀が拮抗する。

そう、拮抗しているのだ。先程まで押し負けていたはずの光子が、力任せの薙ぎ払いを受け止めており、さらに押し返そうとしているのだ。

 

 

「な、に……!?」

 

 

「まだ、まだぁっ!!」

 

 

その様子を見て、指揮官様は蒼司に解説するように言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「これには諸説あるんだけど。鞘ってのは、刀を中身から裂け出るのを防ぐために『刀と同じ強度』で仕上げてるんだってさ。だから、刀と鞘で二刀流なんて芸当も別段不思議じゃないよね?」

 

 

「……抜刀術に、二刀剣術。巧みですね、彼女は」

 

 

力のカルマならば、技術の光子。

うら若き乙女武士が鬼人(カルマ)を、ずりずりっと押し返そうとしている。

 

 

褒めちぎられて感嘆する蒼司の双眸は、劣勢になり始めたカルマに向けられていた。

 

 

カルマは、笑っていた。

闘う前に彼は言った、強者を前にすると云々と。その言葉通り彼は強者を求めて門番をやっているようなものだ。目的は邪だが、蒼司や神皇様が認める程に実力は確固たるものなのだ。

 

 

信頼しているカルマが、若さと技術を武器にした彼女に負けるなどとーーーそう思った矢先。

 

 

「……むぅんッ!!」

 

 

技術を力で捩じ伏せるかのように、地面がめり込むほどの脚力を頼りに光子の二刀を跳ね除ける。

 

 

押し飛ばされた光子だが、反撃をさせないと言わんばかりに着地後前傾姿勢でカルマに飛び寄る。

 

 

カルマの頭上を飛び越えつつ、頭目掛けて斬撃

→横に構えたカルマが交差斬りを防ぎ

→カルマの背後に着地した光子は果敢に攻めるために突貫

→凄まじい反応速度で光子と視線を交差したが、光子はそのまま横切り

→横っ飛びしてカルマの死角に回り込んで

→それを追うカルマは、次は何処に斬撃が飛び込んできても良いように身構える。

 

 

ーーーファニーの反復横跳びを彷彿とさせるように、光子の動きが少しずつ早くなり、やがてそれはカルマの目に捉えられない速度となる。

 

 

「……撹乱か。どっからでもーーーッ!?」

 

 

きやがれ

 

 

と、言葉が紡がれるより先に。

カルマの後方に鞘が激突し、よろめいた。

 

 

激痛に表情を曇らせるカルマは驚愕する。

激突しめり込んできた鞘は、なんと宙を舞っていた。そう、『いつの間にか背後に回り込んでいた光子が投げ飛ばしていた』のだ。

 

 

カルマがよろめいて。

それこそが一瞬、けれど好機と光子は踏み込んで。

 

 

「巌流、燕の閃き……!」

 

 

叫ぶ光子の肉体が加速し、いよいよカルマは光子の姿を捉えることが出来ない領域となった。

 

 

高速で縦横無尽に周囲を駆け回る姿はまさに閃光の如き速度。目にも止まらぬスピードで振り抜かれた鞘が、カルマの筋骨隆々な肉体をじわりじわりと痛めつけていく。

 

 

「ぐ、ごォ!?」

 

 

苦悶、悲鳴、そして『歓喜』。

 

 

光子は、カルマを本気にさせるに値する人物だと。

 

 

「や、る、じゃ、ねぇかァッ!!!」

 

 

野獣の如き絶叫が辺りに撒き散らされる。

 

 

燕の閃き、その最後の一撃を放つ刹那ーーーカルマの肉体が赤く染まった。

 

 

「!?!?」

 

 

まずい、と踏んだ光子は放つ一撃→回避に専念して距離を取った。

 

 

その選択をしなければ、光子は『焼けていた』だろう。

 

 

轟々ッ!!!

 

 

と、カルマを中心に焔が拡散し始めたのだ。

赤く激しく、カルマの性格を表すようにその炎は猛り滾っていた。

 

 

「……今のは?」

 

 

「秘剣・彼岸花。ーーーこれを発現したのは久々でな、火加減がガチにやっちまった」

 

 

不吉な言葉として印象のある実在の華を技にしているカルマの焔が、その言葉を皮切りに収まっていく。

 

 

辺り一面を焼け野原にしてもおかしくないその火力、それこそがカルマの真骨頂。

 

 

「嬢ちゃんを怖がらせちまったな……」

 

 

厳つい表情から何処と無く申し訳なさそうな声色、というギャップ萌えでも狙っているようなカルマだが。

そんなものに疎い光子は真剣な眼差しと、冷や汗を拭う動作をしながら首を横に振る。

 

 

怖くなどない、と。

女は度胸あるのみと言わんばかりに。

 

 

その姿に、カルマは更に歓喜する。

 

 

「嬢ちゃんみたいな女の子は久々だ……久々に本気でやれそうだ!」

 

 

「さようですか。ならば拙者も、貴殿に喰らいつかねば!」

 

 

互いに闘志を燃やし、血気盛んに。

 

 

もはやこの戦いは試合の次元を超えてしまった。

2人はこれから、殺し合いでも始めかねないほど剣気の風が漂い始めてしまっている。

 

 

「(これ以上はさすがにヤバい、か?)」

 

 

これまで見守っていた指揮官様だが、その顔つきがようやく焦りを浮き彫りにし始めた。

 

 

カルマの本気を、指揮官様は目にしたことがあるからだ。それは相棒である蒼司も同様であり、彼は腰に提げている刀に手を伸ばしていた=いつでも止めに入れるという明確な意思表示だ。

 

 

だが、そんな彼等の気持ちなど→言葉にしていないのだから届くはずもなく。

 

 

光子、カルマ。

両者ともに真っ向から突撃してーーー!!

 

 

 

 

 

「そこまでにせよ」

 

 

静かで、それでいて凛とした女の子の言葉が割って入ってきたのだった。

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