光子、神皇宮へ行く   作:黄錦龍

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第3話

「おや、この声は神皇ちゃまかな?」

 

 

『……誰がちゃま、だ』

 

 

聞こえてきた声の主は神皇様。元より指揮官様が光子と共に皇居へ訪れた理由の張本人にあたる人物であり、この厳かな建造物の主であり、日の丸を代表とする存在。

 

 

だが指揮官様とやり取りしているであるはずの少女の姿はどこにもいない。

カルマと光子の激戦を止めに入ったはずの声の主は明らかに神皇様のもので間違いないはずなのに。

 

 

しかして、理由は明白。神皇様の元には『門番』二人以外にも多種多様な人材が控えており、門番はあくまで外側からの攻めを守るための存在でしかない。ゆえに内側を守る人材の中に一人、念能力に秀でた人物がいても不思議ではない。

 

 

この展開もおそらく、神皇様は一部始終を観察していたに違いない。でなければ、念能力での会話を通じて二人の試合を止めに入ることなどできないのだから。

 

 

『まったく、子供扱いするなと言っておろうに』

 

 

凛としていて、それでいて幼さが残った声色の少女の言葉は。

指揮官様とのやり取りを聞く限り、呆れているようにも感じ取れる。

 

 

そんな溜息交じりの呟きに、真っ先に歯向かうように声を荒げたのはカルマだった。

 

 

「ちょっと待ってくれよ神皇様、せっかくこれからって時に―――」

 

 

『そのこれからを大事にするためにも、カルマよここで引いてはくれないか。でなければ、そこな少女の身がもたなくなるのは必定だ』

 

 

「……けどよォ」

 

 

『良いな? 我はそこまでにせよ、と申したはずだ』

 

 

「チッ、わかったよ……」

 

 

性格や能力通りにヒートアップしたカルマの言葉を遮った神皇様のお言葉に、不服の表情を浮かべるカルマ。無理もない、久々の好敵手(エサ)を前にお預けをくらったのだから。

猛犬、飼主(しんのうさま)に躾けられるとはまさにこのこと。これには蒼司も苦笑いし、同時に指揮官様は安堵したように吐息を漏らしていた。

 

 

あれ以上やれば、実力差的に確実に光子は『自信喪失させかねないほどに潰されてしまっていた』に違いない。

指揮官として観察眼を鋭くしていたつもりだったが、門番との試合を是非とも良い糧にしてほしいと願っていたがゆえに、少々光子に厳しくしてしまったのは明白。そこは光子に対して申しわけなく思う指揮官様は、神皇様の声が響いてから沈黙=困惑を貫いていた光子に駆け寄った。

 

 

「大丈夫か光子、痛むところは?」

 

 

「は、はぁ……拙者はまだまだですね。全身、悲鳴をあげておりまする」

 

 

「でしょうね!」

 

 

カルマの猛撃をあそこまで食らいついたのだ。無傷であるはずもなく、簡易的に言えばぼろぼろの状態なのだ。身動きを取るたびに肉体が軋むように痛むのも、当然のことだと指揮官様は同情心を露わにしていた。

 

 

そんな光子に寄り添うように、指揮官様は光子の肩に手をかけて微笑みを向ける。

 

 

「無茶をさせてすまない、折角の綺麗な肌に傷を―――」

 

 

「いえ、貴殿は悪くない。拙者は……良い経験をさせてくださった指揮官に感謝しております。拙者の剣技、今後も磨きをかけていき」

 

 

そしていつか、と光子は指揮官に向けて満面の笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

 

「……いつか。巌流剣術の秘奥義、佐々木小次郎の燕返しを会得してみせます!」

 

 

「おぉ、よく言った光子。やっぱりお前は最高の女だ!」

 

 

向上心剥き出しの光子の頭を乱暴にナデナデ→やめてくださいませ、と困惑する光子を気にもせずひたすらに撫でまわす。

 

 

『……ハァ』

 

 

か細く、とてもか細く少女の溜息が聞こえた気がした。まぁ所詮空耳か何かだろうと指揮官様は思っているのだが、実際には神皇様が呆れの吐息を漏らしているのだ。

 

 

その理由は指揮官様が知ることは勿論ないのだが、門番二人は刺客撃退の為ありとあらゆるモノが敏感になっているためか、神皇様の小さな声を聞き逃すことはなかった。

 

 

故に双方、指揮官様を見つめつつ―――これは神皇様も大変だなぁ、と心を通じ合わせたのだった。

 

 

ゴホン、と神皇様の念能力を通じた咳が聞こえてきた後に。

 

 

『ともかく、客人二人は中へ。カルマと蒼司は引き続き役目を果たせ。くれぐれも、粗相はないように』

 

 

「「御意に」」

 

 

こうして。

多少の寄り道をした指揮官様と光子だったが、本題である神皇の住まう皇居=本題へと足を運ぶのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

所変わって、広大な敷地面積を誇る日の丸の看板=皇居内部にあるとある書斎。

 

 

外に出ることがほぼほぼ禁じられている神皇様は、この書斎が自室のようなものであり、唯一自由に出来る場である。寂しい、と彼女は弱音や不安を告げることはあまりしないがーーー状況的には誰がどう見ても、本が友達とか言う人物でもない限りは寂しさを募らせるのは分かりきっている。

 

 

だが、ここに永遠に1人である訳では無い。時には神皇が客人を招いたり側近を呼び寄せたりする機会があり、今回のように指揮官様がこうして訪れることこそがまさにその機会に当てはまる。

 

 

「……はじめまして、だな。佐々木光子よ」

 

 

「はっ、神皇様」

 

 

部屋に入るなり、難しそうな分厚い本を片手に出迎えた神皇様を前に、光子は丁寧なお辞儀で応えた。

 

 

「そう畏まらずとも良い、楽にせよ」

 

 

「では、お言葉に甘えて」

 

 

「だが、そこな指揮官殿は逆に崩しすぎだ」

 

 

「ん?」

 

 

神皇は光子から指揮官様に視線を移したのだが、指揮官様は光子とは対極的に神皇様に挨拶もせず膨大な量が陳列している書籍棚を見上げていた。

→つまりは、礼儀作法がなっていないと神皇様はツッコミを入れたのだ。

 

 

これでも日の丸を代表とする存在、威厳ある存在、だからこその発言だったのだろうが。

指揮官様はその言葉に対して、ニヒルに笑みを浮かべながら言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「今更神皇ちゃまに畏まるのもーーー」

 

 

「……」

 

 

「おっと、神皇様に畏まる必要は無いくらいに親しくなれたと思っていましたが」

 

 

膨れっ面になった神皇様の睨みに耐えきれず、咄嗟に言い直した指揮官様は言葉を続ける。

 

 

「親しき仲にも礼儀あり、か。申し訳ない、神皇様」

 

 

「うむ、分かればよろしい。では座るが良い、楽にして構わぬ」

 

 

開いたままの本を閉じ、応接間も兼任した対面席に誘導する神皇様に従うように。

指揮官様と光子は座り、向かい合うように神皇様もゆったりとした動作で着席する。

 

 

普段着でもある着物は何重も重なって、重たそうだなーと呑気なことを指揮官様は考えて。

放たれる厳かな風格が緊張感を漂わせて、息苦しく感じますると光子は表情を強ばらせて。

そんな2人を交互に見ながら、まだまだ光子の方が大人びているではないかと神皇は何度目か忘れた呆れた溜息をついた。

 

 

「悩み事かな?」

 

 

「楽にせよ、と申した手前強くは言えぬが。指揮官殿はもう少し威厳とやらを持たぬか」

 

 

「……ふむ」

 

 

神皇の言葉を皮切りに。

指揮官様の纏う空気が変わる。

 

 

その面持ち、雰囲気、物腰。

隙が全く見えない。仮に背後から刺客が不意打ちをかまそうものなら、空気感だけで返り討ちにしてしまいかねない程に。

 

 

やれば出来るではないか、と神皇は感嘆しつつ言葉を続ける。

 

 

「では本題に移ろう。汝から直接提案を物申したいと伺っておるが、何事だ?」

 

 

「あぁ、まぁなんだ……神皇様」

 

 

言い淀みながら、指揮官様は隣に座る光子の肩を叩きながらーーー

 

 

「ーーー彼女をここに、インターンさせてやれないか?」

 

 

「なっ!?」

「……ほう?」

 

 

同時に、ほぼシンクロで、光子は唖然で絶句し神皇は感嘆の息を漏らした。

 

 

次いで、慌てふためいて言葉を告げ始めたのは光子だった。

 

 

「お言葉ですが指揮官様! 貴殿は何事も急ぎ足すぎまする! 起承転結、もう少し準備などをーーー」

 

 

「準備ならカルマとの試合で見せた。神皇様、光子は心身ともに学園でも秀でた実力者だ」

 

 

「そ、それにここは皇居、インターンなどーーー」

 

 

「よかろう」

 

 

「受け付けーーーえ?」

 

 

「良かった、引き受けてくれるか?」

 

 

「ただし、だ」

 

 

神皇と指揮官様の間でやり取りが進む一方で、光子は1人あわあわと狼狽えている。

 

 

神皇はそれを横目にしつつ、話を続ける。

 

 

「近々、日の丸最強武士を選ぶための御前試合が行われる予定だ。現神教の民は勿論、政府も注目する大事な催し物なのだが……佐々木光子よ、そこで優秀な成績を収めよ」

 

 

ーーーそれが出来なければ。

 

 

「インターンの話は無効だ。なに、皆の前で先程のような剣さばきを披露するだけでも充分だ。そこまで身構えるほどのことではないとも」

 

 

「皇居での、御前試合……でございます、か?」

 

 

光子の問いに、神皇は微笑みながら頷いた。

 

 

皇居での御前試合と言えば、全国各地の英傑たちがこの催し物に備えて準備をして『死闘』を繰り広げるーーー血腥い、そして白熱するイベントだ。

 

 

その中には当然、かの剣聖で有名なあの方も参加したこともあるとの噂もある。それが仮に真実なら、剣聖クラスの実力者が数多く集まることを意味している。

 

 

当然それは、門番であるカルマと蒼司にも匹敵するはずだ。俄然燃えないはずがない、光子は次第に表情を柔らかく崩して言った。

 

 

「よろしいのならば、是非!」

 

 

巌流剣術の現使い手としては、この機会を逃さない手はないーーー光子の瞳はギラギラに輝いていた。

 

 

インターンがどうのこうのはきっと抜け落ちたろうな、なんて間抜けだなと感じつつ指揮官様は『いつの間にか用意されていた(念話の人かな?)お茶』を啜った後に

 

 

「じゃあ俺宛に、御前試合の詳細を頼む。光子の引率者として」

 

 

「あいわかった。……では後日使いの者を送ろう」

 

 

ーーーこうして、神皇宮でのやり取りは幕を下ろした。

 

 

帰り際に、指揮官様の背中を見詰める神皇様がやけに寂しそうにしていたのを、当然ながら指揮官様は知る由もなかった。

 

 

戦術や見極め、観察眼などなど。

いくら感覚は鋭く敏感でも、女心までは察しが悪い。よくいる鈍感な人物なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、指揮官様」

 

 

「ん?」

 

 

「……何故に酒場へ拙者を?」

 

 

「まぁ、ヴァネッサ姉さんに『お悩み相談』しようかなって」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余は基本、皇居から出ることは出来ない。

不安や不満がない訳では無い。外の世界へ行く機会も限られているが故に、余は他者と触れ合う機会が滅多にない。

 

 

だからこそ余は、指揮官殿を……汝に会えるのを楽しみにしておるのだ。

 

 

唯一、心を開かせてくれる友として。

余を、『神』ではなく『人』として見てくれた汝を。

 

 

だからこそ、どんな理由であれ接点は残しておきたいのだが。

この感情を、民たちは『恋だの愛だの』と指摘してくるのだがーーー果たして、恋愛とはどんなものなのだろうか、余は知りたいのだ。

 

 

 

 

「なるほど〜なかなかに可愛い娘じゃない」




次回があるとすれば
①ヴァネッサのお悩み相談酒場(最後のやつ)
②佐々木光子の御前試合(カルマVS光子決着編)
③日時的orラブコメ的な何かしら

のどれかを書く予定。機会があれば書くかもだし、書かないかもしれないから期待はしないでね!
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