原作は一応全部読んでますが読み直してはいないので設定に矛盾が生じるかもしれません。その場合、指摘してくださると幸いです。
死因は――何だったのかな。
過労死だったような気がする。
受験の一週間前に死ぬほど勉強をしまくって。
それが終わってから神社へ合格のための願いをしようと足を運んだ。
鳥居の前で意識が薄れて、そこから先の記憶がない。
今は素直に一回寝てから願い事をしに行けば良かったと反省している。
もう遅いけれど。
「眠い……」
ゴロン、と寝返りを打った。
窓から差し込む朝日が鬱陶しい。カーテンを閉めたいけれど、そのためには布団から出なければならない。そんなことするくらいならこのままでいい。
温かくて心地良かった。
「……そーいえば」
今日は何かイベントみたいなものがあったような、無かったような。
なんだったかな。
考えるのがめんどくさかったが、大事なことだと困るので思い出そうと頑張ってみる。
ああ……そうだ。
今日から二年生になるんだった。
時間大丈夫かな、なんて思いながらケータイを手に取った。
えーと。
七時五六分。
「……あー」
現時間以降でバス出るのって何時だっけ。
七時五八分。
おかしいな。何だか冷や汗も流れてきた。
布団から飛び出る。速攻で『女性用の防弾制服』に着替え、寝癖を直して顔を洗った。
その時点で意識は完全に覚醒しており、急がなければならないという考えが脳の大半を占めていた。
モスバーグM590とかいう適当に店で買ったショットガンを弾丸ホルダー付きスリングを利用して背負い、手で持つこともショットガンにも付けることも可能な便利な銃剣を制服の内側に仕舞う。
多分バスにはもう間に合わない。自転車で行こう。あれどう見ても子供用だから嫌なんだけど。
玄関を出て自転車の置いてある場所まで急ぎ、それに乗って走り出した。
くそ。もうちょい身長があればもっと速いのに。
あと、もうちょい神力があればもっと速く漕げるのに。
悔やんでも仕方が無い。兎に角急ぐのみ。
「……ん?」
今、隣をセグウェイらしきものが通過して行った。
目を凝らして確認すると、どうやら結構前を自分と同じように自転車で急いでいる男子生徒を追いかけているようだ。
何かサブマシンガンみたいなものが乗ってたような気もするが、気のせいではないだろう。
「…………ふむ」
どう考えてもセグウェイのサブマシンガン様はあの男子生徒を狙っている。
普段なら見知らぬ誰かのことなどどうでもいいと切り捨てるところであるが、今日の俺は違う。今日の俺はいつもより少しだけ信仰勧誘に熱心なのだ。
あれだ。
あいつを華麗に助けてやれば、かなり信仰の勧誘が成功し易そうじゃね? ってことである。
「よし」
決まれば即実行――と行きたいが、さてどうやって助ければよいのだろう。
ショットガンをぶっ放すというのが一番簡単な方法だ。が、自転車を漕ぎながらそんなことをやればバランス崩れて倒れてしまう。大怪我間違い無しだ。そんな格好悪い助け方じゃ俺が納得しない。
取り敢えずあの男子生徒に並走しようと速度を増させたが、その直後。聞きたくもない言葉が前の自転車から耳に届いてきてしまった。
『そのチャリには爆弾が仕掛けてありやがります』
あ、ボーカロイドだ。このモデルは聞いたことないな。どこの会社のだろ。
って、そうじゃない。今なんて言ったんだっけ。爆弾が仕掛けてある? だったかな。
なんつーめんどくさそうな……。
少しだけ考えるように顎に手を当て、うん、首を縦に動かした。
無理だ。爆弾を直接破壊すれば目の前の生徒死ぬし、セグウェイ壊しても爆弾が生徒を殺す。他には爆弾を外すというのもあるが、その場合サブマシンガンに狙撃されはずだし並走しながら爆弾外すなんて俺にはできない。
諦めるしかない。信仰勧誘は別の奴にすればいいだろう。最初から難易度ベリーハードの勧誘ミッションなんてするべきじゃない。まずは誰にでもクリアできそうなベリーイージーがいい。
そう結論付け、減速を始めた。他にもセグウェイから放たれるボーカロイドが色々と男子生徒に語りかけていたが、既に傍観する気満々なので興味はない。
前を走る男子生徒は第二グラウンドの方向へ走っていった。
それを傍観する。ふざけ気味に手を振って。
「…………」
その時点で運が悪いことに、とあることを思い出してしまった。
武偵何とか……何とか条。『仲間を信じ、仲間を助けよ』。正直このようなルールみたいなものを覚えるのは苦手なのだが、これだけは明確に内容を覚えていた。一番重要なものらしいから。
今の場面を誰かに見られていた場合、俺、ヤバいんじゃないだろうか。
いやいや。誰も見ていないはずだ。大丈夫……なはずだ。
そう信じたいのだが、うちの高校には色々なやつがいる。二キロ近くの距離で狙撃を完遂させるやつとか、気配を悟らせないことが得意なやつとか。
一度思考してしまうと、段々とそれが現実味を帯びてくるから不思議だ。
溜め息を吐き、自転車を第二グラウンドへ向けて漕ぎ出した。
今日は遅刻決定か。まぁ、武偵何とかを破ってよりキツイ処分を受けるよりはマシと言える。
第二グラウンドに辿り着いた頃に物凄い爆音がして、そちらに目を向けた。
自転車が爆発しておる。
男子生徒死んだかなー、なんて思っていると、体育倉庫から物音がした。
一瞬、女子生徒と男子生徒が絡まっているような光景をこの目に見えたような。
どうなったのかな、と自転車を降り、野次馬精神で体育倉庫に近付いていった。
中に入り、探すように周囲を見渡す。
「ヘンタイ――――!」
女の子の声がして、そちらへ視線を動かした。
崩れた跳び箱の中。
突然の変態発言の後にも色々と「サイテー」とかなんとか叫んでいる。あの中で何が起こってるんだろ、なんて少々期待しながら近寄っていった。
瞬間。
背中に衝撃を受け、軽く吹き飛ばされた。
「いッ」
痛い。普通に痛い。
転がるよう跳び箱に激突し、続いて何発か腹に受けた。跳び箱のせいで威力を受け流せずに普通に受けてしまった。
めっちゃ痛い。
「あ、あんただれ!?」
「被害者です」
苦い顔で告げつつ跳び箱の後ろ側へ即座に移動した。
なんだよもう。今日は厄日だ。
「イライラする」
跳び箱の中には男子生徒と女性生徒が一人ずついるようで、男子生徒が女子生徒へ状況の確認をしている。
それを余所にショットガンを下ろし、手元に構えた。
撃ってきた奴ら――七台のセグウェイへ撃ち返す。
「っと」
衝撃で体が後ろ側に倒れた。やはり神力が足りない。信仰が足りない。もっと神力があれば肉体も強化されるはずだ。
それでも今はこのまま行くしかない。
スライドを前後させて装填。もう一度ぶっ放す。
跳び箱の方から女子生徒も援護してくれていた。
装填。撃つ。
もう一度装填。放つ。
セグウェイが射程圏外へ逃げるように移動し、取り敢えず一息を吐いた。
使用した分の弾を即座にリロードしていると、跳び箱の中から男子生徒が低い声で訊いてくる。
「――やったか」
「隠れただけみたいだけど」
「並木の向こうにね。きっとすぐまた出てくるわ」
最初に俺が答え、その後に女子生徒が返答した。
「強い子達だ。それだけでも上出来だよ」
なんだこいつ。
思わず浮かんだ言葉を頭を振ることで打ち消し、リロードを終えたショットガンを再度構える。
今は目の前のことに集中すべき――。
と、その瞬間。視界が男子生徒の顔がドアップで映し出され、いつの間にか片手で胸の中に抱えられていることに気付いた。
反対側の手には女子生徒の姿も。
……背、低いなこの女の子。俺と同じくらいじゃないか?
桃色の髪とカメリアっぽい色の瞳のツインテールの女の子を見てそう思う。
観察している間に意味不明理解不能なことを宣う男子生徒をしれっと受け流していると、マットの上に二人揃って座らされた。
男子生徒のイケメン語を翻訳すると、どうやらセグウェイを倒してくれると言っているようだ。
どうでもいいけど、男子生徒くんはよく二人も人間を同時に持てたな。俺なんかショットガンを抱えてるのに。
疑問を抱いた直後、銃声がした。セグウェイがサブマシンガンで体育倉庫の壁を撃ちまくっているようだ。
男子生徒が拳銃を引き抜き、敵の射撃線が交錯するドアの外へ躍り出る。
何発かよくわからなかったけど、多分十発以内。
彼がそれだけ撃ったかと思うと、何かが壊れるような音が同時に幾つも聞こえてきた。
その後、沈黙。
「……おー」
多分。多分、だが。
あの男子生徒はセグウェイの数の分だけ弾丸を放ち、セグウェイを一発ずつで壊したのだ。
すげー、と素直に感心する。本当に凄い。実力で言えばAランクか……はたまたSランクかな。今の出来事だけで決めるのは早計だが、凄い奴ということだけは確かだ。
なんだよ。こいつ助けようとしなくても良かったじゃん。
何だか段々と腹が立ってきた。
隣の女子生徒も何かよくわからないけど起こっているみたいだ。目の前で繰り広げ始めた会話を聞く限り、どうやらセクハラを受けたとかなんとか。
不可抗力だ、なんて言いながら男子生徒が女子生徒――アリアというらしい――にベルトを投げる。
見ると、彼女のスカートのホックが壊れてしまっていた。よく気付いたな、こいつ。
更に傍観して話を聞いていた。
簡単にまとめると。
服を脱がそうとし、胸を凝視していた、と。
こいつが悪い。何が不可抗力だ。そんな言い訳は通じない。
こんなやつのために怪我を負ったのか、と溜め息を吐いた。
「落ち付いて聞いてくれ。俺は高校二年だ。君達は中学生だろう? そんなに歳が離れているのに脱がしたりするはずがない。だから――――安心してほしい」
俺は高校生なんだけど。
呆れながら男子生徒を見据える。俺は特に何を思うことも無いが、隣のアリアさんは思うところがあるようで怒りの声を発した。
あろうことか男子生徒は続けて小学生と間違えてくる。
流石にそれには怒りも頂点に達したようで、隣のアリアさんは拳銃を取り出した。
撃つ――。
「あたしは高二だ!!」
同い年の方でしたか。
手に持った二丁の拳銃を放ち、しかしそれは外れる。
両手を男子生徒に抑えられていた。
そのまま取っ組み合いになりそうかと思えばアリアさんが跳ね腰みたいに男子生徒を投げ飛ばす。
何だか蚊帳の外にされてるような気がしたのでショットガンを構えた。
標的はセクハラ野郎男子生徒。
別に大して狙わなくても当たるのだから無理に標準を合わせる必要は無い。すぐに発砲をする。
男子生徒はしっかりと見極めた様子でギリギリに横に避け、アリアさんから奪っていたらしい拳銃の弾倉を投げ捨てた。
「…………」
あまりにも簡単に避けられたことに目元をひくつかせつつ、スライドを前後させて装填をする。
二発目。
同時にアリアさんも二刀の短刀で攻撃していたが、俺の攻撃もアリアさんの攻撃も後ろに転がることで回避させられた。
ここまで来たら意地だ。装填をし、照準を合わせる。
発砲。
だが、やはり当たらない。
逃げられてしまった。
「…………」
何だか悔しかった。いや、自分より上の奴なんて山ほどいるのだけれど、そういうことではなく。
あいつのせいで遅刻だ。あいつのせいで遅刻。大事なことなので心の中で二回反芻させた。
もう嫌だ。何だよもう。
「……そういえばあんたは何者なの?」
体育倉庫を出ようとした矢先、アリアさんから問われる。
アリアさんは、何か、バラまかれた多数の拳銃の弾で転んで追いかけられなかったようだった。それもその弾丸はアリアさんのもの。
セクハラされた挙句、拳銃の予備弾倉を捨てられ、更に弾を無駄にされているということ。
いや、こっちも撃っていたので非があるんだろうけど。でもセクハラした奴に撃つくらいは武偵高では普通だ。日常茶飯事だ。
「俺……じゃなかった。私は」
この外見で俺の一人称が合わないことは理解している。
だから言い直し、その後に今の自分の名前を告げた。
「
超偵で合ってますよね……?
間違ってたらすいません。