緋弾のアリア 熱心な信仰勧誘神   作:やきのり

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※一話目とは多少文法というか、書き方を変えています。というより今回みたいな書き方が自分の本来の書き方と思ってもらって大丈夫です。
 一話目は、あれです。原作に少し似せようと頑張った結果です。失敗したような気がしますが。


2.世界と武偵と。

 ボロボロな神社の内部で目覚めた俺は、見知らぬ場所にいることを疑問に思いつつ立ち上がった。

 眠気が残っているので目元を擦り、視界を安定させる。

 そして異変に気が付いた。

 

「……ん?」

 

 いつもより目線が低いように感じたのだ。一瞬で気付くくらいに違いがあり、体の方にも違和感があった。

 見下ろせば、小さくて貧相な体と、蛙の模様が描かれたおかしな腹が目に入る。

 自分の手を目の前まで持っていき観察をした。ぷにぷにとした柔らかい子供の様な手。それが自由に動かせている。感覚を共有しているようだ。

 困惑しつつ、鏡代わりになるものを探すように周囲を見渡した。だが何も無く、仕方無く神社を出る。

 日差し。日光。

 神社の地形は俺が祈願に来た場所と同じものだ。見覚えのある地域。ただ、最後に見た時より神社がボロっちいことが少し気に掛かる。それも見てすぐにわかるくらいにだ。

 何が起こってる?

 混乱。わけがわからなかった。

 神社付近を徘徊していると小さな池を見つけ、近寄ってその水面を覗き込んだ。

 そこに映るのはいつもの自分とは全く違う姿。

 レモン色の髪と瞳を備え、蛙の目のようなものが左右に付けられている黄土色の帽子を被った、小学生くらいの少女。

 水面に映る彼女の顔は驚愕と困惑に染まっている。

 

「俺……なのか……?」

 

 放たれた言葉と共に少女の口が上下していた。

 間違い無い。水面に映るそれが同時に動いたのだから。

 頬を引っ張り、明確な痛みがあることを確認する。少女の顔が苦しげに歪んだ。

 

「…………」

 

 そして俺は、この少女の正体を知っていた。

 名前を洩矢諏訪子。

 土着神の頂点と言われる、とあるゲームにおける神様である。

 それと容姿が全く同じだ。

 

「どうなってるんだよ……」

 

 今更だが、口から出ている言葉も、子供らしい高い声音になっていることが把握できた。

 頭を抱える。

 しばらくそのままジッとしていた。定まらない思考を続ける脳内を宥めるように、落ち付けと心で念じていく。冷静になるように努め、ただその場で動かずに。

 頭が完全に冷えた頃に立ち上がった。

 

「家に帰らないと」

 

 呟き、神社の階段へ足を進め、降りて行く。

 足取りはゆっくりだ。

 慣れない体ということもあるし、現状を人に見られたくないという気持ちもある。

 階段を降り切った後も人がいないか確認をしてから前進をした。

 

「……そうだ」

 

 鳥居の前まで来て思い出す。

 受験のために猛勉強をして、祈願のために俺は神社に来たんだ。でも疲れていたからここで意識が遠くなって、そのまま倒れた――ような。

 神社に来たことは確かなのだが、そこからの記憶が随分と曖昧だった。思い出そうとしてもさっぱり分からない。ただ、祈願はしていないことは確かである。

 何で俺は神社の中に居たんだろう。何で俺はこんな姿になっているんだろう。

 沸き上がる疑問を無理にでも抑え、今は家に行くのが先だと判断して再び歩き始めた。

 ボロボロな神社だからか人は全然いない。それとも人がいないからボロボロになるまでに至っているのか。詳しいことは分からないが、俺の記憶では結構人気な神社だったはずである。

 神社の敷地を出るとチラホラと人の姿が見えてきた。

 人がしっかりと居ることに安堵しつつ物陰に隠れて観察をする。

 一般人。何ら遜色の無い携帯を持ち、ありがちな服装に身を包む人々。

 どうやら未来に来たとかそういう話では無さそうだ。そのことに軽く安堵したが、では何故神社がボロくなっていたり俺の姿が諏訪子サマに変わっていたかが不可思議な事象となる。

 俺の家は神社の近くなのでもうすぐだ。人目を避けながらゆっくりと進む。

 そして目的の場所に辿り着く。

 そこには何も無かった。

 

「…………」

 

 言葉を失ったとはこのことだろう。

 空き地。整地された地面だけが存在する何も無い空間。家なんてどこにも無い、単なる更地。

 意味がわからない。

 一体全体、これはどういうことなんだ。

 

「――――ッ」

 

 唐突に銃声が響き、ビクリとする。

 反射的に音源を探すように視線を彷徨わせた。

 

「あ……すみません、セーフティを掛けるのを忘れてました」

 

 呆然としていたので人が近付いていたのに気付けなかったのだろう。いつの間にか結構近くを歩いていたどこかの制服を着た男性が驚いた風の俺へ謝罪するように頭を下げ、取り出した拳銃を弄り出す。

 当然のように。

 銃を持っていることも、学生のはずなのに手慣れていることも。

 全てが当たり前のことみたいだった。

 

「…………」

 

 気付かないはずがない。

 ここは俺がいた日本とはどこか異質で異様な、決して交わらない世界の日本なのだと。

 パラレルワールドというものを聞いたことがある。

 違う選択肢を選んでいれば進んでいたはずの可能性世界。違う選択肢を選んでいれば進んでいたかもしれない可能性世界。

 きっと俺がいるのはそういう世界だ。

 神隠し。

 俺は神隠しにあって、この世界に移された。

 そう考えるのが妥当。いや、非現実的なことに妥当も何も無い。

 ただ、漠然としてそう感じたのだ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ――――武偵。

 段々と凶悪化していく犯罪に対抗するために作られた国家資格の名称である。

 その免許を持つ者は警察に準ずる活動が可能となり、武装も許可される。

 ただ、武偵は警察とは違って金で動く。そして武偵法と呼ばれる武偵に対する法律を侵さぬ限りは様々なことを行うという、警察とは趣旨の違う何でも屋のような一面もあった。

 それを育成するという目的で設けられている施設の名が武偵高。世界に存在し、俺も通っている高校だ。

 授業の大半は武偵に関することであり、一般的な国語とか数学などはオマケ程度にしかやることはない。しかも総じてレベルが低く、一応前の世界では受験勉強を死ぬほどやった身としては楽すぎて手応えがないと感じられる。

 武偵の授業は何故か散々なんだけど。実戦ですらない覚え系のものもどうしてか全然できない。未だ武偵……憲章? とかいうやつもうろ覚えである。確か一〇条までしかなかったはず。

 話を戻すが、武偵校では実技の実力があれば学力がなくてもあんまり問題はない。単位制の学校であり、授業以外にも単位を稼ぐ方法があることも多大な影響を及ぼしていると思われた。

 その単位を稼ぐ方法というのが依頼。

 授業の一環として学園や民間から寄せられる依頼を受けることができるのだが、実力があれば楽にこなすことだって可能になる。難易度によって貰える単位に違いがあり、実力が高い方が確実に上がり易くなっている。

 知識よりも実力優先。

 当然こんな学校では社交性のないやつらばかりが集まるのは当然と言えた。教師も生徒もどこか壊れている部分が見受けられる。俺もその一人と言えなくもなく、前の世界と今の世界の感性がごちゃ混ぜになっている自分は確かにどこかおかしい部分があるんだろう。

 そして武偵校では銃と刀剣の類の携帯が義務付けられている。制服も防弾製のものが支給されており、いつでも軽い戦闘くらいはできるようにしていなければいけないらしい。

 最後だが、武偵校は幾つもの学科に分かれている。俺が所属するのは研究部(リサーチ)の超能力捜査研究科(SSR)。通称S研と呼ばれる学科であり、超能力のような超常現象による犯罪捜査研究を行うところだ。この科に所属する者は超偵と呼ばれている。

 超能力と言っても直接的に被害を及ぼすような力を持っている人は少ない。よくあるようなものがダウジングなどで、結構地味な超能力捜査である。

 因みに俺は殆ど何もできない。ダウジングは全く動かないし、その他のことに関しても全然だ。そのため超能力捜査研究科では珍しく、誰でもできるような適当な依頼を何とかこなして単位を保たせ続けている。

 

「うふふ。じゃあまずは去年の三学期に転入してきたカーワイイ子から自己紹介してもらっちゃいますよ!」

 

 妙にテンションの高い先生の言葉を耳にし、この世界に来た時のことを思い出したり、武偵について改めて振り返っていた意識が、現実へと引き戻された。

 口元に垂れる涎を拭いて目元を擦る。

 去年の三学期は単位稼ぎを必死に行っていたので交流や信仰勧誘は少なめとなっていた。だから三学期に転入してきたなんて話は初耳で、先生の視線の先へ自分も目を向ける。

 そこにいたのは、体育倉庫で出会った女子生徒ことアリアさん。

 開口一番にとある席を指差して『隣に座りたい』と漏らし、周囲が歓声の渦に包まれた。

 指の先に居たのは同じように体育倉庫で出会ったセクハラ野郎。同じクラスだったことを今把握し、しかし体育倉庫の頃とは少しだけ雰囲気が違うことに違和感を覚える。

 あんな根暗そうなやつだったっけ。もっと目元がキリっとなってたような気がする。

 俺の予想なら簡単に受け入れるはずだったのだが、あろうことか「なんでだよ」と嫌そうな声を発した。

 本当に嫌そうだ。

 本来あのセクハラ野郎――キンジという名前らしい――の隣だったはずの男が親切そうにアリアさんに席を譲る宣言をし、移動を開始する。

 教室内は拍手と喝采で埋め尽くされた。

 アリアさんがキンジに近付き、借りていたベルトを投げ渡す。着替えてきたのだろうか、ホックは既にしっかりと存在していた。

 

「理子分かった! 分かっちゃった! これフラグばっきばきに立ってるよ」

 

 物凄いフリルで制服を改造している金髪ツインテールの少女――理子が席を立って声を上げる。

 全員が注目する中で、彼女は『キンジとアリアがベルトを外すような何らかの行為をした』と推測を立てて見せた。

 クラス中が騒ぎに包まれ、席を隣に移動してきた、元々キンジの隣だった男子――武籐が話し掛けてくる。

 

「あいつあんな女子嫌がってたくせに裏でそんなことやってたのかよ! なあ洩矢!」

「…………そーだね。なんていうか、悔しかったり嬉しかったり、ごちゃまぜな気持ちになるよね」

 

 適当に相槌を打った。武藤は「女のお前でも分かってくれるか!」と俺の手を握って上下に振ってくる。痛いです。

 武藤とは中学からの知り合いだ。理子とも一応知り合いである。学校中で信仰勧誘をやっていた時に出会い、偶々喋る程度の交流をしていた。

 一切、神を信じてくれないけど。いや、信じてくれていたらとっくにEランクなんて脱出してるんだが。

 学科ごとにランクがあり、それはR、S、A~Eまで幅広く存在している。Aが一流と呼ばれるほどで、SがAランクが束になっても敵わない程度の実力。Rランクは世界に数人程度しかいないので除外する。

 何が言いたいのかというと、俺は中学から超能力捜査研究科に所属していながら未だEランクということだ。要するに雑魚。

 姿が洩矢諏訪子のものとなると同時に、同じように力も俺は授かっている。だがその力に問題があり――とどのつまり、信仰が無ければ力を発揮することができない。

 今の自分の神力――信仰により手に入るエネルギー――は本当に少ない。

 と、直後。

 教室中に銃声が木霊した。

 

「れ、恋愛だなんて、くっだらない!」

 

 言い切って見せた彼女の声は震え、更には顔を真っ赤に染めていたが、それを指摘してはいけないだろう。

 

「全員覚えておきなさい! そんな馬鹿なこと言う奴には――風穴あけるわよ!」

 

 神力があれば風穴くらいは耐えられそうだけど、今は困るかな。

 苦笑しつつ欠伸もして、肘を付き頬に手の平を付ける。

 ああ。授業も昼休みも全部終わったら、今日の依頼、どんなの受けようかなー。


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