「はぁ………はぁ………はぁ………もうッ!何がどうなっちゃってるのー!?」
小学6年生辺りの少女は今、必死に走っていた。その訳は背後に
カラカラ、カラカラという音を響かせながら、骸骨の集団がワラワラと追って来ていたのだ。
まぁ、炎に包まれた町中を喚きながら走り回っていれば、徘徊していた骸骨達が彼女の声に反応していつの間にやらこんな大部隊となっていたのだ。
少女は逃げ続けるが、所詮は人間。もう限界はとっくの昔に過ぎている。
少女はとにかく、骸骨達を撒く策をパニックの最中僅かに残る理性で試行錯誤していた。そして、守りに丁度よさそうな武家屋敷を発見。兎に角助かる為に駆け込んだ。
そしたら直ぐに門を閉じて見つかりづらそうな蔵に逃げ込んだ。
蔵の扉を閉じ切ると同時に武家屋敷の門が崩壊して骸骨達が雪崩込んだ。
数十秒後には骸骨で武家屋敷の庭が埋め尽くされてしまった。
ちなみに、少女を殺そうとした何処ぞの
蔵に籠った少女はこの地獄のような街や、人が一人もおらず石像しかないことにも精神を擦り減らし、あの骸骨達によりとうとう泣き出してしまった。
「どうなってんだよぅ…………父さんも母さんも消えちゃうし……変なことには巻き込まれるし………………もう嫌だよぅ。いッ…………手の甲も怪我で痛いし………………。」
「ならば一思いに楽にしてやろう。」
すると、その少女の悲しみに1人の人物が声を掛けてきた。それは先程雪崩に巻き込まれて今さっき中に侵入してきた暗殺者であった。
「ヒィッ!?!?」
急に声をかけられたことに驚き顔を仰け反らせた。それが幸を為し、頬に一筋の切り傷が出来たが交わすことが出来た。
本来なら今の一言を最後に聞いた声として脳天に飛来物が刺さって少女が死ぬ算段であった暗殺者は声を出したことが仇となったことに失敗したと悔やんだ。
「だ、誰ですか貴方は!?!?!?」
「…………我は暗殺者。主の命令により貴殿を殺す。」
「こ、殺す?わ、わわ私を?」
「………………」
沈黙は肯定。つい最近見た土曜夜の刑事ドラマでのセリフの1部を鮮明に思い浮かべた少女は先程の気配の無さや頬を裂いた刃物を手に持っているとこを見て………
「嫌アァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」
………反撃した。
そこかしこにあるダンボール箱の中から適当な物を投げ始めた。その中には目の前の暗殺者を殺せたであろうコンテンダーの銃もあったが今の少女に余裕は無く、投げた。
とにかく投げる。ダンボール箱の中身が無くなるとダンボールそのものを投げて次のダンボール箱を開けて中身を投げる。
「え、ちょ、待っ、アダッ」
この暗殺者は物理が一切聞かないのだが、ここの元住人は偶然か、あの魔術師殺しのものなので、地味に魔力が篭っている物がちょくちょくある。それが暗殺者には地味に痛かった。
「グッ……………………………死ね。」
とうとう投げれるものが尽き、少女は尻もちを着いた。それを後期とみた暗殺者は手に持つ黒塗りの刃を投げた。
少女の脳天に突き刺さろうと、少女が死んだと認識した瞬間、少女の足下の消え掛けの魔法陣が突如輝き、蔵の天井に謎の穴が開き、同時に少女の手の甲も輝き出した。
「ッ!!!!不味い!!!!!!!!」
「へ、何!?」
突然の事に少女は戸惑い、暗殺者は投擲による殺害ではなく直接手を下しに飛び掛る。
少女にもう少しで刺さるといったところで、暗殺者の後頭部に何かが落ちてきて、同時に腹にダメージを負って吹き飛ばされた。
「グァッ!?!?!?」
「あたっ!!!!!!!!!!!」
「ふぇっ!?」
「…………………………」
暗殺者がよろめきながら目を少女に向けて、失敗したと認識した。
それは先程まで少女と二人っきりだったのだが、2人の人物が暗殺者と少女の間にいたためだ。
「痛たたたた、ん?何処だここ?」
「え、あれぇ?誰ぇ?」
「………………何がどうなってやがる?」
「「「こっちが知りたい。」」」
少女と暗殺者、そして上から落ちてきたであろう女剣士の声が重なり、暗殺者を蹴ったであろうギリシャ系の鎧に身を包む翡翠色の髪と紅い瞳を持った少女じみた日本人の青年の問いに問を返した。
だが、青年は周りを見回して目を閉じた後、直ぐに目を開けてから成程、と呟いた。
「マスター、事情は後で説明するから移動をする。そこの女
「へっ?」
「ぬっ!?」
「あら?」
皆が瞬きをした瞬間に、暗殺者の首は撥ね飛ばされていた。そして、魔力化して霧散してしまった。
青年が光速で槍を手に取り撥ねて消したのだ。
少女からしてみれば急に今まで殺しに来ていた者の首が急に撥ね飛んだのだ。
「え…………嘘………………」
「あんた、良い腕してるねぇ。1戦しない?」
「その様な余裕は無い。マスターに酷なもんを見せた後だ。それに、ここを移動しないとそろそろ扉が持たんぞ。」
「扉?」
「…………………………あ、骸骨の集団。」
暗殺者に襲われてすっかり忘れていた存在のことを思い出した少女。外の様子を調べた青年はまだしも、何も知らない女剣士は頭上に疑問符を浮かべる。
それと同時に扉が壊れ、骸骨達が蔵に雪崩込んだ。
「「ヒィッ!?!?!?!?!?」」
唐突なホラーな光景だったため、少女と女剣士は飛び上がった。
そんな光景に青年は溜息を着きつつも素早く2人を抱えて骸骨の波を越え、外に脱出。
そのまま安全な場所に移動をするのであった。
少女と女剣士が見たのは、骸骨のカラカラ音につられてどんどん集まって行く骸骨達と、それにより出来たかなりの大きさを誇る白い山であった。
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「…………落ち着いたか?」
「う、うん。」
「ねぇねぇ、戦おうよぉ!!!!」
「少し黙ってろ。」
「ハイ」
学校らしき建物に3人は避難していた。
青年は外を警戒しつつも少女の身を気にして、騒ぎ立てる女剣士をガチトーンの一言で黙らせた。
「マスターに現状を教えるが、人理が滅んだ。」
「へ?」
「はいぃ?」
青年の一言の意味が読み取れなかったのか、聞き返す2人。青年はわかりやすく2人に教えた。
「こう言ったら分かるか?人類はマスターを除いて絶滅した。」
「ちょっと待って、それって………………」
「酷な話だが、マスターの両親や兄弟姉妹、学校の友人。その他の人類が死滅したんだよ。マスター以外はな。」
「そんな………………」
青年に突き付けられた事実に少女は絶望し、女剣士は思案する。
そして、女剣士は青年に問いかけた。
「ねぇ、それって誰も戻って来ないの?」
「あぁ。だが、何事にも例外が存在する。そしてそれはマスター自身が決めろ。己の父母らの後を追うか、未来を取り戻す長く険しい道のりを歩むか。」
青年は己の主たる少女を見定める。それは少女の覚悟を知ろうとしているのが丸分かりであった。女剣士もそれが分かったのか黙りを決め込む。
「さぁどうする?」
「私は……………………まだ間に合うのなら…………………………前に進む!」
「おぉ。」
少女は決意した。全てを取り戻すために修羅の道を歩む決意をしたのだ。少女が絶望から直ぐに立ち直ったことに女剣士は驚嘆した。
少女の決意が仮初の言葉でもなく本心からくる言葉であったのを汲み取り、青年は宣言した。
「その決意承った。我が剣は何時と共に、我が命は汝に託そう。我が名は
「乗りかかった船だし、私も手伝うよ。」
「女剣士は召喚された訳では無さそうだが?」
「見て見ぬ振りが出来ないだけ。あと女剣士って言ってるけど私にも名前があるの。新免武蔵守藤原春信って言うね。ランサーは分かるだろうけど君には宮本武蔵といった方が分かるかもね。」
「えっ、宮本武蔵ってあの二天一流の!?」
少女の決意に青年……時音は忠誠を誓い、女剣士……宮本武蔵は少女に協力することを決めた。そして、女剣士の正体が宮本武蔵と知った少女は驚愕していた。
「む、事情説明は後だ。ここから移動する。移動後にこの世界で何が起きているのかを説明する。」
「うわわっ!お、お姫様抱っこ!?って何処に行くの!?」
「武蔵、何処でもいいから掴まれ。この空間が崩れる。」
「そうみたいだね。それで、何処に向かうんだい?」
時音は少女を抱え上げ、武蔵に鎧の1部を掴ませると
「何、人理焼却の基点の1つである1431年のフランス。百年戦争終戦直後だ。」
少女……谷口鈴12歳は大切なものを取り戻すために進む。その先で何を見て何を知り、何を成し遂げるのかは、全てあずかり知らぬものである。