番外個体の獣は少女と旅す   作:星の空

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第9話 語り合いと少女の真実

ユエの封印されていた部屋を拠点にしようとしていたがユエが断固拒否したため倒したサソリ魔物と単眼巨人2体を拠点として用意した場所に移動して、そこでユエの話を聞くことにしたのだ。

今、拠点ではハジメがホクホク顔で消耗品の補充と新たな兵器作製を、詩音は夕飯の料理を、武蔵は刀の手入れをしており、鈴は正座したヘラクレスの膝の上に座ってユエを抱きしめていた。

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

「こら!マナー違反だぞ!」

「………マナー違反」

 

ハジメがユエに年齢を聞き、それを鈴とユエが非難を込めたジト目で見る。

何処も彼処も年齢詮索がタブーなのは変わらないらしい。

ハジメは記憶を回想して、1番尋ねたかったであろうことをユエに聞いた。

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

「……私が特別。〝再生〟で歳もとらない……」

 

聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や〝自動再生〟の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。

ちなみに人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。

ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。

帰れる方法が何か分かるのではないか?そう期待していたハジメはガックシしていた。

ユエの力についても話を聞いた。それによると、ユエは全属性に適性があるらしい。本当に「なんだ、そのチートは……」と呆れるハジメだったが、ユエ曰く、接近戦は苦手らしく、一人だと身体強化で逃げ回りながら魔法を連射するくらいが関の山なのだそうだ。

〝自動再生〟については、一種の固有魔法に分類できるらしく、魔力が残存している間は、一瞬で塵にでもされない限り死なないそうだ。逆に言えば、魔力が枯渇した状態で受けた傷は治らないということ。

刀の手入れを終えた武蔵と夕飯を完成させた詩音が近付いてきた。

ハジメも夕飯を食べるために1度手を止めて食卓を囲む。

 

「なぁ、ユエは先祖返りの吸血鬼と言っていたが位はどれなんだ?」

「………………位?」

「あぁ。吸血鬼には突然変異の真祖と神の血を引く神祖、死徒があるだろう。ユエはそのどれに属するのか気になってな。ちなみに俺は死徒だ。」

「「ブフッ!?!?!?!?!?」」

 

詩音はユエに吸血鬼の位を聞き、位が何を意味するのか分からないユエは首を傾げた。それを詩音は真摯に教え、己が吸血鬼であることを明かした。

しかも、唐突な暴露にハジメと鈴は噴き出してしまった。

 

「ちょっ、それ私も初耳なんだけど!?」

「何処に吸血鬼の要素があんだよ!?」

「…………貴方も吸血鬼?」

「俺の話はいいだろ。とにかく、ユエ自身がどうなのか。それによってユエが封印された推測が異なって来る。」

「「「!?」」」

 

問い質してくる3人から話を戻してユエが封印されていた訳を推測したと言われて驚く3人。

 

「あくまで推測だぞ?ユエが死徒か真祖ならば話は変わって来るが、もし仮にユエが神祖であれば辻褄が合うんだよ。」

 

ユエが神の血を引いていたら辻褄が合うわけを耳の穴をかっぽじって聞き入る3人。

それを見つつも話を続ける。

 

「いいか?神祖の吸血鬼は神との親和性が高い。

そしてユエは不死で魔法適性も高く容姿もいい。依り代を求めようとする神がいればユエは恰好の的だ。

ユエの叔父自身がその神の存在を認知してからユエを封印したとすれば叔父はお前さんを愛していたはずだ。

そして、吸血鬼の国が滅んだのは素体となるユエを得るために神敵として襲わせた。

それなら辻褄が合うだろ。」

 

ユエが神祖ならば有り得たであろう話をする詩音。神に狙われていた事を信じたくないとでも言うように震えるユエの前にあの謎のアーティファクトを詩音は置いた。

 

「これがなんの道具か分からねぇが、ユエの封印されていた真下に隠されてあった。もしかしたらそれに真実が隠されているやもしれん。」

「あ、これって………………」

「あぁ。王宮の宝物庫にあった映像記録用アーティファクトだ。」

 

謎のアーティファクトが映像を記録するためのアーティファクトだと発覚し、ユエが深く関わるであろうものが記録されているのではないかと皆に緊張が走る。

 

「取り敢えず、これ食い終わってから見ようか。」

 

その一言で話題を他にずらしながら話を咲かせていった。

夕飯を食い終わり、皆が緊張する中でユエは映像記録用アーティファクトの電源を入れる。そして、起動させたら地面に置いて皆に見えるように少し下がる。

アーティファクトが輝き、ふっと映像を映し出す。そこに現れた相手を見て、ユエが驚愕に目を見開き呆然と呟いた。

 

「……おじ、さま?」

 

そう、映像には1人の老体……ユエの叔父に当たる人物のホログラムが現れたのだ。

ユエが無意識に後退りを始めたため、ハジメが捕まえて自分の足に座らせた。抱き締めているため逃走は不可能だ。

そんな2人を他所にユエの叔父のホログラムは話を続けた。

 

『……アレーティア。久しい、というのは少し違うかな。君は、きっと私を恨んでいるだろうから。いや、恨むなんて言葉では足りないだろう。私のしたことは…………あぁ、違う。こんなことを言いたかったわけじゃない。色々考えてきたというのに、いざ遺言を残すとなると上手く話せない』

 

遺言。つまり、自分が死ぬ事を前提としてこれに記しているのだ。そして、ユエの叔父は語る。しかも、元の名前もちゃっかりと分かってしまった。

 

『そうだ。まずは礼を言おう。……アレーティア。きっと、今、君の傍には、君が心から信頼する誰かがいるはずだ。少なくとも、変成魔法を手に入れることができ、真のオルクスに挑める強者であって、私の用意したガーディアンから君を見捨てず救い出した者が』

「「変成魔法?」」

「ちょっと狡して取り出したからな。」

『……君。私の愛しい姪に寄り添う君よ。君は男性かな?それとも女性だろうか?アレーティアにとって、どんな存在なのだろう?恋人だろうか?親友だろうか?あるいは家族だったり、何かの仲間だったりするのだろうか?直接会って礼を言えないことは申し訳ないが、どうか言わせて欲しい。……ありがとう。その子を救ってくれて、寄り添ってくれて、ありがとう。私の生涯で最大の感謝を捧げる』

 

ただ共通することがあって助けたのだが、かなり大層な言い方をしていた。ユエは叔父の言葉に聞き入るため微動だにしない。

 

『アレーティア。君の胸中は疑問で溢れているだろう。それとも、もう真実を知っているのだろうか。私が何故、あの日、君を傷つけ、あの暗闇の底へ沈めたのか。君がどういう存在で、真の敵が誰なのか』

 

真の敵。それが誰を意味するのか分からず疑問を浮かべる地球組。

そこから語られた話は、人理継続保障機関「カルデア」を動かすに値する真実であった。

 

他には、ユエが神子として生まれ、エヒト神に狙われていたこと。

それに気がついたユエの叔父は、欲に目の眩んだ自分のクーデターによりユエを殺したとエヒト神に見せかけて奈落に封印し、あの部屋自体を誰をも欺く隠蔽空間としたこと。

ユエの封印も、僅かにも気配を掴ませないための苦渋の選択であったこと。

 

『君に真実を話すべきか否か、あの日の直前まで迷っていた。だが、奴等を確実に欺く為にも話すべきではないと判断した。私を憎めば、それが生きる活力にもなるのではとも思ったのだ』

 

封印の部屋にも長くいるべきではなかったのだろう。だから、王城でユエを弑逆したと見せかけた後、話す時間もなかったに違いない。

その選択が、どれほど苦渋に満ちたものだったのか、映像の向こうで握り締められる拳の強さが、それを示していた。

 

『それでも、君を傷つけたことに変わりはない。今更、許してくれなどとは言わない。ただ、どうかこれだけは信じて欲しい。知っておいて欲しい』

 

ユエの叔父は表情が苦しげなものから、泣き笑いのような表情になった。それは、ひどく優しげで、慈愛に満ちていて、同時に、どうしようもないほど悲しみに満ちた表情。

 

『愛している。アレーティア。君を心から愛している。ただの一度とて、煩わしく思ったことなどない。娘のように思っていたんだ』

「……おじ、さま。ディン叔父様っ。私はっ、私も……」

 

父のように思っていた。その想いは、ホロホロと頬を伝う涙と共に流れ落ちて言葉にならなかった。

あまりにも壮絶な事実と知りたかったことの事実、そして紛れもない愛情を感じ取ったユエは涙を流した。

 

『守ってやれなくて済まなかった。未来の誰かに託すことしか出来なくて済まなかった。情けない父親役で済まなかった』

「……そんなことっ」

 

目の前のあるのは過去の映像だ。ユエの叔父の遺言に過ぎない。だがそんなことは関係はなく、叫ばずにはいられなかった。

ユエの叔父の目尻に光るものが溢れる。だが、彼は決してそれを流そうとはしなかった。グッと堪えながら愛娘へ一心に言葉を紡ぐ。

 

『傍にいていつか君が自分の幸せを掴む姿を見たかった。君の隣に立つ男を一発殴ってやるのが密かな夢だった。そしてその後、酒でも飲み交わして頼むんだ。〝どうか娘をお願いします〟と。アレーティアが選んだ相手だ。きっと真剣な顔をして確約してくれるに違いない』

 

夢見るように映像の向こう側で遠くに眼差しを向けるユエの叔父。もしかすると、その方向に過去のユエがいるのかもしれない。

 

『そろそろ時間だ。もっと色々話したいことも、伝えたいこともあるのだが……私の生成魔法では、これくらいのアーティファクトしか作れない』

「……やっ、嫌ですっ。叔父さ、お父様!」

 

記録できる限界が迫っているようで苦笑いするユエの叔父にユエが泣きながら手を伸ばす。叔父の、否、父親の深い深い愛情と、その悲しい程に強靭な覚悟が激しく心を揺さぶる。言葉にならない想いが溢れ出す。

 

『もう、私は君の傍にいられないが、たとえこの命が尽きようとも祈り続けよう。アレーティア。最愛の娘よ。君の頭上に、無限の幸福が降り注がんことを。陽の光よりも温かく月の光よりも優しい、そんな道を歩めますように』

「……お父様っ」

 

ユエの叔父の視線が彷徨う。それはきっと、ユエに寄り添う者を想像しているからだろう。

 

『私の最愛に寄り添う君。お願いだ。どんな形でもいい。その子を、世界で一番幸せな女の子にしてやってくれ。どうか、お願いだ』

 

ハジメは逡巡した後に力強く頷いた。それは、ハジメ自身が少なからずユエに救われだからこそなのか、覚悟のある頷きであった。

それが見えている訳では無いだろうが、確かにユエの叔父は満足そうに微笑んだ。きっと遠い未来で自分の言葉を聞いた者がどう答えるか確信していたのだろう。

色んな意味で、とんでもない人だ。流石はユエの父親というべきか。

映像が薄れていく。ユエの叔父の姿が虚空に溶けていく。それはまるで、彼の魂が召されていくかのようで……

彼は最後の言葉を紡ぐ。

 

『……さようなら、アレーティア。君を取り巻く世界の全てが、幸せでありますように』

 

その暖かい声と共にユエの叔父のホログラムは消えた。

少女の声が木霊する。それは愛する者との別れの悲しみと絶対不変の愛情に包まれた寂しくも暖かい声であった。


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