番外個体の獣は少女と旅す   作:星の空

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第10話 語り合い(その2)と攻略再開

ユエは心の疑念を晴らせたからか、心做しか嬉しそうな顔をしていた。

そして、今度はユエが聞いてきた。

 

「…………皆は、どうしてここにいるの?」

 

こんな奈落の底に来るような人間は居ない。来れたとしても魔物との実力差で殺されて終わりだ。それなのにこんな所にいるのかが、ユエには分からなかったのだろう。

ユエは他にも沢山聞きたいことがあったのだろう。

なぜ、魔力を直接操れるのか。なぜ、固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。なぜ、魔物の肉を食って平気なのか。左腕はどうしたのか。そもそもハジメは人間なのか。ハジメが使っている武器は一体なんなのか。

ポツリポツリと、しかし途切れることなく続く質問に律儀に答えていく。

ハジメと鈴が仲間と共にこの世界に召喚されたことから始まり、ハジメは無能と呼ばれていたこと、ベヒモスとの戦いでクラスメイトの誰かに裏切られ奈落に落ちたこと、魔物を喰ってハジメが変化したこと、爪熊との戦いと願いやポーションのこと、故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたことをハジメがツラツラと話していると、いつの間にかユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。

静聴していた鈴達でさえ、ユエがまた泣き出したことに驚いた。しかも、同情や憐れみなどではなく本心から泣いているのだ。

 

「いきなりどうした?」

「……ぐす……ハジメ……つらい……私もつらい……」

「気にするなよ。もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

 

ハジメが決めたハジメ自身の道を聞いたユエは故郷に帰るというハジメの言葉にピクリと反応する。

 

「……帰るの?」

「うん?元の世界にか?そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。……色々変わっちまったけど……故郷に……家に帰りたい……」

「……そう」

 

ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

「……私にはもう、帰る場所……ない……」

「……」

 

必然的に暗くなり、その空気を変えるように鈴が言い出した。

 

「だったらさ、一緒に来ちゃえばいいじゃん。」

「………………一緒にって?」

「そんなの私たちの故郷の地球に決まってるじゃん!戸籍とかそういったややこしいことはこっちで済ますからさ!」

 

しばらく呆然としていたユエだが理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。

キラキラと輝くユエの瞳に、鈴は万遍ない笑顔で頷いた。

その事により新たな道が出来たからか、ハジメとずっといられるからか、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。

それにハジメが見蕩れて慌てて目を逸らして新兵器開発に没頭しようとした。

ふと、聴き逃してはならないものを思い出した。そして尋ねた。

 

「……………………なぁ?」

「「ん?」」

「いや、谷口に聞くけど今お前…………戸籍用意するとか言ってたよな?」

「うん。するって言ったよ?」

「聞かれたらどう答えるんだよ?異世界人ってばらすのか?」

「いやいや、私の権限で押し通す(・・・・・・・・・)んだよ?」

「ふぅん………………ファッ!?」

 

納得して作業を始めるが今の発言がバリバリ可笑しいことに気付き、グリンッ!!!!と鈴の方に顔を向けた。

 

「権限ってなんの権限!?!?ってか本当に何者だよ谷口は!?!?」

 

高校でも1ヶ月に5日しか登校せず、いる日に呼べば唐突に姿を現す神出鬼没。体育では脳筋を越えていつも1番で人の内側を見透かし、此方では異様な程の戦闘スペックを誇る。その果てに公務員相手に権限を発動すると豪語。

本当に何者なのかが気になってしまう謎多きロリ元気っ子属性の鈴に驚愕をしてしまうハジメ。

何者かを問われてハジメにまだ名乗ってなかったことを鈴は思い出した。

 

「あ、そういやもう隠す必要なんてないんだった。」

「か、隠すって、どっかの秘密組織所属とかか?」

「正解!!私は世界政府に認められてる特殊組織、人理継続保障機関「カルデア」の第3幹部谷口鈴です。よろしくね?」

「………………………………はは、世界政府容認…………機関の幹部って。一般高にいるような人じゃないだろ………………」

「家が近いってだけで行ってる様なもんだしね。かおりん達もいるしさ。」

 

カルデアの第3幹部な訳は人類の未来を取り戻した功績とサーヴァントを繋ぐ楔であり、殺されない限り死ぬことも無い(・・・・・・・・・・・・・・)から、下からちまちま上げていくより一気に上に上げといて面倒臭い工程をやらないためである。

 

「ん?1つ気になったんだが人理継続保障機関って何すんだ?」

 

幹部であることよりも聞いたことの無い機関だったからか、ハジメは何となくで聞いてみた。

 

「それは文字通り人類が滅亡しない様にする(・・・・・・・・・・・・)ための機関だよ。」

「えらく壮大だな。」

「壮大じゃなくて壮絶だよ。例えば古代マヤ文明に人類滅亡のがあるでしょ?」

「確かにあるな。でも実際には起こらなかった。」

「そう。確かに起こらなかった。でも、過去のその文明時に起こったら人類はどうなると思う?」

「滅亡した後だからいないだろ?」

「そう。そういった滅亡がその時代に唐突におとずれてしまうことがあるの。」

「は?なかったことが起こるのか?」

「起こるの。カルデアはそれを感知発見したら世界政府に許可を取ってからその時代に跳んで修復する。私はそのメインメンバーの1人だよ。」

「「………………」」

 

鈴が過去に飛んで滅亡を阻止するという非現実的な仕事をしていることにハジメも話の内容が読めないユエも絶句する。

 

「ユエには分からないだろうけど南雲君は知ってるよね、空白の3年間って。」

「…………空白?」

「あぁ。忘れるはずもない。瞬きをした一瞬で3年も経ってたんだ。あの瞬間に何があったのか、誰も分からない不思議なものだ。」

 

ハジメは12歳から15歳となって瞬きをした一瞬で身長が10センチも伸びていたし、昼に出歩いていたら夜中になっていたし、そこかしこにいた人間が地面に倒れていた集団怪奇現象を思い出して顔を顰めた。

 

「その空白の3年間は人類が滅亡していた時間帯だよ。」

「…………………………ハヘッ!?」

 

鈴が顔を俯かせながら伝えてきたことを読み取るのに5分も固まってしまった。

実際に人類が滅亡していた事実に驚きを隠せないのだ。誰がなんの目的で滅ぼしたのか、それにも想像がつかなかった。

 

「人類が滅ぼされた訳はやり直すため。つまり地球のリセットが目的だったの。それも人類を愛するが故に人類を滅ぼす決意をした。死後のソロモン王の肉体を奪ってからずっと時を待っていたの。憐憫の獣ゲーティアは。なんの因果か私だけ滅亡を逃れた。その時に武蔵ちゃんと詩音に会ったの。孤独になった私の前に現れた。武蔵ちゃんは偶然だったんだけど、詩音は聞いてきた。このまま滅亡した両親を追うか前に進んで取り戻すか。」

 

憐憫の獣ゲーティアが人類を滅ぼし、人類をリセットしようとしたこと、偶然鈴1人だけ助かったこと、武蔵と詩音に会って進むか止まるかを問われたこと。それらを語る。

 

「私は前に進む決意をした。その後にカルデアと接触して人員となったの。そして、必ず滅びを迎えるようになった7つの時代を駆け抜けた。本来いないはずの幻想種である竜種が蔓延るフランスの百年戦争。死したはずなのに再び現れた統括者と奪い合ったローマ帝国。閉ざされた神話の海オケアノスでの海賊争い。宇宙を焼いた雷でのロンドンの爆破。北米で起きたケルトの戦士と米軍、反乱軍の三つ巴の戦争。理想を実現にしたアーサー王を乗っ取った女神による人間の取捨選択。母へと返り咲こうとしたティアマトによる魔獣との戦争。どれも危険な戦いだった。生き抜くことで精一杯な程。その戦いの果てに悪魔の名を冠する魔神の柱とそれを統べる憐憫の獣ゲーティアとの決戦をした。そして勝った。」

 

第1から第7特異点の戦いの壮絶さと最後の戦いを軽く語った。鈴の顔は乗り切ったことへの安堵か知らないが穏やかであった。

 

「………………色々突っ込みたいところだがよく3年間も生き抜けたな。」

「………………ん。よくわかんないけど神と戦って勝ったのは凄い。」

「ありがと。でもこれはまだ前哨戦に過ぎないよ。」

「「は?」」

 

7つの時代を3年間掛けて駆け抜けたと思っていたハジメとユエに前哨戦だと告げた。つまり本番はこれからであるということだ。

 

「ゲーティアとの戦いは1年間で済んだ。でもその後に新たな敵が現れたせいで人類の未来は取り戻せなかった。目的も何も分からないまま2年かけて終わらせたけどね。次の戦場は時代じゃない。なんだと思う?」

「時代じゃない…………宇宙人かなにかか?」

「神話。」

「……………………ちょっと待て。過去の修正ってのは聞いた。フランスとローマと大西洋とイギリスとアメリカとブリテンと中東の過去が歪んだのを戦って直したのは分かるが神話?神話ってギリシャ神話や日本神話の神話か?」

「うん。日本神話はなかったけどね。最初はロマノフ関係だったけどそれ以降は全部神話だよ。北欧神話と中国神話、インド神話にギリシャ神話とあったよ。特にインド神話がヤバすぎた。っと、そろそろ寝ないと明日に響くよ?」

 

鈴は特異点については語ったが異聞帯についてはそこまで語らなかった。それは鈴の心の奥底で踏ん切りが着かないのとこの世界で異聞帯でのあの戦いが再演されると半ば確信していたからである。

その時になったらまた語ればいい、と鈴は眠るのであった。

ハジメとユエは鈴がとてつもなく辛い何かを見て、それを思い出したのだろうと無闇に聞くことはしなかった。

ユエはハジメの足を枕にして眠り、ハジメはまだ途中であった新兵器の完成に急ぐのであった。

鈴が話している間、武蔵と詩音は聞かないように既に寝ておりヘラクレスは空気に溶けて火の番をしているのであった。

 

翌日

 

「アハハハハハハっ!!!!!!!!」

「だぁぁぁぁ、ちくしょぉおお!」

「……ハジメ、ファイト……」

「お前は気楽だな!」

「さっきより増えてるぞ!!」

「対軍宝具持ちいないのかな!?」

 

現在、ハジメ達一行は全力で駆けていた。まぁ、ユエはヘラクレスに荷物と共に抱えられているのだが。

では何故駆けているのか。それは一行の後ろにいる。彼らの後ろには

 

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

二百体近い魔物がいて、現に追われているからである。語り合った次の日から攻略を再開して戦力も増えたことから十階層ほどは順調よく降りることが出来た。ハジメの装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因だ。

全属性の魔法をなんでもござれとノータイムで使用し的確に前衛を援護するからスルスルと降りて現在の階層まで来れたのだ。

まず見えたのは樹海だった。十メートルを超える木々が鬱蒼と茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いだろう。

次の階層への階段を探していたところに見た目がティラノサウルスな魔物と遭遇した所から始まった。

殺気を迸らせながら睨んで来ていたのだが、頭部に着いた1輪の可憐な花がシュールにしていた。

飛びかかってきたティラノサウルス擬きにユエが魔法を放ち、一撃で仕留めた。が、頭の花がぽとりと落ちて結局シュールに終わった。

あとから次々と集まりだして収集がつかなくなって逃げることとなったのだ。

 

「アハハハハハハハハハハハハっ!!!!!!!!!!!!そろそろ壁際に着くよ!!!!!!」

「どっかひび割れた所を探せ!」

「…………ん、〝凍獄〟!」

「Gaaaaa!!!!」

 

鈴はハジメのオタク知識による本体探しが始まって以来シュールに耐えられずずっと笑っている。

ハジメとユエとヘラクレスが殿に立ち、残りの3人が探す。

少し左側に縦割りの洞窟があったため、そこに駆け込み、ハジメが錬成をして穴を塞いだ。

まぁ、ヘラクレスが穴を拡大させたため少し手間がかかったが。

錬成で入口を閉じたため薄暗い洞窟を一行は慎重に進む。

しばらく道なりに進んでいると、やがて大きな広間に出た。広間の奥には更に縦割れの道が続いている。もしかすると階下への階段かもしれない。

警戒しながら進み、中央までやってきたとき、それは起きた。

全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできたのだ。皆は一瞬で背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃する。

しかし、その数は優に百を超え、尚、激しく撃ち込まれるのでヘラクレスの大咆哮で全方位の緑の玉を飛ばし、その隙に鈴が聖絶を球状に張り巡らした。

誰も攻撃を受けていないことを確認して先に進む。先にある暗めな縦割りに入るとそこにはアルラウネやドリアード等という人間の女と植物が融合したような魔物がいた。

どうやら派手な演出を譲渡していたようだが、この一行には一切効かなかった。似非アルラウネが動き出す前に詩音が槍の一突きで速攻で仕留めた。

 

「ふぅ、色々と面倒臭い奴だったな。姑息な奴は本当に好かねぇ。」

「まぁまぁ、次の階層に行けるんだから行こうよ。」

 

詩音が直ぐに仕留めたのは思うところがあったのは今の一言で分かった。それを鈴が窘めつつ先を促し、皆は賛同して先に進んで行った。


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