番外個体の獣は少女と旅す   作:星の空

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第1話 異世界トータス

魔法陣がカッ!!!!と光り、教室に残っていた大半の生徒達は余りの光量に思わず両手で顔を庇って目を瞑る中、鈴は慣れていたため(・・・・・・・)そのようなことをせず、いつも感じていた邪悪な気配を見つけて睨めつけていた。

その間に光が収まったため周囲を見るが、2ーA教室ではなく見知らぬ教会らしき場所であった。

そして、1番目に付くものを見る限り胡散臭いのがよく分かる。

それは縦横約10メートルあり、後光とそれを背負うように長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれており、その人物の背景には草原や湖、山々が描かれていて、その全てを包み込むようにその人物は両手を広げている巨大な壁画であった。

壁画に内包された神秘が意外と大きく、教会内部も相応の神秘に包まれていた。だが、その神秘に隠しようのない邪悪が潜んでいるのを確かに見て取れた。

 

(…………第4異聞帯に近いね、セイバー。)

(そうよね。もしかしたらクリプターも何処かに居たりしてね。)

(現実味がありすぎるからやめて。)

 

壁画から視線を他に見やると自分たちが立っている場所が儀式における台座であり、その下の方に儀式を執行下であろうこの教会信者であろう魔術師達がいた。

その中でとりわけ目立つ姿をしたご老体が錫杖を響かせながら階段を登って台座上にまで来た。

そして、名乗りあげた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

とある女神を連想して吹きかけた鈴だが、なんとか堪えて着いてこいというイシュタルについて行くのであった。

しばらく歩くと大きなテーブルが幾つも並んでいる大広間に通され、上座側に巻き込まれた教師陣2人をはじめ、光輝や香織といったいつものメンバーが座る。

鈴は上座から7番目に座ることが出来た。

中間地点に大介達虐め組がいて最後尾にハジメが座っていた。

ここに案内されるまで誰も騒がなかったのは未だ現実に認識が追いついていないのがよく分かる。その上イシュタルが事情を説明すると告げたことや、葛城先生が落ち着かせたことも理由だろうが。

全員が座り終わるとタイミングを見計らっていたのか、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。

それも、メイド喫茶の似非メイドや欧米にいるであろうおばちゃんメイドではなく、若々しく男子達の夢であろう少女そのもののメイドである。

こんな状況でも思春期男子の飽くなき探究心と欲望は健在でクラス男子の大半がメイドさん達を凝視している。鈴は黒い何かがあると冷めた思考をしていたが、それを見た女子達の視線は氷河期もかくやという冷たさを宿していた。

ハジメも興味があったのだろうが香織の雰囲気を悟ったのか我慢しているようだ。

 

(うん。香織ちゃんの背後に龍のス○ンドがいるのは気の所為。)

 

鈴も香織の隣だからかビンビン伝わって来るし、実際幻視すらしている。

全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

そこから語られるのはこの世界が地球では無いことと住んでいる人種、国同士の政治的関係、そして戦争中であること。後は人族が優れており、他の種族は異端であり悪逆非道何をな存在だと延々と言い聞かせていた。

固定観念を抱かせようとしているのが丸分かりであり、イシュタルが何が言いたいのかを鈴は悟った。

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

イシュタルは最後に鈴の悟った通りのことを言った。

要するに戦争に参戦して他種族を滅ぼせと言っているのだ。

この教会内にいる者のほぼ全員が狂信者であり、断ると未知の大地に置かれる状況なのが分かる。

これでは拒否が出来ない。ある意味脅迫そのものであろう。葛城先生も悟ったのか表情が優れないし諦念の溜息を吐いていた。

しかし、そこに待ったをかけたものが1人。愛ちゃん先生である。

 

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

ぷりぷりと怒る愛ちゃん先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の副担当教師で非常に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。

無論、鈴も庇護欲を掻き立てられている。

セイバーが今、欲しいと言ったのにも頷ける可愛さがあるのだ。

〝愛ちゃん〟と愛称で呼ばれ親しまれているのだが、本人はそう呼ばれると直ぐに怒る。なんでも威厳ある教師を目指しているのだとか。

今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛ちゃん先生を眺めていた生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

(あぁ、やっぱりか。ランサーが船乗り英霊(・・・・・)を連れてきてくれたら良いんだけど……)

 

空気がホンワカとしたものから重苦しいものに変わったのが直ぐに分かる。愛ちゃん先生が帰れない事についてイシュタルに突っかかるが、イシュタルの話によると「神が行ったことだ。我々人間には出来ない。帰れるかどうかは神の意思次第。」というもので、その意味を理解した生徒達は納得が出来ずに騒ぎ立てる。

その騒ぎ立てる生徒達をイシュタルが目で確認していることもそれに侮蔑が混じっていることも分かり、鈴は目をつけられない為にも身に付けた演技力で目を付けられることを避けた。

未だに生徒達が騒ぎ立てる中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッ!!と叩いた。その音にビクッ!!!となり注目する生徒達。

光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。イシュタルさん、どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。

 

(あぁあ、光輝君やっちゃったねぇ。自分のエゴに皆を巻き込んだ(・・・・・・・・・・・・・)。光輝君イシュタルさんの術中に嵌ったし、皆も吊られて賛同しちゃってるし、1度離れた方が身のためかなぁ。)

 

生徒達が光輝を囃し立て、葛城先生がコミュ障を発症して上手く話せず参戦することとなったことに溜息を吐き、愛ちゃん先生が駄目だとオロオロしている中、1人思案しているハジメに疑問を持ったがこれからの事を思うといつの間にやら消え去り、鈴はセイバーと脳内で予定を立てつつ終息するのを待つのであった。


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