番外個体の獣は少女と旅す   作:星の空

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第3話 情報収集と虐め

ステータスプレートの騒動と王宮の宝物庫から(いかにも見つけました感を出しながら)武器を選んで(グラムを持って宝物庫の奥から出て)から早2日。

皆が王国の騎士達や宮廷魔道士達に師事を仰ぐ中、鈴は基礎的なものを初日だけ聞いて以来自室で思考錯誤を繰り返していた。

 

「うぅん。ねぇセイバー、これさ絶ッ対に何かあるよね?」

「うん。あるね。魔人族二に関する情報をほぼ途絶して、あるとしても洗脳教育を施そうとする魂胆が丸わかりの内容ばかり。」

「これ、光輝君絶対に魔人族のことを人じゃなくて魔物と同一視してるよ。」

「あの勇者君か。あれは挫折を1度も味合わずに生きてきた子だよ。そもそも人を疑う事すら知らない。その分赤ん坊の方がマシだと思えるよ。赤ん坊は本能的にいい人(家族)悪い人(他人)を見分ける力があるからね。」

 

鈴が今悩んでいる所は敵である魔人族についての情報がこれっぽっちも無いからだ。

魔人族に関しては聖教教会に行かないと分からないため、他のことを考える。

 

「話変える。皆成長してるけどさ、1人だけ遅い子がいるじゃん?」

「あのハジメって子のこと?」

「うん。あの子………化けるかもね。」

「うーん…………素質はあるよ。それも思考的には俺様思考の。英雄王が道化と笑うか雑種と蔑むか興味を持つかで賭けが出来るね。」

「確かにあの人なら見定めれるけど、滅多に動かないじゃん。」

 

セイバーと問答している間、他の2つの思考(・・・・・)では初日に教えて貰った結界魔術の術式を自分に適するようにアレンジしているのと、適当に集めたまん丸の小石にこの世界の結界魔術をルーンにして刻み、同時に一工程(シングルアクション)で発動出来るように詠唱文を改良している。

所謂多重思考(マルチタスク)を無意識に平然と行っている鈴にセイバーは呆れつつも時間を教える。

 

「考えるのもいいけど…………時間大丈夫?」

「時間?………………ヤバっ!!!!もう訓練開始前じゃん!?セイバーはバレないように世界地図以外全部仕舞っといて!!!!」

 

鈴はセイバーにそう言い残して部屋を飛び出すのであった。

少し駆け足をして着いた時には殆どの人が集まっており、いつも遅れてくるハジメより来るのが遅かったようだ。

息を整える間ハジメの精神状態を軽く見ようとしたが、あの虐め組の4人がハジメの元に向かい出したので袖に潜めてあるルーン刻み済みの小石を手にして様子を伺う。

ハジメは西洋剣を手に取り、離れた場所で1人で剣を振ろうとしたが虐め組のリーダー格である檜山がハジメを蹴ったせいで出来なかった。

そして、その事を周りは気にしない。

それをいい事に檜山達は騒ぎ立てる。

 

「よぉ南雲。なにしてんの?お前が剣持っても意味ないだろが。マジ無能なんだしよ~」

「ちょっ、檜山言い過ぎ!いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」

「なんで毎回訓練に出てくるわけ?俺なら恥ずかしくて無理だわ! ヒヒヒ」

「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから俺らで稽古つけてやんね?」

 

一体なにがそんなに面白いのかニヤニヤ、ゲラゲラと笑う檜山達。中野の提案により益々雲行きが怪しくなる。

 

「あぁ?おいおい、信治、お前マジ優し過ぎじゃね?まぁ、俺も優しいし?稽古つけてやってもいいけどさぁ~」

「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ~。南雲~感謝しろよ?」

 

尻餅を着きっぱなしにしたハジメを無理やり立たせて馴れ馴れしく肩を組む檜山。ハジメはやんわりと断っているようだが、檜山達は耳を貸さずに逆ギレして腹を殴り、そのまま引き摺って訓練場から死角になる場所に移動する一行。

鈴は徹底的な証拠を掴む為にある暗殺者(アサシン)直伝の気配遮断を使い、ハジメ達の後を追った。そのついでに紙に死角となっている場所を書き残して置くのも忘れない。

死角に来た時にハジメは檜山に突き飛ばされており、檜山は何かをハジメに言っていた。

その間になるべく早く割って入れる様に近くの木の葉の中に潜む。

そして、檜山、中野、斎藤、近藤の四人がハジメを取り囲み、ハジメは悔しそうに唇を噛み締めながら立ち上がった。

 

「ぐぁ!?」

 

その瞬間に近藤が剣の入った鞘でハジメの背中を殴り、耐えることができずに前のめりに倒れ込んだ。それだけでは終わらず、更に追撃が加わった。

 

「ほら、なに寝てんだよ?焦げるぞ~。ここに焼撃を望む〝火球〟」

 

中野が火属性魔法〝火球〟を放つ。

倒れた直後であることと背中の痛みで直ぐに起き上がることができないハジメは、必死に横へ転がることで避ける。だが、それを見計らったように今度は斎藤が魔法を放った。

 

「ここに風撃を望む〝風球〟」

 

風の塊がもう少しで立ち上がれたハジメの腹部に直撃し、ハジメは仰向けに吹き飛ばされた。そして、プロボクサーのブロウが決まった感じなのか、「オエッ」と胃液を吐きながら蹲る。

魔法自体は一小節の下級魔法だ。プロボクサー以上の威力が出ているのだが、それは彼等の適性の高さと魔法陣が刻まれた媒介が国から支給されたアーティファクトであることが原因だ。

 

「ちょ、マジ弱すぎ。南雲さぁ~、マジやる気あんの?」

 

そう言って、未だに蹲うずくまるハジメの腹に蹴りを入れる檜山。ハジメは込み上げる嘔吐おうと感を抑えるので精一杯なのがよく分かる。

その後もしばらく、稽古という名のリンチが続く。

ある程度の言い逃れ出来ない証拠を捉えたため、割って入ることを鈴は決めた。

手に握る小石を蹲るハジメと剣入りの鞘で殴ろうとする檜山達の間に投げ込んで一言呟く。

 

「聖絶。」

「んなッ!?」

 

それだけで、絶対防御の聖絶が発動した。いきなり展開された魔法に焦る檜山達。まぁ、この魔法を使えるのは限られているからである。

焦る彼らを後目に隠れていた木から飛び降りてハジメの元に鈴は着地をした。

 

「ごめんね南雲君。はいこれ、回復ポーションだよ。それとアーティファクト。これにいまさっきのリンチを記録しといたからメルドさんに渡したらいいよ。」

「谷口…………さん?」

「うん。会話出来るなら大丈夫そうだね。」

 

ハジメの安否を確認した鈴は檜山達に向き直り、魔術師としての(・・・・・・・)顔を見せる。

 

「なんでこんなことをしたのかな?」

「な、何のようだ谷口、俺らは南雲を鍛えてただけだっ。」

「嘘。始めから力に溺れて下しか見てなかった。南雲君をリンチしてたのもただ弱いものいじめをして遊悦に浸りたいだけだから。じゃなきゃ南雲君はここまで傷付かないよ。」

 

遊悦に浸ろうとする4人にその事実を突き付けたと同時に小石に詰めた聖絶の効果が切れる。すると、怯えていた檜山達は一斉に鈴へと襲いかかった。

 

「ここに焼撃を望む〝火球〟!!!」

「ここに風撃を望む〝風球〟!!!」

「らぁ!!!!」

「せいっ!!!!」

 

中野が火球を放ち、斎藤が風球を放つ。近藤と檜山は抜剣して(・・・・)から鈴へ攻撃した。この4人は鈴がまた聖絶で防ぐだろうと同じ考えであったため、若干の加減はあれど本気で攻撃をしたのだ。

そこに、

 

「貴方達、何してるの!?!?」

「鈴ちゃん!!!!」

「なアッ!?」

「やべっ!?!?」

 

二大女神の2人の声と4人の足音が聞こえた。鈴の置き手紙を読んで急いで来たのであろう。

しかし時既に遅し。4人はハジメを守る鈴に(・・・・・・・・)攻撃をしている(・・・・・・・)のを香織と雫、光輝と龍太郎にバッチリと見られたのである。

檜山達が鈴を襲っていることに驚愕して、鈴が聖絶を使えることを知らない香織は心配する。

しかし、香織のそれは杞憂で逆にここにいるものを驚愕させた。

 

「アンサズ!」

 

鈴はいつの間にか碧く仄かに光る小太刀を両手に逆手で持っており、パルクールをしながら檜山と近藤の剣戟を逸らし、空中で逆さになった時に両手で左右にルーンを空中で刻み、中野と段違いの火球(・・)を中野と斎藤の火球と風球にぶつけて無効にした。

その一部始終が映画のアクションシーン以上の出来栄えだったため、皆は驚愕したのだ。

 

「置き手紙見てくれたんだね、カオリン。あぁ、ハジメ君を回復して。」

 

香織の手に握られている紙切れに目をやりなが、未だ起き上がってないハジメを起こしてから香織に預けた。

 

「はっ!南雲君、大丈夫!?」

 

回復ポーションでは回復しきれなかったのか咳き込むハジメを回復魔法で回復を始める香織、残りの3人は檜山達を睨む。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

「嘘つきは泥棒の始まりって聞いたことない?さっき嘘着いたばっかじゃん。」

「…………何があったかは後で鈴に聞くけど…………訓練にしては一方的過ぎないかしら?」

「いや、それは……」

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

未だに言い訳をしようとした檜山に光輝はピシャリと言い切り、龍太郎は上を目指せと指摘をする。

言い返せなくなったからか、舌打ちをしながら4人は立ち去る。その時に4人が鈴を睨んで来たが大冒険時に得た殺気を放つと顔を青くしてそそくさと立ち去った。

少ししてハジメは回復し、回復魔法を使っていた香織はハジメを心配する。

 

「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」

 

苦笑いするハジメに香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

そして、怒りの形相をして檜山達を睨むが、それをハジメは止めた。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」

「でも……」

 

それでも納得できなそうな香織に再度「大丈夫」と笑顔を見せるハジメ。渋々ながら、ようやく香織も引き下がる。

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

 

渋い表情をしている香織を横目に、苦笑いしながら雫が言う事にも礼を言うハジメ。しかし、そこで水を差すのが勇者クオリティー。

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう?聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

何をどう解釈すればそうなるのか。光輝の思考パターンはセイバーの言う通りである。しかし、光輝の言葉には本気で悪意がない。真剣にハジメを思って忠告しているのだ。

そのせいか、ハジメは既に誤解を解く気力が萎なええている。

ここまで自分の思考というか正義感に疑問を抱かない人間には何を言っても無駄だろうと。

そこで鈴は問題を出した。

 

「問題!!!灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光って二足歩行で上半身がムキムキな魔物はなぁんだ!!!!」

「ムキムキ?」

「魔物?」

 

いきなりの問題とその内容にちんぷんかんぷんとなる4人。ハジメは既に分かってはいるようだが、答えていいのか分からず挙げあぐねる。

 

「あと30秒!!物怖じするくらいならとっととあげて!!!!」

「は、はい!!!!」

 

残り少ない時間を設け、挙げあぐねるハジメに殺気込で大声を上げる鈴。その殺気に当てられたハジメは言われた通りに手を挙げた。

かなりえげつない行為である。

 

「それじゃあ南雲君!!!!」

「え、えと…………オルクス迷宮1階層に住み着くラットマンだよね。」

「正解!!!!次はカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物は?」

「20階層に居るロックマウント!」

「お米のある街は?七大迷宮の正式名称は?中立商業都市の名は?」

「お米はウルの街に在って、七大迷宮は発見されてるものでオルクス大迷宮とライセン大峡谷、ハルツェナ樹海、グリューエン大火山とシュネー雪原後2つは未だに不明。中立商業都市はフューレンって言って王国とヘルシャー帝国の間に位置してる。」

 

鈴が問うてハジメが答える。それはハジメ自身が鈴の意図に気づいて順応しているだけである。

ある程度の問答が終わると、鈴は光輝に問いかけた。

 

「光輝君はどれくらいこの世界の常識を知ってるのかな?」

 

この問に光輝は応えようと躍起になり思案し始め、意外なことに脳筋な龍太郎が鈴の質問の意図に気づいた。

 

「ん?あぁ、南雲は図書館で常識を知ろうとしてたのか。」

「!!!!!!!!」

 

彼のソクラテスの名言「知らない事を知る」所謂「無知の知」を鈴は光輝に叩きつけ、ハジメに対する誤解を認識させたのだ。

 

「済まない南雲!!あの言葉は軽率だった!!」

 

あの偽善と自己中の塊である光輝が謝った。その事に雫は驚愕し、ハジメの誤解を解いた鈴はいつの間にかそこから消えていたのであった。

この後、5人は訓練に参加した。鈴は隅の方で淡々と想像した動きをしたり、1人で自主訓練を行っていた。

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが今回はメルドから伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルドは野太い声で告げる。

 

「明日から実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ!まぁ、要するに気合入れろってことだ!今日はゆっくり休めよ!では、解散!」

 

そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。

鈴は部屋に戻り次第荷造り(・・・)をして、ある事をするために動き出したのであった。


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