番外個体の獣は少女と旅す   作:星の空

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第5話 少年と少女の離脱

檜山の手により発動したトラップにより、65階層に強制転移させられた挙句、前門の虎後門の狼状態となってしまった一行。

その中で自然と2つのグループに別れてしまった。

1つは前門の虎ならぬ前門の骸骨が集団となって隙間無く密集する方へ駆け出すパニック状態の生徒達。

その直後に後門の狼に値するベヒモスという魔物が咆哮した。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

その咆哮で正気に戻ったのか、メルドが矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!俺達も……」

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け!私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルドはベヒモスの咆哮で正気を取り戻し、生徒達をパニックから立ち直らせるためにアランという若騎士を遣わした。

もう1つはベヒモスを足止めしようとするメルドを含める騎士達と力量差を理解していない光輝と龍太郎、彼らを引っ張って行こうとする苦労人の雫、前門後門どちらにつこうか迷いオロオロとする香織だ。

鈴はハジメと共に危機に陥った生徒を助けて冷静にさせている。

メルドの威圧に臆しながらも「見捨ててなんてなど行けない!」と我儘を言う光輝。

行け嫌だの応酬をしている間にベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず〝聖絶〟!!」」」

 

二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。

更に生徒達の元からいつの間にやら鈴が来ており、聖絶がルーンで刻まれた小石を投げて発動させた。

重ねあうことでできた純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ。衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。

 

:::::::::

 

橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

何とか立ち上がった生徒達は隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体の骸骨……トラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間、目の前に大きな盾が1つ現れてその一撃を防ぎ、そのまま崖下に押し飛ばした。

 

「えっ……」

「ふむ、立てるか?」

 

よく見てみれば大盾より小柄な少女が盾を右腕に取り付けていた。左には流水を乱流して鋭さを持った水刃の槍を持っていた。

伸ばされた右手を握って立ち上がり、困惑した。

 

「あぁ、気にせずとも良い。冷静さを取り戻したのならば疾く行け。パニック状態の生徒達を冷静にしたら巻き返せるはずだ。」

「は、はい!」

 

女子生徒は有無をも言わさないその気迫に返事をして駆け出した。

少女は女子生徒を見届けたら、ベヒモスの方を向いて一言。

 

「あとは貴方次第だ、マスターよ。」

 

そう言い残して、霊体化をするのであった。

 

:::::::::

 

ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。

障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルドも障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

 

「ええい、くそ!もうもたんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」

「嫌です!メルドさん達を置いていくわけには行きません!絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

メルドは苦虫を噛み潰したような表情になる。

メルド自信にはこのベヒモスから逃げ切るプランは立っているのだが、それを味方である光輝が妨害をするせいで出来ないでいた。

雫が撤退を促すが、龍太郎共々力を過信して攻撃色の輝きを秘めた瞳をしていた。

イラつく雫を香織は心配していたが、そこに意外な人物が飛び込んで来た。それは最弱と言われているハジメであった。

驚く一同にハジメは必死の形相でまくし立てる。

 

「早く撤退を!皆のところに!君がいないと!早く!」

「いきなりなんだ?それより、なんでこんな所にいるんだ!ここは君がいていい場所じゃない!ここは俺達に任せて南雲は……」

「そんなこと言っている場合かっ!」

 

今までに無いほどの怒り様で光輝の胸倉を掴みあげ、捲し立てる。

いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する光輝。

 

「あれが見えないの!?みんなパニックになってる!リーダーがいないからだ!」

 

即席の聖絶を作りながらハジメの話を聞く鈴。ハジメが指を指しているほうを見れば未だに生徒達はパニック状態で、事態を重く見た光輝は頭を振って思考を切り替えた。

 

「ああ、わかった。直ぐに行く!メルド団長!すいませ――」

「下がれぇーー!」

 

〝すいません、先に撤退します〟光輝がそう言おうとしてメルドを振り返った瞬間、メルドの悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う。

 

「聖絶!!!!」

 

そして、即席の聖絶を惜しみなく鈴は使い、暴風のように荒れ狂う衝撃波から皆を守る。が、即席なため、本来の効果を発揮せずに直ぐに割れた。多少の威力は和らげたが…………

舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。

そこには、倒れ伏し呻き声を上げるメルドと騎士が三人。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。光輝達も倒れていたがすぐに起き上がる。メルド達の背後にいたことと、鈴の聖絶とハジメの用意した石壁が功を奏したようだ。

光輝が雫と龍太郎に時間稼ぎを頼み、香織にメルドの回復を頼む。ハジメは騎士3人を後退させ、鈴はルーン聖絶の作成に取り掛かっていた。

光輝は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。

 

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!〝神威〟!」

 

詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。

先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。

龍太郎と雫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱している。ギリギリだったようで二人共ボロボロだ。この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。

放たれた光属性の砲撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶす。激震する橋に大きく亀裂が入っていく。

 

「これなら……はぁはぁ」

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

「だといいけど……」

 

龍太郎と雫が光輝の傍に戻ってくる。光輝は莫大な魔力を使用したようで肩で息をしている。

先ほどの攻撃は文字通り光輝の切り札だ。残存魔力のほとんどが持っていかれた。背後では、治療が終わったのか、メルドが起き上がろうとしている。

そんな中、徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。

その先には無傷のベヒモスがいた。

低い唸り声を上げ、光輝を射殺さんばかりに睨んでいる。と、思ったら、直後、スッと頭を掲げた。頭の角がキィーーーという甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。

 

「ボケッとするな! 逃げろ!」

 

メルドの叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻った光輝達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。そして、光輝達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。

 

「出来た!!!!はい、聖絶!!!!!!!!」

 

光輝達が避けるのと同時に完成し、ベヒモスの着弾と同時に聖絶を使用した。

そのおかげか威力の殆どを削ぎ落としてあまり被害を受けずに済んだ。

 

「お前等、動けるか!」

 

何とか動けるようになったメルドが光輝達に近づいて確認をとる。

皆が動けるのを確認したら、皆に指示を出した。

 

「坊主、光輝、龍太郎はそいつ等を抱えろ!香織は回復を続けて雫と鈴は警戒しろ!今の間に撤退するぞ!!!!」

 

何とか立て直して撤退を開始する。そして、1人の騎士をメルドと共に抱えるハジメはとある提案をする。それは、この場の全員が助かるかもしれない唯一の方法。ただしあまりに馬鹿げている上に成功の可能性も少なく、ハジメが一番危険を請け負う方法だ。

メルドは逡巡するが、既にベヒモスは復帰してあの攻撃を繰り返そうとしていた。

殆ど時間が無い。

 

「…………やれるんだな?」

「やれるやれないじゃない。やるんです。」

 

決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくるハジメに、メルドは「くっ」と笑みを浮かべる。

 

「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

「はい!」

 

活きのいい返事をするとハジメは騎士をメルド1人に任せて準備に入った。

ハジメの意図を知った鈴は出し惜しみをやめた。1本の直剣を手元に呼び出したのだ。

そして、赤熱化していくベヒモスに向けて小太刀全てを上に投げて柄を殴る。手持ちの小太刀の柄を殴る殴る殴る。

ひたすら殴り、最後に直剣その物を殴る。小太刀が全てベヒモスに命中し、ベヒモス自身は跳躍。着弾直前に直剣とベヒモスの角が接触。

 

壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)!!!!!!!!」

 

その瞬間に鈴はベヒモス手前までに位置を換えて(・・・・・・)真名《な》を叫びながら柄を殴った。

太陽の性質を持つ魔剣の……今の鈴の全力解放した力である。

それによりベヒモス自慢の角が溶解し、ベヒモスの力を相殺した。

 

「今だよ!!!!南雲君!!!!」

 

鈴はそう叫んだ。それを聞いたハジメは唯一の魔法を発動した。

 

「〝錬成〟!!!」

 

それに伴い、地面に着いたベヒモスの顔を地面がせり上がって包み込んで行く。

石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまうからだ。

ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固める。

ベヒモスのパワーは凄まじく、油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、その度に錬成をし直して抜け出すことを許さない。ベヒモスは頭部を地面に埋めたままもがいている。中々に間抜けな格好だ。

 

「谷口さんは行かなくていいの?」

 

ハジメは錬成をしつつ隣でルーン聖絶を量産している鈴に問いかけた。鈴はルーン聖絶を作りなが、錬成されて固まった地面の強度を強化し、ハジメの治癒をしながら会話を続けた。

 

「別にいいかにゃぁ、なんつって。できる限りの事はするよ。皆頑張ってるんだもん。うん、外側は弾いて内側は透過する聖絶の完成。あ、マナポーションあげるよ。」

 

魔力回復に必要なポーションを全てハジメに渡す鈴。その鈴の万能っぷりには戦々恐々としながらも己の目的を曲げないハジメの精神的胆力は如何程だろうか。

数分後には鈴がハジメに渡したポーションも尽き、ハジメ自身の魔力も尽きた。

その時にはベヒモスは5分の4ほど身体を埋めており、尽きたのが分かったハジメは立ち上がり、階段に向けて駆け出した。

 

「谷口さん、行くよ!」

「OK!!!それじゃあ聖絶!!!!!!!!」

 

50個以上あるルーン聖絶を1分置きに投げ続けながら走る鈴。聖絶のおかげで、地中から脱出したベヒモスは確実に遅れており、更に生徒達からの支援砲撃が始まった。このまま行けば全員撤退が完了できる。

 

…………………………………………ハズだった。

 

支援砲撃のうち一つである火球がハジメに直撃してハジメは元の場所に向かって吹き飛ばされたのだ。

そのせいでハジメは三半規管をやられて上手く立てず、戻って来た鈴が肩を貸して前に進む。前に進めず苛立ったベヒモスが橋の上で駄々を捏ねるように大暴れを始めた。

そして、更にもう一撃火球が迫り、それを防ごうとしたがうっかりをやらかして使おうとしたルーン聖絶を落としてしまったのだ。

そして、その火球が鈴に直撃してハジメと鈴は橋上に取り残され、ベヒモスの大暴れにより橋は完全に崩壊。

ベヒモスと共に2人は奈落の底に落ちることとなってしまった。

 


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