番外個体の獣は少女と旅す   作:星の空

8 / 13
第6話 奈落の底と報告

「あんにゃろぉっ!!!!!!!!!!」

 

鈴はハジメと己に火球を放ってきた檜山を恨みながらも落下し続けていた。

 

「って、南雲君は何処行った!?!?!?」

 

落下直前まで隣にいたはずのハジメの姿が無くなっており、落ちながらも周囲を見回し、背後に自分より速く落ちていく滝を見つけた。

 

「えぇと…………これってまさか…………」

「南雲とやらは先程この滝に呑まれてマスターより先に落ちたぞ?その上気絶していたが故に叫ぶことも出来ずにな。」

「なんでそれを先に言わなかったのランサー!!!!」

「なんでと言われても………………俺の方がマスターより落下速度が速いから届かないし。」

「大盾えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

そう、謎の少女ことランサーが言う通りハジメは滝に呑まれて鈴より先に下へ落下して行ったのだ。抵抗力が無い分早く落ちるのは道理だろう。

そして、ハジメの保護を出来たであろうランサーは鈴の真下にいて大盾により段々落下速度が上昇していってるのがよく分かる。

セイバーはと言うと………………

 

「おぉい!鈴!!!ランサー!!!ここなら大丈夫だよ!!!!!!!!!!!!」

 

……………………落下中のベヒモスの腹の上でお茶をしていた。

 

「「誰がギャグ噛ませっつった!?!?!?!?!?」」

「えぇと、ノッブ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「おいこらノッブうぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!!!!!!!!!!!!」

 

セイバーは以前アーチャーの織田信長ことノッブに長距離落下をすることになったら正座してお茶を飲めと言われていたのを律儀にこなしていたのだ。

それに鈴は怒鳴ったがどうにもならず、更に地面が見えてきたのだ。

 

「それよりマスター!」

「何さ!!!!」

「早くしねぇとあと100メートルで地面だ!!!!」

「はぁ!?!?あぁもう!!!!令呪を以て命ずる、ランサーは宝具を発動して落下を止めて!!!!!!!!!!!!」

「了解!!!!宝具開帳、神殿掲げる都市の守護(ポリウーコス・パルテノーン)!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

ランサーは令呪によるブーストを受けるとあの大盾を地面に向けて真名を解放した。それにより大盾は消えて代わりに薄水色のバリアが鈴とランサー、セイバーを包み込んだ。セイバーのついでにベヒモスまで入ったが別に問題はないだろう。

そして……………………

 

 

ズンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

バリアと地面が衝突した。だが、物理法則を無視して衝撃は0となり、皆は無事に着地出来た。

 

神殿掲げる都市の守護(ポリウーコス・パルテノーン)

 

とはランサーが神霊としてパルテノーン神殿に祀られ、パルテノーン神殿のあった都市を守護していた逸話が宝具として昇華したものである。

 

パルテノーン神殿でランサーが何者かは大方分かったであろう。それはさて置き、無事に着地した3人は立ち去るベヒモスを見届けてから適当な場所に身を潜めた。

 

「ふぅ、マスター。」

「はぁ………………何?」

「いや何、クラス呼びに慣れてないから前みたいに名前で呼んでくれねぇか?せめてこういう時ぐらいはな。」

「うん、そうね。私もセイバーって言われるより武蔵ちゃんって呼ばれてたいかな?気に入ってるし。」

「分かったよ。詩音と武蔵ちゃん。それでいいね?」

「あぁ。」

「にししっ」

 

鈴の使役するサーヴァントは十数騎存在する。そのうち上位5人のうち2人がこの2人なのだ。

セイバーは宮本武蔵。空位に至る為に度をしていたのだが、なんやかんやあってサーヴァントとなり、鈴と最初期から共にいる。

ランサーはアテナ。あのギリシャ神話に登場する戦女神で、鈴が1番最初に召喚したサーヴァントなのだ。が、神霊は本来ならばサーヴァントになれないため依り代を得てから現れることがある。まぁ、アテナの依り代が主人格であり、その依り代自体が爆弾そのものなのだが鈴がいるか怒らせない限りは爆破しないのだ。

 

「休憩もできたし早く南雲君を探さないとね。私はこの辺を探すからセイバーとランサーは中の方探してくれる?」

「了解したぜ鈴。」

「うん、行ってくるね鈴。」

 

鈴の指示を聞いたアテナの依り代こと詩音と武蔵は霊体化をして迷宮内の詮索に出た。

指示を出した鈴は鎧を脱いで服をこの世界のものからカルデアから支給されている制服を着込んだ。

そして、魔術で身体強化をして天歩で中を移動しながらすぐそこの水辺にハジメが漂流していないか捜索するのであった。

しばらくしてから痕跡だけは見つけることが出来た。

 

「………………うん。使われたばかりの火種の魔法陣だね。てことはこの辺の何処かに南雲君はいるはず。」

(詩音、武蔵ちゃん。南雲君の痕跡を見つけた。まだ暖かいからあまり遠くには行ってない筈だからこの階層を中心に探して。)

(分かった。感覚的に壁側にいるからそっちに向かいつつ探すよ。)

(…………………………鈴。)

 

ハジメの痕跡を見つけたため捜索範囲を絞るように伝え、武蔵は隈無く探しながらこちらに向かって居るようだが、詩音からの返事が遅かった。というより呼んでいた。

 

(どうかしたの詩音?)

(喰いかけの人の腕を見つけた。)

((!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!????????????))

(それって何処!?)

(あまり遠くない。魔力放出をするから直ぐに来い。)

 

詩音によると真新しい左腕が血を流して落ちており、半分程食われているそうで、急に発せられた詩音の魔力の元へ鈴は駆け出した。

身体強化と跳躍の魔力放出、天歩の縮地を使ってまで駆け出し、神速も発動して武蔵と同時に辿り着いた。

 

「詩音!!!!その腕何処!?」

「此処にある。残った腕の肉がまだ生暖かいからそこまで時間が経ってねぇ。何処かにいるはずだ。」

「随分と殺伐とした所にあったねぇ。」

 

ハジメはまだ近くにいるそうで探し回るが見つからない。ただし、腕を見つけた広い場所は何かが戦った後なのか狼や兎の食い痕や、斬撃痕が疎らにあった。

纏めて見ると1つだけ分かったことがあった。

 

「これ、魔物同士の縄張り争いに南雲君が巻き込まれて腕を引きちぎられた。そして、南雲君は何とか逃げ出したってことよね?」

「分からん。だが、その線は厚いな。と、カルデアに連絡しなくていいのか?」

「あ。」

 

鈴は詩音に連絡の件を言われ、思い切りド忘れしていたのか慌てて腕輪の電源を入れる。

すると、いきなり連絡が入り込んできた。よく見たら数十件は着信がある。

それを見た鈴はサッと顔を青ざめてからそっと出た。

 

『繋がった!!!繋がりました!』

【本当かい!?鈴ちゃん、大丈夫かなぁ!?】

「はい!大丈夫です!!!!」

【良かったぁ。それで、本来なら合流する筈の時間にいなかったってことは何かあったんじゃないのかい?】

「はい、現状についていえばある男子生徒の嫉妬心から来る憎悪に巻き込まれて落とされました。」

【落とされましたって…………何処に!?】

「オルクス大迷宮の101階層です。65階層からなので危うかったのですが、ランサーの宝具でどうにかなりました。」

【ホッ………………君に何かあったら藤丸兄妹含めて皆が荒れるからいろんな意味で良かったよ。】

「それで、もう1つ報告したいのですが。」

【?なんだい?】

「先程告げた男子生徒の嫉妬心の対象であった子が行方不明となりました。」

『【[〈((はぁ!?!?!?!?!?!?))〉]】』

〈ちょっと待ってくれ。…………………………うん、アサシンが調べたら鈴ちゃんとその子は死亡扱いにされてるっぽい。仮眠中のホームズ呼んでくるから状況纏めといて。〉

((……先輩は呼びに言ったので一先ず纏めましょう。))

「うん、その子の名前は南雲ハジメって言って………………」

 

鈴の安否を明確にし、迷宮内に鈴含めて2人取り残されていることを告げる。そして、ハジメが魔物の縄張り争いに巻き込まれて腕を消失。その消失したであろう腕が取り残されていたことも教えた。

武蔵と詩音は周囲の警戒を続ける。

 

((ありがとうございます。あ、ホームズさん!))

《遅くなったね。それで、行方不明者が出たと聞いたけどどういう?…………ふむ、鈴君。》

「はい?」

《その腕があった部屋におかしな所はなかったかい?》

「それでしたら1箇所だけ。1箇所だけ壁を何度も切りつけてある場所がありますよ?」

《君の話によると南雲何某は錬成術特異が使い方をしていたそうじゃないか。恐らくその壁に人1人分の穴がある筈だ。》

「人1人分の穴ですか?魔物の巣らしきものならありますが…………」

《私の予想が正しいならばその穴の奥に南雲何某はいるはずだ。》

「でもどうやって入ればいいんしょうか?誰も通れませんよ?」

《………………壁を傷つけた魔物に追われていたため穴を狭めて通れなくしたのだろう。彼自身がその中から出てくるまで待つしか内容だ。トラウマを抱えていてもおかしくないからね。》

【……………………なるほどなるほど。そうするともうしばらくは会えないようだね?】

「はい。あ、クラスメイト達のことをお願いしていいでしょうか?特にかおりん……白崎香織ちゃんは前夜に南雲君と何か約束事をしていたようなので精神を病んでないか心配です。」

【うん。それならカウンセリングの出来る子を送っておくよ。ついでにこの世界について調べて回って見るさ。】

「ありがとうございます。」

 

ハジメの居場所は判明したが、助けることが出来ない所にいるためしばらく待つことになり、カルデアのみんなには他のことを頼む鈴。

 

〈鈴ちゃん、ヘラクレス(・・・・・)がそっちに言っちゃったけど大丈夫だよね?〉

「「「………………ヘラクレスが!?」」」

〈うん、なんでもヒュドラの気配がするって。〉

【偉業に入らなかった偉業の相手。ヘラクレス自身になにか思うところでもあったんじゃないかな?】

 

そこに、鈴が二騎目に召喚したサーヴァント・ヘラクレスが此方に向かっていることをちゃっかり告げてきた立香にこの場にいる3人が驚愕した。まぁ、魔獣系に対して絶大な力を持つ大英雄が来るのは有難いことだろう。

 

《うむ。それは置いといて、此方から物資を送るけど他に何か問題があったりするかい?》

「あ、シャドウ・ボーダーでクラスメイト全員を乗せて地球に帰れるでしょうか?」

[それは無理だ。]

 

鈴は皆で帰れることを期待して聞くが、シャドウ・ボーダーの操舵者であるキャプテンに否定された。

 

[シャドウ・ボーダーには機密事項が多い。それに一般人が虚数海を見るとこの船が吐瀉物で埋まる。あと、最大人員数が二十数人のため全員は不可能だ。サーヴァント達にも窮屈な思いをさせている以上爆発されても困る。]

 

最もなことを言われて諦める鈴。そして、1番重要なことを言い忘れていた。

 

「あぁ!!!!要注意人物のこと言い忘れてた!!!!」

《要注意人物?》

【それって誰なんだい?】

「私のクラスメイトにいる檜山大介と中村恵里、聖教教会のボスであるイシュタル・ランゴバルド、唯一神のエヒトです!!!!」

〈教会と神はまだしも…………クラスメイト?〉

「はい。イシュタル・ランゴバルドは神の声が聴けるのと狂信者ですし、神エヒトは依り代を求めてます。問題はクラスメイトの2人です。檜山大介は先程告げた男子生徒のことで、白崎香織を狙っていますし、まだ生きているとはいえ人を殺したという認識があるため歯止めが効かなくなると思います。中村恵里はヤンデレ(・・・・)です。そして、死霊術師の天職を持っていることから王宮にいる騎士達を密かに殺して使い魔にするかもしれません。」

〈ヤンデレ………………うっ、頭が……〉

『ちょ、立香君!?』

《分かった。エヒトとやらは既に私たちを捕捉しているだろうから諦めるしかないが残りの3人は要警戒しておこう。》

 

あと2、3言ほど言葉を交わして連絡を切った。

その数分後に3ヶ月分の物資が届き、更に数分後にヘラクレスも無事に到着した。

シャドウ・ボーダーからオルクス大迷宮まで来たのと、1階層にある奈落の穴からこの101階層まで飛び降りてきたなら妥当な時間であったのは確かだ。

それから1週間と3日後に4人の待機していた場所の真反対から以前の臆病さや優しさを棄てて完全に豹変仕切ったハジメが出てきて、更にその4日後に鈴は豹変したハジメと再会を果たすのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。