なので書きました。長くてごめんなさい。
吸い込んだ息をゆっくりと、しかし力強く吐き出す。冬の凍てつく空気の中、吐息は白く浮かび上がった。息を吸い込み、吐き出す。この簡単
「呼吸は常に一定――」
十分間息を吸ったなら、十分間吐き続ける。決して呼吸のリズムを崩すな、と最初に師匠に言われた。十分間ってのはさすがに極例だと思うけど。
「水に波紋を起こす様に『肉体』に波紋を起こす」
コォオオオ、と一際大きな呼吸をすると、俺の体は淡く山吹色に光り出した。
これこそが『波紋の呼吸』。師匠が教えてくれた、鬼を滅するための『特別』な呼吸法である。
○
師匠は鬼を斬る剣士を育てる『育手』であり、俺が9つの頃から厳しい修行を課せてきた。
やれ呼吸を矯正するためと言い横隔膜を小指で突かれたり、やれ一日中『波紋の呼吸』を保てと、寝てる時でさえ呼吸を忘れれば叩き起される。
そんな毎日を送っていれば、自ずと修行の成果は出てくるもので。開始から2年目が終わる頃には、波紋のスパークで師匠の右腕のうぶ毛を全部抜くくらいに成長していた。
そして3年目、初めて刀を渡される。
曰く、鬼を倒す方法は二つ。
一つは太陽の光。日光に照らされた鬼はたちまち灰となり、崩れ去ってしまうそうだ。『波紋の呼吸』が作り出すエネルギーも同じ性質を持つらしく、波紋を流された鬼はたちまち灰と化すらしい。
もう一つの方法は日輪刀――特別な鋼で造られた刀――で鬼の頸を断つこと。腕や脚では意味がなく、頸を斬り落とした時のみ骨も残らず鬼を殺せるらしい。
波紋法さえあれば生身でも鬼を倒すことは可能だが、基本的に日輪刀を用いて戦えと言われた。
理由は刀の方が広く間合いを取れるということ、そしてなによりも、日輪刀の原料である『猩々緋砂鉄』と『猩々緋鉱石』は陽の光を吸収する特殊な鉄であり、波紋の力を倍増させるらしいのだ。
それから一年は手に真っ赤な剣ダコを作りながら、刀の扱い方を叩き込まれた。刀を自分の手足と思え、自在に波紋を流せるようにしろ、と手だけではなく耳にもタコができそうなほど聞かされる。
そして四年目には型を覚え、かなり精密な波紋の操作ができるようになった。ぎこちなかった剣術も、ようやく様になってきたと思う。
明けて五年目――ついに師匠に、わしに一太刀でも入れれば最終選別に行くことを許可する、と言われる。だが師匠、明らかに強すぎた。来る日も来る日も師匠に挑むが、語るまでもなく叩きのめされる。
それから俺が何をどう改善しようとて、師匠には届くことはなかった。
師匠――
「よく五年もの間こんな荒行を耐え抜いた……」
師匠はさも嬉しそうに目を細める。頬に薄く刻まれた線から、すっと紅い雫が落ちた。その傷が、俺の五年間の成果だった。
「最終選別に行くことを許可する。必ず生きて戻れ」
鬼殺隊――鬼狩りが集まる組織――に入るには最終選別の突破が必要。そこで命を落とす子供も少なくはない。
いつになく真剣な顔付きの師匠に、勿論です、と俺は答えた。
○
最終選別が行われる『藤重山』――。
藤の花が咲き乱れる石階段を登れば、俺と同じように
中でも、狐の面をした少女に目を引かれた。か細い体をしていて、失礼なことだが、あんなに小さな子も受けるのか、と考えてしまう。
しばらくして、二つの人影が現れた。二人とも小さな子どもだ。しかし、奇妙なほど瓜二つの外見を有しており、少しの薄気味悪ささえ覚える。唯一の違いは、髪色が白か黒かってくらい。
その二人は鬼殺隊の関係者なのか、最終選別の説明をし始める。
なんでもこの藤重山には、
その中で7日間生き抜く。それが最終選別の合格条件であった。
一通り話し終えた双子が、最後に言葉を重ねて言う。
「では、行ってらっしゃいませ」
〇
山の中に入ると、空気は一変した。
空気が淀んでいる。それに、風が仄かに鉄の臭いを運んでくるのだ。曖昧な嫌な気配を感じ、本能が危険だと警笛を鳴らしている。
最終選別……。想像よりも、厳しい戦いになりそうだ。
藤重山の地理に理解があるわけもなく、山勘で適当な方向へ歩を進めてからほんのちょっと経ったときだ。修行の成果は意外とすぐに出た。
(これは……ッ!)
生命の振動が地面を伝わり、足を伝わり、体に伝わる。
師匠の下で修行をしていた頃は気づかなかったが、俺の体はすでに、生命探知機となっていた! そしてこの振動の正体はッ!
「キヒヒーーッ! 久しぶりの人肉だせェーーーッ!」
近くの草むらから、そいつはだらしなくヨダレを垂らして飛び出してきた。まるで知能がないように血走った目に、肉を裂くための鋭い牙と爪。それは間違いなく、『鬼』であった。
初めて目にする鬼の姿に、少なからず恐怖があった。だが怯む己を一喝し、俺は深呼吸を挟む。勇気を持て、俺!
「『勇気』とは『怖さ』を知ること。『恐怖』を我が物とすること……ッ!」
思い出すのは師匠の口癖。それを反復動作のように唱える事によって、俺の感覚は一気に開く。
「脳ミソを指ですくい取ってやるぜェーッ!」
下衆な笑みを浮かべて襲い掛かってくる鬼に、もう恐怖はない。俺は素早く日輪刀に薄い波紋を流し、抜刀術の動きで迫りくる腕を切断した。
驚愕の色に顔を染める鬼を尻目に、淀みない動きで刀を上段に持っていき、息継ぎを挟んだ。
こォオオオ、とドでかい呼吸音が辺りに鳴り響く。日輪刀が太陽のような輝きに包まれた。
〝 波紋の呼吸 日ノ型、山吹色の波紋疾走〟
振り下ろされる刀に慈悲はなく、鬼は真っ二つに袈裟斬りにされる。地面に転がった鬼は、なお驚愕していた。
「い、
波紋は切断面から完璧に鬼へ通った。体の崩壊は止まらず、瞬く間に鬼は消え去った。
今回の独自設定
・日輪刀で波紋倍増
日輪刀を使いたいがための理由付けです。許してください、なんでも(略
・生命探知機
ワインはどうした、ワインはァ〜ッ!
大正コソコソ噂話
主人公の名前は