闘う気はなかった。いや、正確に言うなら、勝てる気がしなかった。
あれから鬼を数匹、危なげなく斬った後。一際大きい生命反応を追ってみれば、手がいっぱいある鬼がいた。
だが、確かにそいつは強い。これまで斬ってきたヤツとはまるで迫力や気配が違う。何十人もの人間を喰らってきたのだろう、吐き気を催す、鼻を塞ぎたくなるような腐臭が漂っている。
本当に、闘う気はなかったというのに――。
そんな鬼と戦っている少女がいたのだ。狐の面を付けた、花柄の服の少女。たしか最終選別の前に見かけたのを覚えている。
それ自体は問題なく、問題なのはそれまで素早い動きで鬼を翻弄していた少女の動きが、突然悪くなった事だった。
鬼が何かを
体が勝手に動いた。
〝 波紋の呼吸 風ノ型、生命磁気への波紋疾走〟
そのまま俺は少女の前へと躍り出て、横方向へ刀を一閃。同時に日輪刀に吸い寄せられた落ち葉を一気に解放した。
風の型は、生命が微量ながら持っている磁気を波紋で強化する。今回は落ち葉にそれを流し、金属である刀にくっつけたのである。
生命磁気を元に戻し、磁気を失った木の葉は俺の前方へと舞い上がる。ただの木の葉では、鬼の攻撃など防ぎようがない。しかしこれは波紋が通った木の葉。前方に舞い上がった木の葉たちは最早、即席の対鬼用壁だった!
「お、おれの腕が溶けていくゥ! GUAHHHH!」
少女の隙をつき攻撃してきた鬼の腕は木の葉にぶち当たり、無残に溶け落ちていく。流石にこれくらいの弱い波紋じゃ消滅してくれないようだが。
「ここは俺に任せて、君はそこに倒れてる少年を連れて逃げろ」
俺は木の傍で血を流し倒れている少年を
「誰だお前はァ! そしてこの燃えるように痛みはなんだッ!」
手鬼――手がたくさん生えているから――の喚きを、答える必要はないなと吐き捨てると、狐面の少女が一歩前へ出た。よく見れば、構える刀は小さく震えている。恐怖の震えではなく、怒りの震えだ。
「この鬼は――私に斬らせて」
少女は静かに言い放った。ふと、鬼が何かを囁いてから彼女の動きが悪くなったのを思い出す。察するに、この鬼と少女には何かしらの因縁があるのだろう。
「分かった。なら俺は――」
〝波紋の呼吸 雷ノ型、仙道波紋疾走 〟
なんの前触れもなく、俺は刀の
「ドギャーッ! 何故この攻撃が分かったッ!?」
生命の振動を感じ取れる俺に、地面からの攻撃は効かない。そしてこの鬼の頸は少女が断つというのなら――。
「俺が道を斬り開く」
それを合図に、俺は一気に手鬼へ肉薄する。波紋の痛みを思い起こした鬼が、ひどく顔を歪めた。
「く、来るなッ! 来るなッ!」
さっきから同じ攻撃しかして来ないところから、どうやらこの鬼の攻撃方法は腕を伸ばすことだけらしい。接近してくる数多の腕を、波紋を込めた刃で順々に斬り落とす。手鬼が短い悲鳴をあげた。
「今だッ!」
一通り腕を斬り飛ばして、叫んだ。瞬間、少女は素早く肘から先がない鬼の腕を登り、すぐに自分の間合いに頸を捉えた。
少女が両腕を交差させる。ヒュゥゥゥという風が逆巻くような音が響いて――型が繰り出される。
〝 水の呼吸 壱ノ型、水面斬り〟
水平に振るわれたその水色の日輪刀の軌跡に、俺は波を幻視した。まるで手鬼の頸へ吸い込まれるように、刀は一直線に進む。師匠が呼吸は他にもたくさんあると言っていたが、これが『水の呼吸』……。
その直後、ガギィインッという甲高い音が周囲に響き渡った。
「嘘……。この鬼の頸、硬すぎる……っ!」
単純に力が足りなかったのか、刃が、首の皮一枚のところで止まっている。あれでは並外れた生命力を持つ鬼は死なない。
「私じゃ…斬れない」
少女の水色の瞳から、涙が零れ落ちた。悔し涙だった。みんなの仇を取れなかった、と。鱗滝さんを
「いや、斬れたよ」
俺の日輪刀の切っ先が、少女の日輪刀の
「君が斬ったんだ」
そう言うと、少女はまた泣いた。勝ったよ、もう安心していいよ、と誰かに語りかけるように。この山に他にも鬼がいるということさえ忘れ、安心しきった表情で、泣いた。
今回の独自設定
・生命磁気への波紋疾走
手から落ち葉へ、が刀から落ち葉へに変わっております。主人公が刀を手足と思えと教え込まれたのはそのためです。
・銀色の波紋疾走
手から金属へ、が刀から金属へに変わっております。主人公が刀を(略
・仙道波紋疾走
手から壁へ、が刀から水と金属以外の物に変わっております。主人公(略
大正コソコソ噂話
手鬼の声はDIOとそっくりなんだって! WRYYYYYY!
後書き
真菰と錆兎、どちらかと同期にさせたいなーと考え、真菰が可愛いからという理由で即決しました。真菰と錆兎はどっちが先に最終選別を受けたのかな?