黄金色の波紋   作:エタリオウ

4 / 4
 毎度毎度たくさんのお気に入り登録、評価をありがとうございます! 嬉しい方から感想もらっちゃいました!
 だからというわけではないですが、今回はいつもの2倍くらい長い戦闘回です。


海坊主

 バサッと大きな羽音と共に、その鳥は開け放たれた窓から侵入してきた。この鳥の名は『雪客(せっかく)』。俺にあてがわれた鎹鴉である。

 鶴のような美しい容貌をしたそいつは、俺を見るなりさぞ楽しそうに「カカカカ」と不快な音を鳴らす。

 こいつが来るってことは……、と嫌な予感が過ぎり、顔が引き攣るのがわかる。

 

「馴鹿五巳! 初任務! 初任務!」

 

 やっぱりー!

 

 

 神奈川、鎌倉――。

 その町では毎夜毎夜、魚を捕りに出た漁師が姿を(くら)ましていた。夜間に現われ、残るは船の残骸のみ。そこからついた呼び名が海坊主。

 漁夫はすっかり怖がっちまって昼しか仕事ができねえ、というのが人伝(ひとづて)に聞いた話。

 

 さすがは古くは幕府が置かれた場所ともあり、昼間の町は人通りも多く、かなり賑わっていた。江之電なる路面電車も走っており、見たこともない光景にはしゃいでしまったのはご愛嬌。

 

 

 兎角して日が暮れる。夜、場所は打って変わって舟を漕いで相模湾の沖へ。

 

 早くも俺は、生命の振動を感じていた。(もと)より水や金属は波紋が伝わりやすい性質がある。よって四方を水に囲まれたこの舟の上で生命反応を感知すること自体は容易い。

 

 ――だがしかし、困ったことに正確な位置が分からないのだ。

 

 ここは海、当然下はすべてが水で出来ている。生命の波紋が広がり過ぎて、正確な位置が捉えにくい。

 そして何より、俺が立っているのが舟の上だという事。波で揺れるこの舟の上、とても海坊主の場所を特定することなどできそうにない。

 

 つまり俺はヤツが近くにいることしか分からず、どこから襲ってくるのか見当もつかないわけだ。

 

 夜の海は静かで、聞こえるのは(さざなみ)の心地よい音だけ。そんな静寂は、前触れもなく終わりを告げた。

 

 そいつは海の中から、突然姿を現す。一直線に、がむしゃらに迫ってくるその姿に、俺は内心ホッとしていた。

 

 わざわざ海に潜んで人を襲うというので、いっときはどんな狡猾な鬼かと心配していたが、俺に向かって単純に突っ込んでくるこの動き。意外と頭がないんじゃあないか? と。

 だがそれは、俺の早とちりであったと知る。

 

 なんとその鬼は、俺に攻撃を仕掛けるわけではなく、スライダー気味に降下して海の中へと戻っていったのだ。一瞬、呆気に取られる。

 

(なんだ? 姿を見せておいて、一体何がしたかったんだ?)

 

 頭の中が疑問符で埋め尽くされる中、答えはすぐに分かった。

 

「な、何ィーッ!」

 

 船底を突き破り、鬼の腕が生えてきたのだ。予想だにしない下からの攻撃に、俺はすべてを理解した。

 

 この鬼が最初に姿を見せたのは、私はこうやって攻撃するんです、と俺に思わせるため。本命は周囲を警戒している俺の不意をつく、この下からの奇襲だったのだ。

 

 拙いと思った時には既に遅い。刀を抜いていない今、この不意打ちを防ぐ手立てはない。

 

「うぉぉおおおーーーッ!」

 

 瞬間、鬼の鋭い鉤爪が振り抜かれる。咄嗟に後ろに跳ぶも、間に合うはずもなく足に焼けるような痛みが走った。

 

 痛みが、この鬼に対する恐怖が、徐々に呼吸を乱していく。

 拙い、本当に拙い。足の傷は幸い致命傷ではないらしいが、波紋の呼吸が維持できなくなればどの道俺はコイツに喰われる。

 

「『勇気』とは『怖さ』を知ること。『恐怖』を我が物とすること……ッ!」

 

 そうだ、その通りだ。恐怖なんかに呑まれるな、俺……!

 

 自身を鼓舞し、冷静を取り繕う。こォオオオ、という呼吸から生まれる音が静かな海に響いた。

 この鬼はまさに縦横無尽。どこから攻撃が飛んでくるか察知することはできない。ならばと俺は山吹色の剣を抜き放ち、中段に構えた。

 

 さあ来い、海坊主ッ!

 

「うっしゃああアアーーッ!」

 

 大きな水飛沫と共に、そいつは攻撃を仕掛けてきた。場所はやはり後方。俺の隙をつく気だろうと予想が出来ていた分、先程よりも数段速く反応できた。

 

〝波紋の呼吸 日ノ型、山吹色の波紋疾走〟

 

 刀に込めるは太陽の波紋。日輪刀が眩い光を纏い、振り向き際、遠心力を利用した右薙を喰らわせる――ッ!

 

「な――ッ!」

 

 刹那、その鬼の狡猾さを思い出す。果たして賢い鬼は攻撃の瞬間、大きな雄叫びを上げ、大きな水しぶきを立てるだろうか?

 そう、つまりコイツはわざと、自分の位置を知らせた。

 

 その鬼は突然、口に含んでいた何かを吹き出した。俺がそいつを視界に入れた瞬間、タイミングはばっちしだったと言える。

 

 血気術――鬼がもつ不死性や怪力とは別に、各個に発現するいわゆる『異能力』があると、師匠が教えてくれた。その能力は多種多様、気をつけてかかれ、と。

 

 咄嗟に防ごうとしてしまった。その透明な液体を、鬼の血気術と思い込んで技を止めてしまった。

 それこそが鬼の狙いと気づかずに、まんまと策にはまってしまった。

 

 夜空に鮮血が舞う。遅れて痛みがやってきて、それが自分の血だと気づいた。先程よりも深く、胸を切り裂かれている。

 

「ケケケ……! ただの海水に気を取られやがったぜ、コイツ!」

 

 舟に乗り上げたその鬼は、倒れ込んだ俺を嘲笑う。

 頬に冷や汗が伝った。間違いない、コイツ……闘い慣れている。

 

 固よりこのだだっ広い大海原に置いて、ポツリと浮かぶ舟は鬼にとって格好の的であった。その点、海を闘いの場とするこの鬼の『やり方』は、狡猾さの表れと言えよう。

 

 となれば……。

 舟から降りるしかないッ!

 

「ハッ、そうすると思ったぜッ!」

 

 舟の上から逃げる俺に、鬼はそう言い切る。

 おそらくだが、この鬼は既に水の呼吸の使い手に出会っていたのだろう。水の呼吸には水中でこそ本領を発揮する型がある、と真菰が言っていた。

 

 しかしそんな闘い慣れした鬼でさえ、水面に立つ男は初めて出会った!

 

「お、お前、なんだそれは!」

 

 刀を使って水面におこした波紋エネルギーと体内の波紋エネルギーは、あたかも磁石の同極どうしのように反発し合う。

 俺はそれを利用し、水面の上に立っていた。

 

「海の上は却って見通しがいいぞ! 海坊主ッ!」

 

 盲点であったが、水は透明。近づいてくる鬼は容易に視認が可能である。遮蔽物のない海は、俺にとって絶好の戦場であった。

 

「か、勝った気でいやがって〜ッ! これでも喰らえェいッ!」

 

 予想の遥か上を行かれたのはこれで何度目だろうか。その鬼の機転の良さはもはや、敵ながらあっぱれであった。

 そいつは信じられない事に、舟を持ち上げたのだ。

 

「ぶっつぶれよォォッ」

 

 誰が舟が落ちてくるなど思うだろうか。それを避ける術はもはやただ一つ、海中を潜る事しか残されていなかった。

 俺はせめてもと大きく息を吸い込んで波紋を解く。当然身体は海に沈み、景色が変わる。

 

 直後、視界一面が泡に覆われた。

 

 舟の攻撃でダメージを受けなかった事はでかい。しかし、それ以上に、海の中へ引き摺りこまれてしまった。

 

 此処はまさにヤツの独壇場。

 鉤爪を使った攻撃の瞬間、俺は見た。ヤツの指と指の間には水掻きがあったのだ。アレと鬼特有の怪力を駆使して、水中でも高速に移動することが出来るのだろう。

 

 俺の瞳が海中を動く影を捉える。

 流氷上のアザラシを狙う(しゃち)のように、グルグルと影は俺の周囲を渦を描くが如く走る。渦が段々と狭まり、ジリジリと影が迫ってくるのが分かった。

 

 ヤツは確実に俺を仕留める気だ。俺も、腹を括るしかない。

 攻撃の瞬間、ヤツが最も俺に接近した時、体内に残された波紋を全て一気に放出するッ!

 

 勝負は一瞬。来るか来るかと五感を研ぎ澄ます。

 そしてついに、ゴボッと一層大きな泡と共に、矢の如き勢いで影が来る。

 

〝波紋の呼吸 水ノ型、青緑波紋疾走〟

 

 体中の血液に残された酸素を燃やし、波紋のひとつひとつを練り上げる。刃を走る波紋エネルギーは淡く海色をしていた。

 

(たやすいぞッ! 波紋が水中を伝わるのは!!)

 

 生まれ出た波紋は刀を一振りすると同時に水中を伝わる。このまま進めば鬼の身体は真っ二つになるだろう。

 

 ――だがしかしッ!

 

 水の抵抗により、少なからず剣速は鈍る。その一瞬が、鬼に回避の隙を与えた。

 

「うおおおおおおッ!」

 

 鬼はその秀でた危機察知能力を存分に使い、水中を伝わる『波紋』と同じ早さで一瞬早く水上へ泳ぎ逃れたのだ。

 波紋疾走は少しかすっただけに終わった。

 

 しかし、このまま逃がしはしない!

 

「逃がすかァァァーーッ!」

 

 遅れて俺も水上へ飛び上がり、水面を蹴って跳躍する。その時足の傷に痛みが走り、顔を顰めた。

 それが悪かった。足に上手く力が入らず、思ったより跳べていない。あと僅かなのに、鬼を間合いに捉えきれなかった。

 

「俺は生きる! 何がなんでも生きるッ!」

「届けェェーーッ!」

 

 腹の奥から響くようなコォオオオという呼吸音が木霊する。日輪刀が太陽の光を纏った。

 

〝波紋の呼吸 日ノ型、山吹色の波紋疾走・伸〟

 

 渾身の力で振り抜いた刀は、やはり僅かに鬼には届かない。しかし、その瞬間、俺の腕が手元でぐんと伸びた。

 紙一重で触れた刃はそのまま鬼の頸を断ち切り、頭が(まり)のように宙を舞った。

 

(こ、コイツ、関節を外しやがった……ッ!)

 

 鬼の身体が水中へと落ち、水しぶきと波紋を作る。

 夜の海に、ささやかな静寂が戻ってきた。




今回の独自設定
・生命探知、舟の上じゃ弱い
 主人公をピンチに陥らせたかったんです……。
・青緑波紋疾走
 手から水(略
・山吹色の波紋疾走・伸
 伸びちゃった。痛みは波紋で和らげるため、刃に走る波紋力?は弱くなります。

大正コソコソ噂話
 舟をぶっ壊された五巳はこの後歩いて帰ったよ! 足を怪我してるのにね……。

後書き
 なんだか今回漁師を怖がらせちゃいましたが、作者は鎌倉大好きです。あの道の狭さが堪らなくベネ!
 一旦鬼殺を挟んだところで、次回からは何かストーリーでも考えてみます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。