Fate/stay ナイトミュージアム   作:三流笛吹き

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stay.two

「やぁ、無事でなによりだよ切嗣君」

 

 朝の吹幸市自然博物館の玄関ホールで、私服に着替えた切嗣に向かってにこやかに語りかけるレフ。

 

「⋯⋯あなたには言いたい事が山程あるが、⋯⋯やめときます」

 

 切嗣は、レフに罵詈雑言を浴びせたい気持ちを押し殺し、努めて冷静な態度をとった。

 

「この仕事が嫌になったかな?」

 

「えぇ、まぁ。でも息子の為、家族の為、また無職に戻る訳にはいかない。もう一日頑張ってみますよ。それで仕事が務まらなければ辞めます」

 

「素晴らしい、やはり君を選んで良かった。⋯⋯そういえば、遠坂さんが君の事を呼んでいたよ。ジオラマコーナーで待っているそうだ」

 

「ジオラマコーナー? ⋯⋯まさか」

 

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「さて、説明してくれるかな衛宮君。これはどういう事かな?」

 

 時臣が右手で指し示す先にあったのは、ローマ帝国のジオラマ内で取っ組み合いをしている最中に固まったと思われるネロと信長の姿であった。

 

「あぁ、これは⋯⋯何でしょうね?」

 

 笑って誤魔化そうとする切嗣に、時臣は淡々と話を続ける。

 

「いくら形だけの館長と言っても、私にはこの博物館を管理する責任がある。この様な悪戯は、二度としないでくれ給え」

 

 そう言って時臣はその場を後にした。

 

「⋯⋯はぁ、全く。困った二人組だ」

 

 その場に一人取り残された切嗣は、取っ組み合いをしながら固まっている信長とネロを、それぞれ指で突きながら呟いた。

 

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「すみませんレフさん!」

 

 玄関ホールに戻って来た切嗣は、博物館を出ようとするレフに向かって駆け寄った。

 

「おや、何か?」

 

 走ってくる切嗣の方へ振り返り、用件を尋ねるレフ。

 

「さっき訊きそびれてしまって。昨日貰ったマニュアルってまだありますか?」

 

「いや、済まないがあれだけなんだ。さては、フォウにやられたのだね?」

 

「えぇ、まぁ」

 

「大丈夫、手はある。マニュアルなら君が作り直せば良い」

 

「? それって⋯⋯」

 

「歴史を勉強し直すんだ。私も初めはそうした。では、私はこれで失礼するよ。この後予定があってね」

 

 レフはそう言って笑うと、博物館の外へ出て行った。

 

「勉強か⋯⋯。! そうだ、彼女に訊こう」

 

 何か思いついた顔をした切嗣は、受付に向かう。

 

「すみません、舞弥さん。ちょっと良いですか?」

 

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 曇天の昼下がり、切嗣は、舞弥の住むアパートの部屋の本棚の前にいた。

 

「どうですか? 一応、吹幸市自然博物館にある展示物に関係する書物は、殆ど揃っていると思うのですが⋯⋯」

 

「いやー助かります。しかし、すみませんね。自宅までお邪魔してしまって⋯⋯」

 

 右手を頭に乗せ、舞弥に対して申し訳なさそうに頭を下げる切嗣。

 

「いえ、お構いなく。今は子供も学校に行っている時間ですし」

 

 舞弥の言葉に、切嗣は目を丸くした。

 

「舞弥さん、お子さんいたんですか!?」

 

「えぇ、七歳の息子が一人。訳あって私一人で育ててるんですが⋯⋯」

 

「それは⋯⋯大変ですね」

 

 デリケートな問題だと感じた切嗣は、慎重に言葉を選ぶ。

 

「時臣さん家族の支援があるので大丈夫です。こうして博物館の仕事も紹介して頂けましたし」

 

「へぇーそうだったんだ。あの人も結構良い人なんですね」

 

「えぇ、とても。⋯⋯では、私は博物館に戻ります。その本棚にある本は自由に読んで頂いて構いませんので」

 

「本当ありがとうございます。僕も閉館少し前には博物館に向かうので、鍵はその時返します」

 

「分かりました。では⋯⋯」

 

 舞弥は、切嗣に軽く頭を下げると、部屋の外へ出て行った。

 

「さてと⋯⋯」

 

 目の前の本棚から、『サルでも分かるアッティラ』という題名の本を手に取ると、その本を読み始めた。

 

「えーと。『アッティラは【神の鞭】と呼ばれ、彼が率いるフン族は、無力な敵の手足を引き裂いた。⋯⋯アッティラは迷信を信じたと言われている。取り巻きとして魔術師や妖術師の一団を侍らせ、黒魔術による助言を受けていた』⋯⋯成る程。これは使えそうだ。この調子で他の本も読んでみよう」

 

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 一度帰宅した切嗣は、自宅にある土蔵で探し物をしていた。

 

「父さん、何してるんだ?」

 

 学校から帰ってきた士郎が、土蔵の外からその様子を見て切嗣に尋ねる。

 

「ちょっとね。仕事で使えるかと思って。お! あったあった」

 

 そう言って土蔵から出て来た切嗣が手にしていたのは、大きめのラジコンカーとそのリモコンでだった。

 

「仕事中にラジコンを使うのか?」

 

 そう言いながら訝しげな顔をする士郎。

 

「そうだけど⋯⋯って、遊びじゃなくてちゃんと仕事だからね?」

 

「はいはい。あ、そうだ。そう言えば藤ねえが前、父さんに博物館を案内して欲しいって言ってだろ? それ、明日して欲しいんだってさ。ほら、明日土曜日だから。それに珍しく藤ねえ部活の休み取れたらしいんだ」

 

「へぇー。分かった、多分大丈夫だって大河ちゃんに伝えといて。⋯⋯それにしても大河ちゃんって本当に歴史に興味があるんだなぁ」

 

「いやあの様子だと、ただ父さんとデートしたいだけだと思うけど⋯⋯」

 

 そう小声で呟く士郎。

 

「ん? 何か言ったかい?」

 

「いや、なんにも。⋯⋯大丈夫か父さん、仕事、無理してないか?」

 

 少し顔色が悪い切嗣に心配そうに声を掛ける士郎。

 

「そう心配しなくても大丈夫さ!」

 

 何処か空元気気味に切嗣は答えた。

 

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 吹幸市自然博物館が閉館する少し前。

 博物館の警備室で警備服に着替た切嗣の元に、レフ、アトラム、コルネリウスの三人がやって来た。

 

「やあ、切嗣君。後はよろしく頼むよ。私達は今日限りで退職だ」

 

 にこやかにそう言いながら切嗣の肩を叩くレフは更に話を続ける。

 

「今夜にはこの街を出て、地元に帰らせて貰うよ」

 

 そのレフの話を聞いた切嗣は、ロッカーの中の荷物を整理していた手を止め、レフに向き直る。

 

「え!? じゃあ僕がトラブルを起こしたらどうするんです?」

 

「利口な君なら問題ないさ」

 

 不安がる切嗣に対して、アトラムは笑みを浮かべながらも素っ気ない態度で言葉を返す。

 

「まあ、何かあれば私達に電話をすると良い。⋯⋯さて、折角だから見送ってくれないか?」

 

 そう言うとレフは切嗣の肩を押す。

 

「あぁ、先に行っててくれ。僕はもう少し⋯⋯此処で想い出に浸ることにする⋯⋯」

 

 何処かわざとらしく、右手で目頭を押さえながら声を震わすアトラム。

 

「では、私達は先に行こう」

 

 レフにそう言われた切嗣は、レフ、コルネリウスと共に警備室を後にした。

 

「⋯⋯」

 

 警備室に一人取り残されたアトラムは、切嗣が警備室を出て行った事を確認すると目頭から右手を離し、澄ました顔をして半開きになった切嗣のロッカーの前に立った。

 そして彼は切嗣のロッカーのドアを開け、中にかけてある切嗣のコートのポケットから切嗣の自宅の鍵を取り出すと、懐から出したステンレス製の小箱に入った粘土にその鍵を押し付けて型をとった。

 

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 吹幸市自然博物館は閉館時間を迎え、館内にいる人間は衛宮切嗣ただ一人となった。

 

「よーし、ここをこうして⋯⋯」

 

 玄関ホールにある狼王ロボの剥製のレプリカの前にいた切嗣は、雑貨屋で買った縄を使って、狼王ロボが気に入っているボロボロのサッカーボールを、自宅の土蔵から持ち出してきたラジコンと結び付けた。

 

「これで完璧だ」

 

 両手でリモコンを持ち、ラジコンを動かす切嗣。

 丁度その時。

 

「◼️◼️◾️◼️◾️◾️!!!!」

 

 日が完全にくれた為、狼王ロボを含む博物館の展示物が、次々と動き始めた。

 それを見計らい、両手でリモコンを持ちラジコンを動かす切嗣。

 

「◼️◼️◾️◾️◼️◼️!!!!」

 

 ラジコンに引っ張られるサッカーボールを見て、意気揚々とそれを追い掛けるロボは、そのままラジコンと共に博物館の奥へ消えていった。

 

「さぁ、思いっきり遊んで来いロボ」

 

 切嗣は、手にしていたリモコンのホイル部分をゴムバンドを使って固定して受け付けのカウンターにリモコンを置くと、黒い大きなバッグを抱え、急いでアフリカ哺乳類のホールに向かった。

 

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 ・

 

 アフリカ哺乳類のホールの前に辿り着いた切嗣は、ホールの出入り口を閉じようとする。

 そこへ、

 

「フォウフォウ」

 

 と鳴き声を上げながらフォウが廊下を走って切嗣の元までやって来た。

 

「おぉ! フォウじゃないかぁ! 今からここ閉めるんだが入るか?」

 

「フォーウ!」

 

 フォウはそう鳴きながら切嗣の体に飛び乗り頭まで登ると、そこからホール内にある扉近くの木に飛び移った。

 

「それじゃあ閉めるか」

 

 そう言って扉を閉めようとする切嗣だったが何かに気づいたのか、ふとフォウの方へ目を向ける。

 

「フォウゥ~」

 

「おや〜どうしたんだいフォウ? あ、まさか〜」

 

 そう言い、鍵が付いている筈のベルトのレールを引っ張る切嗣。

 しかし、そのレールに鍵は付いていなかった。

 

「嘘だろ、また鍵を盗ったのか」

 

「フォウ、フォーウ!」

 

 切嗣から奪った『カラフルな』鍵を、前足を器用に使って持ち、切嗣に向かって勝ち誇る様に掲げるフォウ。

 ところが。

 

「残念でしたぁ〜」

 

 切嗣は警備服の胸ポケットから『博物館の』鍵を取り出し、フォウに見せ付ける。

 

「フォー……? 」

 

 困惑した様な鳴き声を出すフォウを尻目に、切嗣はさっさと扉を閉め鍵を掛けた。

 

「僕、衛宮切嗣は見事にフォウに一杯食わせましたぁ〜。それは赤ん坊用のオモチャの鍵。赤ん坊のフォウゃんはオモチャで遊びまちょう。明日はオムツ持って来ましゅよ。うんちしたら交換してあげまちゅ。その後は毛繕い、可愛いがってあげまちゅ。あ〜あ何とも可愛そうなフォウちゃん、おじさんにまんまと騙されて一晩中悔しがるかなバブ〜?」

 

 長々とフォウを煽り続ける切嗣。

 

「フォウフォウフォ──ーウ!!!!!」

 

 怒りを滲ませた叫び声を上げ悔しがるフォウに、切嗣は一言、言葉を残してその場を立ち去った。

 

「卑怯と思うか? なら、それがお前の敗因だ」

 

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「おーいリョーマ、お竜さんは絶賛暇を持て余し中だ」

 

「だからってまた新撰組の二人に喧嘩売らないでね?」

 

 博物館の隅で会話している龍馬とお竜。

 そこへ、

 

「お! やっと見つけた。おーい」

 

 黒いバッグを抱えた切嗣が走ってやって来た。

 

「おや、君は昨日の。僕達に何か用かな?」

 

 爽やかな笑顔でそう切嗣に尋ねる龍馬。

 

「あぁ、まあどちらかと言うとそこのお嬢さんに用があるんだけど」

 

 そう言って切嗣は、龍馬の隣で浮いているお竜に顔を向けると、黒いバックから袋を取り出しお竜に渡した。

 

「はい。昨日言ってたカエル十匹」

 

 袋の中には、生きたアマガエル十匹が動き回っていた。

 

「おぉ! すごい、カエルだ! リョーマ! カエルだぞカエル!」

 

 袋の中を覗き込んだお竜は目を輝かせ、龍馬にも袋の中身を見せた。

 

「はいはい、分かった分かった。でも本当に申し訳ないね。この時期にこんな数のカエルを獲るのは苦労しただろう?」

 

 申し訳なそうな顔をして切嗣に謝る龍馬。

 

「柳洞寺の周りで冬眠中の奴を捕まえるのは骨が折れたよ。でも約束したから」

 

「いやー、お前は良い奴だな。うんうん。お竜さんが頭なでなでしてやろう」

 

 そう言ってお竜は切嗣の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

「ははっ、これは光栄だね。⋯⋯じゃあ僕は行くから。二人とも、あまり館内で暴れないように」

 

 切嗣は、そう言葉を残してその場を後にした。

 

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 博物館の一角にある新撰組コーナーで、

 

「おい沖田! 見回り行くぞ!!」

 

「はい!」

 

 と、刀を携え警察活動に繰り出そうとする土方と沖田。

 そこへ切嗣が

 

「ちょっと待った!」

 

 と、大声を上げながら二人の元へ駆け寄って来た。

 

「ん? なんだお前!」

 

「あ、昨日の新米警備員さんじゃないですか。どうかしましたか?」

 

 切嗣の声を聞いて、歩みを止める二人。

 

「あぁ、そこの新選組副長に用があってね。はい、昨日言ってた沢庵。流石に樽の量は難しかったけど、味は保障するよ」

 

 切嗣は、黒いバックからプラスチック製の容器を取り出すと、容器の蓋を開け土方に差し出した。その容器の中には、容量いっぱいの沢庵がぎっしり入っていた。

 土方は、その容器を黙って受け取ると自分の鼻に近づけ匂いを嗅いだ。

 

「⋯⋯上物だな。お前、中々気が利くじゃねぇか。⋯⋯沖田! 今から茶にするぞ! お前も一緒にどうだ?」

 

「折角のお誘いありがたいけど、生憎まだ仕事が残っていてね。お茶は二人で楽しんでくれ。それじゃあ失礼!」

 

 そう言って切嗣は新撰組コーナーを後にした。

 

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 ・

 

 続いてジオラマコーナーへとやって来た切嗣は、ローマ帝国が再現されたジオラマの元へ向かう。

 そのジオラマの端では、十数人のローマ兵が丸太を抱えて、壁を突き破ろうとしていた。

 

「おい、そこで何してる?」

 

 訝しげに切嗣が尋ねると、

 

「我らがローマ帝国の領土を拡大させる為に、憎っくき信長の領土へ進行するのだ! 皆の者、突けぇぇい!!」

 

 と、ローマ兵達の近くにいたネロがそう答え、ローマ兵らを鼓舞する。

 切嗣は溜め息を吐きながらネロ達がいるジオラマの隣のジオラマへ向かうと、そこでは信長が大勢のちびノブを引き連れて、ネロ達と同じくジオラマの壁を壊そうとしていた。

 

「行けぇ! ちびノブ達よ! あの悪趣味な赤セイバーの陣地へ攻め入り、わしのNEW尾張帝国の領土を拡大させるのじゃ!」

 

「おい、やめろ信長。博物館を壊すな」

 

 そう信長を諌める切嗣だったが、

 

「喧しいのう! このデカ男! よく言うじゃろ? 『我の生き様! 桶狭間!』とな! つまりそういうことじゃ。邪魔をするでない!!」

 

 と信長は切嗣を一蹴した。

 

「分かった。君達がそういう態度ならこっちも手がある」

 

 そう言うと切嗣は、左手の人差し指と親指でひょいと信長を摘んだ。

 

「ぬぉう!? 止めろデカ男!? またそうやって人を物みたいに摘むでない!!」

 

「さーてと」

 

 切嗣に摘まれ喚く信長だったが、切嗣は一切気にせず再び隣のローマ帝国のジオラマへ向かうと、

 

「ちょっと失礼」

 

「ほわ!? 何をする!? 離せ! 余は皇帝であるぞ!?」

 

 今度は右手の人差し指と親指でネロを摘み、

 

「こっちでゆっくり話し合いをしよう」

 

 近くのベンチまで二人を持って行くと、そのベンチの背もたれにそれぞれ二人を降ろした。

 

「前にも言ったはずじゃ! 人を指で摘むなとな!!」

 

 切嗣に対して怒りの声を上げる信長。

 

「必要なら何度でも摘むぞ。⋯⋯教えてくれ、何故そうやっていがみ合うんだ? どうして折り合えない?」

 

「わしとこやつはどちらも支配者じゃ! 折り合えるわけなかろう!」

 

「その通り! 余は偉大な皇帝! まかり間違ってもこんな極東の蛮族に頭を下げるわけにはいかぬ!」

 

「なんじゃと!? このアルトリア擬き!!」

 

 切嗣の問いかけに信長、ネロの二人はそれぞれ声を上げる。

 

「スペースがあるんだ、お互い離れれば良いだろ?」

 

 そう呆れた顔で言う切嗣。

 その切嗣の言葉を聞き、信長とネロは目を丸くする。

 

「それはつまり⋯⋯わしらをジオラマから出してくれるのか?」

 

「⋯⋯部屋の中を自由に動ける?」

 

「あぁ、大人しくしてるならな」

 

 恐る恐る尋ねる信長とネロに、切嗣はそう言葉を返し更に話を続けた。

 

「つまり、火の矢は駄目、火縄銃も禁止。理解してくれたか?」

 

「おぉなんと、余は間違っていた。貴殿のその大きな体の奥には、優しいローマの心があったのだなっ!」

 

 ネロはそう言いながら瞳を輝かせた。

 

「あぁ、わしも文句ナシじゃデカ男」

 

「僕は切嗣だ。デカ男じゃない。信長、僕は君のことを『チビ』って呼ばない。いいか?」

 

 切嗣は、淡々とした口調で信長の言動を注意した。

 

「それはどう言う意味じゃ?」

 

「チビ娘! ⋯⋯どう聞こえる?」

 

「⋯⋯なんかバカにされてるみたいじゃ。それに、ちびノブと若干被るのう」

 

「デカ男って言われるのも一緒だ。まるで怪物扱いされてるみたいであまり良い気分じゃない」

 

 切嗣は、信長に自身の心情を説明した。

 

「余はそんな風には言わないぞっ! ちゃんとケリトゥグと呼ぶ!」

 

 横からネロがそう口を出した。

 

「止せ、媚びるんじゃない。後、僕はケリトゥグじゃなくて切嗣。⋯⋯兎に角、約束は守るんだぞ? 羽目を外すな。じゃあ、僕は行くからな、後はよろしく」

 

 そう言うと切嗣は、信長、ネロをその場に残し、ジオラマコーナーを後にした。

 

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 一通り博物館を見て回った切嗣は、玄関ホールへ戻って来た。

 するとそこには、一人でドゥン・スタリオンの世話をするアルトリアの姿があった。

 

「アルトリア!」

 

 切嗣の呼び声を聞いて、アルトリアは切嗣の方へ振り返る。

 

「切嗣! やはり戻って来てくれたのですね」

 

 嬉しそうな笑顔を見せ、切嗣の元へ歩み寄るアルトリア。

 

「取り敢えずやってみようと思ってね。⋯⋯アルトリアは⋯⋯」

 

 アルトリアに対し何か言おうとするが、言葉を詰まらせる切嗣。

 

「? ⋯⋯どうしました切嗣?」

 

「いや、何でもない。取り敢えず僕はもう一回博物館を一回りしてくるよ」

 

 そう言って切嗣は、そそくさと博物館の奥へ走って行った。

 

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 その頃、切嗣の邸宅では寝室で士郎が深い眠りについていた。

 その為士郎は、何者かが邸宅に侵入し、切嗣の自室に忍び込んだ事に気付かなかった。

 

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 博物館の廊下を歩いていた切嗣は、廊下の真ん中で羊達と戯れるアルテラを見つける。

 

「お! いたいた。おーい! アッティラ!!」

 

 切嗣は右手を大きく振りながらアルテラに向かって大声で呼び掛けた。

 すると、それに気付いたアルテラは憤怒の表情を浮かべながら切嗣の元へ走って来る。

 

「よーし、アッティラ。聞いたところによると君は魔法に興味g」

 

「破壊する!!!」

 

 アッティラは、切嗣が話に一切耳を貸さず、右手に持っていたフォトン・レイを切嗣に振りかざした。

 

「おわ!?」

 

 すんでの所でアルテラの剣撃を避ける切嗣だったが、その拍子に後ろへ尻餅をついてしまう。

 

「ちょっと待てアッティラ! 今からマジックをするから! ホラ見て! 何も無い所から──ー花!」

 

 切嗣は急いで立ち上がると、アルテラに右手から赤い薔薇を出すマジックを披露したが、

 

「破壊する!!!!!!」

 

 アルテラはそれを気にも留めず、再び切嗣に向かってフォトン・レイを振り下ろした。

 

「うわあぁぁっ!!」

 

 切嗣の叫び声が館内に響き渡った。

 

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 何とかアルテラから逃げ切る事が出来た切嗣は、安堵の溜め息を吐く。

 

「⋯⋯全く、どうしてアッティラはあんなに僕を襲ってくるんだ?」

 

 そう言いながら頭を抱える切嗣。

 その時、博物館の奥から何やら騒がしい音が聞こえて来た。

 

「ん? ⋯⋯一体どうしたんだ?」

 

 気になった切嗣は音のする方へ目を向けると、

 

「「「Gyaaaaaa!!!!」」」

 

 アフリカゾウやシマウマ、ダチョウ、ライオン等、アフリカ哺乳類のホールに居た動物達が勢い良く走って来た。

 

「⋯⋯嘘だろ?」

 

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 アフリカ哺乳類のホールの出入り口前にやって来た切嗣。

 そこで彼が見たのは、先程鍵を掛けた筈の扉が大きく開かれている光景だった。

 

「一体何が起こったんだ?」

 

 首を傾げる切嗣。そこへ、

 

「フォウ、フォ──ーウッッッッ!」

 

 と聞き馴染みのある鳴き声が切嗣の背後から聞こえて来た。

 切嗣が、その鳴き声のする方へ振り返ると、そこにいたのは、切嗣が持っていた筈である博物館の鍵を咥えたフォウの姿があった。

 

「そんな!? まさかっ!?」

 

 急いで、鍵が付いている筈のベルトのレールを引っ張る切嗣。しかし、当然ながらそこに鍵は付いてなかった。

 

「フォウフォウフォウ」

 

 切嗣に対して挑発的な態度をとるフォウ。

 

「止せ、そこまでにしとけよフォウ! まさかっ!?」

 

 切嗣の不安は的中し、フォウは鍵を咥えたまま博物館の廊下を走って行った。

 

「フォォォォォォウ!!!!」

 

 切嗣は急いでフォウの後を追いかける。

 

 フォウが逃げた先にはジオラマコーナーがあり、そこでは

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

「でりゃあぁぁぁぁ!!」

 

 ジオラマの人形達が信長軍、ローマ軍のそれぞれに分かれ、阿鼻叫喚の争いを繰り広げていた。

 そしてフォウは、その間を軽快な足取りで渡って行き、奥へと消えて行ってしまう。

 

「何やってるんだ!?」

 

 怒りと呆れの感情が混ざった声を上げる切嗣。

 彼は、足元の人形達に気を付けながら、近くにあるベンチの背もたれの上で殴り合いをしている信長とネロの元へ向かった。

 

「そこの二人! これは何の騒ぎだ? 約束はどうなったんだ?」

 

 切嗣の問い掛けに信長、ネロの二人はそれぞれ声を上げる。

 

「余はこんな愚か者と共存出来ん!」

 

「それはこっちのセリフじゃ!! あまり舐めた口を利いてるとわしの火縄銃が火を噴くぞ!!」

 

「どうせ飾りであろう!?」

 

「それはどうかな? ほれ!!」

 

 そう言うと信長は右手で持っていた火縄銃でネロを殴り付けた。

 

「痛っ!? ⋯⋯もう余は我慢ならん!!」

 

 そう言ってネロは信長の顔面にグーパンを喰らわせた。

 

「グホッ!? ネロ、お前もかぁぁ!!!」

 

 切嗣を放って再び取っ組み合いを始める二人。

 

「あぁ、もう!」

 

 切嗣は、一先ず彼らの騒動は置いておき、鍵を咥えたまま闘争するフォウの追跡に戻った。

 

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 ・

 

「フォウフォウ」

 

 鍵を咥えたフォウは博物館の展示スペースの一つに逃げ込んだ。

 そこへ、

 

「そこまでだこのっはぁー、泥棒猫、はぁ、はぁ、そこから先は行き止まりだ。はぁ、はぁ」

 

 急な運動で息も絶え絶えになりながらやって来た切嗣。

 

「さぁ、鍵を返すんだ」

 

 切嗣はそう言いながらじわりじわりとフォウの元へ近づいた。

 

「よーし、そのまま動くなよ。じっとしてろぉ」

 

 切嗣が、フォウの咥えている鍵に手を触れたその時、

 

「フォ──ーウ!!!」

 

「へぷしっ!?」

 

 フォウが前足を使って切嗣の頬を引っ叩いた。

 

「フォウ!」

 

「はぶっ!」

 

 更に続けて切嗣の頰を叩くフォウ。

 

「このっ!!」

 

「ドフォウ!?」

 

 怒った切嗣は右手でフォウに平手打ちを喰らわせる。

 

「フォウ!」

 

「げふっ!?」

 

 間髪入れずフォウが再び切嗣の頰を叩く。

 

「またやったな!? このっ!」

 

「ベフォウ!?」

 

 切嗣もまたフォウに平手打ちをする。

 

「フォウ!」

 

「うぐっ!?」

 

 すかさずフォウがまた切嗣の頰を叩く。

 

「うぐぐ⋯⋯⋯そらっ!」

 

「ブフォウ!?」

 

 それに対して切嗣もフォウに平手打ちで仕返しをする。

 

「フォウ!」

 

「どふっ!?」

 

 フォウが切嗣の頰を叩く。

 

「そりゃ!」

 

「ビャフォウ!?」

 

 切嗣がフォウを平手打ちする。

 

「フォウ!」

 

「ひゃぐっ!?」

 

 フォウが切嗣の頰を叩く。

 

「おらっ!」

 

「フォブウ!?」

 

 切嗣がフォウを平手打ちする。

 

「フォウ!」

 

「がぐっ!?」

 

 フォウが切嗣の頰を叩く。

 

「とらっ!」

 

「フォベウ!?」

 

 切嗣がフォウを平手打ちする。

 

「フォウ!」

 

「べぐっ!?」

 

 フォウが切嗣の頰を叩く。

 

「はあっ!」

 

「ギョフォウ!?」

 

 切嗣がフォウを平手打ちする。

 

「何事ですか!?」

 

 ちょうどそこへ、ドゥン・スタリオンを引き連れたアルトリアが通りかかった。

 

「何故、キャスパリーグを叩いているのです!?」

 

 いつもよりも声を大きく上げながら切嗣とフォウの元へ近づいて来るアルトリア。

 

「コイツに散々振り回されたんだ! もう我慢の限界だ!!」

 

 アルトリアに対して切嗣はフォウに非がある事を訴える。

 

「だからと言って冷静さを欠いてはいけません。貴方らしくもない。キャスパリーグとは張り合おうとするだけ無駄です。⋯⋯さぁ、キャスパリーグ、鍵を返して頂けないか?」

 

 アルトリアはそう言うと、フォウに向かって右手を差し出した。

 

「フォー⋯⋯フォウ」

 

 するとフォウは大人しくアルトリアの右手の上に、自らが咥えている鍵を置いた。

 

「ありがとう。⋯⋯さぁ、切嗣」

 

 アルトリアはそのまま鍵を切嗣に手渡した。

 

「⋯⋯僕よりよくご存知みたいなんで、後は任せる」

 

 切嗣は若干声を荒げながらアルトリアから渡された鍵を再びアルトリアに突け返し、その場から離れた。

 

「切嗣! 駄目だ! この様な時に逃げ出しては! このままでは博物館が大混乱のままですよ!?」

 

 アルトリアはそう言って切嗣の元へついていく。

 

「努力はした。それで結果がこれだ。僕はこの仕事には向いていない。他にもっと、僕より有能な警備員が勤めた方が良い」

 

「たった一日で投げ出すのですか!?」

 

「普通の仕事なら投げ出さないさ。でもこの仕事は⋯⋯僕には無理だ!」

 

 切嗣は玄関ホールの受付のカウンターへ戻ると、荷物をまとめ始めた。

 

「切嗣、貴方なら出来ます。ここの者に共に生きることを教えれば、毎晩閉じ込め無くて済むのです。そうすれば⋯⋯」

 

「おぉ、説得力があるなぁ。毎晩玄関ホールで一人寂しそうに佇んでいる孤独な王様の言葉は!」

 

 切嗣は勢い任せにそう言った後、アルトリアの顔を見て、自らの発言を後悔した様にはっとした顔をした。

 

「⋯⋯すまないアルトリア。少し頭に血が上って⋯⋯決して君を傷付けるつもりは⋯⋯」

 

「いえ⋯⋯構いません。切嗣、貴方の言う通り、私は貴方に偉そうに説教を出来る立場では無い。しかし、それでも貴方の力が必要なのです」

 

 アルトリアはそう言うと切嗣へ、右手に持った鍵を差し出した。

 

「⋯⋯卑怯だな。そんな顔されたら、断れないじゃないか」

 

 そう言って切嗣は、アルトリアが差し出した鍵を受け取った。

 

「でも、もし明日も今日みたいにしくじったら、その時は僕はこの仕事を辞めさせて貰う。それが僕なりの、君たちこの博物館の展示物に対する責任の取り方だ。⋯⋯勿論、明日は今日以上に、仕事が上手く出来るよう努力するさ、君の言う通りに」

 

「⋯⋯ありがとう、切嗣。やはり貴方は、私が思っていた通りの人でした」

 

 アルトリアはそう言いながら穏やかな笑みを浮かべた。

 

「君は僕の事を買い被り過ぎだ⋯⋯」

 

 切嗣は、アルトリアの言葉に対して自身を頼ってくれる嬉しさと自身への過度な期待に対する重圧感が入り混じった複雑な思いを抱きながら、そう呟いた。

 

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 切嗣が吹幸市自然博物館の夜警を始めて二回目の夜明けが訪れた。

 同時に、博物館の展示物は再び動かなくなり、博物館は静寂な空気を取り戻した。

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