Fate/stay ナイトミュージアム   作:三流笛吹き

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stay.three

 早朝、間も無く開館時間を迎える吹幸市自然博物館の玄関前に私服姿で訪れた士郎と大河。

 

「なぁー藤ねえ、何もこんなに早く来なくたって良かったんじゃ⋯⋯」

 

「良いじゃない! 昔から『善は急げ』って言うでしょー?」

 

 そんな風に言葉を交わしながら博物館の玄関の扉を開ける二人。

 

「あ! あれ切嗣さんじゃない?」

 

 そう言って大河が指を指した先には、館長の時臣と、私服へ着替えた切嗣の姿があった。

 

「本当だ⋯⋯ってあれ叱られてないか?」

 

 難しい顔をしている時臣とペコペコと頭を下げている切嗣の様子を見てそう言った。

 大河と士郎はこっそりと受付のカウンターの影に隠れ、その二人の話を盗み聞きする。

 

「⋯⋯すまないが君には此処を辞めて貰う」

 

 そう言うと、時臣は博物館の奥へ行ってしまった。

 カウンターの影から時臣の言葉を聞いて、丸くした目を見合わせる士郎と大河。

 

「え、ちょっと!? 待って下さい!」

 

 切嗣は慌てる様に時臣の後を追った。

 

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 博物館の館長室へ入る時臣。

 

「待って下さい時臣さん! 確かに今回はヘマをしましたが、やっとコツが掴めた様な気がするんです」

 

 後を追って来た切嗣が同じく館長室へ入り、時臣に向かって熱弁する。

 

「⋯⋯廊下は動物の(ふん)だらけ、ジオラマコーナーの床も酷い有り様。そしてその理由を君はまともに説明出来ない。とてもコツを掴んでいる様には思えないが⋯⋯」

 

 時臣は、館長室の椅子に深く腰掛けると、淡々とそう語った。

 

「いいえ、やっと分かったんです! それに約s⋯⋯もう一晩やらせて下さい⋯⋯」

 

 切嗣は訴えかける様な目で時臣を見た。

 目を閉じて溜め息を吐く時臣。

 

「⋯⋯一晩だけだ」

 

「ありがとうございます」

 

「それでもし、またこの博物館に何かあった時は⋯⋯分かるね?」

 

「⋯⋯はい」

 

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 切嗣が博物館の外へ出ると、玄関前の階段の隅で三角座りをしている士郎と大河の姿があった。

 

「あれ? 士郎に大河ちゃん。どうして⋯⋯ってあぁ、博物館の案内って今日だっけ」

 

「でも、それももう無理なんだろ?」

 

 切嗣に向かってそうぶっきらぼうに問いかける士郎。

 

「え? どうしてだい?」

 

「だって、切嗣さんクビになっちゃったんでしょ!?」

 

 士郎の突然の言葉に困惑する切嗣に対して、大河が若干目を潤ませながら自分達が盗み聞きした内容を話す。

 

「なんだ聞いてたのか。それなら大丈夫だよ、クビにはなってない。少し館長に誤解されただけさ」

 

「どうしてだ?」

 

 切嗣の説明に疑問に思った士郎が更に問い掛ける。

 

「⋯⋯それは、ちょっと説明しにくいな」

 

 そう言い、右手で頭をかきながら言葉を詰まらせる切嗣だったが、ふと、何か思いついたのか、心配そうな顔をしている二人に顔を向けた。

 

「分かった。僕の仕事を見せるよ」

 

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 その日の午後五時少し前。

 閉館間近の吹幸市自然博物館に再び訪れた切嗣、士郎、大河の三人。

 

「僕は仕事の準備をしてくるから、二人はこの玄関ホールで待っててくれ」

 

 館内へ入ると切嗣は、そう士郎と大河に言い、自らは警備室へ向かった。

 

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「で、今から何をするんだ父さん?」

 

 受付のカウンター前に立っている士郎が、警備服へ着替えた切嗣にそう尋ねる。

 

「言っても信じないだろうから実際に見せるのさ。後、そうだな⋯⋯二十秒。あそこに馬鹿デカイ狼のオブジェがあるだろ?」

 

 腕時計で時間を確認した切嗣は、そう言って玄関のすぐ前にある狼王ロボの剥製のレプリカを指差した。

 

「あーありますね」

 

 士郎の隣に立っていた大河がそう言いながらうんうんと頷く。

 

「だからそれがどうしたんだ?」

 

「まぁ見てて。今からビックリする事が起こるから」

 

 相変わらず腕時計で現在の時間を気にする切嗣。

 

「もうすぐだ⋯⋯5、4、3、2、1」

 

 太陽が沈み、博物館の外は暗くなった。

 カウントダウンを終えた切嗣は、狼王ロボへ顔を向ける。

 

「⋯⋯何も起こらないぞ」

 

 物音一つしない博物館の玄関ホールに、士郎の言葉が静かに響く。

 

「あれ? ⋯⋯おかしいな」

 

 切嗣はそう言うと、狼王ロボの元へ駆け寄り

 

「おーいロボ、大丈夫か? おーい」

 

 と言ってロボの体をポンポンと叩いた。

 

「え、切嗣さん!? それって触って大丈夫なんですか!?」

 

 切嗣の行動に驚いた大河が、心配そうに切嗣に尋ねた。

 

「変だな。⋯⋯おーい! みんな! どうした?! もう日は暮れた!」

 

 大河の問い掛けにも気を留めず、玄関ホールの中央で何かに訴えかける様に叫ぶ切嗣。

 しかし、変わらず博物館は静然としていて、その切嗣の呼び掛けに答えるモノはいなかった。

 これを不審に思った切嗣は、玄関ホールの脇に置かれたアーサー王を模した蝋人形に駆け寄ると、

 

「アルトリア。もう夜だ、さあ起きて! ドゥン・スタリオンも!」

 

 と必死に呼び掛けた。

 

「父さんは何をやってるんだ?」

 

「⋯⋯さぁ?」

 

 その様子を怪訝な顔をして見ている士郎と大河。

 

「⋯⋯もしかしたら、石版に何かあったのか? ⋯⋯!」

 

 何か胸騒ぎを覚えた切嗣は、士郎と大河を置いて急いでエジプト王・ラムセス2世の神殿へ向かって走った。

 

「⋯⋯はぁ、どうする藤ねえ?」

 

「勿論、追い掛けよ!」

 

 そう言って大河は切嗣の後を追うように走っていった。

 士郎は再び溜め息を吐きながら、同じく切嗣の後を追うのだった。

 

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 エジプト王・ラムセス2世の神殿の前に辿り着いた切嗣は、壁の奥に飾っていた筈の石版が無い事に気付く。

 

「⋯⋯そんな、まさか」

 

「はぁ、はぁ、一体どうしたんだよ?」

 

 大河と共に切嗣の後を追って駆けつけた士郎が、息を切らしながらも強い口調で切嗣にそう問い質す。

 

「⋯⋯石版が、博物館の展示物が消えてるんだ。ここには僕たち三人しか居ない筈なのに」

 

「そう言えば⋯⋯階段を登ってる時、外に人影が見えましたよ。ドアから明かりも漏れてて」

 

 大河は訝しげな顔をしながらそう切嗣に言う。

 

「外⋯⋯ドア⋯⋯そう言えば警備室は、館内に通じるドアの他にも外に出れるドアがあった」

 

「なら行ってみましょう!」

 

 大河はそう言って駆け出した。

 

「え!? あ、大河ちゃん!? ちょっと待って!?」

 

 突然走って行ってしまった大河に驚く切嗣。

 

「大丈夫ですよ! 階段から見て場所は大体分かるんで!」

 

「いやっ、そういう問題じゃなくて!」

 

「はぁ、行くぞ父さん! ああなった藤ねえはもう止められない」

 

 そう言って駆け出す士郎。

 

「士郎はそのまま大河ちゃんを追ってくれ。僕は博物館の中から警備室に向かう!」

 

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 外側の警備室の扉の前へ辿り着いた大河は、静かに扉を開け警備室の中を見渡す。

 

「えーと、石版石版っと。あ! もしかして⋯⋯」

 

 大河は、警備室の中にあった車輪付きでステンレス製の大きなカゴの中に、黄金に輝く石版が入っている事に気付くと、部屋の中に誰もいない事を確認して、恐る恐ると中へ入って行った。

 

「これが切嗣さんが言ってた石版かなぁ?」

 

 カゴの中に入っていた石版を手に取り、舐め回す様に見る大河。その石版は、本来左右対称になっている筈の装飾が、一部左側がずれていた。

 

「そこで何をしているのかな?」

 

 そこへ、大河が入ってきた扉とは別の、博物館内へ通じる扉から緑色のコートにシルクハット姿のレフと、真紅のコートにシルクハット姿のコルネリウス、そしてアトラムの三人が警備室に入ってきた。

 

「それを返してもらうかお嬢さん!」

 

 そう言いながらアトラムは大河が持っている石版を掴むと、大河から奪おうと強く引っ張った。

 

「え!? ちょっと!! 何するんですか!!」

 

 負けじと大河も石版を強く握り引っ張り返す。

 その勢いで、石版がアトラムと大河の手から離れ、大河が入って来た扉の方まで飛んで行く。

 

「「あっ!?」」

 

「! おっと!?」

 

 ちょうど大河を追い掛けて扉の前にやって来た士郎が、飛んで来た石版をキャッチする。

 

「そこの少年。悪い事は言わない。大人しくそれをこちらに渡すんだ」

 

 士郎の目の前に来ると和かにそう言って自らの右手を差し出すレフ。

 

「士郎ダメ! それを渡しちゃ! この人たち泥棒よ!」

 

「泥棒? それは君達だろう? もう閉館時間だと言うのにこんな所に忍び込んで。我々は警備員だ、君達の身柄を取り抑える事だって出来る。ただ、こちらもわざわざ騒ぎを大きくしたい訳じゃない。大人しくそれを渡せば我々は君たちに何もしない。さあ少年、早くそれを返しなさい」

 

 レフは、和かな表情を崩さずにそう言いながら士郎の背後へ回り外へと通じる扉を閉めると、そのまま士郎へ迫る。

 士郎は、レフの得体の知れない圧に気圧され、レフに石版を渡しそうになる。

 その時、

 

「いいや、もうあんた達は警備員じゃない。ただの泥棒だ」

 

 レフ達が入って来た扉から切嗣が現れた。

 

「父さん!」

 

「おや、少年は切嗣君の息子だったのか。⋯⋯なぁ少年。気の毒だが、お父さんはもうここでは働いていないんだよ。今朝クビになったんだ。仕事が上手くいかなかったからね」

 

「デタラメ言うな。士郎、コイツらに騙されるな。その石版の左の装飾を右と同じにするんだ」

 

「それは博物館の物だ。私に返しなさい」

 

「士郎、早く!」

 

 レフと切嗣に交互に訴えかけられ、思考を混乱させる士郎。

 

「士郎、父さんを信じて」

 

 切嗣の言葉に、混乱していた士郎は我に返ると、切嗣に言われた通りに石版の装飾を左右対称に戻す。

 その途端、石版は強く光輝き、博物館からは様々な動物の鳴き声が聞こえ始めた。

 

「士郎! 大河ちゃん! 早く逃げろ!」

 

「行くよ士郎!」

 

「うわっ!?」

 

 切嗣の言葉を聞いた大河は士郎の腕を掴み、切嗣が入ってきた扉へ突っ走るとそのまま博物館の中へ走って行った。

 

「待てっ!!」

 

 急いで士郎と大河を追いかけようとするアトラム。

 

「待つのはアンタだ!」

 

 そのアトラムの両肩を掴み抑え込もうとする切嗣だったが、

 

「フンッ!」

 

「うおぉああ!?」

 

 レフが片手で切嗣の肩を掴むとアトラムから引き離して、そのまま切嗣を警備室の奥まで投げ飛ばした。

 

「がはっ⋯⋯」

 

 投げ飛ばされた切嗣はその勢いで壁に激突し、その場に倒れ込んだ。

 

「驚いたかな切嗣君? 実は、この仕事を始めて気付いたんだが、私達もここの博物館の展示物と同じ様に石版の影響で、毎晩不思議な力を手に入れるみたいでね。日暮れから日の出まで、私達は生まれ変わる」

 

 レフは倒れ込む切嗣を見下ろしながら変わらない口調で語る。

 

「私は火を出す魔法だって使える様になった。お陰で気分は最高さ!」

 

「この生活は捨てがたいからねぇ。それで、クビになるなら石版を盗もうって事になったんだよ。そして、その罪は新入りの君に全て被って貰う事にしたのさ。勿論、君に濡れ衣を着せる為の仕込みも済んでる。君の部屋にここの博物館の貴重な展示品を仕込ませて貰ったよ」

 

 コルネリウスとアトラムがそれぞれ得意げに話した。

 

「痛たた⋯⋯まさかこんな展開になるとは」

 

 床に倒れ込んでいる切嗣は、そう言って溜め息を吐いた。

 

「話は終わりだ。さぁ、石版を探しに行こう」

 

 レフはそう言葉を残して、アトラム、コルネリウスを連れて博物館の奥へ消えて行った。

 

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 石版を抱えた士郎と大河は暫く走った後、ラムセス2世の神殿の中へ逃げ込むと、部屋の端に置かれていた巨大なスフィンクスの影にしゃがみ込み、身を隠した。

 

「とりあえずここで隠れてましょ。⋯⋯あーあ、こんな事になるなら携帯持ってくるんだった〜」

 

「⋯⋯父さん、大丈夫かなぁ⋯⋯」

 

 不安そうな表情を浮かべながらそう呟く士郎。

 

「大丈夫に決まってるでしょ! 切嗣さんならあんな三人コテンパンよ!」

 

 大河はそう言って不安がる士郎を励ました。

 

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 一方その頃、博物館の裏にある搬入口では、

 

「フォウ。フォウフォウ」

 

 フォウが搬入口の扉を開け、博物館の展示物である動物達を外に出していたのだった。

 

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「そろそろここを出た方が良いわね」

 

 スフィンクスの物陰に隠れていた大河は、そう言うといきなり立ち上がった。

 

「え!? もう少しここで隠れてた方が⋯⋯」

 

「ずっと同じ場所に居たら見つかっちゃうでしょ?」

 

「うーん、まあ⋯⋯」

 

 大河にそう言われて渋々立ち上がる士郎。

 二人は神殿の入り口に向かって走り出したが、

 

「おっと、ご苦労だったね」

 

 入り口で待ち伏せていたレフが、士郎から石版を奪うと士郎と大河を神殿の中へ突き飛ばした。

 

「きゃっ!?」

 

「痛っ!?」

 

「士郎! 大河ちゃん!」

 

 廊下の奥から二人の名を叫び急いでレフの元へ走って来た切嗣だったが、レフは自分の足を切嗣の足に引っ掛け躓かせながら、手際良く切嗣のベルトから鍵を奪った。

 

「うわぁった!?」

 

 切嗣は神殿の中へ勢い良く突っ込みながら転んだ。

 

「丁度良かった。今から閉める所だ」

 

 レフはそう言うと、神殿の入り口にある格子状のスライド式扉を閉めると、切嗣から奪った鍵で施錠してしまった。

 

「そこで朝まで寝てるが良い、ハッハッハッハ!」

 

 レフの後ろに居たコルネリウスが扉越しに切嗣達を見下ろして高笑いをする。

 

「折角だ、売れる物は全部盗もう。そうしたら僕達は大金持ちだ!」

 

 目を輝かせながらアトラムはそう言うと、コルネリウスと共に博物館の奥に消えて行った。

 

「それじゃあさようなら、切嗣君」

 

 レフは、いつも通りの笑みを浮かべながら切嗣にそう言うと、アトラム達の後を追って行った。

 

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 博物館を脱走した動物達は新都へ繰り出すと、陸上動物は街の道路を、鳥達は空を、我が物顏で動き回っていた。

 

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「父さん! いい加減何がどうなってるのか説明してよ!」

 

 ラムセス2世の神殿に閉じ込められ訳も分からない状態の士郎は、切嗣に向かってそう声を上げた。

 

「⋯⋯分かった。本当に信じられない様な事だから二人とも落ち着いて聞いてくれ。⋯⋯⋯実は、この博物館の展示物はさっきの石版の力で、夜になると動くんだ。それであの三人の元警備員がその力を狙ってる」

 

 切嗣の言葉を聞いて面食らった様な顔をする士郎と大河。

 

「やっぱり分からないよな。なら実際に見せる。⋯⋯アルトリア! もう動けるんだろ?! 居るなら力を貸してくれ!!」

 

 切嗣は扉の外に向かって大きな声でそう叫んだ。

 すると、廊下の奥からドゥン・スタリオンに跨ってアルトリアがやって来た。

 

「私を呼びましたか?」

 

 アルトリアは切嗣の前でドゥン・スタリオンに歩みを止めさせると、そう穏やかな声で切嗣に尋ねた。

 

「うわぁ⋯⋯」

 

「うそ⋯⋯本当に!?」

 

 生きた白馬に跨る金髪の少女の姿を目にして、呆気にとられる士郎と大河。

 

「アルトリア・ペンドラゴン、ここに馳せ参じました」

 

「アルトリア! ここから出して欲しいんだ!」

 

 切嗣はアルトリアに向かってそう懇願した。

 

「残念ですが、それは出来ません。今この瞬間が貴方の正念場です」

 

 切嗣の懇願にアルトリアはそう言って一蹴してしまった。

 

「説教はもう沢山だ! 僕は君とは違う。僕は王様じゃない! 国を統治する事だって出来ない! お願いだから手を貸してくれ!」

 

「私もですよ切嗣、私はアルトリア本人では無い。マネキン工場で作られたただの人形です。王となり民を率いた事など一度も無い。この博物館で新たなな仲間を見つける事すら出来ない。ですが貴方は⋯⋯今度こそやり遂げなければならない」

 

 澄んだ翠緑の瞳で切嗣を見つめながら語るアルトリア。

 

「御武運を、切嗣」

 

 アルトリアはそう言葉を残してその場を去って行った。

 

「え!? ちょっと!? ⋯⋯はぁ、参ったなぁ、一体どうすれば」

 

 切嗣はそう言って天を仰いだ。すると、

 

「あ⋯⋯」

 

 ちょうど切嗣の視線の先にスフィンクスの目があり、お互いの目が合ってしまった。

 すると突然、二体のスフィンクスは動き出し右前足を上げると、切嗣達に向かって二体同時にその右前足で踏みつけようとした。

 

「うぇ!? なんか動き出した!?」

 

「父さん、これってまずいんじゃ⋯⋯?」

 

 巨大なスフィンクスの像が突然動き出し焦る大河と士郎。

 切嗣は、今自分達が置かれている危機的状況を打破する為の策を講じる為、必死になって思考する。

 

「くそぅ、何か良い手は⋯⋯」

 

 その時、ふと切嗣の視界に、神殿の奥で喚き声を上げている棺が目に入った。

 

「! そうだ、二人共行くぞ!」

 

 そう叫びながら切嗣は、士郎と大河を連れてスフィンクスの前足を避けると、神殿の奥へ向かって走った。

 

「二人共、端の方で隠れてるんだ!」

 

 切嗣はそう言って士郎と大河を比較的安全な場所へ誘導すると、自らはその棺の蓋に掛かっている鍵を解錠した。

 すると棺の蓋は、中に入っていた包帯で全身をグルグル巻きにされた男によって勢いよく吹き飛ばされる。そしてその男は、ゆっくりと棺から体を起こした。

 

「や、やぁどうも、元気?」

 

 切嗣は、恐る恐るその包帯男に話し掛けた。すると、包帯男は切嗣の方へ顔を向ける。

 

「あ、あのー悪いんだけど、そこに居る二匹のデカイスフィンクスに、僕達を襲わないよう言って貰えないかな? 僕が君を襲おうとしてるって勘違いしてるっ兎に角今すぐ止める様に!」

 

「◼️◼️!! ◼️◼️◼️ッ⋯⋯」

 

 包帯男は古代エジプト語らしき言葉でスフィンクスに叫ぶと、スフィンクスはその場で立ち止まった。

 

「おぉ、ありがとう! 士郎、大河ちゃん、もう大丈夫だ。⋯⋯いやぁ助かった」

 

 安堵の表情でその包帯男に礼を言う切嗣だったが、

 

「⋯⋯」

 

 包帯男は再びゆっくりと切嗣の方へ顔を向けると、

 

「◼️◼️◼️!! ◼️◼️!!」

 

 呻き声を上げながら棺の外へ出て、

 

「◼️◼️!! ◼️◼️! ◼️◼️◼️!!!」

 

 自らの頭に巻かれた包帯を勢いよく解いていき、

 

「◼️◼️ッ!! ◼️◼️ッ!! ブハァッッ!!!」

 

 中から、褐色の肌と太陽の色をした眼を持つ美しい顔を露わした。

 

「我が名はオジマンディアス。王の中の王。全能の神よ、我が業を見よ──そして絶望せよ!」

 

 褐色肌の男=オジマンディアスはそう高らかに叫んだ。

 

「⋯⋯あぁ、僕は衛宮切嗣。この博物館の警備員。吹幸市出身。それで隣にいるのが息子の士郎と」

 

「どうも⋯⋯」

 

「そして彼女はよく僕の家に遊びに来る」

 

「藤村大河です⋯⋯」

 

 恐る恐る自己紹介をする切嗣達。

 

「切嗣、士郎、そして大河、吹幸の守護者達よ。此度の事は恩に着る。よくぞ! この息の詰まるような棺から余を救い出してくれた! さぁ、石版を余に差し出すが良い。あの石版は其方らの手に余る。余が! 真の王としt」

 

 オジマンディアスの演説最中に切嗣が割って入った。

 

「おぉ! 成る程石版! 出来ればすぐに差し出したいけど、今ちょっと手元には⋯⋯無いんだ」

 

 切嗣の言葉にオジマンディアスは顔を少し顰めた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 けたたましい轟音を立て、神殿の入り口を閉ざしていた格子状の扉が吹き飛ばされた。

 そして神殿の中から切嗣、士郎、大河、そして豪華な衣装に身を包んだオジマンディアスが現れた。

 

「助かった! 王様は僕に任せて! ありがとう!」

 

 切嗣は、扉を破壊したスフィンクス達に向かって礼を言うと、士郎達を引き連れ廊下の奥へ走って行った。

 

 ・

 ・

 ・

 

 二階の廊下を走っていた切嗣達は、一階に吹き抜けになっている場所へ辿り着くと、玄関ホールを見下ろした。

 

「「「◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!」

 

 すると、玄関ホールでは動物の剥製や人形等、博物館の展示物が好き放題に暴れ回っていた。

 

「む、何やら強い敵意を持つ者が近付いて来るな」

 

 オジマンディアスの言葉を聞き、彼の目線の先を見る切嗣。その先には、

 

「破゛壊゛す゛る゛!!!!!!」

 

 と雄叫びを上げながら向かいの廊下をこちらに向かって走って来るアルテラと羊達の姿があった。

 

「アッティラだ。話をつけないと」

 

 切嗣はそう言うと、自分の方へ向かってくるアッティラ達に向かって走り出した。

 士郎達もその後をついて走って行く。

 

「う゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

「うあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 切嗣とアルテラは、それぞれ相手の方へ向かって叫びながら走る。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

「ぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 お互いがお互いに向かって走り、遂に互いの顔が眼前に迫るまで近づいた。

 

「文明を破壊する!!!」

 

 アルテラは目を血走らせ顔を真っ赤にしながら、憤怒の声を上げる。

 

「あぁ、やっぱりそればっかりだな。理由は分かってる」

 

 目の前で怒りに顔を歪ませるアルテラに対して、切嗣は努めて冷静に語りかけた。

 

「どうしてそんなに文明を破壊したがるのか。それは、元々君がその為に造られた存在だから。⋯⋯あれからネットで調べたんだ。そしたら【新説:アッティラ】って見出しの記事にこう書かれてた。君はその昔、宇宙からやって来た巨神『セファール』として当時の文明を破壊し蹂躙したってね。それが何やかんやあって、赤ん坊になった君をフン族の族長が見つけ育てた」

 

「⋯⋯!」

 

 切嗣の言葉は更に続く。

 

「⋯⋯アッティラ、君は自分の事を破壊兵器だと思ってるのかもしれない。でもそれは違う。それは『過去』の話、君が生まれる前の話だ。今の君が『破壊』に縛られる必要は無い。今の君は『破壊』以外の事をして良いんだ。君だって本当は、それを分かってるんだろ?」

 

「⋯⋯っ!!」

 

 アルテラの顔から憤怒の表情は消え、赤い目からは大粒の涙が溢れ出た。

 

「それで良い。泣けば良い。吐き出せ、楽になる」

 

 そう言うと切嗣は、泣き崩れるアルテラを優しく抱擁した。

 

 

「ほう、手馴れているな」

 

 その様子を間近で見ていたオジマンディアスが、切嗣の事を興味深そうに眺めながらそう呟いた。

 

「うん、手馴れてる⋯⋯」

 

「手馴れてるわね⋯⋯」

 

 士郎と大河も複雑そうな表情を浮かべながらそう呟いた。

 

 

「よーし、大丈夫、大丈夫」

 

 切嗣はそう言ってアルテラの肩を叩き抱擁を解く。

 

「さぁ、深呼吸して」

 

 アルテラは切嗣に促されるまま深く息を吸って吐くと、

 

「⋯⋯ありがとう」

 

 と切嗣に向かって小さく呟いた。

 

「どういたしまして。これで仲直りだ。⋯⋯さぁて、アッチの問題も片付けるか」

 

 そう言うと切嗣は吹き抜けの方へ向かい、一階の玄関ホールを見下ろすと、

 

「みんなっ!!」

 

 と、好き放題に暴れる展示物達に向かって大声で叫び掛けた。

 

「おーい! みんな!」

 

 しかし、切嗣の声は展示物達の騒ぎ声に掻き消されてしまい、展示物達に届かなかった。

 

「みんな! やめろ!! ⋯⋯はぁ、参ったなぁ」

 

 頭を抱える切嗣。その時、

 

「静まれっ!!!!!」

 

 凛々しくも威圧感のある声による号令に、一同は動きを止め、声の主のいる方へ顔を向けると、そこには、ドゥン・スタリオンに跨ったアルトリアの姿があった。

 

「この博物館の警備員! 衛宮切嗣が皆に話をするっ!!」

 

 アルトリアの声が博物館に響いた。

 

「⋯⋯ありがとう」

 

 切嗣はそうアルトリアに礼を言うと、玄関ホールに集まっている展示物達に向かって話を始めた。

 

「僕の隣にいるエジプト王のオジマンディアス、彼の石版がみんなに命を吹き込んでいる。でも前の警備員が石版を盗んだ! 彼らを探し出して石版を取り戻すんだ! 朝までにやらなければならない! 新撰組の二人! プラネタリウムの所に行ってくれ! 龍馬とお竜さんは爬虫類エリアを捜索! 信長とネロ! 彼らの車は裏口だ、足止めしてくれ!」

 

「待てい! わしはこの男装(笑)女とは組めんぞ!?」

 

「余もこんなへんちくりんとは頼まれたって組まん! 余達は単独行動をさせてもらう」

 

「誰がへんちくりんじゃ! この音痴!!」

 

「音痴!? ローマ一の美声を誇る余を音痴とのたまうかこの愚か者!!」

 

 信長とネロがそれぞれ切嗣に反論し、互いに言い争っていた。

 

「おい! いい加減にしろっ!」

 

 二人の態度に業を煮やした切嗣は声を荒げた。

 

「信長! ネロ! 生まれた時代は千五百年も違うけど、君達には共通点がある! ⋯⋯二人とも偉大なリーダーだ! その時その時の時代を切り開いて来た偉大な先人だ! ⋯⋯そこで争ってる幕末組! どっちも掲げる主義は違くても、誰かの為に努力したその気持ちは同じだろう!? そして日本は無事平和な時代になった! もういがみ合うのは止そう! ⋯⋯いいか、あの石版が無いとこれは、この毎晩の奇蹟は起こらなくなる! それを避けるにはみんなの力がいるんだ! これだけの英雄がいれば不可能なんて無い! 団結すれば石版を取り戻せる! ⋯⋯協力するか?」

 

 切嗣の熱弁に展示物達は鼓舞される。

 

「協力をするか?!!!」

 

「「「「うおぉぉぉおぉぉ!!!!」」」」

 

 この時、切嗣と博物館の展示物達は心を一つにした。

 

 ・

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 ・

 

 博物館の裏口にはレフ達が逃走用に使う車が一台、駐車されていた。

 

「あれであるな⋯⋯」

 

 そこへ、ちびノブを率いる信長とローマ兵を率いるネロが現れ、

 

「わしの後に続けぇ!!」

 

 その車の後部右側のタイヤに向かって駆けて行った。

 

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 ・

 

 博物館のプラネタリウムエリアの廊下を、両手に宝石を持って歩くコルネリウス。

 

「地方の博物館にしては随分良いモノがあるよなぁ、ココは。たった一日じゃ全部運びきれないぞ、フェン♪ フェン♪ フェーン♫」

 

 そう言い、鼻歌を歌いながら歩くコルネリウスの前に、

 

「気に入らねえな……」

 

「えぇ、全く。チョコレート工場で働いてそうな見た目してますね」

 

 浅葱の羽織を身に纏った二人の侍、土方と沖田が立ち塞がった。

 

「なんだ、展示物の木偶人形が私に何の用だ?」

 

 コルネリウスはそう言って二人に見下した態度をとる。

 

「沖田、あいつはお前に任せる」

 

「え!? さては土方さんサボる気ですね? ⋯⋯まぁいいでしょう⋯⋯速攻で片を付けます!」

 

 沖田はそう言うと刀を抜き、コルネリウスに向かって構えた。

 

「おいおい、木偶人形が今の私に敵うはず無いだろう? 何せ今の私は魔法を使えるんだからねぇ! 私に刃向かった事、灰になった後に後悔するが良い。Go away the shadow.⋯⋯」

 

「三段突き!!」

 

「ゲブホッ!?」

 

 魔術を使う為の詠唱中であるコルネリウスに、何の躊躇いも無く会心の一撃を与える沖田。

 コルネリウスは、沖田の一撃を受けその場に倒れ込み気を失ってしまう。

 

「安心して下さい、峰打ちです。それと戦闘中に長々と喋らない方が良いですよ? 戦場では誰も待ってくれませんからねぇ」

 

 ・

 ・

 ・

 

 爬虫類コーナーの廊下を陽気な様子で歩くアトラム。

 そこへ、

 

「見つけたぞリョーマ、あいつ食っていいか?」

 

「いやいや、食べないでね?」

 

 龍馬とお竜がやって来て、アトラムの前に立ち塞がる。

 

「へぇー、僕を捕まえるのに、そこの如何にも気弱そうな優男と、そこのお嬢さんの二人だけで充分だと。僕も舐められたものだなぁ」

 

 そう言い、二人に対して不敵な笑みを見せるアトラム。

 龍馬は目にも留まらぬ速さで懐から拳銃を取り出し、アトラムの額に銃口を突きつけ、

 

「博物館の展示物だからといって、⋯⋯舐めたらいかんぜよ?」

 

 眼光を鋭くし、ドスを利かせた声を出した。

 銃口を突きつけられたアトラムは、

 

「はぁ、僕にもライノールやアルバみたいに強い魔法が使えたらなぁ⋯⋯」

 

 と、嘆くように呟くと、両手を挙げ降伏の意を示した。

 

 ・

 ・

 ・

 

 その頃、博物館の裏口では信長とネロ達が目的のタイヤに辿り着いていた。

 

「よーし、では行くぞ!」

 

 そう言うとネロは、自分が手に持っていた槍を、タイヤの空気入れに向かって突き刺した。

 

「ぬおぉ!?」

 

「皆でこの槍を抑えるぞ!」

 

 空気圧で吹き飛ばされそうになるネロが持つ槍を信長達は必死になって支えた。

 

「うわあぁぁぁ!!」

 

「ノッブウゥゥゥ!?」

 

 一人、また一人と吹き飛ばされる面々。最後に信長とネロの二人だけが槍を支えている状態となった。

 

「余に任せよぉぉぉ!!!」

 

「見捨てはせぬぞぉぉぉ!!」

 

 ・

 ・

 ・

 

 アトラムとコルネリウスは、博物館のジオラマコーナーにあるベンチに紐で雁字搦めにされた状態で座らされていた。

 

「思い通りの展開だ! みんな良くやった!」

 

 その様子を見て切嗣は、その場に居た功労者達に労いの言葉をかける。

 

「あとでまたカエルだぞ」

 

「俺は沢庵」

 

「本当に、二人とも食い意地が張って⋯⋯ここは僕たちに任せて君は石版を!」

 

 龍馬の言葉に切嗣が頷く。

 

「分かった。本当見事なチームワーク!」

 

 ・

 ・

 ・

 

 石版を抱え裏口から外へ出て来たレフは、駐車してあった車の運転席に乗り込むと、エンジンをかけ車を発車させた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 切嗣、士郎、大河、オジマンディアスの四人は急いで裏口へ向かい、外へ出た。

 すると、そこにはレフも車の姿も無く、既に逃げられた後であった。

 

「父さん、どうするんだ?」

 

 士郎の問い掛けに切嗣ははっと思い出したような顔をして

 

「強力な助っ人がいる」

 

 と言い、再び博物館の中へ戻った。

 

 ・

 ・

 ・

 

 博物館の一角にある展示スペースの前へ訪れた切嗣達。

 

「『シャーロック・ホームズとその自室』⋯⋯ってまさか!?」

 

 展示スペースの名札を見た大河が目を丸くして驚く。

 

「あぁ、あそこにいるのは名探偵のホームズだ。⋯⋯なぁホームズ! 今、エジプト王の石版を盗んだ男を探しているんだが」

 

「なぁ父さん、ガラス越しじゃ聞こえないんじゃないか?」

 

 ホームズに向かって必死に語りかける切嗣に対して、冷静に突っ込む士郎。

 

「⋯⋯そうだった。確かアフリカ哺乳類のホールに丁度いい岩があった筈」

 

 そう言って切嗣はアフリカ哺乳類のホールのホールまで岩を取りに駆けて行った。

 

 

 手の平サイズの岩を持って戻って来た切嗣は、

 

「ホームズ! 端へ避けてくれ!」

 

 とジェスチャーを交えてそうホームズに伝えると、ガラスに向かって勢い良く岩を投げ付けた。

 岩が当たった瞬間、ガラスは音を立てて粉々に割れ、中からホームズが出て来た。

 

「ホームズ、僕は切嗣。今」

 

 ホームズの元へ駆け寄り事情を説明しようとする切嗣の言葉を遮りホームズが語り出した。

 

「知っている。エジプト王の石版を盗んだ男を探して欲しいんだろう?」

 

「!? 何で分かったんだ?」

 

 困惑する切嗣にホームズが説明を始めた。

 

「なに、初歩的なことだ。そもそも私は、最初から君の話している内容が分かっていたのだよ。読唇術、つまり君の唇の動きを見てね。その上で最初、私は君に『ガラス越しで声が聞こえない』と伝えた。そしてその後君に『この展示スペースから出して欲しい』という事を伝えようとした。流石の私もこれ以上この様な狭い場所でたった一人でチェスを続けていると飽きてしまうからね。だが、それを伝える前に君は私の元から離れてしまった。その時は多少落胆したが⋯⋯まあ良い。今は君のお陰で自由の身だ。礼を言う。⋯⋯話が逸れてしまったが、君の依頼は喜んで引き受けさせて貰うよ」

 

 話を終えるとホームズはスタスタとその場を後にしようとした。

 

「あのー、今回は『今はまだ話せない』っていうのは無いんですか?」

 

 と恐る恐る大河がホームズに尋ねる。

 ホームズは彼女の質問に笑顔でこう答えた。

 

「あまり焦らしていると読者に怒られてしまうからね」

 

 ・

 ・

 ・

 

 裏口の外へ出た切嗣達。

 ホームズは駐車スペースにしゃがみ込み、駐車されていた車のタイヤ痕を調べていた。

 

「ふむ、恐らく犯人は車を使って西へ向かったのだろう。だがその途中、車の制御を失い事故を起こした」

 

 ホームズは立ち上がると、そう自らの推理を披露した。

 

「驚いたな⋯⋯タイヤ痕だけでなんでそこまで?」

 

 切嗣はそう言って困惑の表情を浮かべた。

 

「初歩的なことだ、友よ」

 

 そう言うとホームズは、西の方を指差した。そこには、電柱にぶつかり使用不可となったレフの車の姿があった。

 

「犯人は乗り物を捨てている。そして館内へ戻った」

 

「ここに戻った? ⋯⋯何で戻ったんだ?」

 

 切嗣がそう不審がりながら周りの様子を確認していると、

 

「ヒヒィィィン!!!」

 

 という甲高い鳴き声と蹄の音と共に、レフを乗せ、二匹の馬に引かれた馬車が切嗣の元へ目掛けて突っ込んで来た。

 

「父さん!?」

 

「切嗣さん!?」

 

 

 馬車が切嗣の眼前まで迫るその瞬間、

 

「危ないっ!!」

 

 間一髪、横から飛び出して来たアルトリアに弾き飛ばされた事で、切嗣は場所に引かれる事無く済んだ。しかし、

 

「アルトリア!?」

 

 切嗣を庇ったアルトリアは、上半身と下半身が真っ二つに引き裂かれてしまった。

 

「大丈夫かアルトリア?!」

 

 急いでアルトリアの元へ駆け寄る切嗣。

 

「落ち着いて下さい。私は人形、この程度問題ありません。それよりも石版です。急いで手を打たなくては、直に日の出です。展示物の半分は外にいます。ここまま日の出を迎えれば、街の人々に迷惑をかける」

 

「そう言われても⋯⋯」

 

 レフを追いかける術を思い付けず、頭を抱える切嗣。

 そこへ、

 

「ぎゅわ~ん、ぎゅわ~ん! はっなびがドーン!」

 

「ノーブーナーガー波ァ!」

 

 と声を上げながら、切嗣のラジコンカーの運転席に乗ったネロと助手席に乗った信長が現れた。

 ラジコンカーは切嗣の側まで来ると停止し、中から信長とネロが顔を出す。

 

「今度は何をすれば良いんじゃ?!」

 

「我々に出来ることがあれば何でも申せ!」

 

 信長とネロがそれぞれ切嗣に向かって話す。

 

「ちょっと時間をくれ⋯⋯」

 

 切嗣はそう言って自らの思考を巡らせた。

 

「⋯⋯!」

 

 ふと、ラジコンに紐で結ばれているサッカーボールに目がいった切嗣は、裏口の方へ目を向けた。

 すると、裏口の扉には

 

「◼️◼️◼️◾️◼️◼️!!! 

 

 尻尾を大きく振った狼王ロボの姿があった。

 

「良いぞロボ、⋯⋯ホームズ、君はここでアルトリアを治しておいてくれ」

 

 切嗣はそう言ってホームズの方へ顔を向ける。

 

「あぁ、勿論」

 

「アルトリア、君の愛馬を借りても良いかな」

 

「えぇ、貴方に託します」

 

 切嗣の問いにアルトリアは力強く答えた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 博物館の周りに広がる森の中、手綱を引き馬車を走らせるレフ。

 その後ろから、

 

「レフ!!」

 

 颯爽と地を駆けるドゥン・スタリオンに跨った切嗣がレフを追いかける。

 更に、その左隣を、

 

「◼️◼️◾️◾️◼️◼️!!」

 

「行けぇ──!!」

 

「ちょっと藤ねえ!? 危ない!」

 

 信長とネロの乗るラジコンカーが引っ張っているサッカーボールを追って、勢い良く走るロボとその上に乗る士郎、大河。

 そして右隣には、

 

「ファラオの神威を見るがいい! フフフフ……フハハハハハハハハハッ!」

 

 巨大なスフィンクスを駆るオジマンディアスの姿があった。

 

「うっはっはっはっはー! ワシらの速さには誰も付いてこれぬ!」

 

「はしれバラよーバラのようにーつきのうみをーパドるパドる~♪」

 

 ラジコンカーに乗った信長とネロは、それぞれ気分を高揚させながら思い思いに叫ぶ。

 

「⋯⋯!」

 

 レフは両隣を並走するロボとスフィンクスを見て、馬車のスピードを速くさせる。

 一方、ラジコンカーの中では。

 

「⋯⋯ネロ、そなたあの先の角を曲がれるのか?」

 

「余の騎乗スキルを信じよ!!」

 

「ええー? ほんとに是非もなしぃ?」

 

 レフの乗る馬車を切嗣と挟み撃ちする為、ラジコンカーを加速させ突き当たりの角を右へ曲がった。

 ラジコンカーとロボがレフが乗る馬車の前に躍り出る。

 

「くっ!!」

 

 レフは、華麗な手綱捌きで前から向かって来るロボを避け、さらに加速する。

 

「のじゃじゃじゃじゃじゃじゃ!?」

 

「ハンドルが利かぬぅぅぅ!!!」

 

「ま、是非もないよネ!」

 

 馬車を避けるのに無茶な運転をした結果、ラジコンカーはコントロールを失い、

 

「「爆発オチなんてサイテ──!!」」

 

 土手に猛スピードで突っ込み宙高く飛ぶと、一回転してそのまま地面に激突し、爆発した。

 

 ドゥン・スタリオンの歩みを止め、立ち上る黒煙を見つめる切嗣は、遠ざかって行くレフの乗る馬車の方へ顔を向けると、

 

「⋯⋯ケリをつけよう!」

 

 と自らを鼓舞し、再びドゥン・スタリオンを走らせる。

 そして遂に、レフの乗る馬車の隣に着いた。

 

「レフ! 石版を返せ!」

 

 切嗣は、馬車に乗るレフに向かって力一杯に叫ぶ。

 

「いや、それは無理さ!!」

 

 切嗣の言葉を一蹴し、馬車の速度をさらに上げようとするレフ。

 

「馬車を止めろレフ!」

 

「諦めるんだな切嗣君! 歴史を学び直せと助言しただろう? これはかの源頼光が、藤原兼家の二条京極第が落成した際に送った馬三十頭の内の二頭! 忠義高いこの馬達は、騎手である私が命じない限り、絶対に止まらない!!」

 

 レフはそう言って勝ち誇ったような顔を浮かべた。

 

「本当に!? ⋯⋯なぁ、そこの馬達!」

 

 レフの言葉を聞いた切嗣は、馬車を引っ張る二頭の馬に向かって語りかけた。

 

「今止まってくれたら、前見せたグラビア雑誌の来月号を買ってあげr」

 

 二頭の馬は切嗣の言葉を聞いてすぐさま立ち止まった。

 

「ぬわぁぁっ!?」

 

 その反動で、レフは乗っていた馬車から吹き飛ばされた。

 

 切嗣はドゥン・スタリオンから降りて、倒れ込んでいるレフの元へ駆け寄る。

 

「僕からも助言だ、レフ。博物館の展示物をよく知るなら、勉強よりもコミニュケーションを密にした方が良い」

 

「⋯⋯勝ったつもりになるのは早いぞ!」

 

 レフは勢い良く立ち上がり、右手で持った石版を切嗣に見せつけ、歪んだ笑みを浮かべた。

 

「切嗣君! 君はこの石版の本当の価値を知らないだろう? アトラムとコルネリウスもそうだ! 奴らは目先の利益しか見ていない愚か者だからなっ! だが私は違う! 私はこの石版を使い、我らが王の為、人理焼却を」

 

「黙れ」

 

「ずべっ!?」

 

 切嗣に向かって喜々として語るレフの後頭部を、アルテラが背後から軍神の剣で叩きつけた。

 レフはその場で崩れ落ち、意識を失った。

 

「ありがとうアッティラ」

 

 切嗣はアルテラに礼を言うと、レフの手から石版を拾い上げた。

 

「⋯⋯アルテラだ。アッティラとは⋯⋯呼ばないで欲しい。あまり好きな名前ではない」

 

「分かった。でもどうして?」

 

「それは⋯⋯そんな事より、この男、どうするんだ?」

 

 アルテラはそう言って、地面に倒れているレフを見下ろした。

 

「縛ってある他の二人と同じ所に連れてってくれ」

 

「分かった。⋯⋯羊たち!」

 

 アルテラに呼ばれた羊の群れが、倒れているレフを背中に乗せ、博物館へ連れて行った。

 

「切嗣さん!」

 

 大河、士郎、オジマンディアスが石版を持った切嗣の元へ駆け寄ってきた。

 

「オジマンディアス、力を貸して欲しい、この石版を使って博物館のみんなを元の場所へ戻して欲しい」

 

 切嗣はそう言うとオジマンディアスに石版を渡した。

 

「地上に在ってファラオに不可能なし、余に任せるが良い」

 

 そう言って石版を受け取ったオジマンディアスは、石版に向かって古代エジプト語を唱えた。

 すると、石版は光出し、ロボを始め博物館の外へ出た展示物達が、博物館へ向かって進み始めた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 博物館の内玄関前で、次々と戻って来る展示物達の確認作業をする切嗣とオジマンディアス達。

 

「アルパカ」

 

「あぁ」

 

「ラマ」

 

「お帰り」

 

 そこへ、

 

「ヒヒ──ン!?」

 

 と、馬の下半身に人間の上半身、そして馬の頭部をした生き物が玄関の入り口に突っかかっていた。

 

「またか⋯⋯なぁ赤兎馬! 無茶するな、三回言っただろ、このドアはその体じゃ入れない。君とトナカイとヘラジカは裏の搬入口の方に回るんだ」

 

 切嗣の言葉に赤兎馬は、鼻息を荒くしながら言葉を返した。

 

「ヒヒン! しかしこちらからの方が私の展示スペースに近いのです! それと私は呂布ですよ」

 

「分かった赤兎馬、でも諦めて裏の搬入口に回ってくれ」

 

 赤兎馬は再びヒヒン! と鳴きながら、すごすごと戻って行った。

 

「切嗣!」

 

 切嗣の後ろから体が元に戻ったアルトリアが切嗣に向かって呼びかけた。

 

「あぁ! アルトリア!」

 

 切嗣は振り返り、アルトリアの元へ駆け寄って行く。

 

「元に戻って良かった」

 

 そう言い安堵の表情を浮かべる切嗣。

 

「えぇ、ホームズと熱い蝋のお陰です」

 

「そうだアルトリア、遅れてしまったが紹介するよ」

 

 そう言って切嗣は士郎と大河を呼び寄せた。

 

「こっちが息子の士郎、こっちがうちによく遊びに来る大河」

 

「初めまして! いやーまさかアーサー王とお近づきになれるなんてホントビックリですよ!」

 

 大河は陽気にそう言ってアルトリアにすり寄った。

 

「『アルトリア』で構いませんよ大河」

 

 そう言うとアルトリアは大河と固い握手を交わす。

 

「そして⋯⋯士郎、おや、どうされましたか?」

 

 士郎の方へ顔を向けたアルトリア。

 すると、士郎は頰を赤くしながら急いで自分の顔を隠す。

 

「あれぇ? 士郎、もしかして照れてる?」

 

「うるさいぞ藤ねえ!」

 

 士郎の様子を見てからかう大河と、彼女に向かって声を上げる士郎。

 

「なぁ、アルトリア、一つ頼みがあるんだが」

 

「えぇ、貴方の頼みなら何なりと。それで切嗣、その頼みとは?」

 

「この子達の友達になってくれないか? ⋯⋯後、僕も含めて」

 

 切嗣の言葉にアルトリアは一瞬、キョトンとした表情を見せたが、すぐに穏やか笑みを浮かべて

 

「えぇ、喜んで」

 

 と言葉を返した。

 

 ・

 ・

 ・

 

 玄関前で、戻って来る展示物達の確認作業を続ける切嗣とアルトリア。

 

「仏陀、一」

 

「あぁ、チェック」

 

「シマウマ、二頭」

 

「チェック」

 

「フォウ、フォ──ウ!」

 

 そこへ、フォウがトコトコと歩いて来た。

 

「キャスパリーグ、戻って来ましたか!」

 

「フォーウ!」

 

 フォウは甲高い鳴き声を上げながら、アルトリアの肩に飛び乗った。

 

「⋯⋯なぁ、フォウ。良いか? もう水に流そ」

 

「フォウ」

 

 フォウに話をする切嗣にフォウは右足でペシンと音を鳴らして叩いた。

 

「⋯⋯!」

 

「切嗣」

 

 フォウにやり返そうとする切嗣を静かに諌めるアルトリア。

 

「アルトリア! 見ただろ? コイツが先に手を」

 

「切嗣、『やられたらやり返す』を繰り返していてはキリがありません。貴方は大人です。ならば」

 

「分かったよ。やり返さなきゃ良いんだろ?」

 

「えぇ、それで正しい。⋯⋯さぁキャスパリーグ、もう行きなさい」

 

「フォウフォウ」

 

 アルトリアの肩から飛び降りたフォウは、そのままスタスタと博物館の中へ入って行った。

 

「これで全員、中に戻りましたね」

 

 アルトリアの言葉に切嗣が表情を曇らせて言葉を返す。

 

「いや、全員じゃない。小さくても勇敢な二人を失った」

 

 そう言い、切嗣は空を見上げる。

 

「大いなる勝利には大いなる犠牲が伴う、残念ですが⋯⋯! 切嗣、見て下さい!」

 

 アルトリアの目線の先には、ボロボロになりながらも階段をよじ登る信長とネロの姿があった。

 それを見た切嗣は表情を明るくさせて、彼女達の元へ歩み寄る。

 

「いやぁ、本能寺の変以来の危機じゃった⋯⋯残念であったのう切嗣! わしらを厄介払いしようとしてたんじゃろ?」

 

「まぁ、余の皇帝特権のお陰よな!」

 

「わしがおぬしをラジコンから脱出させたんじゃが⋯⋯」

 

「そう固い事を言うでない! 今は共に、生き残った喜びを噛み締めようではないか!」

 

「⋯⋯そうじゃな! (思考放棄)」

 

 以前とは違い、互いに仲良くし合う信長とネロ。

 

「本当に良かった。⋯⋯さぁ、博物館に戻ろう」

 

 ・

 ・

 ・

 

「では切嗣。また、明日の夜に」

 

 そう言ってアルトリアは、展示スペースに戻ったドゥン・スタリオンに跨る。

 

「いや、会えるかどうか分からないな。お咎めなしで済むとは思えない」

 

 切嗣はそう言うと、物が散乱し荒れ放題の館内を見渡した。

 

「ならば、別れを言わねばなりませんね。⋯⋯士郎!」

 

 アルトリアは、散らかった受付を整理していた士郎を呼んだ。

 

「貴方の父親は偉大な人です、私は、その様な人とその息子の友人となれた事を光栄に思います。士郎、これからも貴方の父親を助けて上げて下さい」

 

「⋯⋯はい!」

 

 アルトリアの言葉に士郎は少し照れながらも誇らしげな表情を浮かべて返事をした。

 

「⋯⋯思った通り」

 

 アルトリアはそう呟くと、優しい翠緑の瞳で切嗣を見つめた。

 

「⋯⋯それじゃあ、おやすみ」

 

「いえ切嗣、もう夜は明けた」

 

 切嗣は、静かに頷くと

 

「そうだ、アルトリア」

 

 切嗣が見上げるとそこには、朝日に照らされたアルトリアが元の蝋人形へと戻り、凛々しく佇んでいた。

 

「⋯⋯ありがとう」

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