Fate/stay ナイトミュージアム   作:三流笛吹き

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『東京国立博物館』編
episode.1


 満点の星が煌めく夜空に照らされた、遠い南海の孤島の地。

 

 隣に立つ褐色肌の少女が、こちらへ向かって優しく笑みを浮かべながら語りかけてくる。

 

 ──ケリィはさ、どんな大人になりたいの? ──

 

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『この飛行機は、ただいまからおよそ20分で大分空港に着陸する予定でございます。ただいまの時刻は午前7時30分、天気は晴れ、気温は9℃でございます。着陸に備えまして、皆さまのお手荷物は、離陸の時と同じように上の棚など、しっかり固定される場所にお入れください……』

 

「ん……うぅぅんっと」

 

 CAによる軽やかな機内アナウンスの声により微睡から覚醒した切嗣は、軽く体を伸ばした。

 

「うぅん、流石に疲れが溜まったか? それにしてもあの夢、⋯⋯あれ? ⋯⋯僕はあの後なんて答えたんだっけ⋯⋯」

 

 そう、夢の事について思いを馳せていた切嗣だったが、暫くして機内アナウンスの事を思い出し、慌てて考えを切り替えた。

 

「っと、そんな事より、早く飛行機から出る準備しないと⋯⋯」

 

 

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 衛宮切嗣は、大分空港を出た後タクシーを使って、自宅がある吹幸市の深山町へと向かった。

 

 暫くして、タクシーは目的地である切嗣の自宅、純和風建築の屋敷の前に辿り着いた。

 切嗣はタクシーの運転手に料金を支払い終えると、タクシーを降りて、自宅の玄関へ真っ直ぐ向かう。

 

「ただいまー⋯⋯?」

 

 玄関を開け、家の中に居るであろう家族に向けてそう声をかけた切嗣だったが、玄関に置かれた靴の数が一足しか無いことに気付き、不審がる。

 そうしていると、切嗣の声を聞き、屋敷の奥に方から息子の士郎が出てきた。

 

「おかえり。って、その様子じゃ、父さん本当に携帯の履歴見てないのか」

 

「え? 履歴?」

 

「何度も電話したし、メールだって送ったんだぞ」

 

 士郎の言葉を聞き、一気に顔を青くした切嗣は、慌ててスーツケースを開けて、荷物が適当に詰められた中からプライベート用のスマートフォンを探し出した。

 そして、急いでそのスマートフォンの電源を入れようとしたのだが。

 

「⋯⋯あれ、充電切れだ。普段業務用の方ばかり使ってたから全然気付かなかった⋯⋯」

 

「はぁー、そんな事だろうとは思った」

 

「因みに用件は⋯⋯?」

 

「実家に帰るって話」

 

 士郎は切嗣に向かって一言、あっけらかんにそう伝えた。

 

「⋯⋯そんな⋯⋯嘘だろ」

 

 士郎の言葉に切嗣は顔をより一層青くさせた。

 その様子を見て、士郎は呆れた様に言葉を付け加える。

 

「あーそっちじゃなくて。帰省だよ帰省。ほら、もうすぐ大晦日だろ? 俺は部活もあるし、何より、何も知らずに帰ってくるだろう誰かさんの為に残ってなきゃならないから付いて行かなかったけどな」

 

 その話を聞いて、切嗣は胸を撫で下ろすのと同時に、申し訳無さそうに顔を下げる。

 

「あぁ、本当ごめん⋯⋯」

 

「別に俺達の事は気にしなくても良いんだけど⋯⋯何時ものことだしな。それよりも⋯⋯」

 

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 深山町の西側郊外に広がる森の中にある吹幸市自然博物館。

 その玄関には『休館中』と書かれた看板がかけられていた。

 

 館内には、館長である遠坂時臣が一人、帰り支度をしている最中であった。

 そこへ、玄関のドアを開け、黒スーツに黒いコートを羽織り片手に紙袋を持った男が一人、館内へと入って来た。

 

「あぁ、そこの君。入り口の看板にも書いてある通り今日は休館⋯⋯」

 

 時臣はその男に声を掛けるが、すぐに、その男の顔が見知ったものである事に気付いた。

 

「あぁ、なんだ君か。また、想い出にでも浸りに来たのかな。ここ三ヶ月程見なかったが⋯⋯」

 

「忙しかったんで中々⋯⋯」

 

 切嗣が館内を見回すと、様々な大きさの木箱がそこらに積まれている光景を目の当たりにした。

 

「それより、息子から聞きました、改装するって。どういうことですか?」

 

「言葉の通りだよ。この博物館をリニューアルする⋯⋯上の人間の話によればだがね。まぁ、もっと具体的に言うならば、年末の大掃除さ。古い展示物を一掃し、この博物館は生まれ変わる⋯⋯らしい」

 

「⋯⋯じゃあ、古いのは何処に?」

 

「東京国立博物館の倉庫さ。其処に保管される」

 

「そんな事⋯⋯一体誰が決めたんです?」

 

「勿論、私だ。私と市議会。主に市議会。⋯⋯何故そんなに気にするのかね?」

 

「いや⋯⋯ただその、どの展示物も人気だったから⋯⋯」

 

「人気だったならばこんな事にはなってない。⋯⋯君がここの警備員を勤め始めた頃、ある不可思議な事が起きて、この博物館の来場者数が飛躍的に伸びた。だが結局、それは一過性だ。今では客の入りも以前と同じ、もしくはそれ以下だ。まぁ、そうなる前に君はここを辞めていったがね」

 

「状況が変わったんです。ビジネスが上手くいって、それで」

 

「君を責めている訳じゃないさ。 誰だって高収入かつ高待遇な職があれば、そちらを選ぶだろう。舞弥君だって今では別の職場で頑張っているようだ」

 

 時臣の言葉に切嗣は、暫く押し黙ってしまう。

 

「⋯⋯展示物を移す件、何とか中止に出来ませんか?」

 

「残念ながら無理だ。明日の朝直ぐ、輸送業者が来て送られる。⋯⋯だから今夜は玄関の鍵は掛けない。どうせこんな博物館に盗みに入る者も居ないだろうしね。⋯⋯名残を惜しむなら今夜が最後のチャンスだ」

 

 時臣はそう言い残すと、切嗣を一人残し、正面玄関から外へ出て行ってしまった。

 

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 太陽は完全に沈み、博物館の周りは暗い夜の闇に包まれた。

 

 すると、石版の魔力が発動し、博物館の展示物に命を吹き込んだ。

 

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 玄関ホールで一人たそがれている切嗣。

 突然、その背中を大きな鼻先でつつかれた。

 

「うわ! ⋯⋯あぁ、君か! 久し振りだなぁ、調子はどうだ?」

 

「◾️◾︎◼️◼️!!」

 

 ロボは鼻息を荒くさせながら、切嗣の持つ紙袋に視線を向けた。

 

「おっと、早速興味津々だな。今日は君に良いものを持って来たぞ。そぉれロープだ!」

 

 そう言うと切嗣は、紙袋から大きな縄のロープを取り出し、端の方をロボへ向けて投げる。

 

「◼️◾️◼️◾︎!!」

 

 ロボは、自分の方へ投げられたロープの端を、勢い良く噛み付いた。

 

「綱引きするか?! おっと!」

 

 切嗣とロボで暫くロープを引っ張り合っていたが、

 

「◼️◾️◾︎◼️◾️◾︎!!!!」

 

「おぉっと!?」

 

 ロボは勢い良く顔を振り上げ、ロープを掴んでいた切嗣を思いっ切り吹き飛ばしてしまう。

 

「うわぁぁあ!!」

 

 吹き飛ばされた切嗣は、そのまま荷物が積まれていた場所に頭から突っ込んでしまう。

 

「⋯⋯うぅーん」

 

 荷物がクッションになり、比較的無事に済んだのか、ふらつきながらもなんとか立ち上がる切嗣。

 その途端、館内のあちこちに置かれていた木箱の中から、しまわれていた展示物が飛び出して来た。

 先程まで静かだった夜の博物館が、一気に騒がしくなった。

 

 そんな中、白馬に乗った少女が、切嗣の元へと近付いて来た。

 

「切嗣! 暫く振りですね。また会えて嬉しいです」

 

「アルトリア! あぁそうだな、僕もだよ」

 

 二人はそう言葉を交わすと、固く握手した。

 

「フハハッ! 久しいな! 吹幸の守護者が戻ったか!」

 

 高笑いと共に館内の奥から、オジマンディアスがその姿を現わす。

 

「あぁオジマンディアス! 久し振り!」

 

 その他の展示物達にも一通り挨拶を済ませた切嗣は、真面目な顔に戻りアルトリアに話かける。

 

「そうだ、館長から聞いたよ。驚いた」

 

「えぇ。以前、貴方が訪れた後に色々あり」

 

 切嗣とアルトリア、二人が会話を進めていると突然、

 

「ぉーぃ! ぉーぃ!」

 

 館内にある一つの木箱の中から小さな叫び声が聞こえてきた。

 

「あー待て待て! 今出すから」

 

 その声を聞いた切嗣は、急いでその声がする木箱へと駆けつけ、木箱の蓋を開けた。

 木箱の中から、信長とネロが姿を現した。

 

「やぁ久し振り。調子はどうだ?」

 

「ほほぉう。いよいよ最期という時にようやく顔を出してわしらに言う事がそれかのう。『調子はどうだ?』じゃとう? そなたはわしらの気分が有頂天になっている様に見えとるのか? いや〜金持ちになるとヒトの心が分からなくなるんじゃなぁ〜」

 

「待てぃ! それでは余もそなたもヒトの心が分からない者という事になってしまうでは無いか!?」

 

「その通りじゃろ! 死に様思い出せぃ!」

 

「あーはいはい、そこまで」

 

 勝手に言い争い合う二人をなだめる切嗣。

 

「⋯⋯事情は聞いたよ。どうしてこうなったかさっぱりだ」

 

「そうじゃろうな! そなたは肝心な時に何時も居なかったからのう!」

 

「つまり日中、我らの想いを代弁する者が誰も居なかったのだ」

 

「「「「ノブ! ノブ! ノブ!」」」」

 

 信長とネロの意見に沢山のちびノブが声を合わせた。

 

「落ち着きたまえ。そもそも、切嗣の転職には皆が賛同し、共に祝っただろう?」

 

 その様子を見かねたホームズがパイプを片手に信長達をたしなめる。

 

「ありがとうホームズ。⋯⋯みんな大丈夫だ! 明日市議会に電話するよ。コネが利く、任せろ。元通りになる」

 

「ハッ! 元通り? 何ともお目出度い奴じゃのう」

 

「切嗣。最早、後の祭りである。ローマの栄光さえ終わりを遂げたのだ⋯⋯」

 

 ネロはそう言って遠くの方を見つめた。

 

「ナルシストチックに遠くを見て言うのはやめてくれないか? テンションが下がる」

 

「何を言っているのか余は分からぬ⋯⋯」

 

「どこ見てる? 何見てる? 僕はここだ」

 

 そう言ってネロの視界の前で身振り手振りをする切嗣。

 

「⋯⋯ちょっと、そっちの壁の方をな⋯⋯」

 

「なぁ、そう悪い話じゃないかm」

 

「悪い文明? 破壊する!」

 

【悪い】という単語に反応したアルテラが声を荒げた。

 

「あぁ、そうだな。でも君達が行くのは天下の東京国立博物館だ」

 

「フォウフォーウ!」

 

 一言、物申したそうに鳴き声を上げるフォウ。

 

「フォウ、決めつけるな」

 

「フォーウ」

 

「えぇい! ズレた事言うでない鉄人28号! わしらはお払い箱なのじゃ!」

 

「我らを励まそうとしているのであろう? 僅かだが気に病んでいるのが見て取れるぞ。だがしかし! 環境が変わってしまうのだ! 皆で集まる事が出来ぬ。ここの様にな」

 

「二人共、もうよしましょう。⋯⋯申し訳ない切嗣。皆、感情が昂ぶっているのです」

 

 アルトリアが信長とネロを諌める。

 そして彼女は展示物達に向かって語り始めた。

 

「⋯⋯我々仲間達にとって最後の夜。自らを憐れんで過ごすのは口惜しい。そこで皆に提案です。最後にこの神聖なホールを一巡りしてみるのはどうでしょうか?」

 

 アルトリアの提案に、展示物達の殆どが賛成の意を唱えた。

 

 

「そなたも行くか?」

 

 ネロは隣にいる信長に問いかける。

 

「否、わしはここで、敦盛でも舞っておるよ」

 

「ふぅむ。では、おぬしの舞に合わせ、余が歌を歌おうd」

 

「お断りするでござる」

 

 一部の展示物は玄関ホールに残ったものの、アルトリアを先頭に多くの展示物達が博物館の散策へと向かって行った。

 

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 博物館の散策を終えた展示物達は、それぞれ自分がしまわれていた木箱へと戻って行った。

 

「フォーウ!」

 

「おっと、フォウ。大丈夫か、手を貸すよ」

 

 木箱の蓋を閉めようとするフォウの元へ駆けつけ、木箱に手をかける切嗣。

 

「フォウ!」

 

 その途端、フォウは木箱を勢い良く締め、切嗣の手を木箱とその蓋の間に挟めさせた。

 

「あぉう! 痛ッ!」

 

「フォウー」

 

 蓋を開け、木箱の中から切嗣を見上げるフォウ。

 

「そんな怒るなよフォウ。恨みっこなs」

 

 再びフォウは木箱を勢い良く締め、切嗣の手を木箱とその蓋の間に挟めさせた。

 切嗣は、木箱から手を離し、大人しくその場を後にする。

 

「直に日の出です、切嗣」

 

 そんな切嗣の元へ、アルトリアが歩み寄って来た。

 

「あぁ。それで、君の君の箱は何処に?」

 

「私は旅には同行しません。どうやら私とロボ、いくつか特別な展示物は此処に残るようです。一先ず」

 

 アルトリアの言葉に切嗣は表情を変えた。

 

「え? ⋯⋯それじゃあ石版は⋯⋯」

 

「えぇ、ラムセス二世と彼の石版も此処に残ります。つまり、彼らにとっては今夜が『最期』の夜だったのです」

 

「その話、皆には?」

 

「勿論、伝えています」

 

「⋯⋯納得したのか?」

 

「⋯⋯皆、元々自分達がただの展示物である事は理解しています。そして本来、展示物とはこの様に動き回らないという事も⋯⋯それでも、やはり、受け入れ難かったようですが⋯⋯」

 

 ふと、切嗣の顔を見たアルトリアは、彼の不安そうな表情を見て、声のトーンを上げ話を付け加えた。

 

「ですが、大きな変化によって更にチャンスを得る場合もあります。貴方が良い例だ。此処を離れ、自らの力で人生を切り開いた」

 

「⋯⋯そうかな、ただ成り行きに身を任せただけで僕は何も⋯⋯」

 

「謙遜など不用です、友よ。今や貴方は産業界の大物、手に入らないモノなど無い。望みは全て叶えられたのでしょう?」

 

 そう言うと、玄関ホールの端で佇んでいるドゥン・スタリオンに跨るアルトリア。

 

「あぁ、分かってるさ。⋯⋯多分」

 

 切嗣の物憂げな様子を見て、アルトリアは言葉を続けた。

 

「⋯⋯いいえ。その様子では分かっていませんね。余計かもしれませんが、貴方にちょっとした助言を送らせて頂きましょう。幸福の鍵は⋯⋯本当の幸福を得るには⋯⋯」

 

 突然、切嗣の胸ポケットからスマホの着信音が発した。

 

「あ⋯⋯すまないアルトリア。ちょっと待ってくれ」

 

 急いでスマホを取り出し、用件を確認する切嗣。

 

「よーし、これで。それで、幸福の鍵って⋯⋯」

 

 スマホを胸ポケットにしまいながら顔を上げてアルトリアの方を見た切嗣だったが、

 

「⋯⋯」

 

 既に夜は明け、アルトリアを含む博物館の全ての展示物が、元の【ただの】展示物へと戻っていた。

 

「⋯⋯それじゃあ、アルトリア」

 

 切嗣は、一言だけそう残すと博物館の外へと向かった。

 

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 その日の夕方。

 

「それで、やっぱり駄目だった? こう⋯⋯なんとか出来ないのか?」

 

 家に帰って来た切嗣に士郎が問い詰める。

 

「父さんだって歯痒いさ。でも出来る事はやったよ。館長と話し、市議会と話した。でも、予定通り今朝送られた。仕方ないさ」

 

 そう言いながら切嗣は、仕事用の書類を纏める。

 

「⋯⋯そうだ士郎、今日、父さんこれから東京の本社に戻らなきゃならなくなったんだ。だから父さんの分の夕飯は作らなくて良いよ」

 

「こんな時に仕事するのか」

 

 呆れ気味に士郎は言った。

 

「前は毎晩、仕事してただろ?」

 

「でも前の父さんはもっと格好良かった」

 

「格好良くても安月給じゃ家族を養っていけないだろう?」

 

 二人がそんな会話をしていた時、突然、自宅の固定電話の電子音が響いた。

 それを聞いた切嗣が固定電話の表示を覗くと、見知らぬ番号からの電話がかかってきた。

 少し不審に思いながらも、切嗣は受話器を取る。

 

「はい、もしもし」

 

 すると返って来たのは、意外な声だった。

 

『デカ男! わしじゃ! 信長じゃ!』




Q.最後の更新から三ヶ月以上経ちました。ある程度ストーリーのプロットなどは完成していますよね?

A.プロットどころか今後の展開すら考えていません。完全な見切り発車です。


Q.ラリーは警備員を辞めた後に発明家になりましたが、切嗣は警備員を辞めた後、何をしているのですか?

A.分かりません。誰かアイデアを恵んで下さい(土下座)。


こんなガバガバ具合ですが、今後もどうか、何卒、よろしくお願いします。
(次回更新時期は未定)

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