夜明けのターン   作:金碧

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勢いで3話目まで。不定期で更新する予定ですし話自体も長くするつもりは無いので、どうかご了承を。…………というかこんな駄文読んでるヤツなんているのか?


街角の風

イングレッサ領のとある街ノックス。そこはかつて、ムーンレィスと地球人との戦いが繰り広げられた場所。今では復興が進み、そういった気配は感じられないほどの盛り上がりをみせている。

 

 

知らない場所ではない。特に、隣で歩いているお姫様が言うところのパン屋などは、よく知っている。何しろかなり立ち寄っているし、店主であるキース・レジェにはさんざん世話になっている。

 

 

「お知り合いだったのですね」

 

 

「父の古くからの友人だったとかでな。あとパンが美味いから、なんなら実家より居着いているかもしれん」

 

 

「やはり噂通りでしたか。母がよく、その店の味について口にしていたものですから」

 

 

隣でそう語る少女の話に、少し意外さを感じ、しかしそうではないと思い、考えを打ち消した。

 

 

郷愁なのだろう。誰も語りはしなかったが、彼女の母についての事情は知っている。おそらく、過去を懐かしんで、娘に語って聴かせたのだと想像できる。………親衛隊の隊長が未だに追いかけてこないあたりは、そういった裏があったからではないだろうか。

 

 

少し考えて、少女に目を向ける。長い金色の髪を一つに纏め、麦わら帽子をかぶっている。彼女の容姿は目立つと思い、自分が着用するように勧めたものだ。服装も、ワンピースのような服を着ている。これは彼女が持ち込んだもので、はたから見ればお忍びで顔を隠しているお嬢様にも見える。………間違ってはいないが。

 

 

隠す気はないのか、と疑われそうだが、正体を知られなければそれでいい。むしろ露骨に事情があると匂わせれば、詮索してくる輩もそうそう出ないだろう。これも世渡りの術だ。

 

 

「格好を変えるのはよいのですが、必要があるのでしょうか。私自身も、一介の旅人に過ぎないはずですが」

 

 

自身が目立つ人物だという自覚はないようだ。それにまだ隠し通せているつもりでもあるらしい。少し頭が痛くなるが、当たり障りのない回答を模索し、口にする。

 

 

「ルーナは美人だからな、目立つんだよ。極力面倒ごとは避けておきたいし、少しだけでいいから我慢してくれると助かる」

 

 

「…………………」

 

 

「ん? 何かあったか?」

 

 

「い、いえ…その………なんでもありません」

 

 

日に当たっていたからだろうか。傍らの少女の顔が、少し火照っているように見えた。

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

「いらっしゃい!……と、誰かと思えばリオスじゃないか。元気にしてるみたいだな。ソシエさんから愚痴が来てたぞ」

 

 

「うっ、それは…出来れば、聞かなかったことにしといてほしいんだけど」

 

 

呆れている母の表情を思い出し、少し気落ちする。帰ったらいつもの説教が待っているだろう。そういった時に父は役にたたない。隣で苦笑いをしているだけだ。理不尽な未来を想像し、やはり父を恨んでおく。

 

 

目の前の人物はキース・レジェという、パン屋を営んでいるムーンレィスだ。店の評判はかなり良く、一時期はイングレッサ・ミリシャの兵站を担っていたほどだ。いつも混雑していて、売り上げは心配する必要を感じない。

 

 

「それにしても、お前さんが女の子をつれているなんてな。帰ったらもうひと騒動起きるんじゃないか?」

 

 

さらに騒動が起きるだろう。それは想像に難くない。………とりあえずこの人は巻き込んでおこう。そう思い、事情を打ち明けることにした。

 

 

「なるほど、それは大事だな。とすると、ここに来たのはパンだけが目的じゃないんだろ?」

 

 

さすがに話が早い。そう、ここを訪れた理由は、案内を頼まれたからという以外にも、もう一つある。人と会いに来たのだ。厳密には、その中継を頼みに来たんだが。

 

 

「店…」

 

 

「うん?」

 

 

「今日は空いてるんだな。珍しいこともあるもんだ」

 

 

そう言いつつ周りを見渡してみる。なにやら真剣にパンを選んでいるお姫様の他には、ポツポツと客がいる程度だ。

 

 

「まだ昼前だから、これから増えるよ。それに…」

 

 

「それに?」

 

 

「実は2号店ができてな!うちの倅なんだ」

 

 

言われて納得する。彼の息子とは友人で、3つほど年上の、いい兄貴分だ。父親のことをとても尊敬していて、修行もかなり熱心に取り組んでいた。彼が店を持ったというのは、自分のことのように嬉しく思う。

 

 

「それは知らなかったな。後で訪ねてくるよ」

 

 

「ああ、驚かせてやる、って意気込んでたからな。そうしてもらえるとアイツも喜ぶ」

 

 

どうやら目的地が増えたらしい。とはいえ、そう離れてもいないようだし、なにより喜ばしい道先だ。父も、キースが店を持った時、同じように感じたにちがいない。

 

 

「リオス。私は決めましたが、あなたは選ばなくてもよいのですか?」

 

 

「あ、悪い、今決めるよ」

 

 

「こちらもすまなかったなお嬢さん。時間取っちゃって」

 

 

「いえ、お知り合いなのでしょう? なら、積もる話もあるというもの」

 

 

「ありがとう、お嬢さん。代わりと言ってはなんだけど、まけとくよ」

 

 

「まあ、それは……よろしいのですか?」

 

 

「もちろん。………彼をよろしく頼む」

 

 

「それならば、承りました」

 

 

「重ねて、ありがとう」

 

 

こちらがパンを選んでいる間に、何か話していたらしい。内容は分からないが、当たり障りのないものだろう。

 

 

「リオス! 店主さまが、まけてくれるそうですよ?」

 

 

それはまことか。彼女の交渉術に内心舌を巻く。世間知らずかと思っていたが、なかなかどうして、世渡りが上手いらしい。

 

 

「それなら、もっと取っておくべきだったか」

 

 

「おいおい、少しは遠慮しろよ?」

 

 

「フフ……楽しそうですね、リオス」

 

 

 

 

 

それからしばらく、パンの感想を交えつつ、思い出話に浸った。どうやらルーナにとっては、どれも興味をひく話であったようで、自分の過去の出来事をさんざんに話された。こちらとしては堪ったものではないが、彼女の楽しそうな表情を見ると、少しの恥くらいは耐えようと思ってしまう。

 

 

「それじゃあそろそろ行くよ」

 

 

「そう、ですね。お世話になりました。お話、とても面白かったです」

 

 

「あんなのでよければ、いつでもお話ししますよ」

 

 

「楽しみにしておきますね」

 

 

「勘弁してくれ…」

 

 

別れの挨拶もほどほどに、店から出る。思っていたよりも、実りのある時間だった。そう考えるとルーナとの旅も悪くないように思える。

 

 

さて、次はどこを案内しようか

 

 

 

 

 

 

 

 

「また来いよ、いつでも」




それは、日常の風
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