夜明けのターン   作:金碧

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というワケで更新します。そういう気になったので。
極力穏やかな雰囲気を目指して書いていたんだけども、やっぱりガンダムってついてる以上は……ね? 分かるでしょ?


ターンの夜明け
目覚めのターン


「それで……どうするんだ?」

 

「ええと?」

 

「帰りだよ。どこへ送ればいいのか、って」

 

彼女との旅。その終着点として月の繭まで来た。後はこのお姫様を無事に送り帰すことが、自分の最後の役目だろう。だが、肝心の帰りについては何も算段を立てていなかったことを思い出し、そう質問した。

 

「そうですね……。サンベルトの辺りにホエールズが寄港している筈です。送っていただけるなら、そこでしょう」

 

「ホエールズ? ……あぁ、アルマイヤー級の」

 

聞き覚えのある名前だ。20年前に父たちがギンガナム艦隊追撃の折りに乗っていた船であったと記憶している。

 

「いつの間に降りて来てたんだ……」

 

「私が貴方と出会う少し前に降下しましたから、数週間前ということになりますね」

 

それならば、情報が回って来なかったことにも頷ける。彼女がそれを知っているということは、恐らく地球までその船に乗っていたと考えていいだろう。

 

「つまり君は、それで地球まで来た、と」

 

「はい。家出同然とは言いましたが、ちゃんと地球上の視察という名目はありましたから」

 

それで飛び出して現地の案内役と二人旅というのもどうなのか、と思ったが口にはしなかった。何せ自分も共犯の様なもので、家出同然(母親にはそう思われているらしい)で旅をしているのも同じなのだ。自ら墓穴を掘る必要は無い。

 

ここで考えるべきなのは、彼女が乗って来たという船についてだ。彼らからすれば、月の女王の娘を乗せていた筈が機械人形ごと居なくなっていた、という事態になる。それはつまり……

 

「騒ぎになってるだろうな、船の中は」

 

「それは……大変申し訳なく思っています。ブルーノとヤコップには悪いことをしました。船の人たちや、スモーのパイロットにも謝らなければなりませんね…」

 

(あれって借り物だったのか…)

 

再び聞き覚えのある名前が彼女の口から発せられた。そして、その名前を聞いて少し安堵する。あの2人ならば話が通じるだろう。心配事が1つ解消されたと言っていい。もし親衛隊長殿などがいれば、いらぬ胃痛を抱えるはめになっていたのは、想像に難くない。

 

「じゃあ、サンベルトのディアナ・カウンターの駐留地まで行けばいいのか?」

 

「ええ。お付き合いいただき、感謝致します」

 

「旅の終わりは家だ。そこまでは付き合えないけど、途中までは同行させてもらうよ」

 

「十分です。あなたのおかげで、良いものを見させてもらいましたから…」

 

良いものを見た、というならば、こちらも同じだ。その感謝の分も含めて、彼女を無事に送り届けなければならない。ここ20年、大きな争いは無かったが、賊相手の小競り合いならばいくらでも起きている。だからこそ、途中までとはいえ付き合わなければならないのだ。別に他意は無い。

 

「なら、行くか」

 

「はい。行きましょう」

 

旅は終わる。20年前の繋がりを辿る道行きは、地に月の光で覆われた戦士達の前にて幕を閉じる。

 

…………最後に、目に焼き付けておこう。

 

繭を見つめる。この景色を忘れないように。戒めと感謝を込めて。

 

 

 

 

そうして。月の繭を見つめていると、視界の端に何かが写った。

 

かなり距離があるためによくは分からないが、巨大な人型だ。しかも、複数でこちらに近づいてきている。

 

「機械人形、か……?」

 

「リオス?」

 

「ルーナは先にスモーまで行ってくれ。誰か来たみたいだ」

 

「賊でしょうか?」

 

「分からない。けど、念のためだ」

 

「承知しました。リオスも、気をつけて」

 

そう言ってルーナは少し離れた場所に隠してあるスモーの元へ走った。

 

機械人形と言っても、飛行できる機体を複数所持している組織などは、ディアナ・カウンターぐらいだろう。キースさんからフランさん経由で逐一近況報告もしていたし、迎えが来た、と考えることもできるが、何か嫌な予感が抜けない。

 

影が近づく。やがて、その姿を判別できるほどまで距離が狭まると、ようやく理解する。嫌な予感は間違いではなかった。影の正体は、あれは………

 

「バンデットに…マヒロー!?」

 

過去にギム・ギンガナムが率いた部隊の機械人形たちが、こちらに向かってくる。ルーナの所在がバレたのか、そもそもギンガナム艦隊の残党がいたのか、疑問が頭の中を覆いつくす。

 

「焦ってる場合か……!」

 

急いで周囲を見渡す。そして、ちょうどよく人間が1人は隠れられそうな岩影を見つけ、そこへ体を滑りこませる。

 

何が目的なのか、見極めなくてはならない。緊張からか、額から汗が流れ落ちてくる。一度深呼吸をして、冷静さを少しばかり取り戻してから、機械人形たちに目を向ける。

 

「バンデットが1、マヒローが6。スモー1機じゃどうにもできんぞ………」

 

状況を分析する。もし仮に戦うことになった場合、こちらが圧倒的に不利だ。スモーの性能が良いからと言って、多勢に無勢であるし、バンデットまでいるとなれば、パイロットが余程ヘタクソでもない限りは勝てないだろう。下手をすれば、逃げきれるかどうかも怪しい。

 

『よし。お前ら配置に着きな!』

 

「女の声……?」

 

バンデットから声が聞こえる。無線ではなく広域拡声機能を使っているのだろう。その声は、女性の声のように受け取れた。

 

マヒロー達が繭を囲うように動きを止めた。そして、バンデットは繭の上方に位置し、やがて謎の光のようなものを繭へ放ち始めた。

 

『コイツもナノマシンを使ってるっていうならさ、これを溶かすぐらいは出来るだろ!』

 

鈴の音が聞こえてくる。目の前の光景も相まって、不快感が募る。頭を振って思考を直す。

 

女の声は、溶かすと言ったのか。もしその言葉が本当だとするなら、彼女らの目的は月の繭、その中身ということになる。

 

「繭を、孵そうって…!?」

 

冗談ではない。20年前も、そのまた遥か昔にも、この2つのターンによって世界は甚大な被害を被った。ようやく彼らも眠りにつけたというのに、また目覚めさせようというのか。

 

光が強さを増す。眼前の巨大な塊が、崩れさっていく。平穏な世界が、音を立てながら消えていく。

 

 

 

やがて、繭が溶け、蝶が孵る。

 

 

 

「なんて、ことを………」

 

 

 

『アハハハハハ!やれば出来るじゃないか!さあ、お目覚めだよ、ギム!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ターンが目覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ターンの風が吹く

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