もう1人の陽だまりの親友   作:黒雪兎

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皆さま、遅れながらに新年明けましておめでとうございます。
今年も「もう1人の陽だまりの親友」をよろしくお願いします。


第10話

曇った空からはポツン、ポツンと雨が降り出してきた。

すぅ、と息を吸って、声を張り上げる。

 

「・・・っ、響ー!どこだー!」

 

遠く叫ぶが、響の声は帰ってくる訳もなく、その場で少し止まって息を整え、また闇雲に走り出す。

 

——————コトの顛末は1時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

響が家出したと聞いたのは、俺たちがいつも通りに迎えに行った時だった。

いつもなら響が顔を出す筈なのだが、今日に限って、響の母親が顔を出した。

 

「おはようごz「貴方たち、響を見てない!?」へっ?」

 

ガシッと両肩を掴まれ鬼気迫る表情でそう言った。

突然の事態に、何が何やらサッパリ分からず、首を横に振って、見ていないと伝えれば肩を離しポケットから折り畳められた紙をコチラに手渡す。

何やら嫌な予感を感じつつ、未来と目を合わせつつ、恐る恐る紙を広げる。

広げられた紙には震える字で短くこう書かれていた。

 

『これ以上お母さん達や2人に迷惑をかけれません。さがさないでください。響より』

 

「こ、これって・・・」

 

「か、完全に家出だよ誠くん!?」

 

未来が焦った顔で俺を見る。

じんわりと嫌な汗が背中に伝い、思わず紙をぐしゃぐしゃにしそうになる。

 

「そ、そうなのよ!響がどこに行ったか分からなくて。家の鍵と携帯も置いて行ったみたいで、貴方たち2人なら何か知ってるかもって・・・!」

 

心臓がドクンドクンと煩く鳴り——————脳裏に想像したくもない事が頭を過る。

 

「っ!あんのバカ・・・!」

 

「わっ、あっ、誠くん!?」

 

そう思ってしまったら、いても経っても居られず

、鞄を未来に押し付け走り出す。

とにかく思い当たる場所を手当たり次第に見て回る。

公園や路地裏、近所のお寺などをみて回ったが、1時間経過した今でも一向に響の姿は見えていなかった。

 

 

ポツン、ポツンと弱く降っていた雨は次第にザーと強く降り出した。

傘なんて手元に無く、雨で濡れた制服が重くなって体に張り付き、走ると鬱陶しく感じるがそれを無視してひたすらに走る回る。

 

(早く・・・!早く見つけないと、取り返しがつかなくなるぞ・・・っ!?)

 

がむしゃらに走っているとポケットに入れてたスマホから電話が入る。

未来か?と思い見てみれば了姉からだ。

・・・正直言って出なくてもいいような気がするが、ここで無視しておくと後が怖いので、適当に屋根がある所に行き、息を整えてから電話に出る。

 

「・・・もしもし」

 

『ちょっと誠?学校から来てないって連絡来たけど、貴方いまどこにいるの?』

 

心配そうに了姉の声が聞こえる。

チラリとスマホの時計を見れば、とっくに学校が始まる時間を指していた。

なんだか申し訳ないなと思ったが、ここは少しばかりの嘘をつく。

 

「うん、ちょっと体調が『嘘おっしゃい。何年貴方を見てきたと思うの?声だけで察しがつくわよ?』うっ・・・」

 

所要時間数秒とかからずバレたよ、ちくせい・・・。

なんと言うべきか悩んでいると、了姉の方から声をかけられた。

 

『大方、貴方の友達に何かあったんでしょ?』

 

ドキリと心臓が跳ね上がる。

・・・なんでわかった?と聞けば、姉の感、らしい。

恐ろしきかな姉の感・・・。

 

「あぁ、そうだよ友達に何か会ったんだ。だから早く見つけないといけないんだ」

 

『それで?誠はその子と会ってどうするの?』

 

「会って・・・それは・・・」

 

言葉に詰まった。

響と会って俺は・・・・・なんと言えばいいんだ?

なんで逃げたと怒ればいいのか?ごめんねと謝ればいいのか?もっと一緒にいてあげれば良かったのか?

—————それとも、もう何もかもほっぽり出して逃ればいいのか?

頭の中はぐるぐると回るが、一向に答えは出ない。

1分の間か、はたまたそれ以上の間か言葉を出せずにいて、ようやく紡げた言葉は、

 

「・・・・・分からない。分からないんだ」

 

俯き、その場に項垂れるようにそう言葉を絞り出す。

そして、縺れた糸を解くように、ぽつりぽつりと自分の中にあった思いを呟いてく。

 

「最初はさ、罪悪感からだったんだ。あの時俺たちが誘わなかったら、きっと今でも3人で笑っていて、こうはならなかったんじゃないのかなっ?てさ」

 

最初は罪悪感から始まった。

学校に復帰して早々に響のイジメが始まってしまい、回りの人達が、状況が、どんどんと変わって行った。

そんな中でも俺たち2人は、響の手を引いて歩いた。

 

「・・・そんでもって、2人でアイツを守ろうと誓って、今日までがんばって守ってきたけど・・・結局、1番に守るべき心を守れてなかったんだ・・・」

 

引いていた手は気づけば離されていた。

だから今こんなことになってしまった。

頭の中は色んな思いがぐちゃぐちゃに混ざりまくって、自分の気持ちが分からなくなってくる。

電話の向こうの了姉が口を開く。

 

『・・・誠、それじゃあ貴方は守るのを止めるの?』

 

「——————————」

 

頭が真っ白になりそうになった。

守るのを止める。

それは響を、未来を裏切るのと同義だ。

そんなバカな事、何より自分自身が許せるわけがないだろう。

 

「———そんなの、そんなのできるわけないだろ!?アイツは俺たちの親友で、何に置いても、1番守らなきゃいけないんだ!」

 

・・・そうだ。

あの日、未来と一緒に響を守ると誓ったんだ。

アイツの身に降りかかる理不尽な事、その全部から、2人で守ると。

 

「———守るんだ。たとえ後ろ指刺されようが、ほかの人たちが否定しようと。俺は—————」

 

響だけの味方を貫くんだ。

そう思ってしまえば、心にあった重圧のような物がスッと軽くなり、視界か広がった気がする。

 

『だったら、守り抜きなさい。男の子がそう言ったんだもの、絶対に守り抜きなさい』

 

「あぁ、ありがと了姉。・・・それじゃあ、そろそろ行くよ」

 

頑張りなさいね、とエールを送られ、ピッと電話を切る。

—————絶対に見つけて陽の当たる所に連れて行く。

その思いを胸に、雨の中を走り出した。

 

(どこに響が居るんだ?響が居そうなところは全部走って回った。あと他に行ってない所は—————)

 

ピリリリっと電話が鳴る。

今度は未来からだ。

走りながら電話に出る。

 

「もしもし、どうした未来」

 

『響のいる場所が分かったかも!』

 

「っ、場所は!」

 

聞けば、共同墓地よりさらに向こうにある展望台。

今いる所からなら・・・10〜20分もあればつくか。

 

「未来は先に向かっててくれ。俺も今から向かう」

 

『わかったよ。先に向かってるね』

 

進路を展望台に向けて全力で走り出す。

 

 

 

 

———————————————

 

 

気づけば、立花響は1人ポツンと展望台に立っていた。

弱かった雨は次第に強くなって降り注ぎ、数分と待たずに全身が濡れ、服は体に張り付いて次第に冷えていく。

だが彼女はそんな事を無視して、今日までの事を振り返る。

最初の方は3人で笑い合った事が過ぎるが、次第に出てくるのは辛い思い出だけだった。

 

「・・・未来・・・せーくん」

 

吐く息は白く、手は既に冷え切っていた。

ここなら2人は来ない。ここなら2人に迷惑をかけない。ここなら2人も傷つかない。ここなら——————2人は暖かい所にいられる。

そう思ってここまできたが、

 

(でもやっぱり、独りぼっちは寂しい(寒い)よ)

 

そう思うとギュッと心が軋み、その痛みと涙の行き場は何処にもなく、

 

「・・・っぁ・・・っ・・・!」

 

ついには溢れポロポロと流れ出した。

寒い、辛い、嫌だ、一人ぼっちは寂し過ぎる。

色んな思いが溢れて、止まらない。

耐えれず逃げ出してしまったが、それでも最後の一線を超えずにいたのは天羽奏の残した、生きるのを諦めるな、という言葉。

それが小さく楔となって響に、最後の一線を踏み込めさせないでいた。

そしてもう一つ。

響が、本当にダメな時にこそ、彼女はやってくるという事を。

 

「ひびきー!!」

 

背後から、声が聞こえた。

幻聴かとおもったが、声だけでなく足音も聞こえる。

見れば息を切らせながらもこちらに駆け寄る、小日向未来の姿がそこにあった。

 

 

 

—————————

 

 

未来が響を見つけたのは本当に偶然だった。

彼女もまた響が居そうなところを走りまわって探している時、偶然にも近所の人たちが、共同墓地のあたりで響らしき人を見たという話をしていたからだ。

他に目星もなく、藁にもすがる思いで、走り出し、向かう道中、黒然誠に電話をしておいた。

 

パシャリ、パシャリと水たまりを踏んで靴が冷たくなるが構わず走りぬけ、

 

「ひびきー!!」

 

ポツンと項垂れるように立っていた立花響を見つけた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・っ、や、やっと見つけた・・・!」

 

響をこの目で見たとき、未来は心の底から安堵した、まだ一線を踏み込んで無かったと。

ここに来るまでに色々と考えていたけれど、思い浮かんだ言葉は一つだけ。

 

「響、帰ろ?」

 

優しく声をかけて歩み寄る。

 

「来ちゃ・・・来ちゃダメだよ、未来!」

 

それを今まで聞いたことない必死さで、響は拒絶した。

静かに足を止める。

響の俯く姿が、自分は罪人だと言っているようで・・・その姿は見ているこちらも辛いが何より、心が痛い。

そして、響が顔を上げない限り、自分1人だけではこれ以上近づけないという予感がする。

 

「お願い、だから・・・こないでよ未来・・・!」

 

雨の冷たさか、または親友にこんな事を言う罪悪感からか、響の声は震えていた。

けれど、その震えを止めるために、未来は———————私は、ここに来たんだよ響。

 

「帰ろう、響。そんな寒い所に居たら風邪ひいちゃうよ」

 

ここ(陽だまり)から優しく手を伸ばす。

だが、

 

「無理だよ、行けないよそっちには・・・!」

 

雨に濡れた髪を揺らしながら、彼女は言い捨てた。

 

「だって・・・みんな・・・みんな私が居なくなるのを望んでいるんだよ・・・?」

 

「そんな・・・そんなこと———————」

 

「でもみんな!死ねって・・・死ねって、死ねって、死ねって、死ねって!みんなが、私に言ってくるんだよ!?」

 

自分を罰するように肘に爪を立て、その場で両膝をつく。

そうでもしないと保てない姿を見て、未来は己の無自覚加減に嫌気がさす。

 

(響の心は、こんなにもボロボロで傷だらけ・・・!なのにどうして、私は今まで気付いてなかったの!?)

 

顔を上げ、生きるのが苦しい、辛いと叫ぶ。

それでも未来は、響に生きて欲しいと、幸せになって欲しいと願って必死に叫ぶ。

・・・響の目は、あの時諦めた方が良かったと言っている。

響の心は崖っぷちで、最早未来1人の声では届かない。

だから—————-

 

「ありがとう響。生きててくれて」

 

本当にギリギリのタイミングで、未来1人では行けなかった所をあっさりと超え、彼、黒然誠が息を切らせながらも、響の前に立った。

 

 

 

 

———————

 

 

 

 

「ありがとう響。生きててくれて」

 

言葉をぶつける。

生半可な言葉なんかじゃ伝わらない。

なら本気の言葉を、本気の思いを、響にぶつける。

 

「せい・・・くん・・・」

 

「生きてくれてありがとう。俺は何度でも響に言い続ける」

 

膝を折って、響と真っ正面から向かい合う。

癖のある髪は雨のせいでペタリと張り付き、目からはポロポロと涙が溢れている。

 

「響に生きて欲しいと願うのは俺だけじゃない—————そうだろ、未来」

 

「————あ——————」

 

ギュッと冷え切った両手を2人で握り、ちゃんと生きてて欲しいと願う者たちを、陽だまりの暖かさを、響に認識させる。

 

「生きるなと10回言われたら、生きて欲しいと11回、100回言われた101回、そう言われるたびに、俺たちは響に生きていいんだと言いづける」

 

「でも、辛いよ・・・苦しいよ・・・!」

 

絞り出すように言葉を吐き出す。

握った響の手は震えていた。

 

「・・・もうちょっとだけさ、頑張ろうよ響?」

 

もう、後には引けない形で未来と2人で、響に希望を見せる。

 

「みく・・・」

 

「今はまだ、他の人たちとこうやって手を繋げる事が出来ないけどさ」

 

優しく、握る手を強くする。

 

「いつか未来に人は繋がれるって、私は信じてる、だから—————」

 

冷え切った体を、2人で抱き寄せる。

 

「あ————————」

 

回した腕はとても頼りなかった。

俺1人の腕では、とても支えきれない。

・・・だが、俺は1人じゃない、未来がいる。

だから支えれる。

 

「「誓うよ、2人で—————俺(私)たちは、ずっと響の味方だ(よ)」」

 

「せーくん・・・みく・・・わた、し、わたし・・・!」

 

そのまま抱きしめられる形で、響は泣きじゃくる。

泣いて、泣いて、泣いて、泣き続けていると涙の量は減っていき・・・次第に泣き疲れたのかそのまま、スースーと寝息を立てる。

ふと空を見上げれば、先程まで強く降った雨は次第に弱まっていき、雲の間からは日差しが漏れ、次第に空は青空に変わり、虹が一つかかっていた。

 

「それにしても、安心して寝てるね響は」

 

「だなっと・・・」

 

寝てしまった響を背中におぶる。

スースーと寝息が耳に当たってこそばゆいが、それでも響がここにいてくれている、今はそれだけでよかったと心からそう思う。

 

「それじゃあ、帰るか3人で」

 

「うん、3人で」

 

きっとここからが本当の戦いだ。

負けたらそこで終わりで、しかもミスは許されない。

タイムリミットは無限で、それでいて敵は多数。

どれが正解、不正解なんて分かんなくて、どれから手をつければいいかもサッパリだ。

味方なんて全然いないが、それでも、負ける気は毛頭無い。

 

「やるぞ、未来」

 

「うん、やろう誠くん」

 

だから、こんな理不尽なんかに負けてたまるかと、世界に向けて宣戦布告をした。

 




握るこの手には、君を思う愛がある

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