未来と誓った寒い冬は過ぎ、季節は春になった。
辺りは暖かい陽気に包まれ、こういう日は日向ぼっこに限るよなーと老人みたいな事を思ってハンカチで手を拭きながら廊下を歩いていると突然、ドンッ!と押されて壁に追いやられ、胸ぐらを掴まれ囲まれる。
人数は6人程で、こっちは俺ただ1人。
俺の方は彼らとは面識はまるっきり無いので別のクラスの奴らだろう。
大方、響の味方をしている俺が気に喰わないからみんなで囲ってボコろうぜー、と言ったところか?
なんて考えていると、周りの奴らの何人かが、ポキポキと指を鳴らす。
それで脅しでもかけてるのだろうか?
「お前さ、キモいよ。立花の味方なんてしてさ」
「被害者の気持ち考えてるのか?」
「お前みたいなのが居るから空気が悪くなるんだ」
「だから、俺たちが粛清して、二度と来させないようにするって訳さ」
だからこれは正しいんだ、と彼等は言う。
チラリと周りを見れば、ひそひそ声で何かを話していたり、中には隠れて携帯を構えているやつもいた。
「はぁ・・・」
ハンカチをしまって、小さくため息を吐き、
「邪魔だ、退け」
ちょっとばかし睨んで、ドス効かせた声でそう言って、男子生徒たちを押し除ける。
待てよ!とか、逃げるのか!なんて声は無関心を貫いてさっさと歩く。
そのうちに、声は陰口に変わっていき、どこかに去っていった。
「おい、あれってよ・・・」
「アイツでしょ・・・」
「関わらないでおこう・・・」
ひそひそ声が喧しい。
本当に、自分たちが正しいことをしてるんだって思っているのなら、このまま追って真正面から言えばいいのに、なんて思いつつそのまま歩いて、色々と悲惨なことになってるであろう自分たちの下駄箱をスルーし2人が待っている裏口に向かう。
「あっ、誠くん。お帰り」
「ただいま。悪いな待ってもらって」
響は気にしないで、と言わんばかりに俺の鞄を投げ渡してくる。
軽くキャッチし、隠しておいた靴を履いて裏口から学校を出る。
ピューと風が吹き、思わずマフラーを口元まで上げる。
「暖かくなってきたとは言え、まだ冷たいな・・・」
「そうかな?誠くんが寒がりなだけだと思うけど。ねっ響?」
「うん、もう時期的にはマフラーいらないと思うよ?そんなに寒いならマフラーを新しいのに買い換えればいいんじゃないの?」
ほら結構ボロボロだし、と解れている部分を見せてくる。
いや、それは分かっているんだが、
「一応まだ使えるし・・・それに、家族が残してくれた数少ない物だからな」
「あっ・・・ごめん、そんなつもりじゃ」
シュンと、申し訳なさそうに顔を曇らせる。
「いいって、気にすんな。こんなの、ただの拘りみたいなもんだから」
なんでもないようにそう言い、コツコツと先に歩く。
「・・・強がっちゃってもう」
なんて、未来の声は聞こえないフリして。
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カチャンと鍵を開け、家の中に入り、手早くリビングの暖房とストーブを入れ、ついでにテレビも付ける。
テレビの横には写真立てがあり、そこには肩車されているまだ小さい頃の俺と、まだ生きていた頃の父さんと母さんが写っていた。
—————俺の父さんと母さんはどこにでも居るごく普通の夫婦だ。
良いことをしたら褒め、悪いことをしたら叱り、何でもないことで笑ってくれたりと、自分が知る限り、本当にごく普通の人たちで、そんな2人が俺は好きだった。
だが、ある日突然2人はこの世を去った。
理由は単純、不幸な事に交通事故に巻き込まれてしまったのだ。
(・・・確か原因は居眠り運転だっけか)
写真立てを手に取り、軽くホコリを取り、また元の位置に戻しておく。
スルスルっと慣れた手つきで首に巻いたマフラーを取り、畳んでおく。
テレビからは来週1週間の天気を予報が流れ・・・朝昼は日差しが出て暖かいが、夜は急に冷えこむ、との事。
(となると、なんか暖かいものが食べたいが・・・)
なんかあったかなー?と冷蔵庫を覗いてみたものの、昨日の余り物ぐらいしか入ってなかった。
これは明日買ってこないといかんな、と結論付け、とりあえずご飯炊くか、と1人呟いていると、寒い寒いと言いながら珍しく了姉が家に帰ってきた。
「あれ?お帰り了姉。ごめんけど、今日のご飯は昨日の余り物だからね」
「余り物でも良いわよー、誠の料理は美味しいからねー」
暖かいストーブに吸い寄せられながら、中々に嬉しいことを言ってくる。
冷蔵庫に入ってる缶ビール飲む?と聞けば、今日は珍しく、飲まないわと言った。
聞けば、こっちに寄ったのは家に置いといた資料が至急必要になったから、との事。
「しかもそれの関係上、もしかしたらまた何日か帰れない日があるかもしれないわ」
「んっ、りょーかい。じゃあタッパに入れとくから、休憩する時にでも食べて」
はいはーい、といった感じに了姉がストーブから離れ、二階の自室に直行、数分もせずに降りてきた。
こちらの方も、余り物のおかずを手早くタッパに詰めておき、はい、と手渡す。
「それじゃ行ってくるわね」
「いってらー。事故に気をつけて」
パタンとドアが閉まり、家にまた静けさが戻った。
カチャンと鍵とチェーンをし、リビングに戻った。
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カチャカチャとお湯で食器を洗っていると、ピロンと、誰から連絡が来た。
んー?と思い見れば未来からで、
『誠くんって、明日って何か予定ある?』
と書いてあった。
明日は・・・まぁ強いて言えば、食材を買いに出かけるぐらいだし、これぐらいは予定とは言わないか。
『予定か?ないけど、どっかに出かけるのか?』
『うん。ちょっと街の方まで買い物にでも行こうかなってさ。響の方は予定あるみたいだし、1人で行くならいっそ誠くんでも誘おうかなって』
『成る程。それで何時頃に行くんだ?』
『9時ぐらいかな』
りょーかい、また明日ね、と何気ないやりとりの返信してスマホをポケットにしまい、残りの洗い物をちゃっちゃと終わらせ、風呂の支度をして、明日に備えて寝るとしよう。
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草木も眠る丑三つ時。
月が煌々と輝くこの時間に、ズドドドド!と似つかわしく無い銃声が鳴り響く。
それが半透明の怪物、ノイズに当たりはするが、位相差障壁に阻まれ威力は減衰、ほぼ無効化される。
分かってはいるが、自衛隊の1人、津山一等陸士はクソッと悪態をつかずにはいられない。
ガシャンと弾切れしたマシンガンを手早くリロードし、ノイズに向かってまた打ち出す。
辺りには薬莢と炭素の塊が転がり、また1人、また1人とノイズ諸共炭素の塊になる。
心臓はバクバクと煩く鳴り響き、一刻も早くその場から逃げ出したい気持ちになるが、今ここで逃げてしまったら、麓の町にノイズらが流れ込み取り返しのつかない自体に陥ってしまう。
(そんなこと、あってはダメだ・・・!)
震える止まりそうな心を勇気で奮い立たせ、ノイズが自壊するときを待つが、ちょうど弾切れのタイミングで、槍の形に変形したノイズが、津山に突撃してきた。
マズいッ!と思うと同時に横に避けようとするが、変形した相手の方が早く、避けるのが間に合わない。
(———————)
思考が空白になる。
この一撃が当たれば、自分はアイツ諸共炭素の塊になる。
これは、ただの人間には防ぐ術はない。
そう—————————普通の人間には。
[絶刀・天羽々斬]
「——————歌?」
銃声と悲鳴しか聞こえない戦場(いくさば)に歌声が響くと同時に青い閃光がノイズをかき消した。
青い髪が月光に照らされる。
その手に持つ刀でノイズを切り伏せ、チラリと津山に一瞬だけ顔を向け、そのままノイズに向かって、歌いながら駆ける。
凛とした、それでいてまだ少女の面影がある声で彼女、風鳴翼は歌う。
それにより先ほどまで半透明だったノイズが歌声によって調律され、強制的にこちらの物理法則下に引き摺り込まれる。
そのまま、だん!と踏み込みノイズを横一線に切れば、ノイズは炭素の塊に変わっていった。
それを尻目に次のノイズの元へ向かう。
こちらを殺す為か、臆せずにノイズの何体かがこちらに腕を伸ばして来たり、槍のような形に変形して突撃してくるが翼は足を止めずにチャキ、と手に持つ刀を握りしめ、
「はぁ!」
そのまま斬!と振り抜き、青色の斬撃、蒼ノ一閃を放つ。
斬撃はそのまま槍に変形したノイズ諸共、まだこちらを視認していなかったノイズまで炭素の塊と化す。
不意打ち気味に背後から来たノイズも、知ってるぞと言わんばかりにくるりと逆手に持ち替え突き刺す。
音もなく消えたノイズを気にも止めずただひたすらにノイズを切り裂いていく。
その様はまさしく絶刀、なんて津山が思っていると助けに来た同僚の1人がぽつりと呟く。
「アレが、特異災害対策機動部ニ課が保有する、シンフォギアか・・・」
「シンフォギア・・・あの子がか」
コクリと同僚はうなずき、津山は再び翼の方を見る。
自衛官たちより翼の方を脅威と見做したのか、この場にいるノイズは全てが彼女を囲った。
その数は全部で4〜50と言った所、だが彼女はそれを気にせずに、その場で逆立ちし横回転すれば脚部のブレードが展開、一気にノイズを切り裂きながら移動。
ある程度数が減っていくと、体勢を戻し剣を上に向ければ上空から一気に大量の剣が出現、それを一気に射出し、残ったノイズを刺し貫く。
そして辺りは静寂に包まれる。
この間5分もかからずにこの場にいる全てのノイズを倒し斬った彼女は、静かに息を吐きピッと通信をニ課本部にかける。
『こちら、片付きました』
『ご苦労だったな翼。帰投してくれ』
了解ですとピッと通信を切り彼女は一人、その場を去る。
「あっ・・・君!」
津山が声をかけると、翼はピタリと足を止め振り返る。
「・・・なんでしょう?」
「ありがとう助けてくれて!」
ぺこりと頭を下げ津山は翼に感謝の意を示す。
「・・・いえ、防人として、当然のことをしたまでなので」
それでは、と軽く会釈し、今度こそ翼はこの場を去る。
もうすぐ暖かい春が来るというのに、風は冷たく、肌寒い。
ギュッと胸元にしまっておいた片翼のペンダントを握り、ぽつりと呟く。
「一人じゃ寒いよ、奏・・・」
もうこの世にいない彼女の名前を小さく吐き出し、彼女は1人、バイクに跨った。