もう1人の陽だまりの親友   作:黒雪兎

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本日は少し長めの本文でお送りします。


第13話

絶望が降り注いだ。

 

———————

 

辺りに悲鳴が響き渡り、ノイズの出現を知らせるサイレンが鳴るのと同時におたまじゃくしに似た怪物、ノイズが迫ってくる。

それと同時にパシッと未来の手を掴み、今いる大通りから近くの路地裏に駆け込む。

ビュッ!と背後で何かが通り過ぎ、背中に冷たい汗が流れる。

相変わらず頭がジリジリと痛むが、そんな事は無視して、殺しにくる災害から逃げる。

うなじの辺りがピリピリするのと同時に横道に逸れれば、先程まで自分たちがいた所に弾丸の形に変わったノイズが上から降ってきて、地面に突き刺さる。

 

「———!」

 

声にならない悲鳴をあげたのは果たしてどちらか、なんて事は今は気にしてられない。

やけに良く聞こえる耳には数千のノイズに蹂躙される人たちの声。

大人も子供も関係なく、助けてと泣き叫ぶ声と断末魔。

発狂した声を出しながら、誰かを呪う、消えてく声。

それらを無視して、今はひたすらに走る。

バクバクと心臓が喧しく鳴り、呼吸が乱れる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ッ!」

 

それでも走る、このまま逃げ続ければ、あとはノイズが勝手に自壊するだけだ。

路地裏をひたすらに右へ左へ進路を変えて走るが、ノイズはスルリと壁を通過し先回り、そのまま腕のような物を伸ばして殺しにくる———!

 

「ごめん未来!」

 

ドン!と攻撃が未来に当たらないような物陰に突き飛ばし、ノイズの標的を2人から1人に変える。

ひっきりなしに殺しにくるノイズを、如何な偶然か、はたまた奇跡なのか、その当たれば死ぬ必殺の攻撃をギリギリ掠らない所で避けていく。

ギリッと歯を食いしばりながら、右へ左へと避けていき、未来をノイズから遠ざける。

 

「誠くん!」

 

それに気づいた未来が物陰から顔を出して手を伸ばす——否、伸ばしてしまった。

未来に気付いた上空のノイズが未来の方を向き、そのままギュルンという音と共に形を弾丸に変化し、そのまま突き刺すとばかりに加速、未来に当たるまでは約3秒。

———未来は上空のノイズに気付いていない。

 

1秒、ダッ!と自分でも驚くぐらいに早く、未来の元にたどり着く。

 

 

 

2秒、未来を物陰から掴んで引っ張り出す。

 

 

 

3秒、引っ張り出した勢いそのままに、ノイズのいない方に突き飛ばし、自身も全力で後方に回避するが、突き飛ばしたその数秒差で回避が間に合わず、そのまま避けきれなかった左腕に、グサリと、ノイズが突き刺さる。

 

「えっ・・・」

 

未来の驚いた声が漏れた。

たとえ自分に他の人より強い回復力が有ろうと、触れれば死ぬノイズの攻撃が、俺の体を容易く貫いた。

 

「い———」

 

ピシッと体の一部が固まり、そこからひび割れた音と共に自分の体が崩れていく音と、

 

「いやああああああッ!!!」

 

未来の悲鳴が聞こえた。

ふらり、と体から力が抜けていき、バチバチと視界がスパークし、意識が一瞬だけ暗闇に飛んだ。

 

 

 

——————

 

小さかった頃の記憶が蘇る。

 

昔、まだ家族がいた頃、彼——黒然誠は子供心にこんな事を聞いた。

 

「どうやったら、父さんみたいに強い人になれるの?」と。

黒い髪色の天然パーマの男性、黒然蓮也は、そうだな・・・と考え「守りたいものがあるからかな」と答えた。

?と頭に疑問符を浮かべ、コテンと小首を傾げる。

その姿を見て、まだ分かんないよな、と言い少し乱雑に頭を撫でつつ、言い聞かせるように言葉を繋ぐ。

 

「心に守りたい物を思い描け。そうすれば、男というものは幾らでも強くなれるもんさ」

 

「守りたいもの・・・じゃあ、父さんの守りたいものってなに?」

 

「そりゃあ家族——誠と由香に決まってんだろ」

 

当たり前だろ?と笑い、後ろで聞いていた母さん——黒然由香が「この人はほんともう・・・」と顔を赤らめていた。

今にして思えば、惚気だなと思うが昔の自分はそんな事思いつくわけ無く、そうなんだ、と呑気に言っていた。

 

「まぁ俺の守りたいものは家族な訳だが、誠には守りたいものがあるか?」

 

と聞いてくる。

誠はうーん、と考え、口を開く。

 

「ぼくは———」

 

そこでプツンと途切れ、意識は現在に戻る。

 

 

——————

 

懐かしい記憶を見た。

 

 

暗くなってた意識が戻ると、激痛が左腕を通して、体全体に走る。

 

「————ッ!!」

 

「あ、あぁ・・・!」

 

ジワリ、ジワリと、1秒毎に体が炭素に変わっていき、激痛が駆け巡る。

ダン!と踏み込み、倒れそうになる体を立たせる。

今はまだ左腕だけだが、遅かれ早かれ、この浸食が頭か心臓に来たら今度こそ終わりで、次なんてない。

 

「やだ・・・いやだよ・・・お願いだから、死なないで・・・!」

 

懇願する様に、優しく俺の体を掴む未来。

視界には百を越えるノイズの群れ。

体に痛みが走り、心の内に絶望が燻り、目の前に死の恐怖が迫る。

 

——泣きたい/泣いてる場合じゃない

 

——もう終わりたい/まだ終われない。

 

——生きるのを諦めそうになる/生きるのを諦めたくない

 

弱音が溢れそうになるがそれを堪える。

 

「へいき、へっちゃらだ」

 

安心させるように顔に微笑を浮かべ、響の口癖を言い、心の奥底から引っ張ってきた嘘っぱちの仮面をつける。

そんな根拠なんてなく、そんな理屈もなく、そんな保証なんてどこにも無い。

ただ、未来を安心させたいがためについた、本気の嘘だ。

 

「未来だけは、絶対に助けるから」

 

背中には脂汗が流れ、心臓はバクバクと煩く鳴る。

それを顔には出さず、未来を抱えて、その場から全力で跳んで離脱、ノイズの攻撃を掻い潜り、路地裏から出る。

人1人分の重さを抱えて走ってるが、体に疲労はあまり感じなく、これが火事場の馬鹿力か、なんて他人事のように思った。

 

変わらず周りでは悲鳴が怨嗟の声があちこちに響き渡る。

 

大人が助けを求める——それを見捨てる。

 

子供が泣いてる——それを見捨てる。

 

知らない人がこちらに手を伸ばす——それを見捨てる。

 

(見捨てたんだ・・・助けれるかもしれない人たちを、俺が・・・見捨ててるんだ・・・!)

 

ギリッと強く歯を食いしばり、未来だけは殺させないとノイズを睨みつけ———力が欲しいと、心の底から望んだ。

 

 

—————

 

 

ズバッ!とノイズの大群が青い斬撃によって切り裂かれ、炭素の塊になる。

それを確認する間もなく、少女——風鳴翼は縦横無尽にノイズで溢れた街を駆け巡る。

戦闘開始からすでに数十分が経過し、辺りにはノイズ諸共炭素の塊になってしまった守るべき人たちの成れの果て——それが、いつかの片翼の姿と重なり、ジクリと小さな痛みが突き刺さり、呼吸が一瞬乱れる。

飛んでいた最後の鳥形ノイズを叩っ斬るとピピっと二課からの通信が入る。

 

「はい、翼です」

 

『その近くからはノイズの反応が消えた。次はそこから南西の方角だ!』

 

「了解です」

 

網膜に次の目的地が映し出されるのと同時に、キキィッ!とバイクが1人でに翼の着地点に滑り込むようにやってきた。

毎度毎度高確率でバイクを壊す翼のために、二課の技術部が作ったAIが積まれた翼専用の青いバイクだ。

それに軽やかに乗り込み、ブォン!と音を鳴らして、自分の足で向かうよりはるかに速いスピードで目的地に向かう。

ギュッと片手で胸元の——格納領域に仕舞い込まれた片翼のペンダントを握る。

手に取ってる訳ではないが、直ぐそばに彼女がいる気がして、痛んだ心が少しばかり、和らいだが、胸の内側は妙に騒つく。

・・・まるでこの先に何かあるぞと言わんばかりに。

 

(——いや、関係ない。そこに何があろうとも、ただひたすらに斬り伏せるのみ!)

 

前を見据えて目的地に向かう。

風鳴翼がそこに着くまで、残り約15分。

 

 

————

 

 

(どうして、こんな事になっちゃったんだろう・・・?)

 

未来の胸の内には後悔しかなかった。

 

(私が悪いのかな)

 

未来は誠に抱えられながらそう思った。

・・・この事で誰が悪いというの無いが、強いて言うなら、ノイズが現れたのは誰かの差し金という訳でなく本当に偶然な事と、彼の運が今日に限って致命的に悪かった———ただそれだけの話だ。

 

(いやだよ・・・)

 

助けられたから今度は自分が助けたかった。

ただそれだけの思いで物陰から手を伸ばす、伸ばしてしまった。

その結果、彼の体に消して癒えぬ傷を与えてしまった。

小日向未来のせいで黒然誠に望まぬ死が振るわれる。

それだけで未来は自分のせいでこうなったと自身を責める。

 

(私が余計なことをしたから・・・)

 

例え、誠が未来は悪くないと言っても、彼女は自分を責め立てる。

 

ノイズが迫る、誠は未来を抱えて避ける。

だが、炭素転換が進んで、体に激痛が走り、鳥形ノイズが地面に当たった衝撃で2人まとめて飛ばされる。

だがギリッと食いしばって、誠は地面にぶつかる寸前に体の向きをクルリと反転、抱えた未来が傷つかないようにクッション代わりになる。

 

「ッァ!?」

 

だが、それと同時に炭素転換が進んだ左腕がポロリと関節が緩くなったプラモのように呆気なくとれ左腕の感覚が無くなると同時に筆舌し難い痛みが襲う。

ギュッ、とまだ炭素転換していない手を、それこそ血が出るまで握り締め、断絶しそうな意識をはっきりさせる。

 

「ぁぁぁぁ!!!」

 

倒れた体に鞭を打って立ち上がり、まだ死ねないとばかりに走り出す。

 

「まだ、俺たちは生きてるんだ・・・こんな、所で、終われるもんか・・・!」

 

しかし走ると同時に体が硬くなっていく感覚がする。

タラリと汗が流れ、チラリと断面を見れば、未だに侵食が止まらず、ジワリジワリと刻一刻と誠の体を死の淵に追い詰める。

 

「ごめんなさい・・・!」

 

ポロリと未来の目から涙が溢れた。

 

「ごめん、なさい・・・ごめんなさい・・・!私の、私のせいで・・・!」

 

「未来・・・」

 

ごめんなさい、ごめんなさいと未来は泣きじゃくる。

息を吸って呼吸を整え、炭素転換の痛みで歪む顔を嘘っぱちの仮面の下に全力で仕舞い込み、本当に・・・本当に申し訳なさそうに、

 

「——俺の方こそ、ごめん」

 

黒然誠は心の底から謝った。

 

「なん、で・・・なんで、誠くんが謝るの・・・?」

 

「だって、未来にそんな辛そうな顔をさせてしまったから。・・・だから、本当にごめん」

 

ダッ!と頭上から不意打ち気味にきたノイズを避け、路地裏を駆ける。

 

「謝らないでよ・・・本当に、本当に悪いのは・・・私なのに・・・」

 

「未来は悪くないさ。俺が単純にミスしただけさ」

 

背後を見れば、鳥形ノイズが数匹迫ってくる。

未来を立て看板の裏に隠し、誠が前に出てノイズを誘導、そのまま未来を回収して逃げる、そういう算段で躍り出た。

 

「ッ!ガっ!?」

 

だがそれは、炭素転換がそこまで進んでいないという前提があっての事だ。

 

「グゥ・・・ハッ・・!?アッ・・・ぐっ!?」

 

ここに来て炭素転換が肺にまで侵食し、思わず膝をついてむせると同時に、ブドウの形をしたノイズが何かを発射、むせて苦しい体を無理矢理動かし、回避。

当たりはしなかったが、背後で起きた爆発の余波で、さながら投げられたボールの如く、大きくバウンドしながら吹き飛ばされる。

そのままゴロゴロと転がり、看板に背中から当たり、頭からはタラリと血が流れ少しばかり視界がボヤけた。

 

「誠くん!!」

 

未来が此方に駆け寄ってきて体を揺する。

 

背後には多量のノイズ。

 

それを認識すると同時に、呼吸するだけで苦しく、片腕が無い状態の体に鞭を打って立ち上がり、手を握り、未来を守るために、足を踏み出す。

彼の命はもう数分も持たずに死を迎える。

だが、その目はまだ諦めていなかった。

・・・胸の内にある思いは一つだけ、

 

「未来だけは、何がなんでも守り抜いて響の元へ返す」

 

ただそれだけの思いで彼はノイズの攻撃を潜り抜けた。

 

 

————

 

ふらりと体から力が抜けるとバタン!と二人同時に地面に倒れる。

タラリと頭からは血が流れ、呼吸するたびに苦しくなり、体はジワリジワリと炭素に変わっていき、刻一刻と自分の命が死に近づいているのが分かる。

視界はもう片目しか機能してなく、前よりボロボロになってしまったマフラーは流れ出た彼の血で赤黒く染まり、左腕はとうに無く、両足は共に炭素転換が始まってしまい、これではもう一歩も歩けないだろう。

唯一無事なのは右腕だけだが、それも今だけだ。じきに右腕も炭素転換が始まる。

もう、黒然誠の体はボロボロで、いつ死んでしまってもおかしくない。

 

——だがそれでも彼は未来を守るために前に出る。

響の元(日常)へ帰す、ただそれだけで彼は立ち上がろうとする。

 

「もう、いいから・・・!もうやめてよ!頑張らなくていいよ!守らなくていいよ!休んでよ、お願いだから・・・!」

 

そして、ボロボロの状態でなおノイズから守ろうとする誠を、未来は抱き抱えて彼を庇う。

そんな彼女を優しく押し除け——体から激痛が走る/痛みなんてどうでもいいそんな事——、立ち上がる。

 

「お、れが・・・いやなんだ」

 

そうして背後には回し、彼女の盾になる。

 

「だっ、て・・・まだ、・・未来は、へいき、なんだから・・・だから、だから、もういい、なんて、言うなよ・・・。生きるの、あきらめないでくれ・・・!」

 

「やめて・・・もういいんだよ!」

 

「いやだ、よくない・・!」

 

けれど彼女の思いと彼の思いは互いに思いやる故に、交わらずに平行線。

 

耐えきれなくなったノイズがこちらに向かってくる。

立ち上がるだけで精一杯なのだ、避ける、なんて事は出来ない・・・だからできる事はただ一つ、彼に残されたたった一つの武器——即ち、拳を振るうだけだ。

 

「ッあああぁ!!」

 

ドスっという音と共にノイズに向かって拳を振る。

本来ならすり抜ける筈の拳だが、彼を殺すためにノイズの位相差障壁がこちら側に傾いていたのも有り、サーとノイズは炭素の塊に砕け——それと同時に、ノイズの突き出した手らしき物が彼の体を貫いた。

 

「ガハッ・・・」

 

「あ・・・い——いやぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

バタリと倒れ込むと同時に絶叫が響き渡る。

そして迫りくる、絶対の死という名のノイズ。

 

 

————

 

小学生の時のことだ。

 

「誠くん、泣かないの?」

 

「えっ?」

 

それは黒然誠の家族の葬式が終わった次の日の事だ。

学校が終わり、未来と一緒に歩いている時だった。

彼女から突然、泣かないの?と聞かれる。

 

「・・・多分、泣いてる場合じゃないんだと思うんだ」

 

「なんでそう思うの?悲しかったら泣いてもいいんだよ」

 

そう返されると、誠も困った顔をする。

 

「確かにそうなんだけど・・・。なんか上手く泣けないんだ。多分、上手く飲み込めてないんだと思うけどさ」

 

「・・・そっか。ごめんね、急にこんな事聞いちゃって」

 

「気にすんな。・・・ありがとな心配してくれて」

 

「うん・・・。あっ、それじゃあ、泣けなかったら、私が代わりに泣いてあげるよ」

 

「はっ?なんで未来が泣くのさ」

 

「だって誠くん、泣かないでしょ?ならその代わりに私が泣いてあげるの」

 

何それと聞けば、お父さんが読んでた漫画にそう言うセリフがあったから、と返してきた。

俺の代わりに泣かなくても大丈夫なのに、なんて思いつつ。

 

 

 

————

 

 

意識が朦朧とし、声は出ず、息をするのさえ、辛い。

さっきの一撃で炭素転換が早まり、体が限界を迎え、もう立つことすらままならない。

自分の命が後数秒で終わるのが分かってしまう。

点滅する視界にはノイズが風景の7〜8割を埋める。

そして、残った2〜3割を、未来が埋めていた。

 

「もう・・・もう、私の大切な人を傷つけないで・・・!」

 

手足は僅かに震えながらも、俺の前に出て手足を広げてノイズの前に立つ。

 

ノイズとは、怖い物だ。

外見しかり、大きさしかり、強さしかり、そして何より触れれば殺すという絶対的な力。

それを分かっているのに未来は震える体を押し留め立ち上がる。

 

「痛いこと、辛いこと、悲しいこと、全部・・・!全部押し付けないで・・・!」

 

残ったノイズが未来を殺そうと一斉に飛びかかる。

恐ろしい筈なのに、未来は一歩も前から退こうとしない。

そして俺は未来を守ろうと唯一動く右腕を伸ばし、ここでふと、何か冷たい物が付いているのに気がついた。

 

「———」

 

それは涙だった。

聞かなくても分かる、これは未来の涙だ。

泣けない自分の代わりに彼女が代わりに流した物だ。

その涙の向こう側には俺を守ろうとする姿が見える。

 

その一粒の涙が、俺を変えた。

 

——————

 

風の音が聞こえる。

 

「・・・!ここは」

 

目を開けてみれば赤い剣が刺さった祭壇にいた。

体には傷は無く、五体満足で立っていた。

そして、今起きていることを思い出し、心臓は早鐘のように鳴る。

 

「って、今はそんな事確認してる場合じゃない。早く戻って未来を助けな——」

 

ダッ!と駆け出そうとする。

 

「やぁ、誠くん待ってたよ」

 

「—い、と?」

 

カツカツ足音を立てと祭壇から誰か降りてくる。

見間違えようが無い、あの人は剣に残る残留思念だ。

そしてこの時に、優先順位が現実に戻る事から、この人の話を聞くに変わった。

別にどうでも良くなったと言うわけでは無く、話を聞いた方が手っ取り早いと感じ取ったからだ。

 

「君の答えを聞きにきたよ」

 

顔に微笑を浮かべ、俺の前に立つ。

 

「色々と聞きたい事があるかも知れないが、今は置いておこう」

 

さぁ、黒然誠——力が欲しいかい?

 

俺に問いかけてきたそれを、俺は本心で返す。

 

「——あぁ、欲しいさ」

 

「では何のために?」

 

何のため?もちろんそんな事は決まっている。

 

「——傷つけるためじゃない、守るために」

 

「それが例え、守り抜いた先に悲惨な末路しかなくてもかい?」

 

「——あぁ、悲劇的な運命でも、構わない。・・・守りたいんだ。大切な人たちの、明日を、未来を!」

 

俺の言葉を聞いて、その人は一度だけ目を閉じ、やがて、目を開ける。

 

「重ねて言うが、覚悟するんだ。この力は君に変わらない悲劇を背負わすと言うことを。・・・それでも君は力を欲するかい?」

 

俺の身を案じるように、優しく聞いてきた。

 

「覚悟ならもう出来てるよ。俺は自分の思う大切な人たちを守りたいんだ!今度こそ、絶対に、絶対にだ!」

 

スッと前が開けられ、剣までの道が開かれる。

 

階段を駆け上がり、剣の前に立つ。

 

「さぁ、手にするといい」

 

両手を伸ばす。

今度はバチっと弾かれず、しっかりと両手で握る。

 

「竜殺しの剣——グラムを!」

 

ジャキン!と勢いよく引き抜くと同時に、剣から何かが流れ込み、それが自分の中で混ざり合い、カシャンと枷が取れる音と感覚、そして見える視界全てが白く染まっていき、世界が文字通り変わっていった。

 

 

———

 

「beet up gram tron」

 

歌声が響いた。

 

その瞬間、光が溢れ天には白と赤、そして黒の三色の火柱が登る。

その衝撃で、向かってきたノイズ全てが吹き飛ばされる。

そして火柱が収束し、中心には人影が1つ。

思わず未来は息を飲み、そして、ポツリと呟くように聞いた。

 

「せい、くん・・・?」

 

「——あぁ」

 

彼女の声に応えたその声は間違い無く、黒然誠の声だ。

そして誠は勢いよく右腕を振るい、火柱を払い除ける。

だがそこにいたのは体全体をどこか禍々しい黒一色で、頭部及び手足には竜の顔を模したような騎士鎧。

背部には一対の赤い翼、そこから赤い粒子が溢れる。

目元は赤いバイザーに覆われその瞳を見る事はできない。

 

「何がなんだか分からない・・・だけど、たった一つだけわかる事がある。それは——俺が『戦える』と言う事だッ!」

 

街に蔓延るノイズが一斉に(己の天敵)を凝視する。

 

「俺から大切な物を奪えると思うなッ!」

 

そして、ノイズが迫りくる。

それと同時に背後からは西風が吹き、彼の背中を押す。

絶望の歯車が壊れ、希望の歯車が回りだした




主人公が戦えるまでに10数話かかる小説があるらしい(すっとぼけ
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