とは言っても作者は何とかコロナにはなってはいないのですが、読者の皆様が暇にならないよう、試しに予約投稿をして見ましたけど・・・大丈夫ですかね?
今回は説明会なので、わりと長めにお送りします。
首元に刀が当てられる。
降参の意味を込めて両手を上げ、背後を見る。
背後には、今にもこちらの首を飛ばしてきそうな程の殺気を放つ翼さん。
ピリピリとした空気が肌に突き刺さり、内心では殺気に怖っ!?と怯えつつ、平静を装って声を上げる。
「・・・いきなり首元にコレとか、物騒じゃあないんですかね?」
あっ、ちょっと声が震えた。
「それは貴方が何かするかも知れないでしょ?」
「そんな事——」
しない、反論しようとするが更にチャキッと刀が押し当てられる。
——押し当てられた刀は僅かに震えていた。
「それより答えなさい。どうして・・・どうして、貴方がガングニールを持ってるの?」
「がんぐ、にーる・・・?」
後ろの未来が困惑した声を上げる。
・・・ぶっちゃけ俺も困惑してる。
ガングニールなんて物は知らないし、そんな物を俺が持ってる筈が——
(——いや待てよ。もしかして?)
チラリと自分の胸の辺りを見る、もう少し具体的に言えば心臓の辺りを、だ。
病院で了姉が見せてくれたレントゲンには、心臓付近に破片のような物が突き刺さっていた。
(もしかして、それ、なのか・・・?)
「早く答えなさい。・・・それとも、答えられない理由が、あるのかしら?」
「・・・いや、別にそういう訳では無いんですけど」
そんな殺気バリバリに出されるとこっちが話しづらい、なんて言える雰囲気でも無い。
・・・まぁ、元よりはぐらかす事はしない、と言うか、そんな事しよう物ならすぐさまスパンと切られて首と胴体がサヨナラ!するのは目に見えてる。
チラリと視線を未来に向ければ、ハラハラしてると言った感じに俺たちを見る。
すぅ、と目を瞑り息を吸って、言葉を出す——その瞬間、
「はい、そこまでですよ翼さん」
カチャン、カチャンと、俺と未来の両手に手錠がかけられる。
「「うおっ(きゃっ)!?」」
「ッ!緒川さん・・・」
いつの間に居たのか、影も無くスーツ姿の男性が翼さんの前に居た。
翼さんの体が光に包まれると制服姿に変わり、首に当てられてた刀が解けて消える。
「すみません。お二人をこのまま帰すわけには行きませんので、機密保持の為、二課の方までご同行をお願いします」
顔に微小を浮かべたスーツの男性はそう言い、気づけばズラリとグラサンをかけたスーツ姿の人たちに取り囲まれる。
ギョッと驚き、未来と顔を合わせ、コレまたいつの間に来たのか、2人纏めて黒い車に乗せられ、何処かに連行される。
——背後からは相変わらず翼さんが殺気を放つ。
そして、拘束される事数十分。窓の向こう側には大きな学校が見えてきた。
・・・あの学校には見覚えがある、確かここって、
「「リディアン音楽学院?」」
2人で思わずハモった。
——私立リディアン音楽高等学院。
小中高一貫の学校で、前までは女子校だったが、今は色んな人たちを入れたいのか、最近は男女共学に変わったらしく、高等科だけでも大体1500人ぐらいだっけか。
あとは・・・政財界から寄付金を募ることで、私立学校なのに学費が非っ常に安く抑えているのも特徴だ。
そして何を隠そうこの学校には翼さん、そして今は亡き天羽奏さんも在籍しているのだ。
ポカーンと口を開けていると、車は学校の門を潜り、シャッターが自動で開けられ、車が中に入るとシャッターが閉じる。
車から降りてエレベーターに乗り込み、スーツの男性——名前は緒川慎次と言うらしい——が何かのカードキーを翳すと、ガコンと音を立てて下の階に勢いよく降りていく。
エレベーターの中では沈黙が支配し、耐えきれず小声で隣の未来に声をかける。
「どうしよう。めちゃくちゃ沈黙が辛いのだが・・・」
「う、うん。そうだね・・・」
そしてピンポーンと音が鳴り、目的の階に着いた。
複雑に入り組んだ道を右へ左へと進んでいき、途中、未来だけ別室との事でどこかの部屋に案内され、今は俺と翼さん、そして緒川さんの3人分の足音しか聞こえない。
「・・・えーと、どうしてリディアンにこんな凄い施設が?」
「・・・」
「あー・・・答えられない、ですよねー」
沈黙に耐えきれずに、作り笑いと共にそう聞けば、
「・・・下手な愛想は無用よ」
「あっハイ、すいませんでした」
言葉の刀でバッサリ切られ、それを聞いてた緒川さんが顔に苦笑いを浮かべる。
そして、一際大きな扉の前にたどり着いた。
「ここよ」
そしてカシュンと音を立てて、自動で扉が開かれる。
「ようこそ、人類最後の砦、特異災害対策機動部二課、通称二課へ!」
両手を広げ、顔には笑顔を浮かべる大きな男の人。
昨日の自分が見たなら、身長でか!なんて言ってるが、どういう訳か今の自分にはハッキリと分かる。
(この人・・・絶対に俺より強いッ!)
2メートル近い身長にそれを包み込む筋肉の鎧。
その場に居るだけで圧倒的存在感を放つそれに思わず圧倒され、無意識のうちに半歩程下がっていた。
「俺の名は風鳴弦十郎。この二課の司令だ」
よろしくなと言い、彼——風鳴弦十郎と名乗った男性は右手を差し出す。
こちらも、いつの間にやら拘束を解かれた右手を差し出す。
「よ、よろしくお願いします。俺は——」
「黒然誠くん、だな。了子くんから名前を聞いてるよ」
えっ、了姉から?と言おうとするとガシッと首に腕がかけられる。
「うおっ!?」
「せーい?まさか貴方がこんなところに来るなんて想像してなかったわよー?しかも未来ちゃんと一緒とか、お姉さん聞いてないわよー?」
このこのーと空いてる手で了姉が背中を小突いてくる。
ぬおー!ともがき、何とか了姉の拘束から抜け出す。
「俺だって、まさかこんな事になるなんて思わなかったんだけど」
あと未来も来たのはそっちに連行されたからと、付け足しておく。
「了子くん、準備の方はできたのか?」
「安心しなさいな、準備はとっくに出来てるから。じゃあ誠、ちょっと医務室で検査するわよー」
じゃねーと言いつつ俺の首根っこ掴んでズルズルと引きずる。
ちょっと家族の扱い雑すぎやしませんか?と聞けば、家族なんだからこんなもんよー、と返された俺は泣いても良いだろうか?いや、良いはずだ。
(いやまぁ、泣かないだろうけど)
でもこの扱いは何なのさと、ため息をついてると、ふと、左手首が少し黒くなってるのが目に入った。
なんだ?と思い触ってみれば、それは少しザラザラとしていて、軽く払えばそれは簡単に落ちた。
・・・さっき倒したノイズの残骸でもくっついたか?
「あっそうそう、未来ちゃんだけど。あと数時間もすれば家に帰っても問題なさそうよ」
「そうなの?じゃあ俺は?」
「誠に関しては検査が終わって結果が出るまでかしら?」
「んっ了解」
これは一緒に帰れそうには無いな、なんて思いつつも、じゃあその間未来は何してるのさ?と聞けば、俺が病院で書いたのと同じ書類を書いてるそうだ。
そんなこんなで目的の医務室にたどり着く。
「それじゃあ検査するわよ。上着と靴は脱いで、脱いだ服は荷物と一緒にそこのカゴに入れといてね」
「んっ」
りょーかいの意味を込めて返事しつつ持ってる荷物をカゴに入れていく。
ぽいぽいっと荷物を入れていきマフラーを取ろうとすると———ビリっと嫌な音が聞こえた。
「あっ・・・」
見れば自分の血で赤黒く汚れてしまったマフラーがついに耐えきれずに、真ん中辺りから破れてしまっていた。
今まで結構無理して使ってたものだ、いつかはこうなる事は薄々感じてはいたが、それでもショックは隠せない。
(・・・ずっと大切にしようって思ってたのに)
スルスルっと残りを取ってカゴに入れておく。
「それじゃ、検査するからそこの台に横になって。なに、痛くはしないわよ」
いやそれって痛いっていってるようなもんですよ?なんてツッコミはスルーされ、検査が始まった。
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それから1時間に及ぶ検査が終わり「結果が出るまで個室で待ってなさいね」と言われ、入り口で待ってた黒服の人に連れられ、個室に案内される。
情報保護の観点から、と言う理由でスマホは没収されてしまい、他にやる事もないのでゴロリと備え付けてあったベットに横になる。
そして思い出すのはノイズと戦った自分の姿。
形は違ったが間違いなく、了姉が教えてくれたシンフォギア、だろう。
理由は不明だが、あの姿の時はノイズに触れても問題無く、炎による攻撃でノイズを燃やし、尚且つ背中に付いている翼により空も飛べる。
そして炎が効きづらい大型には、背中の翼を本来の形である両手剣を使えば良い。
(そして胸の内から聞こえたあの歌・・・)
胸の内から聞こえた歌を信じて歌い、大型ノイズを真下から切り飛ばしたが、あれを何も考えずに横から切り飛ばしてたら、街の被害とかもっと甚大なものになっていただろう。
(そんでもって問題なのは、俺自身を焼いたあの黒い炎だ)
最初は制御をミスったかと思ったが、そうじゃない、アレは俺自身の感情・・・特に怒りを糧に燃え上がっていた。
途中で何とか抑える事ができたが、もしあのまま抑えれなかったら、俺はあの黒い炎に燃やし尽くされてたのだろうか?・・・それとも、別の恐ろしい化け物に変わってしまってたかもしれない。
「・・・心に守りたいものを描け、か」
寝転がったままの姿勢で、左手を天井に掲げる。
今思えば少し恥ずかしいが、あの時は心の底から未来を守りたいと思えた。
そこに嘘偽りなんて無く、未来がいたから俺は戦えた。
「・・・ほんと、思いってのは大事だな」
「あら?誰を思ったのかしら誠?」
「フォ⁉︎」
声が聞こえて飛び起きれば、いつの間に扉を開けて入ってきたのか、目の前に了姉がいた。
いつの間に、と聞けば「さぁいつからでしょうね?」と何やらニヤニヤした顔でこちらを見てくる。
・・・藪を突いて蛇を出すのアレなので、ニヤケ顔をスルーして結果出たの?と聞く。
「そんなところね。あぁ、結果発表はこの部屋でするから、誠はそこの椅子に座って待ってなさいね」
と言われ(但し顔は何やら意味ありげな目で見つめつつ)部屋の真ん中にある椅子に座って待つ事数分、部屋のドアが開かれ、風鳴弦十郎と名乗った男性と、その後ろから翼さんが入ってきた。
「了子くん。彼の検査結果が出たそうだな」
「そうよ。こっちに来たってことはそっちも映像は見終わったそうだし。それじゃあ早速検査の結果発表をしたいと思います。司会進行役を務めるは櫻井理論の提唱者にして、シンフォギアの制作者、そして二課の中ではできる女と評判の櫻井了子です!」
「了姉、それ誰に向けて言ってるのさ?」
「あぁもう緊張感の無い・・・」
俺のツッコミと翼さんのぼやきはスルーされ、くいっとメガネをかけ直した了姉は懐から小型の端末を取り出して話を始める。
「まず初めに身体の方だけど、初変身の負荷がすこーしばかり有るけど、これぐらいならほぼ問題なさそうよ。まぁ、心の方はどうかは分からないけどね」
「・・・まぁ、分からない事だらけだけど、心の方も一応大丈夫」
「なら良し!それじゃあ次に誠が変身したあの姿だけど。この姿が貴方で間違い無いわね?」
そう言って端末を操作し、何かの映像を見せる。
やや映像が荒いが、そこに映っているのはノイズをぶん殴る黒い騎士の姿、間違いなく先程の自分だ。
「うん、それは間違いないけど・・・。これってもしかして」
「えぇ、それじゃあその疑問を晴らすために次にいきましょうか。誠、貴方が纏ってたこの鎧だけど。分析した結果、完全聖遺物と聖遺物、この2つが混ざって出来てるわね」
聖遺物——世界各地でよく聞かれる神話や伝承の中に登場する、超常の力を秘めた物を指す言葉。
現在の技術では到底理解出来ない
「一応、聖遺物の方はわかるけど完全聖遺物って・・・?」
その疑問には前で座っていた弦十郎さんが答えてくれる。
「完全聖遺物ってのは、基本的には欠けら程度しか残らない聖遺物とは違い、ほぼそのままの状態で現存する聖遺物の事だ。それ故に極めて希少で、尚且つ欠けら程度の聖遺物よりとてもポテンシャルが高いと言われている」
「それじゃあ、この鎧って凄いなんて目じゃ無いぐらい、めちゃくちゃ凄い物って事ですか?」
まぁ分かりやすく言えばそうだなと弦十郎さんは言い、了姉がそれじゃ続けるわよー、と言い、どこからか持ってきたホワイトボードを取り出す。
キュッキュッと赤ペンで完全聖遺物と書き、青ペンで人の形を描く。
「で、その完全聖遺物なんだけど。誠、貴方の身体に、完全聖遺物と聖遺物、この2つが溶け込んでるのよ」
「聖遺物が俺の身体に・・・」
「そうよ。そして私はこの状態の事を『融合症例』と呼ぶわ」
そしてそれらの色を足した紫色のペンで人体を描き、その隣に融合症例と書く。
「今描いたように、融合症例の身体は、こう言う紫色の状態になるのだけど。誠の状態はその融合症例の中でも極めて稀なケース『特異融合症例』に入るものよ」
そこに緑色で聖遺物と書き、最終的には黒色になった人の形を描き、その隣に特異融合症例と書く。
「特異融合症例、だと?」
隣の弦十郎さんが疑問の声を上げる。
「本来、私が定めた融合症例ってのは、1つの聖遺物が人体と融合した人の事を指すのだけれど。先程言ったみたいに、2つ同時に混ざる、なんて事は普通あり得ないもの」
「えっ」
「だって本来なら1つの
ちなみに知られたらどうなる?と、恐る恐る聞けば、「まぁ、十中八九拉致されて、即刻解剖室に運ばれるわねー」と恐ろしい事をさらりと言いのける。
「安心しなさいな。私の目が黒いうちはそんな事させないし、そもそもよっぽど本人が志願しない限りは、そんな人体実験じみた事はしないわよ。ねっ、弦十郎くん」
「あぁ、そんなに不安がらなくても大丈夫だ。そうならないように、俺たち大人が居るんだ」
だから安心しろ、と弦十郎さんと言ってくれる。
そう言ってもらえるのはありがたいが・・・そんな簡単に不安は拭えない。
そんな俺の気持ちを察してくれたのか、了姉が話を切り替えてくれる。
「次は誠の体に溶け込んだ2つの聖遺物の話よ。そっちの方は既に検討がついてるわ」
そう言って端末をピッピと操作し、映像が切り替わり、何か古びた剣の写真が出てくる。
「誠の身体に混ざった完全聖遺物はおそらくは『グラム』と呼ばれる魔剣よ」
グラム?と壁に持たれた翼さんが疑問を口にする。
「グラム・・・。北欧のヴォルスング・サガに出てくる、英雄シグルドが使ってた魔剣だな。確かドイツのニーベルンゲンの歌に出てくる竜殺しの英雄ジークフリードの持つ魔剣バルムンクと同一視されてるんだったか」
弦十郎さんの解説に、俺は成る程と声を上げ、了姉は「説明する手間が省けて助かるわ」と言う。
(それじゃあ夢で見たあの人はシグルドって言うのか)
「そして、もう1つの聖遺物の名前はガングニール。・・・奏ちゃんの置き土産、守った証って所かしら」
「奏の、置き土産・・・」
ガングニール、その名前が出た瞬間に部屋の空気が少し重たい物に変わる。
「・・・ガングニール、か」
悲しさを含ませる静かなその呟きに、俺を見るその目に、誰かの影を一瞬だけ感じる。
「えぇそうよ。どうしてそれがここに有るのかは・・・誠の方は、何か心辺りあるんじゃない?」
そう指摘され、あの時の翼さんの反応を思い出し・・・1つの心当たりを口にする。
あの日、翼さんたちに助けられた事と、その時に砕けた破片が突き刺さった事を。
それを聞いた弦十郎さんは「成る程、その時にか・・・」と言い、了姉はうんうんと頷き、納得したような顔をする。
翼さんの方は・・・とても辛そうな顔をしていた。
「おそらくはその時にガングニールの破片が埋め込まれたのでしょうね。そして、このガングニールの破片が、グラムと奇跡的なバランスで融合し、最終的には起動して、誠が纏ってた黒い鎧になったって所かしらね」
「それじゃあ、あの黒い鎧が聖遺物で出来てるから、俺はノイズを殴れたってこと?」
ふと気になったのでそう聞けば、了姉は「それもあるけど、多分だけど誠が特殊だから」と言う。
俺が特殊とは一体どう言う事だろう?そんな疑問に弦十郎さんも疑問を口にする。
「彼が特殊とはどう言う事だ了子くん?」
んーと、と少し間を置いて、説明しだす。
「シンフォギアと言うのは特定振幅の波動——つまり歌う事でノイズを調律し、強制的にこの世界の物理法則下に引き摺り込むでしょ。でも誠の場合、どうやら心臓の鼓動が歌の代わりになっているみたいなのよね」
「心臓の鼓動が・・・?」
「おそらくは、胸のガングニールがチューナー変わりになってノイズを調律して、この世界の物理法則下に引き摺り込んでる、としか現状言えないわね。文字通り、命を歌にしてるって奴かしらね」
流石の私もこれ以上は分からないわと両手を上げる。
「・・・」
ギュッと心臓を握れば、ドクン、ドクンと、心臓の音が聞こえ、ここに残る確かな物を感じる。
「さて長々と話しましたけど、私からの結論から言わせてもらうと、誠が変身したあの姿も、扱い的にはシンフォギアにカテゴライズされるわね」
そう結論付けられ、3人の色んな感情の篭った視線が突き刺さる。
了姉は興味有り気に、弦十郎さんはどこか後ろめたそうに、そして翼さんの方に目を向けた瞬間———首を跳ねられる幻覚を、思わず幻視した。
(ッ!?)
思わず首を触る。
そこにはちゃんとくっついている首が有る。
・・・もう一度だけ、翼さんの方を見れば、顔を逸らす翼さんの姿がある。
(気のせい、か・・・?)
きっと何かの間違いだろう、とそう自分に言い聞かせる。
・・・それでも、胸のざわつきは暫く治らなかった。
「これもシンフォギア、と言う事は了子くん、彼もまた適合者、と言う事で良いのか?」
「今出てる結論から言えばそうなるけど、こんな荒技、第1種第2種の適合者にだって出来ないわよ。聖遺物を動かすほどの強靭な心か、はたまた貴方を生かそうとする聖遺物の意思によるものか。・・・どちらにせよ、神による突発的な奇跡が必要と言っても過言じゃないわよ」
(生かそうとする意思・・・)
脳裏を過ぎるは剣を引き抜いたあの夢。
あの人は確か、聖遺物に残った残留思念、と言ってたか、もし夢で会えるならお礼を言いたいものだ。
「それで、俺は結局これからどうなる、んですか?」
「・・・日本政府、特異災害対策機動部二課の司令の立場として言うならば、君の力を借りたい」
スッと右手を握手の形でこちらに向ける弦十郎さん。
人を守る立場の人としては、なんの制約もされてない俺を自分たちの制御可に置いて、この力で何の力も持たない人たちを守れる確率を上げるのが無難だ。
「・・・」
普通の、物語の主人公ならここで、やります、の一言が言えるのだろう。
だが、俺は迷った。
ここで何処とも知れない誰かを守るのが正解で、間違ってない筈だ。
だがここで何処とも知れない誰かを守って、本来守りたい人を守れなかったら?——そう考えてしまい、俺はその手を握ることが出来ず、少し迷ってから、
「・・・少し考えさせて下さい」
なんて、言った。
—————
「そう、だな。すまない、君の気持ちの整理もあるだろうに」
彼のその答えに、すまないと申し訳なさそうに言い、少し急いでしまったと言わんばかりの顔をして上げた右手が下がる。
「あぁ、いえ。悪いのは俺ですし・・・」
と、こちらも申し訳なさそうにする。
どれだけ有れば答えは出そうなの?と了子が聞けば少し考えてから、1週間、と答える。
そして、話はまたその時と言うことになり、今日はこれで解散と言うことになり、彼、黒然誠はこの後に書類を書き、その後家に帰宅という話になった。
「・・・」
部屋の壁に持たれて話を聞いていた翼は誰にも気付かれず——否、弦十郎は気づいていたが、彼女は部屋を出て、二課に宛てがわれた自室に戻り・・・彼女にしては珍しく苛立ちと共に壁を殴る。
(認められない・・・あんな、あんな物がガングニールの筈が無い!)
ギュッと、自分のペンダント、ではなく片翼の、天羽奏のペンダントを握る。
それはあの日、塵芥となってしまった奏の亡骸からから、涙ながらに見つけた、中身は無い空っぽのペンダントだ。
(ガングニールは・・・ガングニールは奏のものだ!)
彼女は、風鳴翼は、天羽奏がどれ程の苦難、どれ程の血反吐を吐いて手に入れた物かを知っている。
成功する確率は限りなく低く、命の保証が無いと言われたリンカーを躊躇うことなく彼女は使い、血の海に沈み、それでも膝を折らずに立ち上がりガングニールを纏ったあの姿は、今でも翼の目に焼き付いていた。
(そんな血反吐を吐きながらも手に入れた力。それを——それを他の誰かが使っていい物じゃない、無双のひと振りをッ・・・!)
それなのに。
翼の目に映る彼の姿には、あの時見た奏の・・・言うなれば心の強さと言うものを彼から感じない。
奏の『ギアを辛うじて纏える奇跡』より上等の、『何のリスクも無しに纏える奇跡』の方が黒然誠、あの男に進呈された。
(そんな意思の強さが奇跡を起こした、だなんてまるで・・・)
胸の内に怒りが宿り、
「・・・まるで、奏の意思が弱かったとでも・・・?今の今まで戦い続けた彼女の意思が弱かった見たいじゃないッ・・・!!」
ダン!と行き場のない怒りを拳に込めて、再度壁を殴る。
——なぜ、あのライブの時には奇跡が起きなかったと、理不尽であれど、翼はそう思わずにいられなかった。
「他の人は何も思わないの・・・?ガングニールは彼女の物だって、そう思ってはくれないの・・・?」
翼の手には空っぽのペンダントしか残ってなく、対して彼には
彼女の中では誠は『
そんな事実が堪らなく不愉快で、黒然誠を翼は心から羨み嫉妬する。
「奏とろくに話したことが無い奴が、なんで・・・!」
涙に目が滲み、彼と彼女の違いか解るたびに、翼の中で誠に対する不信感が積もっていく。
そして先ほどの、彼の迷った顔を思い出し——三度壁を殴った。
(奏なら迷わない、奏ならすぐに叔父様の手をとる奏なら、奏なら——!!)
翼はどこまでも、誠を通して彼女を、奏を見る。
ただの空っぽにしか残ってない自分と、物として残る彼を比べ、溢れ出た怒りで壁を殴る。
「受け入れる事なんて出来ない・・・ッ!」
風鳴翼は人々を守ると心に決めた防人だ。
そんな彼女は今、人々のうちの1人である黒然誠に、剣を向けかねないほどの激情と敵意を抱く。
彼女をよく知る人たちが聞けばそれがどれだけ異常かよく分かる。
それがどれだけ異常で捻り曲がった感情であるかを知らしめる。
生半可かな意思で、ガングニールを纏う事すら許さない。
それが風鳴翼という、真っ直ぐすぎる故に曲がれない、1人の女の子の姿だった。
原作よりツンツンどころが刺々しい防人の翼さん。
翼さんは他人に対してこんな事言わない!なんて言う人がいるかも知れませんが、彼女は誠の事をあまり知らないからこう言ってるのもありますし、劇中だと、原作開始時よりまだそんなに時間は立っていないという結果、このような感じになりました。
感想など良ければどうぞ。
それでは皆さま、お互いにコロナに気をつけましょう。