あの日から2日が経過した。
ピリリリ!と喧しく目覚ましが鳴り、暗くなってた意識が戻る。
喧しい!と言わんばかりに無言でスパン!といつもの如く叩いて目覚ましを止める。
んー、と伸びをして、のっそりとリビングに移動し、ブルーベリージャムを塗りたくった食パンを食べつつテレビをつければ『謎の黒騎士、ノイズを撃退!?』などと未だにニュースで大きく取り上げられて、2日前の事が夢では無く現実なのだと、少し寝ぼけて頭でもそう認識させられる。
もぞもぞと口を動かしつつ思い出すのは弦十郎さんの言葉。
『日本政府、特異災害対策機動部二課の司令の立場として言うならば、君の力を借りたい』
「力を借りたい、か・・・」
だが俺は見知らぬ他人を守る、と言う所に躊躇してしまい、本当ならその場でやりますと言う所を、グダグダ悩んだ結果、決めるまで1週間と言ってしまった。
「1週間・・・もう残り5日か」
そんな自分勝手な所に嫌気がさし、はぁ、とため息を1つ吐き、テレビの続きを見る。
元警官と言うある老人は彼のお陰で命を救われたと言い、その背中に警官だった頃を思い出すと語り。
あるツインテールの少女は、あの人は絶対に正義の味方で、テレビの中から出てきた特撮ヒーローに違いないですよ!と興奮冷め止まず、と言った感じでリポーターの人の取材に答えてる。
(・・・こんなうだうだ悩む奴が正義の味方、ねぇ)
ピッとチャンネルを回せば、なにやら専門家と名乗る人たちが、あの黒騎士は何なのかというお題で議論している。
曰くアレはノイズと戦うために政府が秘密裏に作ったノイズ撃退の為の秘密兵器だと言い、曰くアレもノイズの1つでただの仲間割れだ、と画面の向こう側では様々な人たちがあーだこーだと言っている。
(・・・まぁ、その黒騎士は兵器じゃなくて人なんだけどね)
もっと具体的に言えば俺でっせ、なんて事は口に出して言える訳無く、パンと一緒に出かけた言葉を飲み込む。
ご馳走さまと言ってテレビの電源を落とし、食器を片付けて身支度をし、写真立てに向かって行ってきますと言い、鍵をかけて家を出る。
「あっ、おはよう誠くん」
「おう、おはよ未来」
家の前で待ってたらしい未来と挨拶を交わし、そのまま何時もの如く響の自宅に向かう。
「今日のテレビ、またやってたね」
「あぁそうみたいだな。・・・正直な所、まだあんまりってところ」
「あれからそこそこ経ってるけど、やっぱり実感できない?」
未来の言葉にコクリと無言で頷く。
「だってさ、まさかこんな事になるなんて思うか普通?」
苦笑いと共に聞けば、そうだよねと未来は返す。
そのまま歩いていき、響の自宅前の交差点に差し掛かったところで、ふと未来の手首に紐のような物が付いているのに気がついた。
なんか付いてるぞと言えば、未来は、あっ、と忘れてたと言った感じで、カバンを開けて何かを取り出す。
「はい、手出して」
「んっ?あぁ」
左手を出せばその掌に紐の様な物が置かれる。
これは・・・響にあげるミサンガだろうか?
「この前買った刺繍糸で作ってみたんだけど・・・どうかな?上手く出来てるかな?」
不安そうに未来が聞いてくる。
そうだな、と言ってミサンガを見る。
ミサンガは少し太めに作られ、色合いは黒に紫、そしてオレンジの三色がほつれた部分も無く綺麗に編み込まれている。
「贔屓目無しに言っても、めちゃくちゃ綺麗に出来てると思うぞ。俺が作ったらこうも上手く出来る気がしないな」
なんて褒めれば少し照れた様子でありがとうと未来が言う。
「それじゃ、これ返すよ」
そう言ってミサンガを返そうとすると、未来は一瞬キョトンとした顔をし、あっ、と何かに気付いた様に声を漏らすと首を横に振る。
「うんん、返さなくても良いよ。それは誠くんのお守りだから」
「俺のお守り?響のじゃなくてか?」
「うん、誠くんのだよ。響のは別に作ったから、それは君に持ってて欲しいな。・・・もしかして、嫌だった?」
嫌じゃないですと速攻で言葉を返しつつミサンガを左手首に付ける。
ミサンガなんて初めて付けたが、コレは中々・・・、なんて思いつつ交差点を渡り、響の自宅に辿り着く。
ここ最近は壁の落書きはだいぶ無くなってきたと思うが、それでも未だに落書きはされている。
良い加減諦めろよと内心愚痴りつつ、もはや慣れた作業で2人で手際良く消して行き、落書きの少なさと相まって10分とかからずに全て消し終える。
全部消せたことを確認ヨシ!(現場猫感)した所でガラリと家の扉が開き、少し眠たげな響が出てきた。
おはようと2人揃って言えば、響もおはよ、と少しぎこちない笑顔で返してくれる。
昔に比べたらまだその笑顔に影があるが、それでもギリギリ自然な笑顔の範疇だ。
「響、手出して」
響が不思議そうに右手を差し出すと、その手に先程より細めに作られた同じミサンガが手渡される。
「これって・・・」
眠たげだった目が覚め、いいの?と不安そうに聞いてくる。
もちろんと言う意味を込めて、さっきつけたミサンガを見せてる。
それで安心したのか、ありがとうと今度こそは自然な笑顔を見せてくれて、嬉しそうにミサンガをつけ、どうかな?と聞いてきたので俺は無言でグッと親指を立てておいた。
——————
キンコンカンコンと1日の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り渡る。
ものの数秒で教室内はガヤガヤと煩くなり、教室の話題は黒騎士の事で朝から話題が持ちきりだ。
そのお陰か、今日も誰も言ってこないや、と響は思い、誠は、黒騎士様様だな、とありがたく思う反面、2日前の事を思い出し、どうしたもんかなとヒッソリとため息をついた。
「やっぱりどこもかしかも黒騎士の事ばかりだな」
と響の視点では頬杖をついて、何やら考え事なのか、何処となく上の空な誠。
そんな誠の様子が気になり、響は聞いてみた。
「せーくん、何か悩み事?」
「んっ?あーと・・・まぁ、そんなとこだけど、気にしなくていいぞ」
「でも、悩んでるなら1人より2人で悩もうよ」
なんて言えば誠は目を丸くし、続いて少しタフになったな、と少し驚いたように言う。
響はそうかな?と言って自身ではあまりタフになった自覚は無いが、誠の目から見れば少しずつではあるが響はタフになっている。
最近はあまり顔を伏せておらず、朝に未来が渡したミサンガのお陰も相まってか、今はしっかりと前を向けている。
そのまま響がジーと見つめてれば、参ったと言う感じに誠が片手を上げて悩みを打ち明ける。
「それじゃあ言うが、悩みってのは」
「うんうん」
スッと了手を机の上に置き、一拍置いてから深刻そうにこう言った。
「今日の夜に何作ろうかと悩んでたんだ」
「成る程、それは確かに深刻な悩みだね」
だろ?と返して、そのまま上手いこと話題が切り替わったのを確認し、そそくさと慣れた手つきで鞄に荷物を入れ、手早く教室を出て—背後から誰かの嫌な視線を感じつつ——隣のクラスから出てきた未来と合流、そのまま校舎の裏口から学校を出る。
後は何事もなく響の自宅に向かうだけだが・・・。
「なぁ?まだこないのか?」
「もう学校が終わってるからこっちにくる筈なんだが・・・察して逃げたか」
「つまんねぇ・・・もうこっちから行った方が良く無いか?」
近所の中学生ではない、3人の中で一番大きい誠よりも大きな人たち、多分大学生あたりだろうか?響の家の前で、あからさまに危害を加える気満々の男3人が待ち伏せている。
偶々誠が1番前を歩き、家の前にいる大学生たちを見つけて、急いで響を曲がり角に隠し、そこから数分は待ってみたが一向に去る様子はない。
響の方は当たり前だが、そんな光景に怖がり足が竦んでしまい、暫くは動けなさそうだ。
(どうしたもんか・・・)
いかに誠が男であろうと、流石に体格と数の差で有る大学生3人の相手は無理の一言だ。・・・・・一応の選択肢として黒騎士姿なら余裕かもしれないが、アレは人相手にぶつけては行けないので選択肢から1番に消した。
未来に何かアイデアがあるか聞くが、流石に思いつかないのか首を横に振る。
(このままだと、響を家に帰せない・・・)
未来も同じく考える。
電話で誰か呼ぶ?と考えるがこんな荒事向きな人、未来の電話帳には入ってはいない。
・・・・・一応誠の方は2日前の帰り際に荒事に強そうな人の番号を了子から渡されたが、いくら大人であろうと大学生3人は無理だろうと、思考して口には出さず、最終的には頼れる人が居ないと言う結論に2人同時に達してしまう。
(・・・ここは俺が囮になるから、その隙に響を家に入れてくれ)
(いくら誠くんが男の子だからって、それは危ないよ!囮なら私が)
いやそれこそ危ないだろ?いやいやそっちも危ないからね?と意見が分かれて平行線になる。
俺が、私が、と言ってると後ろから声をかけられる。
「そこの少年少女たちよ、何かあったかね?」
「へっ?」
3人が後ろを振り返れば、そこには老人と、それに付き添ってるのか、片手にビニール袋を持った若い警官の2人が立っていた。
そして2人は誠たちが見てた方を見て、ふむ、と顎に手を当て似たような仕草で考える。
「見るに君たちはあの家に行きたいのかい?」
「えっと、はい。そこが私の家なんですが、その・・・」
若い警官が響の目線まで腰を下ろして、安心させるように聞けば、響は少し安堵した感じでそう答えた。
「成る程。それじゃワシらに任せてくれ」
ほれ行くぞと老人はスタスタと杖をつきながら歩いて行き、若い警官は、危ないからじいちゃんは後ろにいてよ、と警官は老人の前に出る。
どうやらあの2人は祖父と孫のようだ。
そして後ろで誠たちが見守る中、2人は家の前にいる大学生に話しかける。
大学生の方は最初、何処かお気楽な感じで話していたが、次第に自分たちがしょっ引かれると分かると次第に顔が青ざめる。
「な、なんで!?俺たちはただ・・・」
「そんな事は知らないよ。僕は正義の味方なんかじゃあなくて、法律の味方なんだから」
それじゃあ続きは派出所で聞くよ、と言って大学生らを説得しようと試みるが、あの手この手でなんとか逃げようと大学生らは模作する。
が、そこで後ろにいた老人は全部知ってるぞ?と言わんばかりにニィと人の悪い笑みを浮かべる。
「そこの若いの、法律というものを教えてやろう。ルールを守ってる人は守れ。そんでもってそのルールを守って無いヤツは———ぶっ飛ばせ、とな」
なんて老人が言ったのが後押しになったのか、我先にとばかりに大学生たちは一目散に逃げていく。
「あっ、君たち!」
「ほっとけほっとけ、あんなのはどこの時代、どこの場所にもいるもんさ。お前も後2、30年すれば嫌でも分かるさ」
かっかっかっ、と人生経験豊富な老人はそう割り切った答えをだして笑い、それを聞いた警官は、理解はしたが納得はしてないと言う顔をして、逃げた大学生たちを見ている。
そんな悩む警官を背に、老人はシワのある顔に先程見せた物とは違う、人を安心させる笑みを浮かべて誠たちの方に歩み寄る。
「ほれ、これでそこのお嬢ちゃんは家に帰れるさ」
「「「あ、ありがとうございます!」」」
3人揃ってお礼を言えば、素直じゃのう、と笑みを浮かべる。
「何か困ったら事があったら110番じゃよ。そうすればこんなヨボヨボの爺さんなんかよりも、立派な警官が助けに来るじゃろ」
「・・・良いんですか、その、110番しても?」
誠が本当に?といった感じに聞けば、老人はハッキリと、おう、ガンガンかけなさいと言い少し安心させるように雑に頭を撫でる。
「助けを求める事は、消して恥ずかしくない。なんならワシは前に助けられたからのう。あの例の黒騎士に、な」
「・・・!」
「また会えればお礼が言いたいもんじゃの。それじゃ若いの、達者でな」
誠が驚いたように息を呑むが、老人は気にせずに、悩んでないで行くぞと、悩む警官の背中を軽くバシバシ叩いて歩き出す。
響と未来は老人たちに再度お礼を言って頭を下げてから、家に向かう。
誠も未来たちの後ろをついて行くが、一瞬だけ立ち止まって拳を握り、また走り出す。
あの老人は、誠が助けてなかったらノイズによって殺されていた人だ。
人を助けることは無駄なんかじゃない、そう図らずとも彼自身にそう証明していく。
日は進んで次の日、期限まで残り4日。
その日偶然にも、誠が教室のゴミ出しで1人だった時だ。
響たちは先に帰らせたが、気持ち早足で焼却炉まで走り、ポイっと焼却炉にゴミを入れて蓋をすると、背後から声をかけられた。
「そこを動くな黒然!」
「・・・」
無言で振り向けば、そこそこにガタイの良い男子生徒たちが誠の逃げ場を塞ぐように立つ。
数は男女合わせて10人程か。
「なんだ、何か用か?」
「なんだ?じゃねぇだろ。敵討ちだ!」
後ろからは、そーよ、そーよ!と言う女子生徒たち。
「・・・」
誠は自身の視点を一歩引かせて見る。
今、誠の目の前で話してるのが眼鏡をかけた周りのやつより少し小柄の生徒で、裏声気味に話すのが、この中での頭脳担当なのだろう。
その背後には、1番ガタイがよく、この中では1番乗り気では無い、という顔の男子生徒。
そして、よく見れば同じクラスの同級生だという事に気がついた。
(・・・とりあえず、この小柄から説得して見るか)
昨日の老人たちのように出来るかは不明だが、まずは一歩踏み出し、小柄な生徒の前まで歩く。
「とりあえず俺は無害だから、先ずは話を——」
そう言って、自分は無害だと証明するように、手を上げる。
だが、それが悪かった。
慣れない説得と言うのもあるが、どうして彼らは集団で来たのか、と言う事を誠はもう少し考えるべきだった。
この小柄な少年の頭には『コイツは人を殺したヤツだ』と言う思考がこびり付いている。
「っ———!」
故に思わず過剰に反応し、後ろに下がる。
「っ離れろ!」
その結果、集団の目には、人殺しが友達に手を出そうとしてる、と言う光景が映る。
そして、その中の仲間思いの男子生徒が過剰に反応、偶々誰かが捨てたらしい木製のバットを反射的に手に取り、そのまま近づいて来た誠に向かって振り下ろす、と言う蛮行に走らせてしまう。
「なっ・・・!?」
まさかいきなり攻撃するなんてしないだろ、と思っていた誠は驚いて身体が反応的に止まってしまい、その結果、振り下ろされたバットを避ける事が出来ず——ガン!と木製バットが頭に当たった。
——————
「っぁ———」
いつの世も、誰かが暴走し、致命的な事をやらかしてしまうと言うのはよく聞く話だ。
バットが人に当たる嫌な音、自分のくぐもった声、そしてそのまま後ろにどサリと倒れる音。
殴った本人も、えっ、と信じられないと言った感じに目を見開き、次第に自分がやった事の重大さに気付いて来たのか、体は震え、先端が赤くなったバットを落とす。
カラン、と言う軽い音がやけに鮮明に聞こえる、と何処か冷静な部分でそう思った。
そんな状況に真っ先に我に帰ったのは、俺に話しかけた小柄な少年だった。
「お、お前、何やってんだよ!?」
「だ、だって、人殺しの仲間が、お前にさ」
「だからってまだ何も言ってないし、聞いてないだろ!?」
「ちょっとヤバイよこれ!?どーするのよ!?」
その場にいる全員が夢から覚めたようにハッとなり、自分たちが殺してしまった?という思考が全員に走り、サーと血の気が引いていく。
生徒たちが言い合ってる間に、このタイミングしかない、と痛む頭で思考し、無理やり自身の体を立たせる。
「俺を、叩いて、どんな気持ちだ?」
ふらりとしつつも立ち上がり、一歩踏み込んで、生徒たちの前に立つ。
タラリと頭から少量の血が流れ、ガンガンと頭が痛む。
「血に塗れた俺をみて、嫌な気持ちになったんじゃないのか?」
言葉を紡ぐ。
誰かを傷つけて動揺してる今、間違ってる道を正すには、ここしか無い。
「人を殺してしまったって、思ったんじゃないのか?・・・後悔、したんじゃないのか?」
背中に嫌な汗が流れ、頭はガンガンに痛むが、あの時と同じ嘘っぱちの仮面を被って平静を保ちつつ、視線を周りから、バットで叩いた男子生徒に向け語りかける。
周りの目が俺から叩いた男子生徒に向き、その一瞬だけ視線が男子生徒に集中する。
たかが一瞬、だが、されど一瞬だ。
圧迫された視線に耐えきれず、小さな声で、はい、と言った。
「・・・だろ?誰だって、痛いのは嫌だ。生還者は人殺しだから、傷付けて良いなんて事はないんだ。——誰かを傷つけて平気な人間なんて何処にも居ないんだ、絶対に」
ただ真っ直ぐに言葉を紡いでいく。
綺麗事だとは理解している、世の中斜に構えた言葉の方が不思議と受け入れられる。
だが、それでも受け入れられないとしても、俺は綺麗事を吐き続ける。
「言葉だけだと、痛みになんて気付かないけど。今みたいに、こうやって間近で、今みたいに人が傷付く姿を見れば、誰だって心が痛むんだ・・・っ」
脳裏に過るのは、あの雨の日に泣いた響の姿。
一瞬だけ、グラリと体から力抜けるが、辛うじて立て直す。
血に塗れながらも、暴力に訴えずに、ただ言葉だけで伝える。
その光景に何か思ってくれたところがあるのか、生徒たちに響いたようだ。
「ど、どうするのよ?」
「そ、それは・・・」
「・・・謝らないと、いけないだろ」
ここで、今まで黙っていたクラスメイトが口を開いた。
「えっ・・・」
「誰がどう見たって俺たちが悪いだろ」
この中で唯一、謝らないといけないと言った。
「正直、この流れを作ったのは・・・作ってしまった1番の原因が俺だ。もしかしたら、怪我させたのが俺だったまであるんだから」
「山田・・・」
どうにもこのクラスメイト、もとい山田を中心に、俺の知らない何かがあるらしい。
「だって、流されるままに誰かを傷つけて、それで気持ちに整理をつけようなんて・・・。でも、それはダメだろ!?ここでなあなあに済ませて、謝らないのは間違いだろ!?」
その言葉に感化されたのか、山田の言葉が周りに伝搬していく。
「コイツは俺たちを論破しようとしてる訳じゃない。自分の正しさを見せつけようとしてる訳じゃない。暴力を奮った俺たちに怒りもせずに、諭してくれてるだろ!」
その言葉に周りがハッとなったような顔をし、その場の空気が変わっていく。
「俺たちにそれは間違ってる、って忠告してくれてるじゃ無いか!」
一気に言葉を吐いて苦しいのか、肩を上下に動かす。
ありがたい事に、誠が言いたい事を彼が代弁して言ってくれたお陰で、少しばかり休めた。
ポケットからハンカチを取り出し、少し流れた血を拭いつつ、とりあえず最後に俺が言いたい事を伝えておく。
「人を傷つけないってのは、相手の為でもあるけど、自分の為でもあるんだ。・・・こう言った事が起きないようにな」
分かったか?と言えば、は、はい!と返事をする男子生徒たちと、バツが悪そうに無言でコクリと頷く女子生徒たち。
「・・・皆は先に帰っててくれないか」
「山田、でも・・・」
「コイツは俺たちが思ってる人じゃなかったよ」
「・・・だよね」
そして1人1人、帰り際に、ごめんなさいと謝って行き、最終的に山田1人が残った。
「・・・えっと、頭の怪我は大丈夫そうか?」
「少し血が出たぐらいだけど・・・ま、念のために後で保健室行って一応ガーゼかな」
にしても、この怪我を響か未来どちらかに見せようものなら、変に心配させてしまうな。
明日ぐらいに治ってくれると助かるんだが・・・。
「で、山田1人だけ残ったのは?」
「その、・・・それやったの、俺って事にしてくれないか?」
「・・・別に、派手にこけて怪我したとでも言っとくさ。俺も、誰かを責める気はないんだから」
でも、こういうのはこれで最後にしてくれよ?と、言えば、さっきの血に濡れた姿を思い出したのか青い顔をしつつ、わ、わかったと頷いた。
「にしても、お前って結構友達思いのヤツなんだな?」
「・・・そんな事ない、あいつらが黒然を叩いた原因は俺にあるんだからさ」
俺がそう言えば、山田は表情を曇らせる。
「・・・さっき黒然を叩いたヤツが昨日教えてくれたんだ。俺の友達があのライブで、助けたやつに突き飛ばせれて殺されたらしいんだ。・・・いい奴だって知ってたから、許せないって思ったんだ。そうしたら、じゃあ敵討ちだ、って黒然に話しかけた小柄な奴が目標を決めてくれたんだ、1つの得なんてないのにさ」
で、後は人数かき集めたらあの人数になったと、彼は語る。
男の友情とはシンプルと良く言われるが、それでも時折このように面倒くさいときがある。
「でも、だからと言って人を傷つけるのは良くないだろ?」
「だよな・・・そんな事、誰でも知ってる筈なのに」
そうだな、と返しつつも、杞憂かも知れないが釘を刺しておく。
ぶっちゃけ、自身の傷は割とどうでも良いと思ってる。
自分の傷ならただ相手を許せばそれで終わるが、他の人——特に未来と響どちらかを怪我させたら。先ず間違いなくその怪我させた奴をぶん殴りにいくという自信がある。
「本当に、ごめん。俺、笑えないぐらいに、最低野郎だった」
「次しないなら、それで良いよ俺は」
暗に、次はないぞ?と含ませてそう言えば、青い顔をして、こくこくと頷いてくれた。
「じゃあ、山田も帰っていいぞ。俺はもう大丈夫だから」
「でも・・・」
「いいから、俺は平気だ。本当にヤバかったら、こんな元気に立って喋れないさ」
だから大丈夫だ、と念を押して言えば、渋々といった感じに、わかったと言い、去り際にもう一度、ごめんなさいと、頭を下げて去っていく。
そのままたっぷりと5分程待って、戻ってこない事を確認すると、どサリとその場に座り込む。
「痛っ・・・」
何とか平気だといって押し切ったが、ぶっちゃけ凄く痛い。
(てか、なんかここ最近怪我してばっかりだな俺・・・)
しかも下手すりゃ死ぬレベルの怪我をだ。
そんな自身の不幸さに苦笑しつつ、まずは保健室からかな、と思いつつフラフラと立ち上がろうし、何故か体に力が入らず、パタリと倒れ込む。
「あ———れ———」
グラグラと視界は揺れ、倒れたままの姿勢で、そのまま目蓋が閉じて行き、誰かが駆け寄る姿をボヤけた視界で眺めていると———そのままプツンと、意識が消えた。
感想欄にて、翼さんと乱闘すると言ったな、アレは嘘だ