まず先に俺がやるべき事は、この二課の地理の把握からだった。
そんな訳で二課の道先案内人は引き続き、弦十郎さんがしてくれる。
「しっかし、何処も彼処も似たような通路で、初見じゃ絶対に迷いますよこれ・・・」
あまり変わりない風景に思わずぼやくと弦十郎さんが説明を入れる。
「それはな、入ってきた侵入者を逃がさない為にわざと複雑に設計されてるんだ。まっ、最初は端末に入れておいたマップを見ながら、少しずつ把握していってくれ」
了解です、と言いつつ貰った携帯端末からマップを見つつ、頑張って二課の地形を把握に勤める。
この二課の構造は、簡単に言えば中央の丸い円状部分を中心に、通路が枝分かれしている構造になっている。
弦十郎さん曰く、慣れれば結構な数の近道がある、とは言ってはいるが・・・まぁ、そのうち覚えるだろう。
右へ左へと、片っ端から歩いては部屋に入って中の人たちに挨拶を何回も繰り返していき、気づけばだだっ広い部屋に案内された。
「ここは二課の実験場の1つで、その中でもとりわけ頑丈に作られてる部屋だな。この中なら例え戦車砲や地対空ミサイルが放たれても、余裕で耐えれるぐらいには頑丈に作られてるな」
「・・・それいくらなんでも頑丈すぎません?」
「まぁこれらの施設はシンフォギアの訓練所も兼ねてるからな。シンフォギアの性能は誠くんもよく知っているだろう?ならミサイル程度で壊れてたら話にならないって事だ」
俺の疑問を解消させるべく、弦十郎さんが答えてくれる。
さっき言ったように、この二課にあるいくつかの実験室はこのようにシンフォギアの訓練所を兼ねて作られたらしい。
施設は地下にあるので、当然ながら訓練のたびに起こる衝撃で地下の施設が歪んでしまってはいけない。
当時、この施設を作った人達曰く、無理に決まってるじゃないですかやだー!?の一言らしかったが、そこの問題は当時から二課最高の頭脳担当してた櫻井了子こと了姉が、異端技術特有の特殊な構造といった、異端技術を提供して無理矢理にクリアしたとか。
お陰で関係各所のお偉い方達は、もう全部アイツ1人でいいんじゃないかな、と言い放ち、その時のボーナスの桁を1つ増やしたとかなんとか。
まぁそう言った事もあり、この実験施設はとりわけ頑丈に作られているという事らしい。
「それは分かったんですが・・・何故に俺はジャージに着替えてあまつさえ訓練所の真ん中で準備体操をしてるのですか?」
イッチニーサンシーと足をぐいーと伸ばしつつそう聞けば、弦十郎さんは先ずは聖遺物を使った戦い方を知る事からだ、と言う。
聖遺物を使った戦い方?と頭に疑問符を浮かべていると、弦十郎さん例題を出してくれる。
「そうだな。誠、例えばだが、あるビルの真下にノイズがいると仮定して、誠はビルの屋上に居るとする。ビルの屋上から真下に降りる時、誠くんならどうやって下に行く?」
「えっと、普通に降りるかな」
「残念だが不正解だ。その場合は、下向きに全力で飛ぶだな」
「下向きに飛ぶ?」
シンフォギアのバリアフィールドの特性上、高所からの落下じゃまず死なないし、逆に落ちた衝撃で、塗装された地面の方が粉砕されてしまう。
蹴り落とされたら話は別だがとりあえずこれは横に置いておき、さっきのシチュエーションの場合だと、なるべく滞空時間を減らす、というのが目的らしい。
「あー、そう言う事・・・」
「そんな訳で誠くんがまず覚える事は、シンフォギアは人の戦い方をするものじゃないって事を覚える事だ、わかったか?」
「わかりました」
「と言う訳だ、今からギアを纏った状態での手合わせするぞ」
「・・・えっ!?」
何がと言う訳で!?という意味を込めて、弦十郎さんを見れば、何か変な事言ったか?と言わんばかりに首を曲げつつ柔軟体操を続ける。
「いやだってギア纏った状態って、下手に当たったら死んじゃうかもしれないんですよ!?」
「安心しろ、これでも結構鍛えてるからな。なに、そんな簡単には死にはしないさ」
「だからって、そんな簡単に——」
「風鳴司令はそう簡単に死にはしないと、僕もそう思いますよ」
「っ!?お、緒川さんか、ビックリした・・・」
いきなり沸いて出たとしか言いようがないぐらいに、気配もなしに自然に会話に混じってくる緒川さん。
「月並みかもしれませんが、僕が自身を持って言えるのは、この人が簡単に怪我をしてる姿は見たことないですね」
「でも流石にギア纏った状態ってさすがに危ないですよ!」
「なら試してみるか?」
弦十郎さんの言葉に、へっ?と俺が素っ頓狂な声を上げた次の瞬間、意味不明な光景を目の当たりにした。
スーツの内側から拳銃を取り出し、それを弦十郎さんに向けて不意打ち気味にぶっ放す緒川さんの姿とか。
自分に向かってきた数発の銃弾を素手で掴んだ弦十郎さんの姿とか。
そんな、意味不明な光景を一瞬のうちに見せられた。
・・・・・・・!?
「ふぁっ!?」
開いた口が閉じないし、そんな光景を見た自分の目を疑った。
銃弾を素手でキャッチした、なんて光景を見て呆然としない方がおかしい。
トリックなんて小難しい事は無く、本当にこの人は真っ正面から放たれた弾丸を素手でキャッチしてのけたのだ。
弦十郎さんが手から、少し凹んだ銃弾がカランカランと音を立ててこぼれ落ちる。
「この人は何があっても死なないと、僕は本心でそう思いますよ」
「・・・あの人、本当に俺とおんなじ人間ですか?」
ギギギ、と油の切れたロボットの如く顔を緒川さんに向けつつそう聞けば、勿論です、とにこやかに言われ、背中に冷や汗が流れるのを感じつつ、柔軟体操を終えた弦十郎さんから一言。
「さぁ、手合わせ願おうか?」
——————
訓練場で2人の男が対峙する。
片や人類最強と謳われる二課司令のOTONAこと風鳴弦十郎。
片や体に2つの聖遺物を宿す、全身聖遺物ビックリ人間こと黒然誠。
誠の実力を測るために発案実行弦十郎で行われるこの手合わせだが、当然ながら彼1人の独断ではない。
誠は知らないが隣の別室では二課頭脳担当の櫻井了子が、彼の脳波やバイタル及びその身から発せされるアウフヴァッヘン波形をチェックしていた。
「——beet up gram tron」
弦十郎と対峙した誠が静かに聖詠を口ずさむ。
シンフォギアは起動のために聖詠と呼ばれる短歌を歌う。
聖遺物ごとに聖詠は一緒だが、その人ごとに聖詠に込める思いは個人個人によって違う。
風鳴翼なら、
なら誠は聖詠にどんな意味を持たせたのだろうか。
誠の体が光に包まれる。
シンフォギア起動に伴うエネルギーが走り、彼の体を球型の黒色の光が包む。
そして黒い光は一瞬で弾け飛び、誠の姿がジャージから、黒を基調にした黒騎士姿に変わる。
「バイタル、脳波ともに正常、アウフヴァッヘン波形の増大を確認っと」
パソコンの画面には所狭しと色んなデータが散りばめられている。
眼鏡はパソコンの光で反射し、目を覗けない今の了子の状態を誰かが見れば、マッドサイエンティストに見えること間違いなしだ。
カチカチとマウスを動かして何かのデータと照合したり、パラパラと手元の紙束を忙しなくめくったり、何かを書き込んでいく。
隣の訓練場から別室に移動してきた緒川が不思議そうに了姉に問いかける。
「そのレポートは?」
「うん?あぁ、これね。今日から誠が二課に入る訳だから、ちょいと家から融合症例関連の資料をどっこいしょーと引っ張りだして、何かの参考に出来ないかなーって」
「成る程、そういう事でしたか」
緒川の小さな疑問が解消されたところで、パソコンの向こう側では誠と弦十郎の手合わせが始まっていた。
誠が攻めて、弦十郎が受けに回っている、さっきからその繰り返しだ。
状況だけみれば誠の有利だが、両者の顔色を見れば、どっちが有利か一目瞭然だ。
「にしても、本当に呆れるくらいに圧倒的ね、弦十郎くんは。私が仮に完全聖遺物を扱えても、これっぽっちも勝てる気しないわー・・・」
そう了子は呆れつつも、しっかりと画面を見て手早くデータをとっていくのだった。
炎の爆発を利用して拳と足を混ぜ込んだ高速のハイ・ローコンビネーション、そこからさらに上に蹴り上げ、そこから体を捻ってかかと落としをするが、弦十郎はこれを片手で軽く捌き、そのまま足を掴んでぶん投げる。
投げられつつも、背中のブースターで無理矢理空中で態勢を整え、右手に灯した炎を小さい球状に圧縮、それを手榴弾の様投げ、弦十郎に当たる寸前で爆発させるが、弦十郎はこれを平手の突風で押し返す。
さらに背後に炎剣と炎槍を展開、そのまま射出しするが、当たる直前に弦十郎はこれを正拳突きで相殺。
爆発が起こるが、服に少々の焦げ目がついただけで、特に怪我は見当たらない。
呆れる了子と、苦笑いを浮かべる緒川の2人。
画面の向こう側で、戦場で戦う限り無敵の男が、これまた笑えるぐらいに無双していた。
(体は熱くない、炎もちゃんと制御できてる・・・よし、これならッ!)
先手必勝とばかりに、だん!と炎の爆発を利用して、弦十郎の前に一瞬で踏み込み、ハイローコンビネーション、上に蹴り上げつつ、そこから体を捻ってかかと落とし。
ギアによって強化された拳と蹴りは、どれもこれも鉄板なんて余裕で打ち抜く威力を誇り、普通ならミンチになる事間違いなしだが、そこはOTONA、弦十郎は怯む事なくこれを片手一本で捌いて行く。
最後のかかと落としをしっかりと受け止めて、そのまま右足を掴んで後ろにぶん投げる。
「っ!?———このっ!」
驚きつつも背中のブースターで無理矢理態勢を整え、片手に炎を圧縮させて、投げる。
放たれた炎はそのまま弦十郎に迫り、そのまま爆破、命中——したと思ったら、突風が巻き起こり、爆風が押し返される。
「くっ・・・!」
さらに背後に炎剣と炎槍を作り出し——怪我するとかは最早頭から抜け落ち——そのまま一斉に射出、爆音と爆炎そして爆風が弦十郎を包み込んだ。
(やったか!?・・・いやまてやっちゃいけないだろ!?)
だ、大丈夫かな?と不安になりながら煙が晴れるの待つと、ぎょっと顔を痙攣らせる。
爆炎の中に立つ巨大な男のシルエット、両手を前に突き出し弦十郎は、服に少々の焦げ目を付けた程度で、本人は全くと言って良いほど無傷でその場に立っていた。
仮にもノイズを軽くなぎ倒せるぐらいの力を真っ正面から受けきってなおかつ無傷で立っている男、風鳴弦十郎。——もう意味がわからない。
「もう何がなんだかわかんねぇ・・・!?」
「爆発の衝撃は、発勁でかき消した」
どうやら誠が知らない何かの格闘術の応用で対処したらしい。
・・・何かおかしい気がするが、気にしては行けない、イイネ?
ジャキンと背中の翼を
「っ、らぁっ!」
だん!と踏み込み、切り上がった
右手と左手を合わせる様にして、刃物を受け止める達人技、真剣白刃取りだ。
——余談だが、柳生新陰流の無刀取りと同じものと言われる事もあるが、無刀取りは先に相手に飛び込んで、相手が勢いを付ける前に刀を取り押さえると言う、白刃取りよりよっぽど現実的な技である——間話終了。
「んなっ!?」
「猪突に任せて闇雲に武器を振るうな、近接戦の動きには、全て意味があると思って動け」
驚くのも束の間、弦十郎が体を捻ると、なす術なく突然空中に投げ飛ばされ、そのまま受け身も取れず——否、体が勝手に受け身を取りつつ地面を転がり、ブースターを吹かせて無理矢理に勢いを殺し、正面を向く。
転がってる間に接近したのか弦十郎は拳を振りかぶり、振るう。
一直線に振るわれた拳が誠に当たる——直前に拳が止められる。
しかし寸止めで止められたものの、真っ正面で発生した風圧で誠は思いっきり後方に吹き飛ばされた。
その衝撃で
勝者は人類最強の男、風鳴弦十郎で幕を下ろした。
———
「有り得ねぇこっちは仮にも聖遺物有りきで攻撃してるのに、まともにダメージ入ってなかったぞ・・・。一体どうやったらあんな人間離れした動きが出来るんですか!?」
訓練場で目覚めて1番初めに聞いたことはさっきのあり得ない動きの数々に対する大きすぎる疑問に弦十郎さんはふっと笑い高らかに答えてくれた。
「メシ食って映画見て寝るッ!男の鍛錬は、そいつで十分よッ!」*1
「言ってる事全然分からないですよ!?」
唖然としつつそう言えば、いつの間に来てたのか背後から肩に手を置き、無言で顔を横に振る了姉と、苦笑いしている緒川さん。
その反応からして2人は知っているらしいけど、あれはいくらなんでも意味不明すぎると、声を大にして言いたいッ!
「これが弦十郎くんクオリティだから突っ込むだけ無駄よ」
「なんか自信無くすよ・・・」
かくんと項垂れつつ、ここでふと学校にいる響たちを思い出し、大丈夫かな・・・なんて思っていると、突然二課内に警報が鳴り響く。
「な、なんだ?」
「これはノイズの出現を知らせるアラートよ、つまり」
「ノイズが出たッ!」
「あぁ、だが先ずは司令室で状況の確認だ、直ぐに向かうぞッ!」
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最短で走り抜けて、急いで司令室に入る。
オペレーターたちは忙しなくあっちこっちに動き回っている。
「状況はどうなっているッ!」
「現在近隣の住民は避難しましたが、まだ付近の学校には大勢の学生たちが!」
大型のモニターに映し出されるどこかの学校・・・って、ちょっと待て!?
「嘘だろ・・・なんで・・・なんでよりによって俺んとこの学校なんだよ・・・!」
あそこには響と未来がいるんだぞ、ふざけんなよノイズ・・・!?
「弦十郎さん、俺に行かせてください!」
「・・・これが二課での初仕事だ。行けるか?」
行けるかだって?それは勿論——
「行けますッ!」
「なら行ってこいッ!翼も向かわせるから、けして無茶するんじゃないぞッ!」
はいッ!と勢いよく返事をして、俺は勢いよく部屋を後にした。
感想などは随時募集中、それではまた次回までさようなら。