もう1人の陽だまりの親友   作:黒雪兎

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この小説書いてもう1年経つのか・・・、時間が過ぎるのは速いなぁ(しみじみ)



第19話

 

 誠がOTONA相手に手合わせしてる頃、響は学校で代わり映えのしない授業を受けている。

 何時もは隣にいる誠だが、今日は居ない。

 

(せーくん、早く来ないかな・・・)

 

 ぼんやりとそう考え、私って今は1人なんだと思うと、ほろりと涙が少し流れるが、その涙を制服の袖で拭く。

 誰も響の事を見てないから、泣いた事なんて気づきもしない。

 そうして時は流れて10分ほどの放課、この時間ですら、響の平穏を脅かす時間だ。

 だがそれと同時に、未来が間髪入れずにやってきた。

 

「響、行こ?」

 

「うん」

 

 未来の笑顔に、響も笑顔で返す。

 前の時より比べれば随分と自然な笑顔が戻ってきた。

 誠と未来がいてくれたからこそ、響はここまで立ち直れた。

 後はこのままの状態で過ごせればいいのだが、響が笑顔になる事を許せず、響が生きてる事が許せないと思う少女がこのクラスにいる。

 次の授業が未来のクラスと合同のため、2人で体育館に移動しようとする、その時だ。

 

「へぇ・・・。もう忘れる事にしたんだ。・・・いい笑顔だね」

 

「ッ!それは・・・」

 

「いいわよね、あんたみたいなヤツは平気であんな事を忘れられて」

 

 最初に響を非難したメガネをかけた女子生徒が泣きそうな顔をしてそう言えば、クラスの空気がピンと張り詰める。

 何ヶ月も経って萎えてきたクラスに加害の熱が再び戻り始めてしまう。

 

「本当になんで・・・なんでアンタなんかが・・・!」

 

 未来は響を庇うように動き、クラスの空気は殺気立ち、入り口付近で見ていた別のクラスの生徒もざわつき始める。

 響に向かい最大限の非難と罵倒をぶつけようとする。

 だが、それを止める者がいた。

 その男子生徒は彼女の腕を掴み、物理的に非難を止める。

 

「なぁ、もうやめないか?」

 

「山田・・・?」

 

 そう同じクラスの山田だ。

 

「こんな事したって茅根は戻っては来ないんだ。その一瞬だけはスッキリするかも知れないけど、その後なんてただ虚しくなるだけだ。誰かを殺して平気な人なんてどこにもいないんだ。・・・お前だって本当はわかってるじゃないのか?」

 

「・・・っ!」

 

 同じ友達を失い、その悲しみを共有できてると思ってた山田の行動、そしてその言葉に息を呑み、驚愕した。

 山田が響と未来の側に立ったという事に、クラスにどよめきが広がる。

 

「なんでよ・・・なんでそんな風に割り切れるのよ・・・?死んじゃった茅根くんと、立花の間に、誰かのせいって差が無いなら・・・。誰のせいでも無いって言うなら、運が悪かったとしか言えないじゃない・・・ッ!?」

 

 誰かのせいにしないと立てない少女。

 誰かのせいにしていた自分を乗り越え、立ち上がった山田。

 教室の中で相対する2人。

 一方的に生還者が非難される、そんな状況が変わりだす。

 

「そうだ。人は理不尽に死ぬんだ。・・・俺たちの友達だった茅根は、もうどこにも居ないんだ」

 

「———ッ!」

 

 山田の言葉に少女は背を向けて走りだし、教室を後にする。

 響の立ち位置的に彼女の目尻に涙が見えた。

 その涙の意味を、響はよく知っている。

 

 それ故に響の心に2つの思いが去来する。

 1つはこのまま何もせずに、彼女を追いかけはせずに、これ以上傷つかないように動かない、という気持ち。

 そしてもう1つは、彼女の後を追いかける気持ちだ。

 

(————)

 

 今日この日まで傷つけられた痛みが足を掴んで止めようとする。

 今日この日まで友達に貰った言葉が、響本来の性格が足を動かそうとする。

 その2つの気持ちは一瞬だけ拮抗。

 響は彼女を追いかけた。

 

「止まりなさい!」

 

 だが響の前に立ち塞がる者がいた。

 このクラスの生徒で、先ほど走り出した女子生徒の友達だ。

 

「お願い、そこを退いて!」

 

「いやよ!退かないわ!」

 

 響は去った彼女を追いかけたい。

 響の前に立った少女は、響と会えば確実に傷付くと分かってるから、絶対に響を通さない。

 

「どうしても行くっていうなら私が・・・!」

 

 退かない響に苛立ちを覚え、その焦りからか彼女は手を出して突き飛ばそうとする。

 彼女は気付かないが、このまま突き飛ばされると、倒れた響の後頭部が確実に机の角に当たってしまう、そんな危険な角度だった。

 

「それ以上はやめとけ」

 

 だが突き出した手をまた誰かに止められた。

 掴んだのは、別のクラスの生徒であり、山田のために敵討ちをと言い、誠を殴った少年だった。

 他人を殴って後悔し、誠の言葉で少しだけ変わった少年だった。

 

「なんで・・・」

 

「そうやって気付かずに傷つけると、後悔するぞ。・・・手に残った、傷つけた感触と後悔は、ずっと消えないんだ」

 

 血に濡れた少年の言葉が、血で濡らしたしまった少年の心を変え、傷つける者から傷つけられる者の味方に変わった。

 少年は響の顔を見て、首を縦に振る。

 ありがとうと言う意味を込めて、響も首を小さく縦に振り、彼女の脇を通り過ぎて走りだす。

 

「っ、待ちなさいよ!」

 

 だが彼女が止めても響は止まらず、そのまま階段を降りていった。

 誠を殴った少年に腕を掴まれては、響を追う事が出来ない。

 少女が諦めて改めて教室を見ると、ぎょっと驚いた。

 教室内に、響を責めない空気がそこにはあった。

 

「・・・・ねぇ、もうやめにしない?」

 

「・・・・・・やめるって、なにをよ」

 

「そりゃ、立花さんにやって来た事よ。あの子の気持ちだってさ、分からないこともないけど、もうかなり経ったし、ね」

 

「そ、それは・・・・」

 

 響たちと同じクラスの少女が、響を止めてた少女を諭そうとする。

 未来たちは知らなかったが、実を言えばこう言う光景はちらほらと学校内で見られてたのだ。

 いまだ苛烈に責める者と、それを止めようとする者がちらほらと見える。

 生還者を責めるという流行は、この学校というコミニティーの中で廃れ始めたのだ。

 

 本来なら、後もう何ヶ月も続いていたかも知れない。

 こんなにも早く収束してきたのは、こんな事が絶対的に正しくなんかないと真っ向から反発し続けた者がいたからだ。

 2人ぼっちの戦いが、ここに来てようやく身を結んだのだ。

 

「頑張って、響」

 

 響が人助けのために駆け出したのを見て、未来は応援した。

 確実に、世界は一歩一歩と変わっていった。

 空いてた窓から入り込んだ風が追い風となって響の背を押す。

 

 

—————————

 

 

 今よりまだイジメが酷く、誠と未来が響の味方と誓った日から数日経ったある日のこと、その日は誠が他のクラスから響を庇い、少しばかり傷を負ったのだ。

 

「いつつ・・・アイツら、顔面ばっかり狙いやがって・・・」

 

 殴られ、少し腫れた頬を摩りつつ2人で誰も居ない保健室に入る。

 勝手知ったるなんとやら、慣れた手つきで棚から救急箱を取り出し、傷の手当てをする。

 

「大丈夫?」

 

「へーきへっちゃらさ、こんな傷。それより、響はどこも怪我してないか?」

 

「うん、私は大丈夫だけど・・・」

 

 なにか言いたそうな顔をした響がそう言えば、なら良しと自身の治療を終えた誠が救急箱を元の位置に戻し、そろそろ家に送るかと響を椅子から立ち上がらせようと響から声をかけられる。

 

「・・・ねぇ、せーくん」

 

「なんだ?」

 

 沢山傷ついて、沢山疲れて、沢山悲しんだ。

 ボロボロになってしまった心は、諦めないという事に疲れて、頑張る事に耐えれなくなり、何もかも投げ出したい、そう考えてしまう。

 

「せーくんはさ、私の味方って言ってくれたけど。・・・もう、いいよ」

 

 そう思ってしまうきっかけは、自分のせいで大切な友達が傷ついてしまう、という事なのだから、響は本当に優しい心の持ち主というのがよく分かる。

 

「もう、私の事は放っておいていいよ」

 

 故に自分から繋がりを断とうとする。

 別に愛想を尽かした訳では無く、ただこれ以上、傷ついて欲しくないと、こんな過酷な状況なのに、響は守るためにそう言った。

 本当に境地に陥ると人の本質は見えるという。

 そして響は、本質的には他者を守る者だ。

 

「なぁ響、知ってるか?」

 

 そしてそれは、彼とて同じだ。

 

「漢字の救いってのはさ、中に求めるって入ってるだろ?これってさ、求めないと救われないって意味だと思うんだ。自分で救われたい、助かりたいって思えない人はきっと、神さまにだって救えない」

 

 左手を差し出し、しっかりと響の目を見る。

 

「俺はこうやって響に手を差し出せる。でも、この手を取って立ち上がるのは響、お前なんだ。俺は響を助けることはできるけど、本当の意味で自分を救うのは、自分なんだ」

 

「・・・救われる資格なんて、私に・・・」

 

 色んな人たちに蔑まされて、罵られ、生きる価値が分からなくなる。

 自己評価なんてとっくに地に落ちてしまい、アイデンティティなどが揺らぎ、自分が誠や未来に助けられるだけの人と思えない。

 自分に救われる資格がなんて無いのだと、そう思ってしまう。

 

「救われる資格のある無しとか抜きにしてさ、響は救われたいと思わないか?」

 

「私は・・・」

 

 差し出した手を握るか迷って、手を伸ばすのを躊躇う。

 生きたい、けれど生きていいのか分からない。

 そんな響の思いがひしひしと伝わる。

 響が手を引っ込めても、誠は差し出した手は引かず、響を見つめる。

 

「助かりたいと思うなら、手を伸ばせ!———諦めないでくれッ!」

 

「っ・・・」

 

 手を出しかけて、迷う。

 この泥沼の状況から救われたいという思いと、友達に迷惑をかけたくないという思いで心は進む事をせず、後退せず、その場で止まる。

 手は震えて、口も震え、肩が震える。

 それでも視線は彼の手を見つめる。

 五分か、はたまた十分以上か。

 沢山迷って、沢山躊躇して、沢山悩んで・・・止まった心は進み、震える手で誠の手を掴んだ。

 

 彼女の手から無言の「助けて」が聞こえる。

 

 彼はその手を無言の「助ける」で答える。

 

「響には生きてて欲しいんだ。1人になんてなろうとしないでくれ。・・・俺は、響の泣いてる顔より、笑ってる顔の方が好きだ」

 

 安心させるように誠が笑えば、それにつられて響も下手くそな笑みで返したのだった。

 

 誰もが笑っていなくとも、彼は自分から率先して笑う。

 彼が笑ったことで、自分のように、他の誰かが笑えるように。

 そんな自分になるために、頑張りたい。

 そう響は心の中で決心した。

 

 

—————————

 

 

 走っていった彼女を追いかけ、ふと目に入った時計を見れば、時間はとっくに授業が始まってる時間だ。

 急がなきゃ、そう思い、彼女を追おうとスピードを上げる————その時だ。

 

 ビー!ビー!と喧しいぐらいに警報が無情に辺りに鳴り響く。

 

「!」

 

 人を殺しにくる生きた災害、ノイズが発生した事を知らせる警報だ。

 

「ノイズだぁぁぁ!?」

「逃げろぉッ!」

「嫌ぁー!」

 

 辺りから人々の悲鳴が聞こえる。

 

「なんでノイズが・・・」

 

 そんな事を考えたところで、響にはわかる事なんて無く、ただ一つわかる事は、先に行った彼女が危ないという事だ。

 

「急がなきゃ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響がスピードを上げた時、彼女もまたノイズの出現を知らせる警報を聞いた。

 

「な、なに・・・」

 

 ドクンドクンと心臓が早鐘のように鳴り、呼吸が乱れていく。

 

「ノイズだぁ!!」

「うわぁぁぁ!?」

「逃げろぉ!!」

 

 閑静な住宅街に警報が鳴り響くと、それを聞いた住人たちが我先にと逃げていく。

 

「誰か助けてくれぇ!?」

 

「!」

 

 近くの横道から人が出てくる。

 それと同時に、背後からおたまじゃくしに似た形のノイズが、まるでお菓子に群がる蟻の如く、横道から出てきた人を押し倒す。

 

「た、たすけ——」

 

 押し倒された人が彼女に向かって手を伸ばす。

 だか、虚しくもその手は数秒と持たずに炭素の塊に変わる。

 

「ひっ・・・!」

 

 小さな悲鳴が漏れ、その場で尻餅をつく。

 先ほど一瞬で人が人だった物に変わっていく光景が、頭から離れない。

 息は乱れて、体は酸素を求めて喘ぎ、腰が抜けてその場から動けそうに無い。

 さらに追い討ちをかけるかのように、その背後からもう数体のノイズが出現。

 数体のうち一体が、アイロンのような手を彼女に向けて伸ばす。

 

 —————あっ、死んじゃうんだ。

 

 頭のどこか冷静な所がこのまま起こる事を予測、そのまま動けない彼女にノイズの手が迫る。

 触れれば死ぬという、絶対の死を突きつけられる。

 

「危ないッ!」

 

 だが間一髪の所で、誰かに引っ張られ、ノイズの手が空を切る。

 

「・・・・・えっ?い、生きてる・・・?」

 

 口から戸惑いの声が漏れると同時に、

 

「大丈夫!?」

 

 彼女を助けた、立花響の声が背後から聞こえた。

 

「た、立花、さん・・・?」

 

 彼女の顔に浮かぶのは死の恐怖。

 

「逃げるよ!」

 

 そう言うと彼女の手を引いて立たせ、2人でその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人で逃げ続け、対ノイズ用の大型シェルターの反対側にある、寂れた廃工場の前まで逃げていた。

 だが、その廃工場の入り口はシャッターで閉められ、他の道を行こうにも、その道をノイズが埋め尽くす。

 くっ!と歯噛みしてると、背後から追ってきたノイズらが囲む。

 360°逃げ場無し、完全に詰みの状態まで持ってかれた。あ

 

「・・・もう、無理よ・・・私たち、死んじゃうんだ・・・」

 

 ストンとその場にへたり込み、彼女の心を絶望が支配する。

 ノイズの手にかかれば、その涙でさえ、炭素と化すだろう。

 2人の目に映るのは、どう足掻いてもひっくり返せない絶望。

 だが、だとしても、立花響は諦めない。

 

「死なないよ」

 

 彼女を守るように響は前に出る。

 

「絶対に助けるから。だから——」

 

 何があっても立花響は諦めない。

 その胸には、天羽奏が残した言葉があるから、

 

「———生きるのを諦めないでッ!」

 

 信じれる友の言葉があるから、帰りたい陽だまりがいるから。

 膝を折られずにいる、俯かずにいられる。

 

「だから絶対に・・・絶対に、諦めないッ!諦めて、やるもんかぁぁぁぁッ!!」

 

 絶対的な敵を見据え、そんな理不尽な運命になんかに従うもんかと、響は吠える。

 物理的にも、その在り方的にも聞く耳なんて物は持たないノイズは、響たちに飛びかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして響の叫びは届き、それを耳にした黒騎士をこの場に呼び寄せた。

 

 

 ノイズの輪の中心、響たちの前に、上空から飛んできた黒騎士が着地する。

 

「黒い、騎士・・・?」

 

 響が呟くと同時に、黒騎士が左手を振るえば、響たちを中心に炎が走る。

 走る炎は響たちを燃やさず、背後から飛びかかったノイズだけを燃やし尽くす。

 黒騎士が炎を纏った右手を上に向け、射出。

 ある程度の高さまで飛んだ炎がUターン、そこからさらに分裂し、その炎はさながらスコールの如く、回りにいたノイズを残らず燃やし尽くす。

 

「す、凄い・・・」

 

 響の後ろにいる少女か感嘆の声を漏らしていると、黒騎士が後ろに居た2人を見る。

 ほっ、と黒騎士から安堵する聞こえる。 

 

(———えっ?)

 

 黒騎士とは初対面のはずなのに、どうしてだろう、

 

(———せーくん?)

 

 黒騎士の姿が、黒然誠と重なった。

 だが、その疑問が解消される前に、耳に手を当てた黒騎士はコクリと頷くと前を向き、少し響たちから距離を取ってから、背中のブースターを蒸せ、どこかに飛んでいった。

 一瞬だけ静寂が支配し、次に聞こえるは上空からやって来た救援に来たヘリの音。

 何がなんだか、響にはさっぱりわからないが、1つ分かった事と言えば、

 

(・・・正義の味方に助けられちゃった)

 

 ただ、それだけだった。

 

 

 

 

———————

 

 救助された響たちは対ノイズ用の大型シェルターまで護送された。

 そこには、先に避難していたらしい学校のクラスメイト達もいた。

 

 「あっ、響!」

 

 気づいた未来が心配そうに響に駆け寄る。

 

「良かった。怪我とかしなかった?」

 

「うん、大丈夫だったよ。ノイズには襲われちゃったけど、黒い騎士に助けられたから」

 

「黒い騎士・・・」

 

「?」

 

 響がそう言って答えれば、未来は神妙な顔をする。

 気になって聞いてみても、何でもないと言ってはぐらかされる。

 

「せーくんの方は大丈夫かな?」

 

「大丈夫だよ、誠くんなら。・・・絶対に」

 

 真っ直ぐに、そう信じて疑わないように未来は言う。

 だね、と返しつつ、ふとシェルターの入り口を見れば、誰かが出て行くのが見えた。

 

(あの後ろ姿・・・)

「ごめん未来。ちょっと行ってくる」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェルターをこっそり抜け出した響は、これまたこっそりと抜け出した彼女を追いかけ、河原にたどり着いた。

 

 響と少女はお互いに向き合う。

 出来る事なら顔を合わせずに過ごしたいと思ってしまうぐらいには、お互いを視界に入れるだけで嫌な気持ちになってしまう。

 だが2人、今のように顔を見合わせているのは、この2人の根本は分かろうとする人間だからだ。

 

「ねぇ、立花さん」

 

 少女は響に問いかける。

 

「どうして、そんな風に笑えるようになったの?」

 

 それは純粋の疑問だった。

 

「前まで、全然笑えてなかったじゃない」

 

 そんな彼女の問いに、響は微笑んだ。

 作った笑顔3割、心からの笑顔3割、隠しきれない悲しみが4割、といった感じの、頑張り屋の笑顔だった。

 

「・・・私が笑えないと、友達や家族、皆んなが心の底から笑えないんだ」

 

 ギュッと服ごと胸元の傷に手を当てる。

 

「本当はさ、笑うのがすごく辛いんだ。・・・でも、だからこそ。私は辛い時こそ頑張って笑って、へいき、へっちゃらって言いたいんだ」

 

 まだ、へいき、へっちゃらとは言えないが、それでも響は言いたいと言う。

 

「辛い時に笑えなかったら、これから先、辛い事があったらずっと笑えない。そんなの私、嫌だよ」

 

 辛い時に人は笑えないという当たり前に、響は真っ正面から逆らう。

 

「幸せの時間でも、辛い時間続く中でも、私は誰かに笑っていて欲しい。———できればそれが、家族や友達であって欲しい。私は、そう思うんだ」

 

 これが響が今日この時までに思い悩んで得た答えだ。

 その中学生らしからぬその心の強さに、彼女の心が震えた。

 

「・・・・・・笑顔、ね」

 

 あの日から、笑おうなんて全く思わなかった。

 彼女は失った痛みと悲しみで、いまだに一歩も前に進めなかった。

 

「あの日から、頑張って笑おうなんて、一回も思えなかった」

 

 彼女の脳裏には、誰も彼もがあの日以降笑えてなかったことを思い出す。

 笑えない彼女に気を使って誰もが笑っていなかった。

 

(・・・・私が、本当に大事なものを皆んなからうばっていたのね)

 

 そんな大事な事を、眼前の少女に気付かされる。

 

「・・・強いわね、立花さん。私なんかよりも、ずっと」

 

「そ、そんな事ないよ!」

 

「いいのよ。私が弱かっただけだから。・・・・・ごめんなさい、立花さん。私の事恨んでるわよね」

 

「そんなことないよ!壊れたって、また最初から、友達としてやり直せばいいだけだよ!」

 

 この事件を経て、響の懐はとても広くなった。

 少なくとも、自身が虐められる原因になった子とまた友達になろうと言うなんて、寛容にも程がある。

 

(こんな事言ってくれる彼女に、私は悪意なんかぶつけてたなんて。・・・本当、自分が馬鹿みたいね・・・)

 

 ツーと、目から涙が溢れそうになる。

 上を向いて、その涙が溢れないようにする。

 

「でも、ごめんなさい。私は友達にはなれそうにないわ。・・・・色々してきた自分が許せないから」

 

「そんな・・・・」

 

「私と立花さんは友達にはなれそうにないけれど、それでも、私たちはこうやって話して、分かりあえたと思ってる。・・・私は、立花さんに生きて欲しいと、そう思ってるわ」

 

「!」

 

 溢れた涙を袖で拭き、しっかりと響を見る。

 

「不幸になっちゃえなんて、もう思えないわ。・・・また、明日ね」

 

 そう言い彼女は河原を後にする。

 後には響1人が残り、空を見上げてポツリと、心に刻み込むように呟いた。

 

「・・・きっと、人と人が話し合えば、分かり合えるんだね」

 

 この日、響は大事なことを胸に刻み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方、私と戦いましょうか」

 

「・・・へ?」

 

 別の所。

 この日、誠は翼の地雷を全力で踏み抜いてしまった。

 





響の問題が綺麗に終わった瞬間、別の所で地雷を全力で踏み抜き、別の問題を発生させるオリ主がいるらしい()
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