もう1人の陽だまりの親友   作:黒雪兎

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第21話

ズーンと暗いオーラを出しながら、誠はやっちまった・・・と小さく呟き、二課休憩所のイスに座って項垂れ、弦十郎はどうしたものかと顎髭をさすりながら悩んでいた。

 

(・・・ふむ)

 

 弦十郎は翼の言っていた事、そして誠が言っていたことを思い返し、ここでふと思いつき、それを口にする。

 

「誠くん。君は奏の代わりになりたいのか?」

 

「え?」

 

 俯いてた顔を上げ、誠は揺れる視線で弦十郎を見る。

 翼が誠にあそこまで激怒した理由は、奏の代わりになる、と言った部分がある。

 なればこそ、そこだけはハッキリとさせないと行けないのだ。良し悪し含めて、だ。

 

「君は、天羽奏の代わりになりたいのか?君が、天羽奏になりたいのか?」

 

「———」

 

「今ここで、君の意思を聞きたい。その答え次第で、俺も腹を括ろう」

 

 弦十郎の言葉に誠は俯き、弦十郎からは誠の表情は見えない。だが、目に見えて暗いオーラのような物は消えるのが分かる。

 そして数分後、誠はなにかの覚悟を決め、顔を上げ、弦十郎と目を合わす。

 先程まで揺れてた視線が、しっかりとした芯をもって真っ直ぐな物に変わっていた。

 

「俺は———」

 

 そして、弦十郎はその言葉を聞いて、満足そうに頷いた。

 

 

 

 

 

——————————

 

 

 

 土曜日の朝。1週間ほど前から始めたトレーニングを兼ねたランニング。タッタッタと走る音をBGMに考えるのはあの日の事ばかり。

———翼さんとの騒動から今日で1週間程が経過。

 あの日の夜以降、二課内で翼さんとは一回も顔を合わせていない。学校や二課には行ってるようだが、職員の人たちともあまり顔を合わせていないようだ。

 それこそ、叔父である弦十郎さんやマネージャーの緒川さん、同性である了姉や友里さんたちとも顔を合わせないほどの徹底ぶりだ。

 

(なんであんな目に見える地雷を踏み抜いたんだ俺よ。俺の口よ、もうちょい回ってくれ)

 

 なんて思いつつも、無い物ねだりした所で意味は無い。

 空を見上げて、小さな暗いため息を吐きそうになるが、覚悟を決めたんだ、と気持ちを奮い立たせ、吐き出しかけてた暗いため息を飲み込み、気持ちを切り替えるように、走るスピードを早め、次に思い出すのは、二課内で聞いた奏さんの事だった。

 

 

 

 

「奏ちゃん?強かったわよ、そりゃもうめちゃくちゃに、ね。あの時を除けば、実戦でこれと言う決定的な『敗北』なんてのは無いんじゃないかしらね」

 

 奏さんの事は『ツヴァイウィングの天羽奏』しか俺は知らない。故にまず出来る事は『ツヴァイウィングの天羽奏』では無く、『天羽奏』と言う一個人を知ることからだった。

 

「翼ちゃんと奏ちゃんの関係?頭の方に唯一無二が付くほどの大親友、と言っても過言では無いわね」

 

 了姉に限らず色んな人たちに奏さんの事を聞いてみた。

 

「奏の嬢ちゃん事か?そうだな・・・言っちゃあアレだが、最初見た時は手負いの獣を連想させたなありゃあ」

 

 手負いの獣?と頭に疑問符を浮かべていると、それを聞いてた友里さんが、パソコンから、とある資料を見せてもらった。

 

 

———————————————

 

 

 二課にある実験室を独房代わりにし、およそ日本では見ないような拘束具を付けた天羽奏の姿。

 しかし、画面の向こうで見てた奏の、人を元気付ける笑顔はそこに無い。

 

『この拘束具を外せ!このクソったれ野郎ども!』

 

 ロクに寝れてないのか、目の下の隈は濃く、拘束具を付けられて尚暴れるその姿は、森近の言った通り、近づくものはなんでアレ、その全てを壊しかねない程の、手負いの獣(天羽奏)がそこに居た。

 その周りを取り囲むは、二課のエージェントに、研究班や前線部隊の十数名、その中には弦十郎や了子、そしてまだ幼さの残る風鳴翼の姿があった。

 

『お前ら、ノイズを殺せる方法を知ってるんだろ!?実験体だろうが試作品だって構わない!あたしの、この手で——ノイズを殺させろッ!』

 

 過去の映像とは言え、ドス黒い憎悪の感情が、肌にピリピリと伝わってくる。

 

——これが本当に、あの奏さんなのだろうか?

 

 映像の中では、幼い翼が了子の後ろに隠れ、チラリとそれを見た奏は興味を失ったように視線を巡らせ、その視線は弦十郎に向けられる。

 

『・・・ノイズの事は、俺たち二課に任せてくれ。各分野の選りすぐりのメンバーに、最先端の技術と最高のメンバーを揃えている。だから安心しろ、君の家族の仇は俺たちが———』

『ふざけた事抜かすなよオッサンッ!』

 

 膝をつき目線を合わせた弦十郎の眼前に、奏の歯が迫る。

 それを顔を少し引いて避ける弦十郎。

 拘束具を付けられてなかったら、文字通りの意味で噛み付いていたであろう奏の姿は、誠が知る奏の姿と、似ても似つかない。

 一体なにが奏をここまで変えてしまったんだ?そんな誠の疑問を解消させるように、画面の向こう側、過去の奏が口を開く。

 

『あたしはノイズを倒してほしいんじゃ無いッ!ノイズが滅びればそれで良いんじゃ無いッ!あたしが・・・あたしのこの手で家族を殺したノイズ共をぶち殺して、ザマァみろ!って言いながら、そいつら全員地獄に叩き落とさなきゃいけないんだよッ!?』

 

 その眼には、歪んだ覚悟とノイズへの憎悪だけ。

 

『家族の仇を取って欲しいんじゃないッ!家族の仇が取りたいんだよッ!』

 

『———————』

 

 弦十郎はここで奏を説得し、平和な日常に返したいと思っている。それは弦十郎のみならず、この場にいる面々がそう思った。

 だがしかし、彼女の目を見てしまった弦十郎は察してしまった。

 今の彼女には、平和な世界を自分の居場所とすることが出来ないのだと。

 

(この子は・・・いや、しかし・・・)

 

 弦十郎は迷う。

 1人の大人として、子供が地獄の道を進む事をみすみす見過ごして良いのだろうか?

 1人の人間として、彼女の覚悟を踏み躙ってしまっても良いのか?

 復讐を止めさせ、彼女を平和な日常に置くのが正しいのか?

 どれが正解なんて分かる訳なく、常識的な選択に甘えることすら許されない。

 天羽奏に残った物は、ノイズに対する復讐だけだ。

 それが無くなってしまっては、絶望し自らの命を断ってしまう可能性だってある。

 ・・・もしもの話だが、弦十郎たちが戦う力(シンフォギア )を与えなければ、最悪彼女は素手でノイズに立ち向かい、そのまま死んでしまう可能性も考えられる。

 そんな悲劇を想像させるぐらいに、彼女の瞳は黒々と燃えていた。

 

 数秒か、あるいは数十分か、弦十郎は決断する。

 

『———そうだな』

 

 再度彼女も目線を合わせる弦十郎。

 

『地獄に落ちる覚悟はあるか?』

 

『当たり前だッ!アイツらを殺せるなら、アタシは喜んで地獄に落ちてやるよッ!』

 

 彼女の変わらぬ覚悟を聞き、弦十郎はこの現実に歯噛みし自身の力の無さを痛感し、彼女の復讐を受け入れる。

 彼女の復讐を肯定し、彼女を1人にするという選択肢を捨てる。

 優しく弦十郎は奏の頭を優しく撫で、抱きしめる。

 

『———』

 

 弦十郎に優しく抱きしめられた奏は、先程のように暴れる様子は無い。

 

『平凡な暮らしを望むならそれで良い。復讐の道を進むなら止めはしない。人を守るためならこの力、幾らでも貸そう』

 

 彼が望むのは、子供の幸せ。平和な日常よまま、子供が大人になれる未来(明日)。

 

『君が幸せになれるのなら、どれを選んだって構わない。君の未来(明日)は俺が、俺たちが死んでも守ろう。———だから、これからは大人を頼れ、どんな時でも、君はひとりじゃないんだ』

 

 少女を抱きしめる彼の姿は、これからずっと変わることは無いだろう。

 

 

 

 

 ザザッと映像が切り替わる。

 時間は飛び、場所は二課の実験室。

 カランカランと奏の手から何か薬が入ってた注射器が落ちると同時に、奏が血を吐き、周りの研究者たちはドタバタと慌ただしく走り回る。

 二課内で最も危険で、最も効果の高い実験、聖遺物と人体を繋ぐための補助薬、LiNKERを用いた実験に彼女は志願し、その結果、血を吐き出した。

 

『急激なバイタル低下を確認!』

『了子くん!』

『分かってるわ!救護班、急いで気道確保!血が気管に詰まったら死ぬわよ!』

『中和剤は!?』

『気道確保チューブ持ってきました!』

 

 大量の出血を伴う多種多様な体の不具合と、純粋に体の中身が失われていくことによる生命へのダメージで、立って居ることすら難しい程だ。

 だが、奏は折れず。震える足で、視界は霞み、力が入らぬ体でなお立ち続ける。

 耳元に近づく死神の足音を聞きながら。

 

(くっそ・・・ここまで、か・・・)

 

 体が弱れば自然と心も弱くなる。

 意識は朦朧とし、体からは力が抜けていく。

 死神が奏の命を、生と死の境界線の向こう側に連れて行こうとする。

 

(・・・家族は全員死んじまった。アタシが死んだって誰も———)

 

 ドタバタと走り回る音が遠くなっていき、ついにはその膝が折れる————その瞬間、

 

『頑張れ!』

 

 自分を励ます声が聞こえた。

 

(——————)

 

 奏の耳に届く、いくつかの声。

 弦十郎の身を案ずる声、了子の気をしっかり持てという声、研究員たちの声、その全てを切り裂き、『頑張れ』と励ます声が聞こえる。

 奏が前を向けば、実験室の窓の向こう、周りが実験を止めようとする中、ただ1人奏を応援する翼の姿があった。

 

『ここで終わるつもりなの?ここで死んだら何が残るの!?』

 

 翼には奏の復讐の事は分からない。いい子の翼には、その復讐心が分からない。分からないが、それでも翼は天羽奏に生きてほしいと願う。

 その頑張りが、いつか彼女を復讐以外の道を歩んで欲しいから。

 

『こんな所で、こんな形で死なないで!生きて・・・生きて成すべき事を思い出して!だって生きてれば、生きていれば必ず、誰だって幸せになれるんだからッ!』

 

 泣きそうな顔で生きろと言い、生きてと願いながら、翼は叫ぶ。

 

(・・・あぁ、もう、そんな顔するなよ)

 

 ギリッと歯を食いしばり、自分を助け起こそうとする大人たちを振り切り、ブチリ、と首にかけてたペンダントを引きちぎり、それを握ったまま頭上に掲げ、残った片手でLiNKERの入った予備の注射器を手に取り、首筋に刺し、そして叫ぶ。

 

『うおぉぉぉぉぉぉッ!』

 

 発する声に力が乗っていき、奏の思いに槍が応える。

 

Croitzal ronzell Gungnir zizz(人と死しても、戦士と生きる)

 

 聖詠を口ずさむ。瞬間、奏に向けられてた計測器が異常な数値を叩き出す。

 

『第一段階、第二段階、第三段階突破、適合係数・・・適合ラインを突破!』

 

『コレはまさか・・・!気力だけで限界を超え、ガングニールがそれに答えたと言うのか!』

 

 ペンダントが分解され、光が奏の体を包み込む。

 天羽奏は、ガングニールに選ばれたのだ。

 

『コレが、アタシの力・・・アイツらを殺す為の、アタシだけの、絶対的な力だッ!』

 

 あまり手入れはされてなくボサボサの赤い髪とオレンジ色の服色は燃え盛る炎のようだ。

 視線を下に移していくと、次第にオレンジ色から黒色に変わっていき、見た人に燃え尽きた灰をイメージさせる。

 そして、その手に握るは彼女の身長程の大きな槍。

 

『ガングニール、適合しました!数値、未だに安定してます!』

 

 喜び上がる研究者たちの声を聞き、了子は心の底から賞賛の声を奏に向ける。

 

『貴女が世界で2番目、第二種適合者よ。・・・本当におめでとう、天羽奏』

 

 声を出す余裕すら無いのか、皆に向かってただただサムズアップする奏に、了子は拍手するのだった。

 

—————————

 

 二課の人たちから俺は奏さんの事を聞いた。

 

 奏さんの強さ、人柄、そしてその生涯。

 

 色んな人たちに聞けば聞くほど、本当に奏さんは凄かったのだと理解していき、そりゃあんなに激怒するよなと言うことに結局はそう行き着く。

 

——————黒然誠は天羽奏では無い。

 

 そんな当たり前の事が、今はとても大きく感じる。

 

「壁はデカイ、か・・・」

 

 なんて走りながら呟いていると、ブー、ブー、とポケットから音が鳴り響いた。

 んっ?と立ち止まり、スマホを見れば了姉からのようだ。

 

「ハイハイ、どったの了姉?」

 

『誠、二課に来てちょうだい。緊急の招集よ』

 

 

 

「巨大な聖遺物が納められた遺跡?」

 

「そうよ、しかも飛び切りド級のヤバい代物よ」

 

 そんなこんなで了姉に呼ばれ、二課にあるレクリエーションルームで開口1番に話すは、聖遺物が収められた遺跡の話。

 この場に弦十郎さんと了姉、二課のオペレーターたち、そして翼さんと俺が集められた。

 了姉の言葉に俺は首を傾げつつ聞けばそう聞けば、了姉は頷き話を続ける。

 

「この巨大な聖遺物の正体は『ゴーレム』と呼ばれる人型に近い兵器のことよ」

 

「ゴーレム?」

 

「ゴーレムって言うのは先史文明が残した完全聖遺物の総称と言ったところかしらね」

 

 ピッと、端末を弄ればモニターの映像が切り替わる。

 そこに映るは遠くから撮影されたであろう、女性の形をした巨大な氷像だ。

 大きさは大体10mほどだろうか?無機物でありながら、美しい女性を思わせる扇情的な形を描き、けれでも所々の造形は清楚な女性を思わせる不思議な作りだ。

 更にその体には女王を思わせる白色のドレスを着込み、頭とドレスには氷の剣を象った飾りが付いている。

 芸術に疎い俺でも、キレイだと感じた。

 

「キレイ・・・」

 

「ええそうね。けれども、キレイなモノが無害とは限らないわよ?———このゴーレムの名はリリティア、遺跡に書かれてた文献によれば、低温を操るゴーレムで、別名『氷の女王』『霧氷大后』とも呼ばれるわね。これ一騎の出力は現在二課で運用してるシンフォギアの4〜5倍以上出力を誇るわね」

 

「4〜5倍以上・・・流石先史文明、デタラメですね」

 

 友里さんの言葉に了姉も呆れたように、でしょ?と答える。

 仮にそんなモノが世の中の悪人の手に渡ってしまうと考えると背筋にゾワリとしたモノを感じる。

 嫌な想像をし軽く身震いしてると了姉から弦十郎さんに話しが変わる。

 

「さて、こっから本題だ。今日皆に集まってもらったのは他でも無い。このゴーレム『リリティア』を二課で確保しろとの事だ。現地には翼と誠くん、友里くん、森近を向かわせる。上手くいけば日帰りで済む、ぐらいの気持ちで頼んだ。それとだが、遺跡付近の温度が例年より10℃を下回っているらしい、各自上着の用意などを忘れずに」

 

「分かりました」

「・・・了解です。それでは準備が出来次第向かいます」

 

 翼さんは話はこれで終わりだと言わんばかりに部屋を後にし、一瞬だけ俺と目が合うと直ぐに目を逸らし、部屋を後にする。

 相変わらず嫌われてるがコレばっかりは仕方ない。

 

「・・・さて、俺も準備するか」

 

 あんまり遺跡が寒く無いといいが・・・。

 




ゴーレム自体の元ネタはワイルドアームズの8体のゴーレムよりお借りしました。
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