会場の一部が爆発すると同時に、上から槍のような何かが降って来た。
しかもそれは1本ではなく、何十、何百と降り注ぐ。
降り注ぐ槍に人が刺される、瞬間、10秒と持たずに刺してる槍ごと人が炭素の塊になる。
更に中央部には大きな虫の形をした何かが地中から出て来た。
それを会場にいる全員が認識すると誰かが叫んだ。
「ノ、ノイズだー!?」
「うあぁぁぁぁ!?」
「た、助けてくれぇー!?」
たちまち会場はパニックになり、観客たちは我先にと出入り口に流れこむ。
その間にもノイズに触られた人たちが、助けて、死にたくない、などと悲鳴が辺りに響き渡る。
————ノイズ。
一体いつから現れたかは知らないが、それは人類だけを襲い、触れた人を自分諸共、炭素の塊に変え、分解してしまう、特異災害の総称である。
それだけでも恐ろしいのに、ノイズには普通の武器などが効かず、出会ったが最後、ノイズが自壊するまではただひたすらに逃げるしかない。
「せ、せーくん!」
響は震える手で俺の袖を掴む。
「っ、響!そのまま俺のバックを掴め!今離れたら合流できる気がしない」
「う、うん分かったよ!」
俺が急いでそう言うと響はギュッとバックを掴む。
掴んだのを確認すると、俺たちは人波に逆らわずゆっくりと移動・・・しようとするのだが、人があまりにも押し寄せて先に移動ができない。
せいぜい後ろに下がるしかない。
「すまん、少し後ろに下がるぞ」
コクリと響は小さく頷き、2人で少しばかり後ろに下がる。
一応スペースができたので最悪ノイズが来ても避けれる・・・はず。
(クソッ!急がないと危ないってのに!)
ギリッと歯噛み、心臓がドクンドクンと早鐘のように鳴り、そのせいで余計に気持ちが焦る。
————ここでふとバックから感じている手の震えがピタリと止まるのを感じる。
少し疑問に思い響を見てみれば、響は何かに見惚れるかのように動かなかった。
その視線の先には大量のノイズ———そして、耳に伝わる歌と共にそれに果敢に立ち向かう2人の女の子、あれは・・・
「翼さんに、奏さん・・・?」
しかもよく見れば先ほどステージで着ていた服ではなく、まるでノイズと戦う為にあるかのような衣装に変わっていた。
そして何より、その手には刀と槍が握られていた。
翼さんがオタマジャクシに見えるノイズたちを縦に横にと断ち切っていき、奏さんの手に握られた槍の穂先が回転し竜巻ができる。
「うおりゃぁ!!」
それを奏さんは両手でしっかりと握り槍をノイズに向けてぶん回し、小型のノイズと大型のノイズを蹴散らしていく。
「す、凄い・・・」
惚けたように呟く響。
確かに凄いが・・・何だろう、まだ余裕そうな顔の翼さんに比べて、奏さんには少しばかり余裕が無いように見えるのは、俺の気のせいだろうか?
「って、惚けてる場合じゃな—————!?」
「うわわわ!?」
突然足場が崩れ、体がフワリと浮く。
反射的に響を抱き抱えると一瞬にして俺の体は地面に叩きつけられ、俺たちはゴロゴロと何回も転がり、崩れた壁にぶつかりようやく止まる。
体は痛み、ツーと頭から何かが流れる。
どうやら先ほど転がった時に頭を少し切ったのか血が流れたようだ。
(響は・・・良かった、怪我はなかった)
ほっと胸を撫で下ろし、とりあえず血を拭う。
血が出てるが、まぁ直ぐに止まってくれるだろう・・・こんな大怪我でもすぐに治ってくれるかは分からないけど。
「・・・大丈夫か?」
と下にいる響にそう聞く。
響は目を開けて俺を見ると、サァッと顔が真っ青になる。
「せ、せーくん血、血を止めないと!」
急いでハンカチを取り出すが、それを止めて後ろを指差す。
響が視線を後ろに向ければ、両手を三角のアイロンの形にしたような人の形をしたノイズが数体こちらに向けて走りだす。
「まず先に、逃げるぞ響」
「っ・・・う、うん」
未だに叩きつけられた衝撃で体中に痛みが走るが、それでも体に鞭打ちながら立ち上がり、急いでそこから逃げだす。
だが体へのダメージは深刻だったのか動きは緩慢になってしまい、このままだと俺たち2人共・・・と最悪の未来が頭をよぎるが、駆けてきた奏さんが手に持つ槍でノイズをかき消し、切迫詰まったように言う。
「駆け出せ!」
「っ!」
急いで離れようとすると同時に、逃がさん、とばかりにノイズは形を槍のように変え、俺たちを殺そうと突撃してくる。
「ぐぅっ!」
それを、苦しそうな声を上げるが、奏さんは槍を回転させ俺たち当たらないように守る。
ピシッ、と嫌な音が鳴り、ヘッドギアや手に持つ槍などにヒビが入る。
「奏!」
こちらとは反対側にいる翼さんが向かってくるが、まるでこの先には行かせない、とばかりに小型ノイズが道を塞ぐ。
大型ノイズが固形化した霧のようなそれを吐き出したそれを奏さんは身を呈して守るが、駄目押しとばかりにもう一体の大型ノイズが同じもの吐き出す。
「っ、う、おぉぉぉぉぉ!!」
バキバキッと先ほどより嫌な音が鳴り、耐えきれなくなったのかパーツの一部が後ろにいる俺たちの方に飛んできて——————-
ザシュと胸の辺りから音が聞こえると同時に壁に叩きつけられる。
「————え————あ—————?」
視界がぐちゃぐちゃになり、自分が今上下左右どちらを向いているかわからなくなり、しかも視界は半分程しか開けれず、体中に激痛が走りダラリと血が流れ出ている。
しかも俺の胸の辺りには小さな機械の破片が刺さっているのが見える。
「————ひ———び———き——?」
体は動かないので頭だけで響を探せば、響は直ぐ隣にいた。
だが、服は胸からの出血で赤く染まり、その目は閉じられていた。
多分、俺も似たような状態だろうなとどこか他人事のように感じる。
——————体の内側から、パキパキと音が聞こえる。
なんだ?と思い見てみれば、胸に刺さった機械がドンドン俺の中に入ってくるのが見えた。
——————そのパキパキっという音は咀嚼音にも聞こえる。
自分の体に異物が入ってきて、さらに激痛が走り・・・なんだか、瞼が重くなってきた。
目がチカチカし、瞼は重くなっていく。
「おい死ぬな!目開けてくれ!」
ゆさゆさと揺らされる。
この声は・・・奏さんのようだ。
視界は相変わらずチカチカと光って奏さんの顔があまり良く見えず、体の内側から聞こえる咀嚼音は止まらない。
(・・・もうすぐ・・・死ぬ・・・のかな・・・?・・・約束、守れなさそうだ・・・未来・・・ごめん・・・)
最後に心の中で未来に謝り・・・・・全てを諦め瞼を閉じた時、奏さんの声が聞こえる。
「生きるのを諦めるな!」
(————————)
その言葉が聞こえ、少しだけ意識が戻り、目を開ける。
奏さんの顔が見える。
最初はほっとした顔になり、数瞬目を閉じ、そして開き、優しい眼差しをこちらに向ける。
「いつか心と頭、全部空っぽにして歌いたかったんだ。今日はこんなにも、沢山の連中が聞いてくれるんだ」
そう言い奏さんは背を向け地面に落ちてた槍を手に取る。
「だからあたしも出し惜しみ無しでいく。・・・とっておきを、くれてやる」
ボロボロになった槍を上に掲げる。
「絶唱」
その言葉にはどれだけの思いが込められていたのか、今の俺には何もわからなく、1つだけ分かると言えば、その頰に、涙が1つ流れてた。
—————そして、歌が紡がれる。
「Gatrandis babel ziggurat edenal」
「いけない奏それを歌ってはダメー!!」
奏さんの歌を翼さんが止めようと、駆け出す。
「 Emustolronzen fine el baral zizzl」
歌い上げるたびに、奏さんの体から、血が流れる。
「Gatrandis babel ziggurat edenal」
「・・・歌が・・・きこえる・・・」
それはまるで、自分の命を燃やすかのようにそれを歌い、槍に力が宿っていく。
「Emustolronzen fine el zizzl」
————そして、奏さんはそれを歌い切る。
瞬間奏さんを中心とし、渦状のエネルギーが発生する。
眼前の、大量にいるノイズに向けそれを発射。
大型小型のノイズ諸共全部まとめて薙ぎ払う。
逃れる術は無く、数秒とかからずノイズはこの場から全て消滅する。
(倒し、た、のか・・・。じゃあ・・・助かる、のかな・・・)
そう思い、安心したのか、瞼は急に重くなっていき、周りからの音も聴こえなくなっていく。
「ーーー!ーーーー!」
翼さんは必死になって、奏さんを抱き抱えながら何かを言っている。
・・・翼さんの目からは涙が流れる。
ジジジッと意識が断絶し、これ以上は開けてられない。
瞼が閉じられる寸前、翼さんの腕からかき消されるように、奏さんは消えてしまうのが見えたのを最後に、プツンとテレビの電源を落とすかのように俺の意識は暗転した。
翼さんがライブをすると、決まって何かしら大事件が起こる。
そして主人公の体から聞こえる不穏な咀嚼音、いったいなんなんだろうなー(すっとぼけ)