ようこそ最強の双子がいる教室へ   作:スプラッシュ

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競争

 学校二日目、授業初日ということもあって、授業の大半は勉強方針等の説明だけで終わった。

 

 4限目が終わり、昼食の時間。各々が顔見知りになった連中と食事を始める。

 

「平田、学食行かないか?」

 

 学食というものに少し興味がある俺は平田を誘うことにした。初めは清隆を誘おうと思っていたのだが、兄弟ずっと一緒に行動するのも変だと思いやめておいた。

 

「うん、いいよ」

 

 平田は笑顔で了承する。うん、イケメンだ。

 

「ねえ平田くんと綾小路くん、あたしたちも一緒にいい?」

 

 突然、女子グループが参戦しようとしてきた。こいつは確か、軽井沢だったか。その後ろには隣の席の松下や森、佐藤、篠原といった、学校二日目にして既にカーストの上位に居座ってるメンツが揃っていた。

 

「僕は構わないよ」

 

 平田は女子相手にも安定の爽やかスマイル。うん、イケメンだ。

 

「俺も大丈夫だ」

 

 特に断る理由もない。人数が増えるのはいい事だしな。それに、女子ともそれなりに交流を深めていきたい。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 食堂に着いた俺たちは各々食べたいものを頼み席に座った。幸いまだ混み始める前で、すんなり座ることができた。

 

 昼食を食べながら談笑する。なんだか高校生っぽいことをしている。

 

「綾小路くんってもう1人いるじゃん?あれって兄弟?」

 

 いつか聞かれるだろうなと思っていたことを聞かれた。

 

「ああ、あれは双子の弟だ」

 

「それって昨日の自己紹介でやらかしてた子だよね。ちょっと暗めな」

 

 自己紹介のことは触れてやるな。

 

「やっぱりそうなんだね。それだと綾小路くんって言うのは少しややこしいかな。和冴くんって呼んでもいいかい?もちろん僕のことは洋介でいい」

 

「ああ、大丈夫だ。洋介」

 

「あたしもいい?和冴くん」

 

 もう読んでんじゃねえか。

 

「いいぞ。というより、こっちとしても和冴って呼んでくれる方が助かる」

 

「じゃあ私も!」

 

「私も和冴くんって呼んで良い?」

 

 他の女子たちも便乗してくる。そんな確認をしなくても勝手に呼んでくれればいいのに。

 

「でも、双子揃って同じ高校に進学するなんて、よっぽど仲が良いんだね」

 

「俺たち以外の双子を見たことないから基準が分からないけど、仲は良い方だな。小さい頃からずっと一緒だし」

 

「僕は一人っ子だから仲の良い兄弟がいるのが羨ましいよ」

 

 洋介は兄弟がいないのか。あまり意味の無い情報だが一応頭のノートにメモをする。

 

「それにしても、双子なのに和冴くんと和冴くんの弟って全然似てないよね」

 

「そうか?」

 

「んー、顔はパッと見似てた気がするけど、雰囲気っていうか、和冴くんは明るくて話しやすいけど、あっちは根暗で陰キャって感じじゃん。自己紹介の時もコミュ障丸出しだったし」

 

 だから、自己紹介のことは触れてやるな。

 

「まあ、確かに、清隆は無表情だし根暗っぽいと思うかもしれないけど、あいつは感情を表に出すのが苦手なだけで結構ユーモアな部分もある面白い奴だぞ」

 

「へー、そうなんだ。あんまり想像出来ないかな」

 

 どうやら、この女子たちの清隆に対しての評価はかなり低いようだ。自己紹介でミスるとこうなるのか。自己紹介恐るべし。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 早朝、目覚ましの音で目を覚ます。顔を洗い寝ぼけた体を覚醒させ、朝のランニングのために動きやすい格好に着替え部屋を出る。せっかく今まで鍛えた体を運動不足で鈍らせるわけにはいかない。

 エレベーターの前に着いた俺は、ボタンを押してエレベーターが降りてくるのを少しの間待つ。

 

 エレベーターは1分も掛からずに到着した。てっきり誰も乗っていないと思っていたが、ジャージ姿の女子生徒が乗っていた。

 

 見覚えのない生徒だ。恐らく他クラスの人だろう。

 

「あんたもランニングか?」

 

 この時間にジャージ姿で外に出るなんて十中八九ランニングだろうが、他クラスの人とも親睦を深めるために話の種として尋ねる。

 

「だったら何?」

 

 なかなかキツそうな奴だな。

 

「一緒に走らないか?」

 

「は?なんであんたと一緒に走らなきゃいけないの」

 

「誰かと一緒に運動する方が運動の効果は上がるらしいぞ」

 

「遠慮する。私は自分のペースで走りたいから」

 

 まあ、知らない奴にいきなり誘われて簡単に頷く奴なんてそう居ないわな。

 

「安心しろ。お前のペースに合わせて走ってやる」

 

 だが俺は引かない。あえて煽るような言い方をする。

 

「なにそれ。癇に障る言い方ね」

 

 おっ!簡単に乗ってきた。面白いなこいつ。

 

「俺は男だからな。さすがに女には負けないぞ」

 

「いいわ。だったらどっちが速いか勝負しない?」

 

『ピンポーン』

 

 エレベーターが1階に到着し扉が開く。

 

「勝負?」

 

「まさか逃げるなんて言わないわよね」

 

 さっきのお返しのつもりか?幼稚だな。

 

「別に構わない。ルートはどうする?」

 

「ここから学校まで。どう?」

 

 ここから学校までは約400mってところか。

 

「問題ない」

 

「負けたらジュース一杯奢りね」

 

「いいぞ。あっ、そういえば名前をまだ聞いてなかったな」

 

「それ今聞く?」

 

「聞くタイミングがなかったんだよ。俺はDクラスの綾小路和冴だ」

 

伊吹澪(いぶきみお)。Cクラス」

 

 伊吹と名乗るその女子生徒は軽く準備体操を始める。俺も軽く体をほぐす。準備体操をせずにいきなり運動するのは危ないしな。

 

「それじゃあ始めるか」

 

「合図はそっちがやっていいわよ」

 

「了解」

 

 俺と伊吹は適当にスタートラインを決め、そこに並ぶ。

 

「それじゃあ、位置について、用意、ドン!」

 

 合図とともに俺と伊吹は地面を蹴る。

 

 スタートダッシュはほぼ同時で、最初の50mくらいまではほとんど差はなかった。しかし、そこから俺が少しギアをあげる。伊吹も頑張って食らいつくが、どんどん差が開いていく。結果は、約10秒差で俺の勝利となった。

 

「俺の勝ちだな」

 

 俺がそう言うと伊吹は膝に手をつき、呼吸を整えながらこちらを睨む。

 

「どうした?」

 

「あんた、手を抜いてたでしょ」

 

「どうして手を抜いたって分かるんだ?」

 

「息、全く切れてないわよ」

 

 どうやら、伊吹は俺が手を抜いて走ったことが気に入らないらしい。

 

「お前のペースに合わせるって言っただろ」

 

 息を整え終えた伊吹は自販機がある方へ向かう。

 

「アクエリでいい?」

 

 そう言ってペットボトルを投げつける。

 

「ああ、サンキュ」

 

 それを片手でキャッチし一口だけ飲む。

 

「ねえ、毎週ここで勝負しない?私が勝つまで」

 

「別にいいけど。何年かかんだよ」

 

 下手すりゃ一生かかるぞ。

 

「このままじゃ私の気が済まない」

 

 よっぽど俺に手を抜かれたことが不服だったようだな。

 

「そうか。それじゃあ毎週水曜日、5時半にロビー集合でいいか?」

 

「ええ。今年中に終わらせる」

 

 何言ってんだこいつ……って思ったが目がガチだ。相当悔しかったんだな。

 

 こうして、毎週水曜日に伊吹と勝負することが習慣となった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 学校に登校すると、教室がいつにも増して騒がしかった。

 

「おはよう、洋介。今日はやけに騒がしいな」

 

「おはよう。今日は水泳の授業があるからね。みんなテンションが上がってるようだよ」

 

 ああ、そういうこと。

 

 耳を澄ますと池や山内が女子の胸の大きさで盛り上がっていた。

 興奮するのは分かるがもうちょっと自重しろよ。女子がドン引きしてるぞ。

 

 ……って、あれ?なんで清隆もその中にいるんだ?

 

 いや、そんなはずはない。きっと気のせいだろう。あの清隆がそんなくだらないことに参加するはずがない。

 俺は1度目を擦り、改めてその集団の方を見る。

 

 うん、あれはどう見ても清隆だわ。清隆ってそういうのに参加するのか。双子の意外な一面を垣間見た瞬間であった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 昼休みが終わり、待望の水泳の授業がやって来た。

 

「うひゃあ、やっぱこの学校はすげぇなぁ!街のプールより凄いんじゃね?」

 

 50Mプールを見るなり、池が声を上げる。

 

 相変わらず騒がしいやつだ。

 

 しかし、確かにこのプールは凄いな。水は澄んでいて綺麗そうだし、プール自体も屋内にあり天気の影響を受けることもない。

 

「うわ〜。凄い広さ、中学の時のプールなんかより全然大きい〜」

 

 俺たち男子と違って女子は着替えるのに時間がかかるのだろう。女子たちは俺たちより少し遅れてやってきた。

 

「キタァァァァ!」

 

 池が叫ぶ。その様子を見た女子がゴミを見るような目で池を見ている。池、お前の狙いがようやく分かったぞ。あえて女子から嫌われるような行動をとり、汚物を見るような視線を向けられることに興奮を覚えているんだろ?お前、なかなかの策士だな。

 

「やっほ、和冴」

 

 池の性癖を考察していると、背後から声をかけられる。

 

「よお、松下。お前はちゃんと授業に出るんだな。俺はてっきり、軽井沢たちと一緒に見学するものだとばかり思ってた」

 

 松下千秋(まつしたちあき)。席が隣ということもあり、俺がDクラスで1番仲が良い女子生徒だ。

 

「あれと一緒にしないで。私そんな不真面目じゃないから」

 

「そうなのか?その割には授業中は結構軽井沢と喋ってたりしてるけどな」

 

「軽井沢さんが話しかけてくるから仕方なくね」

 

「お前、軽井沢のこと嫌いなのか?」

 

「別に嫌いではないかな。ただ、軽井沢さんのあからさまな女王様キャラはあんまり好きじゃない」

 

 なるほどな。まあ、あのキャラを好きになる人の方が珍しいだろう。

それにしても、女子というのはよくもまあ友達の愚痴を躊躇なく言えるもんだ。1度女子の世界を見学してみたいものだな。

 

「よーしお前ら集合しろー」

 

 マッチョな先生が集合をかけ授業が始まる。

 

「見学者は16人か。随分と多いようだが、まぁいいだろう」

 

 殆どがサボりだろうな。

 

「早速だが、準備体操をしたら実力が見たい。泳いでもらうぞ」

 

「あの、先生、俺あんまり泳げないんですけど……」

 

 1人の男子が、申し訳なさそうに手を挙げる。

 

「俺が担当するからには、必ず夏までには泳げるようにしてやる。安心しろ」

 

「別に無理して泳げるようにならなくてもいいですよ。どうせ海なんていかないし」

 

「そうはいかん。今はどれだけ苦手でも構わんが、克服はさせる。泳げるようになっておけば、必ず後で役に立つ。必ず、な」

 

 何だか意味深な言い方だな。

 

 先生の指示に従い全員で準備体操を始め、それが終わると体を慣らすために50Mほどを軽く泳ぐ。

 

「とりあえずほとんどの者が泳げるようだな」

 

 全員が泳ぎきったのを確認した後、先生が言う。

 

「早速だがこれから競走をする。男女別50M自由形だ。1位になった生徒には、俺から特別ボーナス、5000ポイントを支給しよう。1番遅かった奴には、逆に補習を受けさせるから覚悟しろよ。女子は人数が少ないから、5人を2組に分けて、1番タイムの早かった生徒の優勝にする。男子はタイムの早かった上位5人で決勝をやる」

 

 5000ポイントか。学校側からポイントを景品にしてくれるとは、なかなか太っ腹だな。

 

 まずは女子からスタートということで、男子はプールサイドに座り女子を応援する。

 

 まずは第一レース。5コースに松下、2コースには堀北がいる。

 

「頑張れよー、松下」

 

 俺がエールを送ると松下は軽く手を振って応える。

 

 笛が鳴り、5人が一斉に飛び込む。

 

 友人ということもあり松下を応援していたが、結果は最初から最後までトップを譲らなかった堀北が1位となった。28秒という好タイム。あれには勝てんな。

 

 続いて第二レース。注目は4コースの櫛田桔梗(くしだききょう)だろう。入学式から数日しか経っていないにも関わらず、既にクラスのアイドル的存在となっている生徒だ。

 

 第二レースの試合展開は一方的なもので、水泳部の小野寺がぶっちぎりでゴールした。タイムは26秒で女子総合優勝となった。

 

 女子のレースが終わり続いては男子の番。

 

「清隆、1位狙うのか?」

 

 第一レースで泳ぐ清隆に声をかける。

 

「いや、あまり目立ちたくはないし、中堅くらいを狙う」

 

「そうか」

 

 なんだ、清隆は本気で泳がないのか。それじゃあ張り合う相手も居ないしつまんねえな。まだ須藤とはましな勝負が出来るかもしれないが、それでも須藤の実力なんてたかが知れてる。これは5000ポイントは頂きかな。

 

 というふうに、さっきまで思っていたんだが、第三レースにとんでもない化け物が潜んでいた。

 

 高円寺六助(こうえんじろくすけ)、高円寺コンツェルンの一人息子。変な言動が多い生徒で、クラスでもかなり浮いた存在だ。本人は全く気にしていないようだが。

 

「23秒22……だと」

 

 タイムを切った先生が、思わずストップウォッチを二度見する。

 

「いつも通り私の腹筋、背筋、大腰筋は好調のようだ。悪くは無いねぇ」

 

 プールサイドに上がってきた高円寺が髪をかきあげ、笑みを浮かべる。息が全く切れていない、恐らく、まだ本気ではないのだろう。

 

 そして第四レース。俺の番だ。

 

「和冴くん、頑張ってね」

 

「和冴、頑張れ」

 

 洋介と松下からエールを貰いスタート台に向かう。

 

 ゴーグルをはめてスタート台に立つ。洋介ほどではないがそれなりの歓声を貰う。男子の中での序列は洋介の次くらいか。

 

 スタートの笛が鳴り、スタート台から飛び込む。

 

 決勝の高円寺との勝負のためこのレースは軽く泳ぐ。

 

 50Mを泳ぎ切った俺は水面から顔を出してタイムを告げられるのを待つ。

 

「23秒42……どうなってるんだ今年のDクラスは」

 

 23秒42か。今回は高円寺に負けたがまだ決勝がある。そこで決着をつけてやる。

 

 それにしても今、先生が気になることを言っていたな。今年のDクラスがなんとかって。気になるが、今はどうでもいいか。

 

 決勝のメンバーは俺、洋介、高円寺、須藤、三宅の5名となった。

 洋介や須藤、三宅には申し訳ないがここは俺と高円寺の一騎打ちだろう。5000ポイントをゲットするのはこの俺だ。

 

 笛の合図で、一斉に飛び込む。

 

 思った通り、このレースは俺と高円寺が他の3人より抜きに出る。

 速さはほぼ同等。俺が高円寺を追い越し、追い越した俺を高円寺がさらに追い越す。ずっとその繰り返し。ターンの速さもさほど変わらない。俺と高円寺はほとんど同時に壁をタッチする。

 

「先生、タイムは?」

 

 誰かが先生に尋ねる。

 

「綾小路……21秒26、高円寺……21秒24」

 

 先生からタイムを告げられると同時に歓声が響きわたる。

 

「私に本気を出させるとわね、なかなかやるではないか」

 

 高円寺がいつもの笑みを浮かべながら話しかけてくる。

 

「本気?俺にはお前が手を抜いているように見えたけどな」

 

「それは君も同じだろう?」

 

 こいつは俺が思っているより凄いやつなのかもしれない。高円寺か……清隆の他にもあんな化け物がいるとはな。

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