fate/Dendrogram   作:ジェノサイダーわさび

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 私、アルトリア・ペンドラゴンは広がる景色を前に、私は呆然と立ち尽くしていた。

 何処までも広がる草原。吹くそよ風は草花の匂いを運んでくる。遥か彼方には高く聳える山々も見える。

 背後には見上げる程巨大な城壁。街へ繋がる門は解放されており、多くの人々が行き交っている。見張りらしい二人の騎士は特に出入りの手続きをしていない。恐らくはそのまま入って問題ないだろう。

「なんとも……凄まじいリアリティですね」

 思わず、感嘆が漏れた。

 人々の表情、朝露に濡れた足元の草、空を流れる雲──これらが、なんと全てゲームの映像だ。

 これはinfinite Dendrogram。つい数日前サービスが始まった、ゲームの世界。

 

 

 

「兄さん、これは一体?」

「見たらわかるだろ? VRゲームの機器だよ」

 7月20日。通っている全寮制の中学校も夏季休暇に入り、久々に自宅に帰った私は、制服から着替える間も無く箱を押し付けられた。

 玄関からリビングルームに入って早々、VRゲームの機器(infinite Dendrogramと言うらしい)を手渡したのは、兄であるケイ。ひょろりと長く伸びた背丈に、オーダーメイドのスーツを纏っている。そしてもう大学生であるというのに、悪戯に成功した子供のようにニヤニヤと笑っている。

「そんなことはわかります。私が聞いているのは、なぜこれを私にくださったのか、です」

 再度問えば、ケイ兄さんはようやく説明を始めた。

 これは5日前発売されたばかりのゲームだと言う。cmで開発者が語った内容はどれも現行の他のVRゲームを置き去りにするものであり、信用はならないものの試しで買ったらしい。

「面白そうだから買ったはいいものの、俺はやらなければならない仕事が忙しくてな。ゲームをする暇がなさそうだ。だからといって放っておくのも勿体無い。そんなわけでお前にくれてやることにした」

 ペンドラゴン家は代々UKに根を張り、複数の地元中小企業から成る企業連合の会長を務めてきた。しかし、今は古くからの系列企業も、海外の進出してきた同業他社にシェアを奪われつつあり、かつての繁栄も翳りをみせている。未だ学生のケイ兄さんも、そういった理由から既に挨拶回りを始める必要があった。

 ただし、次期会長としてではない。

 次期会長は私。兄さんはあくまで代理人で、将来は私の秘書となる予定だ。

「すみません、兄さん。頂けるのは嬉しいのですが、私も勉強をしなければなりません。どなたか別の人へ……」

 兄の心遣いは嬉しい。しかし次期会長として学ぶべきことが多々ある現在、遊ぶ時間が作りづらい。

 断ろうとすると、ケイ兄さんは眉を顰め、

「まだジュニアハイの2年だろ。少しくらいサボっても変わりゃしない。子供は子供らしく、喜んでゲームでもしていろ。俺はこれから服飾部門と会合だ、余計な問答をする暇はない。じゃあな」

「あ、兄さん!」

 早口でまくし立て、逃げるように出て行った。扉をすぐ閉めたせいで追いかける間も無い。私は1人、どうしたらいいのかわからない機材を抱えて立ち尽くした。

「兄さん……全く」

 いつまでも制服のままで居る訳にもいかない。自室に戻り、私服に着替え、infinite dendrogramを机に置いて悩んだ。

「どうしたものでしょう」

 彼は時折、こうしてわたしを遊ばせようとする。悪意はないだろうが、困ったものだ。

 

 アルトリア・ペンドラゴンは、厳密に言えばケイ・ペンドラゴンの実の妹では無い。

 斜陽を迎えつつある企業連合を守るため、病により死期を悟ったウーサーは、次代へ望みを託すことにしたらしい。それは自身のの胤と、優秀な遺伝子を持つ卵子を用いて子を造り、幼少から教育を施すことで理想の統治者とする。余人には明かされていない計画。

 それが私、アルトリア。現在は14歳。

 長男ケイにとっては、自身の将来を1つ奪ったと言ってもいい関係でありながら、それでも口下手に愛を向けてくれている。

 こうして勉強を邪魔する理由も、私に自由にしていて欲しいからだ。

 時計を確かめれば午前10時前。家庭教師が来るのは午後2時ごろ。ケイ兄さんは時間が空くのも把握していたのだろうか。

 ゲームハードを箱から取り出す。正直に言えば、初めて見る物に好奇心が湧いたのだ。

 説明書を読み、指示の通りに操作、ゲームをスタート。

 

 

 

 そこは木造洋館の一室のようだった。毛足の長い絨毯、床から天井まで本が詰まった本棚、正面には机と、椅子に腰掛けた猫。

「ようこそー、infinite dendrogramへー」

 ゲームを起動していきなり現れた光景に面食らっていると、その猫が流暢に喋りだした。

「は、はい。こんにちは。アルトリア・ペンドラゴンと申します」

「うん、よろしくー。僕は管理AI13号で、君のチュートリアルを担当するチェシャだよー」

 自己紹介をすると、チェシャはゲームシステムについて説明を始めた。

 3種類の視界、3倍で進む内部時間、そしてその人物に合わせて変化する固有アイテム〈エンブリオ〉。ゲームはあまり詳しく無い身だが、それらが現行のVRを置いて行く性能である事はわかる。信じがたいことではあるが、サービス開始から既に5日が経ち、大きな問題も発生していないとチェシャは付け足した。

 私は素直に感嘆した。許可を得て触れた本は、紙の質感も重さも、リアルそのもの、としか言いようがない。

 早速、チェシャの誘導に従ってキャラクターメイクを行う。現在の自分を10年程成長させたアバター。背も伸び、体つきも女性らしく変化した物をベースに、髪と肌の色を白く変える。設定する視点はリアル視点。初期装備は木刀を持つ。

 アバターネームはアーサーと入力した。アルトリアの、名前の由来だ。

 こうしてinfinite dendrogramの世界へと行く寸前、聞き忘れたと言うより、説明されていなかった事柄を思いついた。

「すみません、そういえばご説明がありませんでしたが、このゲームは何をすればよろしいのでしょう?」

「ないよー。君の自由さー」

「自由、ですか?」

「そう、魔王でも勇者でも、王様でも奴隷でも、善人でも悪人でも。君の心の赴くまま、何をするのも自由」

 それは予想していなかった答えだ。自由、と、口の中で呟いた。

 なにをすればいいのか。私は……なにをしたいのか。

 

「ああ、そういえば」

 

 1つ、昔の夢を思い出した。

 旅をしてみたい。他国を巡ってみたいと、たしかケイ兄さんに語ったことがあったはずだ。

 infinite dendrogramはサービス開始から5日。ケイ兄さんがいかに忙しくとも、その間1度も調べなかったはずがない。

 知っていたのだろう。そして、覚えていてくれた。

「ありがとう、兄さん。……わかりました。それではチェシャ、よろしいお願いします」

「うん、じゃあ行ってらっしゃい。君の選択に幸あれー」

 チェシャは笑って、手を振った。

 

 

 そして……私はinfinite dendrogramの世界へ降り立つ。

 騎士であるアーサー王にあやかって選んだ、アルター王国へ。




某サイトでエンブリオの設定について質問しました。決してアイデアの盗作ではありません。
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