聖堂騎士団長マルチェロ24歳、ヒラ騎士団員ククール17歳の設定です。
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マイエラ修道院は、この世界の三大聖地の一つ。
女神に仕える汚れ無き童貞の集う修道院であります。
伝統あるこの修道院の院長は、オディロ院長。
ご年齢はもう数えることのできないほどでございます。
そしてこの修道院は、神に仕えし剣士、聖堂騎士団の所属する修道院でもあります。
聖堂騎士団は、女神の名のもとに悪を排し、時には魔物たちとも戦う、城の軍隊にも勝るとも劣らない、精鋭ぞろいでございます。
そのマイエラ修道院でのお話でございます……。
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「またあいつかな?」
赤い制服の騎士が言いました。彼はこのマイエラ修道院の聖堂騎士団員です。名はククール。長い銀髪、赤い騎士服は彼のトレードマークでありました。すらりと背が高く、小顔のイケメンです。弓や剣の腕がたち、魔術も使える、なかなかの逸材ではありますが、素行が悪く、いつも騎士団長に叱られてばかりいました。
「……たぶんな。見習いの者にはよい鍛練にはなるだろう」
そう返したのは 先輩騎士のアラン。彼は大変真面目な騎士団員であります。アランは、赤い制服のククールをちらりと見て少し楽しそうに言いました。そして、訓練を続ける川岸の騎士見習いたちに再び目をやりました。
ここ、マイエラ修道院は、通称「南の大陸」と呼ばれる大きな大陸に存在しております。この大陸は、大きく分けて、東にアスカンタ城、中央に山岳地域、南にパルミドという町がございます。北方へ行きますと、そこには船着き場があり、そこから船に乗れば世界各地へ渡ることができます。最も近い北の大陸の玄関口、ポルトリンク港へは、定期便が就航しています。
この世界には、世界三大聖地と呼ばれる寺院がございます。その一つであるこのマイエラ修道院には、日々、多くの旅人が訪れます。旅人たちは修道院参拝後、修道院からほど近い宿場町、ドニの町で疲れを癒します。マイエラ地方船着き場からドニまでの中間地点に、この修道院はあるのです。これからの旅が無事であるよう、また、町で歓楽にふけることのなきよう、しっかりと祈りを捧げましょう。
マイエラ修道院はこの世界における三大聖地の一つでありますが、他の二つとは違い、きらびやかな建物も、威厳に満ちた巨大な女神像もございません。戒律厳しい修行の場、暮らしは質素倹約を徳とし、日々鍛練を怠らず、女神のしもべとして質実剛健たる聖堂騎士、僧侶の育成に勤める場所として名を馳せております。
ところが、相反するように、宿場町ドニは、にぎやかさをとおり越した、あまり行儀のよろしくない町でありました。地元の者、アスカンタ地方から遊びに来た者、世界各地からの旅人と、様々な人がごちゃごちゃに入り乱れ、狭い酒場は特に、いろいろな問題が発生します。市民に害の及ぶこともしばしばあり、制圧のため、そのたびにマイエラの聖堂騎士団は出動しなければならないのでした。ただ、その問題を起こす人間がマイエラ修道院の関係者であることが無きにしも非ず、でございます。
騎士団の出動、ということに関して言えば、マイエラから南方にパルミドという町がございます。そこは世界が認める無法地帯。パルミドは、ドニにわずかに残っている「常識」「理性」「秩序」すらない、盗人とヤクザ者の町であります。こちらでのいざこざは、そのほとんどが無法者同士のいざこざですので、聖堂騎士団員の出番ではありません。そんなものはほうっておけばよいのですが、旅人などが被害に会ってはいけませんので、そのような場合にはしかたなく騎士団員が睨みを利かせに出動するのでした。
マイエラ地方は、東のアスカンタ城の支配圏になっております。アスカンタは若き王パヴァン王が治める国。この世界には3つの大国がこざいます。広大な国土を治めるサザンビーク、豊富な資源に恵まれたトロデーン、そしてこのアスカンタです。アスカンタは、気候も良く、風光明媚が売りの、山に囲まれた美しい地方でございます。国力は強くなく、他国に攻め入る、などという野心を持たない、穏やかな国であります。そしてマイエラの騎士団には全くもって援助をして下さいません。仕方ありません。なぜならアスカンタは、海を挟んだ大国、サザンビークとの古くからの対立があり、常に襲撃に怯えているのです。城を守るのに精いっぱい。マイエラ地域までかまっている余裕はございません。
話がそれてしまいましたが、マイエラ修道院は、手っ取り早く申し上げますと、ろくでもない地域を抱えた大陸の中で、軍隊並みの武力を備えた、教会という強大な権力を後ろ楯とする、小規模の独立国家のようでございました。
先ほどから、本来ならば青い色の制服を着なければならないのに赤い制服を着た騎士団員ククールと、その先輩団員アランが見ていたのは、聖堂騎士団見習い生の訓練でありました。毎日行われる厳しい実地演習のはずでございますが、監視役の赤い制服の騎士団員と先輩団員は相変わらずその様子をのんびり眺めています。
「そろそろ本気モードにさせますかねえ?」
両腕をぐっと伸ばし、大あくびをすると、赤い制服のククールが言いました。
「まあ、待て。どうせ今日は団長殿もいらっしゃらないんだ。このままのほうがこいつらも楽だろう?」
「そうすね。午後の労作時間まではあといくらもないんだし。今やっつけちまったら、また別の、もっと強いモンスターを探しに行かなきゃならねえし」
「そうそう。たまにはこいつらも息抜きさせてやろう……いや、俺はサボってる訳じゃないんだ。頭がちょっと……」
「じゃあ、あっちの日陰にいきますか……」
そんなのんきな会話をしながら、二人はそろって欠伸をしています。どうやら二日酔いのようです。真面目なアランが珍しく緊張感がないのは、どうやら「聖堂騎士団長」様がお留守だからですね。
監視の先輩騎士団員が二日酔いであることも知らず、見習い生たちは、うっかり川を渡ってくるオオサソリや、川を渡っていこうとするスライムベスの駆除をし続けています。この川は、マイエラ修道院を囲むように流れており、そのおかげで悪漢などは寄ってきませんが、川辺に生息する魔物たちはちょくちょく迷い込んでくるのです。それにしても剣の練習にしてはいささかゆるいような光景に見えました。
騎士団見習いたちは、それでも真面目な顔をして、魔物を相手に剣の実践訓練、そして隊の動きかたなどを学びます。
魔物は、よほどのことがない限り、命を奪うようなことはいたしません。要は、巣に帰してやればよいだけのこと。致命傷を与えない程度に攻撃し、逃げ出させるのが目的です。ですから、今日の訓練も、なんとかいう並び方で、なんとかいう攻撃方法で行う、という訓練でございました。魔物を撃退しながら、並び方や攻撃方法を何種類かやらせています。
とうとう、先輩騎士団員のアランは木の根元で居眠りを始めました。相当飲み過ぎたのか、よっぽどお酒に弱いのですね。仕方がないので赤い騎士服のククールがときどき適当な指示を出し、時間をつぶします。
「あーあ、あとどんくらいかなあー」
赤い制服のククールは、手をかざしながら太陽の角度を確かめます。そして、もうすぐ時を知らせる鐘が鳴りそうだ、と思いました。
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その夜、全ての仕事を終え、夜の礼拝を終えた時、赤い制服の騎士団員ククールと真面目な先輩騎士団員のアランは、夕刻に戻って来られた「聖堂騎士団長」様に呼ばれました。はて、今日は団長殿に叱られるようなことは一つもしていません。ちょっと優しく訓練をしただけですけど? と、二人は顔を見合せ、お互いの表情に同じ疑念が浮かんでいたのを認めてほっとしました。
聖堂騎士団長といえば、僧侶とは言え、武道においては城の軍隊と同じ力をもつ神の剣「聖堂騎士団」を一手にまとめる、三大聖地全体においても低くない役職でございます。このマイエラ修道院は、老院長を拝し、現騎士団長の実力は修道院一でありました。現団長のマルチェロ様は弱冠23歳でその職に就き、着任よりわずか一年で院内革命を実現させた若き実力者にございます。現在24歳、マイエラ地方に広くその名をとどろかせておりました。
団長様は、自分に厳しく、身内にも厳しいおかたです。今日の訓練を実際に見たら、それはそれはお怒りになることでしょう。でも、今日は対外的なお仕事のためにお留守でした。あの訓練の様子をご覧になってはいないはずです。
ククールもアランも、「あのあいつ」のことかな、と僅かに思いましたが、二人とも説明できることではありませんでした。「そこんとこを問い詰められるかもなあ」と、ククールはほんのちょっぴり心配しました。真面目な上に心配性のアランは、「そこんとこどうしよう……」と気が気ではありません。
礼拝堂から騎士団宿舎への通路を、ククールとアランは並んで進みます。二人が呼ばれたことを耳にした他の騎士団員たちがヒソヒソいうのを嫌な気持ちで聞いていましたが、呼ばれたからにはさっさと行かないと叱られてしまいます。二人は騎士団宿舎二階の団長室へ急ぎました。
階段を上ったところに、団長室があります。団長室の重厚にて威圧的な扉の前は、普段は聖堂騎士二名が交代で警護しております。警護の者は一日の職務時間を終えると、団長様の許可により下がることができる決まりです。今夜は命により赤い騎士団員とアランを呼びに行ったところで終業となったようで、扉の前には今は誰もおりません。
コンコンコンコン──アランがノックしました。
「アラン、ククールにございます。団長殿のお呼びと伺いました」
「入れ」
声をかけると、中から、団長様の心地よい響きの声が聞こえます。
ククールの口元にはにやりと下品な笑みが現れ、アランの全身には鳥肌が立ちました。
扉を開け、一歩入ると、ランプが一つ、団長様の執務机の上で頼りなげに揺らめいているのがすぐに目に入りました。
団長様は書類を片手に、腰高窓から外をご覧になっていました。日中は窓を開けておくことを嫌う団長様でしたが、今夜のように月明かりの青く漂う夕べには大きく窓を開き、無防備に、そして惜しげなく、夜風が身体を撫でるのをお許しになります。月光を受けた団長様は闇に息づく妖艶な青き蛇。しかしそれとて仮の姿。青き衣を脱ぎ捨てれば、白く輝く肌は漆黒の底に咲き、地獄の神とてひれ伏すであろう、美しき魔性の化身のようでございました。
もちろん、そのようなことを知る者は、何人もおりません。そのお姿を見たことのあるククールは、団長様のそのようなお姿を妄想し、その全身をとてもしつこく視姦し始めます。団長様はその気味の悪い視線を無視し、窓の外をじっと見たままでございました。
アランは、部屋に入った瞬間から、まだ睨まれていないのに蛇に睨まれたカエルのようでございました。
全身が硬直しかけ、息をするのもやっとです。「叱られませんように、叱られませんように……」と心の中で何度も繰り返しています。
そういうアランと違い、ククールは、ほんのちょっと「お叱り」があれば、と期待しておりました。ククールは、団長様をそれはそれは愛しているのです。どうしたら文字通りの折檻をされるかと、日々研鑽を積む始末です。今日は、日中のおサボりが見つかり、団長様の身の回りのお世話をする罰、が与えられないかと、団長様の腰のあたりをじろじろ見ながらそんなことを考えていました。もちろん、そんな罰などありはしません。
とにかく二人は、団長様が何をおっしゃるのかわからないまま、静かにそのお言葉を待ちました。
語り手も含め、みんなマルチェロが大好きです。騎士団員アランは、団長大好きというより、少し怖がっているようです。