DQ8 ホイミンとマイエラのひとたち   作:ぽんぽんペイン

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アスカンタ訪問のお供に選んでもらえなかったククールのお話。オディロ院長がぼやきを聞いてあげています。


ククールのぼやき

夕方、終業の鐘が鳴り、騎士団員は宿舎に戻っていきます。その人波も終わったかと思う頃、ククールが一人、箒を持って中庭にやって来ました。昼間突風が吹いたため中庭は落ち葉だらけです。

 

「おお、ククールか、お前さんが掃除してくれるのかの。ご苦労じゃな」

「院長さま!」

 

ククールはてきぱきと落ち葉を集めていきます。もちろん、このお掃除は団長様に言いつけられた罰則です。何の罰なのか、受けた本人もよくわかっていないのですが。

 

「わしも手伝おうかの」

「院長さま、大丈夫ですよ、オレ一人でできます。っていうか、院長さまにそんなことさせられません」

「ククールよ、お前さんは優しいのう。……どれ、誰も見ておらんな……」

 

院長は、周りに誰もいないのを確認すると、両手をふわりと広げてすーっと自分の足元に寄せるようなしぐさをしました。すると……。

 

「す、すげえ……」

「内緒じゃよ。わしはズルしておるのだから……」

 

ククールが集めている場所目指して、落ち葉がゆっくりと集まってくるのです。

 

「ほれ、ククール、お前さんも掃除しているふりを……マルチェロがどこからか見ているかもしれぬからのう」

「は、はい」

院長に言われ、張り切って箒を振りまわすククール。ククールの箒は、ありえない量の落ち葉を運んでいきます。

 

「こりゃ、楽ちん!」

 

院長の魔法のおかげで落ち葉はきがあっという間に終わりました。

 

「院長さま、ありがとうございました。おかげでちゃっちゃと済みましたよ」

「次の罰則はなんじゃ?」

「やだなあ、今日はもうないですよ。礼拝堂の掃除くらいで」

 

ない、と言っておいて、礼拝堂の掃除はあるのか、とツッコミたくなる院長でしたが、にこにこしてククールを呼びます。

 

「ちょっと座らんか?」

「はい」

二人は噴水のところに並んで座りました。

 

 

「……ククールよ、せっかくのチャンスじゃったのに、マルチェロは首を縦にふらなんだ。まあ、また別の機会を作ろうぞ」

「……はい」

 

 

アスカンタのカッサンドラ卿と面会の予定がある団長様。院長からククールと一緒に行きなさいと言われましたが、団長様は確固たる意志を持ってお断りなさったのです。

 

「アスカンタには誰が一緒に行くんですか?」

「まだ決めていないようじゃが」

「えーと……ロジエール副団長か、マリオンか、いや、マリオンは行かないだろうな。じゃあ、アランかカミーユさんかなあ」

 

団長と同行するのは誰なのか、必死に考えるククールです。院長はその様子を温かい目で見守っています。

 

 

「ねえ、院長さま? 兄貴はどんだけオレが嫌いなんでしょうね。最近は直にお仕置きもしてくれません。寂しくて……」

 

ククールは、団長様に「兄」と呼ぶことを禁じられています。でも院長の前では素直になってしまうのでつい「兄貴」と言ってしまうのでした。

 

「ククール、寂しいからと言って、夜遊びに興じすぎてはいかん。マルチェロも忙しいのじゃ。助けになっておやり」

 

「無理だよ。オレが手伝えることなんてないよ。兄貴はなんだってできるんだ。兄貴にできないのは後ろ髪を切ることと背中の真ん中に薬を塗ることくらいだよ」

 

「ほっほっほっ。そうかもしれんのう」

「二言目には『出ていけ』だし。それさえ最近は聞いてないな。だいたい口聞いてくれないし。見てもくれない」

 

そう言うとククールは盛大にため息をつきました。

 

「知らないと思うが、お前さんが夜遊びしている日はマルチェロは必ず起きているのじゃ。朝帰りなどするではないぞ? あの子は寝ずに待っておる」

 

そういえば、修道院を抜け出して遊びに行ったときは、帰ってくると必ずどこかで団長様に見つかることをククールは思い出していました。修道院の入り口だったり中庭だったり、宿舎に上がる階段のところだったり。

 

 

「……それって、オレを気にかけててくれてるってこと? お仕置きのためじゃないの?」

「何を言っておる、お前が遊んだ次の日は必ず地下室じゃろ? あれはお仕置きではない、お前を休ませているんじゃよ」

「へっ?」

 

 

意外な答えに、ククールは目が点になりました。

 

「ククール、地下室で何をしておる?」

 

「何って……。することないし、眠いから寝てます」

 

「じゃろう? 同じ時間起きて待っていたマルチェロは、お前さんが地下室ですやすや眠っている間も職務についておる」

 

「そっか、兄貴……。じゃあ、今度は兄貴も一緒に行けばいいね。で、一緒に地下室で……」

 

さすがククール、そういう展開を想像すると院長は思っていました。

 

「そうじゃのう。あの子もたまには遊びに行けばよいのにとわしも思うておる。しかし団長となってしまった今では、それも難しいじゃろう。世間の目があるしのう」

「だよな。規律を重んじるのが大好きだもんな。ドニで酒飲んでる兄貴なんて想像できないよ。おかしくって。……でもさ、兄貴、酒詳しいよな。強いし。どこで練習したんだろう」

 

「ククール、お前さんはどこでじゃ?」

「オレは、祈祷のついでによくご馳走になるから……、そっか、兄貴だって昔はしょっちゅう祈祷に行ってたもんな。そういえば、こないだ行ったお屋敷の奥さまが兄貴のこと言ってたぜ。マルチェロ様はお忙しくて来て下さらないから、修道院に直接伺ったけど、そちらでもお忙しくてお会いできなかったわって、うっとりしてさ。オレの前で失礼しちゃうよな」

 

「ふおっふおっふおっ。あの子はマダムに人気があるからのう」

 

マダムだけじゃねえけど、とククールは言い加えます。

 

「そうなんですよ。……嫉妬しちゃうよ。オレの兄貴なのに。みんな気安くマルチェロさまとか言っちゃって。ピンクのハートつきでさ。オレがマルチェロなんて呼んだら、目ェ吊り上げて怒るんだぜ。『貴様のそのいかがわしい口に私の名を言わせるとは』ってさ。おっかねーの……」

 

二人はしばらくそんな話をして過ごしていましたが、ひんやりした風が中庭を抜けていきました。

 

 

「さあ、院長様、冷えてきましたよ。お送りします」

「ククール、お前さんは優しい子じゃ。本当に優しい子じゃ。お前さんのような子が側にいれば本当はマルチェロももう少し自分に正直になれるじゃろうに」

「そうでしょうか」

 

ククールに支えられながら、院長は立ち上がりました。

 

「ククールよ、いくつになった?」

「17歳です。兄貴は25歳です」

 

「お前さんたちは同じ月の生まれじゃな」

「はい。オレは兄貴と一緒に誕生日を祝いたいのに、兄貴は二人分呪ってくれるそうです」

 

「なんと!」

「ホントに、オレ、どうして生まれきたんだろう」

 

「そのようなことを言ってはいけないよ。わしはお前さんに会えて嬉しく思うておる。お前さんの生家は気の毒なことではあったがのう」

 

「院長様……。オレ、家にいたときだって本当は独りぼっちだったんだ。両親の記憶なんてあんまりないし。親父はいつもオレを連れ出して人に見せてたらしいけど。集まる人はおべっかばかり。本当のこと喋るヤツなんていないんだってよくわかったよ。兄貴のことだって誰も教えてくれなかった。母親は、いつも寂しそうな顔して、オレの目を見てくれなかった。母さんの目にオレの姿がうつると、さっと目をそむけるんだ」

 

 

オレ、ホントになんのために生まれたんだろう、とククールは天を仰ぎました。高い空には星が表れ始め、ククールのサファイア色の瞳にうつり込みました。

 

ゆっくりと院長の館に向かいます。

 

 

「なんのために、など、きっと死ぬまでわかるまい。今、生きている時々にやれる精一杯のことをすればよい。やらねばならぬことがあるとしたら、それはお前さんにしかできない何かじゃ。焦らずとも、きっと自ら見つけることができるのじゃ」

 

院長の館まで送ってきたククールは、そうかなあ、とつぶやき、修道院の建物へ戻って行きました。

 

 

院長は、ククールとゆっくり話したいと思っておりましたので、よい機会だったと思いました。

 

そして、団長様が9歳でこの修道院にやってきたとき、「なんのために自分は生まれたんだろう」という同じ問いを受けたことを思い出しました。

 

数年後、ククールが修道院を頼ってきた後、団長様はさらにご自分の殻に閉じこもってしまいました。そして弟を邪険にするように。院長にはどうすることもできませんでした。周囲がどんなに言ったところで、本人の気持ちは本人次第。助言することはできても、変えることはできないのです。

 

それでも、いつも見えない糸でしっかりとつながっていることを感じる院長。二人が仲良くなることを望んでいるのでした。

 

ククールの姿を見送った院長は、兄に受け入れてもらえなかった幼いククールのことを思います。ククールが孤児院に来たのは、団長様よりも幼い年齢でした。両親に大切にされ、何不自由なく暮らしていたククールが突然ひとりぼっちになってしまった。守られるべき大人から捨てられた団長様とは違い、世の中に何の不満もなかったであろうククール。孤児院に連れて行った夜、様子を見に行けば、眠れずに泣いていました。さぞ不安だったろうと、院長室に連れてきてその日だけは一緒に寝ました。

 

院長には、ククールは自分のつらい気持ちをきつく折りたたんで、どこかにしまっているように見えました。幼いころはいつも不安げだったククール。院長の姿を見つけるとすぐに飛んできては様々な話をしたことが、つい昨日のように思えます。

 

……マルチェロは苦しみと共に生き、ククールは苦しみを隠して生きている。

 

院長はこの院長室で、このきょうだいがそれぞれに苦しみ悲しみを涙とともにこぼし、生きることに意味を持たせようと必死でいたことに運命を感じていました。孤児院に来る子供は、少なからずそういった事情を抱えています。希望を与えなければいけない、生まれなければよかったなどと口にさせてはいけない、と、本当は一緒に境遇を恨んでやりたいと思うことさえあるのに、心を鬼にして子どもたちを導いているのです。

 

……あきらめてはいけない。でも、恨んでも何もならない。そのうちに自分で選び取る、つかみ取ることができる時がやってくる。その時のために学び、鍛え、その時に最良の選択ができるよう、準備するのじゃ。

 




オディロ院長は、ダジャレを考えているだけではありません。教育者としてちゃんとした人です。次は、アスカンタ訪問の話です。院長への報告という形になる予定です
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