DQ8 ホイミンとマイエラのひとたち   作:ぽんぽんペイン

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カッサンドラとともに、ホイミンも団長、マリオンとともにトロル討伐に出発しました。トロルはカッサンドラのせいで強い個体になっています。


トロル討伐その2

トロル討伐のため、マイエラ修道院を出発した団長様とホイミンとマリオン。

団長様は前を行くカッサンドラ一行の背をじっと見つめておいででした。マリオンはふうとため息をつきました。

 

「……お前が今日修道院にいてくれて良かったよ」

「良かったのかどうかはまだわからないだろう……」

いつになく慎重な団長様です。

 

「お前が留守だったら、ホイミンはカッサンドラの学校に行くと言っていたかもしれないぞ」

「院長様がいらっしゃるのだから、そんなことはないはずだ。だが、ホイミン一人でカッサンドラと話したりしたら、どう言いくるめられるか心配ではある」

「お前があいつを一人にするなと言うのがよくわかるよ。まだ物の良しあしとか、そういう判断力が皆無だからな」

 

我々が守ってやらねば、と言いかけた団長様でしたが、また、母親のような心配をしていると思い、口をつぐみました。

 

 

カッサンドラの後ろを、団長様、マリオン、ホイミンが続きます。カッサンドラがちらりとこちらを振り返りました。

 

「マロウ君、トロルを見たことがあるかね?」

「あ、ありません」

ホイミンは大きなマリオンの制服の裾をしっかり握りながら、恐る恐る答えました。トロルなど、マイエラ地方におりません。アスカンタにいると聞いたこともございませんでした。

 

「トロルをどのようにして捕獲したのですか」

団長様が尋ねます。

 

「私は昔からトロルを飼育している。逃げてしまったのだよ。サザンビークから小さいうちに連れてきて、山奥で飼っている。ちょくちょく逃げ出すことはあったんだが。……実験材料にしていたのだよ」

「実験ですと? 恐れながらカッサンドラ様、野生の魔物を実験のために飼育することは、教会に関係する者が行ってはならない活動の一つでございます」

「ああ、私は特別にアスカンタから飼育の許可を得ている。問題ない」

「しかし、実験とは……」

団長様が意見するも、カッサンドラはまったく悪びれず、かえって自慢気味です。トロル飼育がどのように大変かを、勝手にしゃべり始めました。

 

「いやあ、あいつらいくらでもよく食べるから困る。ホイミでごまかそうにも、空腹を感じる神経が異常に発達しているんだろうと思うくらいの食欲だ。私も随分散財した……。まあ、そんなことはちっぽけなことだからいいんだが。……このトロルたちは、子供たちの稽古相手というわけだ。もちろん取っ組み合うわけではない。魔術のためだ。攻撃呪文や回復呪文、かけ放題だ。トロルはちょっとやそっとではくたばらない。……思い切り術をかけることで上達するし、自分がどんな魔法が得意なのかもよくわかる。こんないい相手はいない。……そして、ちょっと強くしたトロルもいる……。今回逃げたのはそのトロルだ」

 

──ちょっと強くしたトロルだと?

 

団長様もマリオンも、あきれて口をはさむ気にもなれません。

 

──薬物か何かで細胞の働きなどを強めたんでしょうか……。

 

ホイミンも黙ったまま、そんなことを考えています。

 

「究極の魔術の会得にふさわしい相手として育てたんだ。究極の魔術は、普通のトロルでは、一撃で死んでしまうかもしれないからね。死んでしまってはまたトロルを捕獲しなくてはならない。あまり面倒なことは私もしたくない。知っているかね? 実はアスカンタにもトロルはいるんだよ。だが、地下洞窟の奥に引っ込んでいて、なかなか出てこない。それに、弱い。だからサザンビークから捕まえてくるのが最も簡単だ。……子供たちもぐんぐん強くなっていった。ただ、彼らも成長するにつれてやはり魔力値の限界というものはある。武力の方が伸びてくる者もいる。そういった者たちは、アスカンタの軍隊に入れることにしている。もう何人も軍人になっているよ。……私はいずれサザンビークを討ちます。マルチェロ殿、手を貸して下さい。私はもうアスカンタを手に入れるための障害は、あと羊皮紙一枚分しかないと思っているのだよ。しかし、その後の動きを考えると、手駒が足りない。頭脳という手駒が。もちろん、貴殿の騎士としての腕を見くびっている訳ではない。恐ろしいほどの武人であることはすぐにわかる」

 

ついに来たか、と団長様は思いました。マリオンとホイミンも一緒に聞いたことは団長様にとって悪い材料の一つでした。

 

「ここまで話して、否、とは言わないだろうね?」

「もしお断りしたら」

「何を……。そうか、言い足りなかったな。私は軍を率いたりしない。采配するだけだ。交渉と。本職は司祭だからね。魔法教育も続けたい。だからマルチェロ殿には今のままの騎士団長として、騎士団と軍をまとめて頂きたい。もちろん、計画が進めば君は司祭なり、将軍なり、好きな地位が得られる。悪い話ではないと思うが」

 

「お手を汚さぬおつもりですかな」

「いや、とっくに汚れている。司祭になるのにどれだけ教会にゴールドを積んだか」

「教会上層部は殊更に百鬼夜行と噂がありますが」

「くっくっくっ。君は話が早い。さすがですね」

「しかし、お受けする訳には参りませんな」

「なぜかね?」

「騎士団と兵士では仕えるところが違います。騎士団は神の剣、兵士は王の剣」

「なにを今更、修道士見習いのようなことを」

「では言い直しましょう。私はオディロ院長様に忠誠を誓っております。院長様の庇護のもと、日々修道院のために働き、女神のしもべとして勤めているのです。院長様のご命令でしたら、喜んで司祭様に加担致します」

 

加担、と言われ、カッサンドラは少しむっとしました。

 

「まあ、そうも言っておれぬだろう。院長様の大切な愛し子たちがどうなってもいいというのかな?」

 

先ほどからトロルでしょうか、なんとも形容しがたい獣のような声が聞こえていました。

 

「相当、どう猛なのでしょうな」

「ええ。結界を力ずくで破った。その際ケガをしたようで、いきり立っているよ」

 

団長様は、わが騎士団ならば大丈夫だろうと信じ、歩を進めていきます。

 

「みなさん、こちらです」

カッサンドラは、山を指さしました。

 

「騎士団は川沿いの教会へ寄る予定ですので、我々はそこへ参ります」

「マルチェロ殿、アスカンタ兵との合流地点はこちらからのほうが近い。教会へ寄ったら遠回りです。騎士団の皆さんはもうトロルと戦っているでしょう。そして……アスカンタ兵は来ません」

「なんですって!?」

声を上げたのはマリオンでした。

 

「アスカンタ兵は来ないとおっしゃるのですか? 城からの正式要請でしたが」

「ええ、そうです。アスカンタ兵と一緒に、とは書いてありませんよ。なぜなら、その要請は私がしたものですから。……さ、こちらです。急いだほうがいい」

 

カッサンドラはどんどん山へ入っていきます。

 

団長様は、副団長ロジエールのことを考えていましたが、それよりも、騎士団員の無事が気になり、カッサンドラの後を追って山に入りました。マリオンもホイミンも続きます。

 

トロルの吠え声がどんどん大きくなってきました。団長様はカッサンドラを追い越し、声の方へ向かって走り出しました。マリオン、ホイミンも走ります。

 

カッサンドラは笑いながらその後ろを歩いています。

 

バサバサと木が揺れているのがわかります。戦いの場所はもうすぐでしょう。あたりに響き渡るトロルの咆哮はすさまじく、騎士団員の声は聞こえません。急な道を上りきったところで、ついにその姿が見えました。

 

「うわっ!!」

マリオンの騎士服の裾を掴むホイミンの爪は真っ白になっていました。

 

「なんだ、このトロル! なんて大きさだ……」

マリオンがあんぐりと口をあけました。団長様も「こんな巨大なトロルが存在するのか」と心の中で叫びます。

 

すぐ近くで騎士団が戦っているようです。三人は走っていきました。

 

「あっ!」

「おい、お前ら……」

 

何人もの団員が瀕死の状態で横たわっています。前方の開けた場所では騎士団員数人がレイピアと弓矢で戦っています。ホイミンとマリオンがあっけにとられていると、団長様がレイピアを抜きました。

 

「マリオン、いくぞ」

「おう。……ホイミンは団員にホイミかけてやれ」

「わかりました」

三人はすぐに仕事につきます。

 

カッサンドラが追い付いてきました。

 

「待ちなさい。あのトロルは普通のトロルではない。5倍は強い。私の言うことなら聞くんだがね。マルチェロ殿、貴殿が『加担』すると言うなら……」

 

団長様はカッサンドラの言葉を最後まで聞かず、トロルの前に進み出ました。背後からは、団長殿だ、助かった、マリオンも来たぞ、と声がかかります。騎士団はほぼ全滅なのに、トロルは大したダメージを受けていません。

 

「団長どの、魔力尽きました。なんの攻撃呪文も効きませんでした」

弓矢をつがえていたククール。顔からは血の気が失せています。瀕死寸前です。

 

「退却だ。我々がトロルの気を引いている間にここから退却しろ!」

「ムリ。みんなろくに歩けねえ」

「ゆっくりでいい。この場から離れるんだ。ククール、ホイミンを隠してやれ」

「いくら団長どのとマリオンでもムリだ。あのトロル変だぜ」

 

トロルはぶんぶんと棍棒を振り回しています。

 

「片足を捕らえることはできたんだけど、レイピアなんてかすり傷くらいしかつけられねえ。弓矢で急所を狙うんだが、暴れてるから目標が定まらない。仕方なく、オレとアランとあと何人かで攻撃呪文かけたんだが、ほとんど効きゃしねえ。てゆーか、かえって余計に暴れ出して……あいつの足をつないでいる木が抜けでもしたら、オレたちマジで全滅だ」

 

ククールの言う通り、トロルの片足は、太いロープで木に括り付けられていました。しかし、よほど暴れたのでしょう、その木の根元が少しぐらついています。

 

 

「マリオン、足首の腱を狙え! 木の後ろから近づくんだ!」

「わかった!」

 

団長様はマリオンに指示を出し、ご自分はトロルの視界に入るように動きます。トロルは、目の前でにらみつけてくる団長様に向かってひと際大きく吠え、棍棒を振り下ろしました。

 

「兄貴!」

思わず兄貴と叫んでしまうククール。

 

「早く行け!」

団長様はほんのちょっとだけククールのほうをご覧になりました。

 

ククールは、無言でうなずき、騎士団に大きな声で退却を呼びかけます。

 

「退却だ! 歩ける奴は歩けない奴を支えてくれ! 動けない奴はじっとしていろ! 今ホイミンが行くからな!」

ククールとホイミンは怪我人を探して走り回ります。

 

トロルの一撃を避け、騎士団員のいない方へ移動した団長様。その間にマリオンがトロルの踵の上、アキレス腱にレイピアを突き刺します。

 

「グゥエーーーーーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!」

トロルは大きく喘ぎ、自由な方の足をドスッと踏みしめ、直後、後ろを振り返ります。マリオンはすでに移動しており、団長様とともにトロルの前に立ちはだかります。

 

トロルは真っ赤な顔をして再び前を向くと、団長様とマリオンに向かって棍棒を振り下ろしますが、二人にうまく避けられ、棍棒は地面にめり込みます。

 

「なんて力だ!」

「気が高ぶっている、気をつけろ、騎士団のいない方へ向かせるんだ!」

 

腱にダメージを受け、片足だけでバランスをとっているトロル。棍棒の狙いが定まりません。団長様とマリオンが必死に自分たちに注意を向けるようにしているのに、ゆらゆらと体をゆすり、棍棒があっちこっちへと振り落とされます。あたりの木がバリバリとすさまじい音を出してなぎ倒され、団長様もマリオンも必死に避けます。

 

「マリオン、弓でトロルの顔を狙ってくれ!」

「顔なんて刺さらないぞ?」

「刺さらなくてもいい、目の前に矢が来ればうっとうしくて、手で払うはずだ。そうすれば棍棒を振るほうも狙いをつけられなくなる」

「そうか、一度に二つのことができるほど、トロルは器用じゃないもんな。よし、やってみる」

 

マリオンは弓に矢をつがえ、トロルの顔を狙いました。団長様の予想通り、トロルは目の前にひゅんひゅんと飛んでくる矢を手で払います。棍棒を持った手のほうも、自分に向かってくる矢を払いのけることにしたようです。

 

「マルチェロ、今がチャンスだぞ!」

「わかった!」

 

トロルは、もう目を閉じてしまっていて、両手を顔の前でぶんぶん振り回しながら、グエエグエーーのような声を上げています。そこへ団長様の剣がダメージを加えます。

 

「ギャォーーーーーエエエエエエエエ!!!!!」

トロルは思わずよろめきました。

 

 

団員たちは、団長様のおっしゃったとおり、林を通って下山しています。最後尾のククールの背中が小さくなっています。両足の腱にダメージを与えることができれば、トロルは立っていられません。あともう少し……と、団長様がそう思った時でした。

 

ゴリゴリゴリッ! とものすごい音がして、トロルを繋いでいた木が抜け、勢いをつけて地面に倒れ落ちました。トロルがよろめいたはずみで抜けてしまったのです。深い根がまだ地面と木をつないでいましたが、ビシビシと音を立てて根が切れていきます。根っこだけでは木をつなぎとめていられません。当然、一緒につながっているトロルもです。

 

「まずい! 木が抜けたぞ! お前ら急げよ!」

マリオンが山を下りる団員に向かって叫びます。

 

「ここで仕留めたかったが、このままトロルは木とともに山を滑り落ちていくだろう。下りきっていない団員たちを林に避難させるんだ」

団長様とマリオンは、痛がってしゃがんでいるトロルに背を向け、騎士団を追うために走り出しました。

 

近くでずっと見ていたカッサンドラは、トロルを助けようと前に進み出ました。ところが、ブチッと音がして、すべての根っこが切れ、ついに木がゆっくりと山を下りはじめました。トロルは、抜けた木の重さに耐えられず尻もちをつき、そのまま山の下の方向へずるずる引きずられ始めました。

 

「木とトロルが落下していくぞ! 道から逸れろ! 林へ入れ!」

団長様とマリオンは叫びながら、山を駆け下ります。

 




トロル1体に苦戦している騎士団です。次へ続きます。

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