DQ8 ホイミンとマイエラのひとたち   作:ぽんぽんペイン

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団長にほんのちょっと呼ばれただけなのに、とても嬉しがっているククールがいます。アランはあいかわらずびくびくしていますが。


魔物の正体は?

何故、団長室へ呼ばれたのか、アランもククールもよくわからなかったので、部屋を一歩入ったところで黙って立っておりました。二人が静止すると、窓辺の団長様は、庭から手元の書類へと視線を動かしました。そして、小さなため息と共にゆっくりと執務机におつきになりました。それでも、二人のことは見ず、再び書類をご覧になっておいでです。

 

アランは、幾度となくこの団長室に呼び出されたことを思い返していました。団長不在時の引き継ぎはもちろん、騎士団に関わる事柄はすべて自分に知らされていると。そしてそのほとんどの場合で、自分が責めを受けたりすることはありませんでした。ですが、今日はククールと一緒。修道院最強のトラブルメーカーであるククールと。アランは、ククールの引率者ではなく、同時に呼び出されていることに恐れを抱いていました。自分は悪いことをしていないと、その考えで満たそうとしていましたが、ほんのちょっと身に覚えのある自分が、それを許していないことにも気づいています。まあ、言いかえれば、ククールと一緒に仕置きをされるであろう可能性を否定しきれずに、ぶるぶると震えていたのです。

 

──早く、沙汰を……。でなければ、万一の可能性として、お叱りでないお話を……。

 

アランは必死に祈っていました。団長様の手元口元、そしてまだ自分を見てくれない、鋭い眼差しを探しながら。呼び出しておいて、何もおっしゃらない団長様。二人が入室してからそんなに時は過ぎていないのですが、アランは半日ほど立たされっぱなしのような疲労を感じていました。 

 

「……団長殿?」

沈黙に耐えきれず、アランが声を発しました。

 

「本日午後の実地演習には、お前たち二人が監視についたんだな?」

少し間があってから、団長様が書類から目を離さずにそう言いました。

 

アランは、やはりか、と思いました。

これで、団長様のお話は、お叱りの方向へぐらりと傾きました。いえ、最初からそうであったのだ、と、アランは自分に変な言い訳をして、これはもうどんな沙汰でも喜んで受けようと決心します。いえいえ、それさえ、最初からそうであったかのように。でもまたほんのちょっとだけ、自分が助かる道を探しはじめるアラン。

 

──今日は確かに適当な訓練ではあったけれど、団長には見られていないはず、報告書も駄目だしを食らうようなことは書いていないはず……。

 

「はい、団長殿」

と冷や汗をだらだらかきながら返事をしました。

 

──叱られるとすれば、やはり、今日のユルい訓練のことだ……。

 

誰かがチクったのかと、仲間の騎士団員の顔を思い浮かべます。「あいつか、あの人か、あの野郎か……」と。返事の声も少し震えてしまいました。いっぽうのククールは団長様がはやく『ククール』と言わないかと、そわそわしながら団長様の口元を凝しています。

 

「今月に入ってからお前たち二人での監視は三度行っているな?」

そうおっしゃって、やっと顔をお上げになった団長様。その翡翠色の瞳は冷たくアランに向けられます。

 

「……そのように記憶しております」

アランは、そんなことを聞かれると思わなかったので、すぐに言葉が出ませんでしたので、記憶をたどる振りをして、少し間をおいてから肯定しました。

 

「ここ半月、どの監視者の報告書も、聖堂騎士見習いの報告書と寸分違わぬ」

「は?」

アランは、監視者の報告書と騎士見習いの報告書が同じになるのは、むしろ正しいのではないかと思ったので、すこし間抜けた声を出してしまいました。団長様が何を言わんとしているのかわかりません。そして、これはもしや、自分は叱られるために呼ばれたのではないのではないという可能性がぐんぐんと大きくなってきて、少し顔色も良くなってきました。

 

「ここ半月だ……」

アランが返事をしないので、団長様は続けて言いました。アランは、自分が叱られるかどうかばかり気にしていたので、団長様が何をお聞きになっているのかピンときません。

 

「……半月の間、全く同じ報告書が出ている。その内容は『オオサソリとスライムベスの駆除』というものだ。毎日毎日、どの隊も二時間ずっと同じ魔物の駆除をし続けるのはおかしいではないか?」

何があるのか言え、と鋭い眼差しをアランに向けました。

 

あまりの眼力に、つ、とアランの片足が後ろに下がりました。ブーツの踵が団長室のドアに当たり、ゴッという低く乾いた音が暗い室内に響きます。

 

「監視者と見習い生の報告書は、内容が違う場合のほうが多い……」

団長様はアランに視線を向けたまま、そうおっしゃいました。

 

アランは、蛇に睨まれた蛙のように、恐怖で顔をひきつらせたままでした。団長様はそんなアランから目を逸らさず、続けます。

 

「……監視者と当事者の立場の違いだ」

 

たかが紙切れ一枚、記入すべき文字数など、文字を覚えたての子供ですら難なく書ける量、団長殿はそんな短い文面から何を読み取っているのだろう、と訝っているアランの視線はおどおどと揺らぎます。

 

「一部例外として聖堂騎士団始まって以来の問題児が書く報告書は、まったく内容が違う。もっともその男はここ半月の報告書を書いていない。もう一人の、例えばアラン、お前が書いている」

「はい……」

 

聖堂騎士団始まって以来の問題児──それはこの赤い騎士服の男、ククールのことです。

罰則の多いククールは、監視の役につくことも多く、報告書も書かされておりました。

 

「へぇ、団長殿はオレの報告書、読んでくれてんだ」

ククールが嬉しそうに横から口をはさむと、アランは、そういえば、ここ半月の報告書は記入が楽だからと、自分が書いていたことを思い出しました。

 

「もう、言っちまおうぜ。ばれるのは時間の問題だったんだ」

ククールがそう言うと、団長様の鋭い視線はアランから逸らされ、しかし、言葉を発した赤い騎士へとは向かわず、再び手元の書類に落ちてゆきました。

 

「も……申し上げます……」

アランがか細い声を出しました。

その言葉で団長様は執務机についたまま報告書の束からゆっくりと顔を上げ、アランを見、そして両腕を組みました。

 

「……我々がおかしいと気づいたのは、団長殿のおっしゃる通り、半月前のことでした」

アランは言い間違いのないよう、慎重に言葉を選びながらゆっくりと話しました。

 

「……聖堂騎士団見習い生の実地演習として、修道院周辺の川にていつものように魔物を駆除しているとき、不思議なことがおこり始めました。今の一撃で倒れるはずであろう魔物の、倒れないことがあるのです。焦って攻撃の手を早めると、こちらもミスが出ます。負傷する見習いが続出するようになりました。どのチームが行っても、どの監視者が同行してもです。……今期の見習い生の腕が悪いせいだと、はじめは監視者が援護をし、毎回事なきを得ていましたが、日に日に魔物の体力が上がっていくようにも思えてきたのです。……これはおかしいと、よく観察してみると、回復呪文をかけるはずのない魔物の群れなのに、ホイミがかかるようなのです。突然変異でそういうこともあるかと思ったのですが、ある時、一匹だけ残ったオオサソリが、自分にかかったホイミに奇妙な反応をしたのです。「誰がホイミしてくれたんだろう」とでも言うように。オオサソリは辺りをきょろきょろし、一本の木の上を見つめました。大きな楡……エルムの木です。皆、つられてそちらを見ると、枝の上に確かに何かがいたのです」

 

「魔物か?」

「わかりません」

 

アランは続けました。

 

「……そいつは、見習いたちが駆除している魔物にホイミをかけ続けるのです。ホイミをかけられ続ける魔物たちは、弱りかけていてもすぐに元気になるのでまた我らに向かってきます。ただ、いくら魔物でもだんだん飽きてくるようで、そのうち自分から姿を消していきます。しかし、好戦的な魔物と、なんというか……それを見ていて面白がって魔物たちが集まってくるのです。ですから、駆除兼訓練を中止するわけにもいきませんでした。それで訓練時間いっぱいまで駆除を続け、魔物がいなくならない時には、ククールがその……」

アランが言いづらそうに下を向きます。

 

「訓練での使用を禁止している魔術をかけたのだな」

「は、はい」

 

「回復術が途切れずかかるというのなら、一斉攻撃をして同時に駆逐するしかない。または全ての魔物が驚くような爆発や暴風をおこして退散させるしかない。だから、貴様の隣に立っている赤いのがバギクロスなどでも使ったのだろう」

「さすが、団長どの! オレがバギ系の呪文得意なことをわかっていらっしゃる!」

ククールはそう言いながら調子に乗って、へんなポーズをとりました。そのついでにアランの脇腹にククールの肘がはいりました。アランはじろりとククールを睨み、痛みをこらえます。

 

団長様は、ククールのおちゃらけた行動も全く無視し、アランから目を離しませんでした。アランは、自分が団長様にまだ見られていることに気づき、報告を続けます。

 

「……回復術をかける魔物ですが、一か所からの魔法の放出なので、単独行動のようです。常に同じエルムの木からの放出なので、そこに棲みついているのかと調べましたが、訓練時以外では姿を見ることはありません。訓練の時にどこからかやって来るようです。大きさはさほど大きくなく、飛んだりはしないので4足か2足歩行と思われます。捕らえようとしてもすばしっこく、木に登ることから、猫、猿、熊など獣系の魔物か、デーモンなどの悪魔系の魔物と思われます」

「もしかしたら、幻術を使う怪人とかね」

話題がようやく自分たちから正体不明の魔物へ移ったことで、アランは元気が出てきました。ククールは同じ調子でうきうきとしていますが。

 

「それで、そいつにホイミを好き放題かけさせて、見習いたちはお気楽な実地演習をしていたというわけか」

はい、と頷くアラン。せっかく出てきた元気も、団長様にそう言われては、また元気がなくなります。団長様はそんなことは全く気にせず、続けます。

 

「明日の監視は、誰だ?」

「自分と、マリオンさんです」

「では、アラン、お前はそこの赤いのと交代し、明日は私に同行せよ」

「団長殿と?」

「そうだ。監視の者ごと監視してやる」

 

赤い騎士は「え?、オレ非番なのにぃ」と軽口を叩きましたが、団長様は羽ペンにインクをつけながら「下がれ」と短くおっしゃるのみでした。




次は魔物の捕獲に出かけます。マルチェロは、ククールのことを「赤いの」とか「修道院始まって以来の問題児」と呼ぶことが多いです。
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