DQ8 ホイミンとマイエラのひとたち   作:ぽんぽんペイン

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シセル王妃のお葬式後、マイエラ修道院ではカッサンドラのことを心配しています。


アスカンタは喪中

「……で、いつまで喪中なんだ? 我がマイエラ修道院は」

夕べの祈りを終えたマリオンが団長室にやって来ました。

 

「城がまだ喪中なのだ。先に解くわけにもいかんだろう」

 

シセル王妃様の葬儀より一月が経っておりました。アスカンタでは、城はもとより、城下まで政令を敷き、子供の笑い声さえ聞こえないということをどこからか聞きつけたマリオンです。のんびりやさんのマリオンにしては珍しく、少しの苛立ちが見られました。団長様はお仕事の手を止め、マリオンを見上げました。

 

「大きな祝い行事が自粛されるのはわかる。わかるが、市民にいつまでも強制するのはどうか。子供が外で走り回って遊べないというじゃないか」

子供が大好きなマリオンは、そう言ってため息をつきました。

 

「私にできることはないよ、マリオン」

「お前らしくないな」

 

団長様は腰高窓に歩みより、両手をついて中庭を眺めました。その姿は少し疲れているようにも見えました。マリオンは執務机に腰掛け、また何か言おうとしましたが、団長様の窓を閉める音によって遮られました。

 

「オディロ院長様のご命令だ。ただし、修道院の喪はそろそろ終わる」

 

なるほど、それではマルチェロも文句一つ言わないはずだ、とマリオンは思いました。なにせ、堅物で頑固で合理主義でご都合主義な団長様の、たった一人頭の上がらないお人がオディロ院長なのですから。

 

「院長様は何と?」

「実は、葬儀から戻ってから偵察に行っている」

 

団長様はマリオンの問いに直接答えずにおっしゃいました。

 

「なに? お前がか?」

 

実は、院長はカッサンドラの心配をしていたのです。カッサンドラは亡くなったシセル王妃様とは親戚です。院長は、表立っての行動は控えていても、必ず裏で動いている、あの司祭がおとなしく喪を過ごしていると思えない、喪明けに何かしでかすか、またもし喪が長引けばさらに同志を募り、力を蓄えるかもしれぬ、と危惧していたのでした。

 

「……偵察か。水臭いな、俺だって行ったのに」

「貴殿は駄目だ。面が割れているし、何より司祭の策略を聞いている」

そうか、トロルの一件があったな、とマリオンは思い出しました。

 

「お前一人で行っているのか」

「いや、私ではない。私にしたって面が割れているじゃないか。行っているのはジャンとジュールだ」

「あの双子か!」

 

ジャンとジュールは双子の修道士見習いです。

 

「いや、ちょっと待て、いくらあいつらは使えると言っても、まだ14歳だぞ」

「私は、あの二人が適任だと思ったのだ。目立たぬ風貌、慎重かつ深い洞察力。そして双子」

「まあ、そうだが……」

 

双子は忌み嫌われ、この世界では生後すぐにどちらか一方を葬るのが通常でした。もし、双子を見たら、どちらかは悪魔だ、ということになり、見た者は地獄に落ちると言い伝えられ、その双子のことを話すことさえ禁忌でありました。ただ、それではあまりにかわいそうだ、とひっそり教会に預ける親もいることは事実です。その場合はなるべく離れた土地の教会に連れて来るのでございました。親などが、「この子は双子です」と直接告げることはまれで、手紙でもあれば良い方です。ほとんどが黙って置いていってしまうので、成長して双子の片割れとばったり町で出くわすこともありました。そうすると、捨てられた方は、自分は悪魔ではないのかと悩み、その後の人生が狂ってしまうということもございました。

 

マイエラ修道院も例外でなく、年に一人は双子の片方を引き取っていました。オディロ院長は、巷にはびこる双子隠しの悪習を認めず、世間に気兼ねなく育てるように諭すのですが、身分が高ければ高いほど、世間体を気にして双子の片方を捨てるのでした。ジャンとジュールの双子の兄弟は、出産と同時にその母親が亡くなり、父親は双子に恐れをなして逃げ出したため、祖父母がマイエラ修道院に二人とも連れてきたのでございました。

 

「14歳……子供を利用しているのか、私は。あの司祭と同じことをしているのだな」

 

マリオンは執拗にホイミンを追ってきたカッサンドラ卿のことを思いました。ホイミンもジャンもジュールも同じ歳頃。団長様は続けておっしゃいました。

 

「いや、14歳はまだまだ子供だが、女なら嫁に行く者もいる。男も聖堂騎士団だけではない、城勤めの兵士はだいたいそのくらいで入隊だろう。それに、私が14歳の頃は、騎士団見習いとして剣の修行に励み、オディロ院長様に尽くし生きることに迷いはなかった」

「ああ、そうだな。教義も完璧だったし。いや、お前が14歳のときは、ジャンたちとは比べ物にならないほど目が鋭かったぞ」

あはは、とマリオンは声を上げて笑いました。

 

「で、双子からの情報はどうなんだ?」

「あまりない」

「ないのか?」

「そうだ。明日夜、院長室で最終報告を受けることになっている。マリオン、貴殿も出席してくれ」

「わかった」

 

マリオンは、この件では最近自分が仲間外れになっていると感じていたので、ほっと安心しました。

 

 

翌日。

 

深夜の院長室に、団長様、マリオン、ジャンとジュールが集まっていました。

交代でアスカンタに出入りしていたジャンとジュールの双子の兄弟がそろっての報告会です。

 

「報告を」

「申し上げます。カッサンドラ司祭様は本日、城へ上がりました」

「確かか?」

「はい」

ジャンは、城務めのキラという少女の祖母と知り合いになり、間接的に情報を得ていました。ジャンが教会や城関係の情報を得る代わりに、ジュールは宿屋や道具屋など市民からの情報を得ていました。

 

二人は5日間連続でアスカンタへ行き偵察をしています。今日は5日目の夜、5回目の報告会でございました。

 

「ジュールが得た情報と相違なかったわけだな」

「はい。私は偶然、通用門から入城するカッサンドラ司祭様の姿を見かけました。しかしながら、城で何があったのかはわかりませんでした。キラさんもご実家へは戻らなかったし、来城者はシセル様への献花と記帳しか受け付けていませんから、城を訪れた一般市民から情報を得ることはできませんでした」

ジャンは、自分が得た情報がもう少し詳しかったらと、悔しそうな顔をしました。

 

「ジャン、よくやってくれた。噂をすべて信用することはできないが、お前はカッサンドラ様の姿を確かに見たのだ。大きな収穫だ」

「ありがとうございます」

団長様に褒められて、ジャンは明かりの少ない院長室で真っ赤になっていました。

 

「ここへきて、ようやく動き出したというわけじゃな」

「そうですね。世論を待っていた、というところでしょうか」

 

二人によると、シセル様ご逝去直後のうちは、誰もが王妃様の死を悼み、王の心に寄り添っていましたが、半月もすると、悲しみにくれるばかりである王を非難する声が聞こえ始めたそうです。それは特に、政を行う城の内部から出てきたもの。そして1ヶ月が経った今、国民の間からも「いつまで喪中?」という明確な訴えが出るようになってきたというのです。

 

「国民にデモとかストライキの動きはないのか?」

「はい。小さい声で文句は言っていますが、自分たちの仕事をどうこうする話は聞いたことがありません」

マリオンに尋ねられ、ジュールがそう答えました。

 

「仕事をほっぽらかしたとしても、自分の首を絞めるだけだろう。アスカンタは自給自足、気候もいいし、国の仕事についても賃金は良い。派手さはないが、贅沢言えばキリがない」

アスカンタ貴族出身のマリオンが言いました。

 

「対外的にも問題はないようですから、ジュールの聞いた通り、国民生活は支障はないのでしょう。……しかし、民の心がいつまで従っていられるかが問題ですね」

団長様は、楽しみを奪われた市民が、真面目に王家に従っているのが不思議でございました。

 

「誰か、良い側近がいるのじゃろうな」

オディロ院長もその点については幾ばくかの疑問を持っておりました。

 

「カッサンドラ司祭様ではない、別の者でございますか?」

城内部にいるその人物が、もしカッサンドラと通じていたら……? そう思うとアスカンタも終わりではないか、と団長様は思いました。

 

「おそらく、なのじゃが、大臣クラスの者かと思う。古くからアスカンタにいて、市民からの信頼の厚い者じゃ。卿とのつながりがあるかどうかはわからぬ……マイエラ地区や我が修道院に害が及ばぬ限り、お城の中のことまでは詮索できまいの」

「そうですね。司祭様とつながりがないことを祈るばかりです」

「カッサンドラ卿が城で何をしてきたかわかればのう。……希望的憶測じゃが、王妃が亡くなられて司祭の力が弱まったのでは、とわしは思う」

「仮にそうだとして、強行に出る可能性もあります。司祭様の息のかかった兵士たちの動きは変わりませんし、新たに兵士が加わっている様子もありません。それから、司祭様が子供を勧誘している様子もありません。……司祭様の評判はよくはありませんが」

そう言うジャンに、ジュールもうなずきました。

 

マリオンも、しょうがないなあ、とため息をつきます。そしてジュールに尋ねました。

 

「まあ、昔からアスカンタの一般市民は、城には忠実だが、教会関係者を嫌う傾向がある。特にカッサンドラ司祭のようなゴールドをばらまいてのし上がるような貴族司祭は嫌われがちだが。ジュール、町では最近も?」

「はい、マリオンさん。僕は城下の飲食店や商店など、そういった場所に出入りする労働者階級の人たち中心に話を聞いて回りましたが、王家の人やそのやり方に意見する人は少なく、税金にも不満は出ていません。それに対し、教会関係者……特に貴族出身で上級職を得ている人たちのことはメタクソ、いえ、非常に悪い印象を持っているようです」

ジュールは、貴族出身で女神に仕えるマリオンに遠慮しながら言いました。

 

「いいっていいって、ジュール。俺の家は大したことはない。カッサンドラ司祭のような王室関係者じゃないからな。それに俺はヒラ騎士団員。僧侶としての役職もないさ」

「す、すみません。あ、あの、別に言い訳するんじゃないですけど、一般人は、聖堂騎士団員のことは尊敬しています。特に、マイエラの騎士団出身者は大人気ですよ」

「そうか、それじゃあ、俺がこのマイエラから追い出されても食いっぱぐれることはないな」

あはは、とマリオンは笑います。

 

「まあ、俺のことはいいよ、で、カッサンドラ司祭については?」

「ええ、やはり、子供を無理に学校へ入れようとする話について文句が多いです。勧誘がしつこすぎると。それから、カッサンドラ司祭様系列のかたのご祈祷は高額だということについて。……これらは、一般人ではなく、儲かっている大きな商店の店主や城の官吏になった人とかが巻き上げられているようで、ちょくちょく愚痴っていました」

 

ジュールのこの話には、院長もうんうんと何度もうなずきました。

 

「そうじゃな。カッサンドラ卿クラスであれば、一般の者は相手にしないじゃろう。箔をつけたい金持ちや、それ相応の地位にあるものでないと」

 

上級職にある僧侶は、一般人のために個人的に祈祷を行うことは皆無と言っていいでしょう。あるとすれば何かのお祭りとか、自らのPRのため。普段は貴族相手ですから。

 

「とにかく、一般民の生活に支障のないことが、国の安定につながっているといえます」

「アスカンタは世界稀にみる自給自足国家だからな。それしか自慢できることはないよ」

「マリオン、それがアスカンタのとてつもない強味じゃ」

 

王室にゴタゴタがあっても、一般民が巻き込まれることのないアスカンタです。若いジャンとジュールが納得いかないような顔をしているのを見て、団長様が補足なさいます。

 

「アスカンタの国内生産品は城が適正価格で買い上げ、特に上納品を強要することはない。われわれマイエラでも購入は極めて良心的な価格である。また、国内は自由な価格設定であるが、上限下限が設けられ、生産物のランク付けを個別に行うことが許されている。あまりに逸脱すればすぐに売れなくなるが、そういう場合は国が介入することになっているため、ほとんど問題は起きない」

「そうじゃな、マルチェロの言う通りじゃ。アスカンタは気候に恵まれているからのう。アスカンタの王家は、それを王家だけが独占するようなことを昔からしていなかった。前の王が、少しそういった傾向はあったがの、今のパヴァン王は昔からの流れを汲んでおられる。よい王様じゃよ。お人柄も大変に優しく、心穏やかで、広い視野を持ち、行動力もある。強すぎない太陽のようじゃ」

 

団長様は、言い得ておられる、と思いました。強すぎないからこそ慕われ、強すぎないからこそ足元を狙われる。自分の軍隊に巣くっている異物についてどこまで知っているのかと心配なさいました。

 

「院長様、国民生活に支障はないといっても、このままでよいはずがありません」

「その通りじゃ。このままでは国力は弱まる。なにしろ王家が機能していないのだから。マリオンよ、もしお前さんがここから逃げ出しても、就職口はないかもしれんぞ? あっという間にカッサンドラ軍にとって代わるかもしれんからの」

「そ、そんなに急にですか?」

 

国民が困ってなければいいじゃないですか、と言いそうになっていたマリオン。院長の言葉に目をパチクリさせました。

 

「危機迫っているか、まったく問題ないかのどちらか、のような気がします」

ジャンがぽつりと言いました。

 

「ほう、ジャン、お前さんがそう思うのはどういうところからじゃ?」

「はい。王室関係者は、妙に落ち着きはらった者と、眉間にしわを寄せてあちこち動き回っている者がいます。そして、落ち着いているグループは言葉少なく、動き回るグループはちょくちょく集まってはなにやら話し合っています。落ち着いているほうは軍関係者が多いのでこちらは司祭様陣営、動き回るほうは王室の幹部、つまり政を行う大臣の陣営に違いありませんが、どちらが優位に立っているか、互いをけん制しているように見えます。司祭様の陣営はもともと動きが少なく、シセル様ご逝去の前と後で全く様子が変わらず、大臣側の陣営は、ご葬儀の前後からあわただしく動いていると見られます」

 

「大臣は慌て、カッサンドラ司祭は静観しているんだな。ジャン、お前はどっちが優勢だと思う?」

「はい、マリオンさん、間違いなくカッサンドラ司祭様の陣営です」

 

院長は、目を閉じ、ふうと息をつきました。

団長様は静かにおっしゃいます。

 

「カッサンドラ司祭様が表立った動きを止め、再び姿を見せたということは、駒は揃った、というわけでしょうか」

「おそらく、その可能性が高いのう」

 

 

カッサンドラが城に何の用で行ったのかがわかったのは、更に3日後でした。

 

* * * * *

 

「暇を願い出た?」

ジャンが急ぎの報告を持って、院長室を訪れています。団長様も同席されています。

 

「はい」

「魔法教育に専念するため、卿の魔法学校の子供たちを一ヶ所に集めるそうです」

「どこへ?」

「それが、パルミドの山岳地帯だそうです」

 

「司祭様は何を企んでいるのでしょうか」

「まず、山伏になるわけではあるまいの」

団長様は、カッサンドラの動向をつかまねばなるまいと思いましたが、さすがにそんな遠くまではジャンとジュールを偵察に行かせるわけには参りません。

 

「引き続き城下の様子を探ってくれ」

院長が腕を組んで黙り込んでしまったので、団長様もそう指示する他、どうしてよいやらわかりませんでした。

 




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