礼拝堂では。
「まあまあの人数じゃな……」
院長がぼそっとつぶやきました。にこにこしています。
その隣で団員の意見を聞く団長様。こちらは眉間にたてじわを作り、厳しい表情です。
「……だからマルチェロよ、さっさと捜索隊を出せって話しだ」
「そうです、団長殿、カミーユさんの言う通りです!」
「カミーユさんもこうして一緒に行ってくださいます、もしも団長殿が危険とおっしゃるのであれば、一緒に行ってください」
──なんだなんだ、あんだけ言ったのに、捜索隊出せって? バカじゃねえの? そんな目立つことできるわけねえじゃん。話聞いてねえのか。
ククールは壁に寄りかかってみんなの話を聞いていました。
「団長殿がご多忙ならば、アラン副団長に指揮をお願いしても……」
──おいおい、なんで隊列組まなきゃなんもできねえと思うんだよ……。アランなんてビビりなんだから、そんなわけわかんねえ指揮なんかできねえって。
「いえ、いっそ自分が指揮を執ります!」
──おっ! 骨太の意見。誰だ? あー、メルソーか。だろうな……。
礼拝堂に来ていたのは、ほとんどが若手の団員でした。
「メルソー、お前が指揮? 無理だろ!」
さんざん若手を煽っていたカミーユが言いました。すると、周りの団員も「そうだそうだ」と言っています。中には「メルソーよりは自分が」と言い出す者もいましたが、指揮官を求める声のほうが多いようです。
「捜索隊を出さないとは言っていない。ただ、時期が悪いと言っているだけだ。再三の話を聞いていなかったのか」
「聞いてたさ、なあ、お前ら!」
「もちろん、わかっています」
「はい、聞いていて、敢えて言ってます!」
──カミーユさん、煽るなあ。みんなヒートアップしちゃって……
カミーユにあおられ、団員たちは団長様に詰め寄ります。
「のう、マルチェロ、こうしてはどうじゃ……」
「院長様?」
「面接じゃよ、面接。一人ずつ。お前さんから個別に話を聞けば、皆納得いくじゃろうて……」
──面接?
「院長様、恐れながら、面接というよりは個別の指導のようになってしまう気がいたしますが」
「よいよい、わしも立ち会おうぞ」
──へえ、一人ずつか。やるなあ。って、待てよ……
ククールは黙ってみんなの言うのを聞いていたのですが、「一人ずつ」との言葉に恐れをなしている者がいることに気づきました。
──兄貴とタイマンはろうなんて、いくら院長様がいてもおっかねえよなあ
見ると、カミーユがニヤニヤして礼拝堂の扉を閉めています。
──おいおい、カミーユさん、楽しそうじゃねえか。ここに来た全員に面接を受けさせるつもりだな
「それでは、カミーユ殿から」
「おい、俺かよ!」
真っ先に呼ばれたのはカミーユです。礼拝堂の隅っこのスペースで面接が始まりました。
「……だからよ、お前が指揮とってだな、」
「それはできません」
「カミーユ、聞いておらんかったのか?」
「聞いてたさ。それでもやれよ、マルチェロ!」
カミーユはとても大きい声で面接しています。
「なあ、おい、団長殿に『やれよ』なんて言えるのカミーユさんだけだろ?」
「そりゃそうだよ。ときどきマリオンさんも言うけどな」
若手の団員たちはみな、三人の様子をうかがっています。
「カミーユ、ちと声が大きいぞ」
「ああ、はい、すみません。……コホン、えーと、だから……」
院長にたしなめられて音量を落とすカミーユ。もう何を話しているのかわかりません。
「……ああ、そうかい。んじゃあな!」
カミーユの面接は唐突に終わりました。
「カ、カミーユさん?」
団員が声をかけましたが、カミーユは無言で礼拝堂を出ていきました。どんな結論に至ったのか全然わかりませんが、扉を乱暴に開け閉めするところを見ると、合意には至らなかった、と誰もが理解しました。
「次、エミリアン!」
「は、はい」
エミリアンはククールより少し年上の団員。団長様の熱烈なファンの一人です。真っ赤な顔をして面接を受けています。
「し、失礼します……」
エミリアンの面接はあっという間に終わりました。エミリアンは真っ赤な顔のまま、逃げるように礼拝堂を出ていきます。
「次!」
次々に名前が呼ばれ、残るはククールとメルソーです。面接者は二人を残してすべて礼拝堂から退室しています。
「あと二人か」
団長様は面接スペースを出て、ククールとメルソーのところへやってきました。
「団長殿、俺たちと一緒にホイミンを探しに行ってください!」
メルソーが言いました。
「そこのお前も同じ意見か?」
団長様はククールを見ました。
「そうだよな、ククール」
メルソーは目をキラキラさせています。
──やべえな、どういう展開だ……。いや、オレは兄貴と……いや、この際、それよりも……
「オレはこの面接を受けません」
「何?」
「おい、ククール!」
ククールは思いました。団長様と院長と、そしてカミーユがなにをいろいろ企んでいるのかわからない、自分に何も教えてくれないのにこのよくわからないスパイ大作戦なんかに参加するもんかと。
──こんなにぐずぐずしてるなら、もう昨日のうちに修道院を抜け出せばよかった。
「メルソー、お前は自分が指揮を執ってもいいと言っていたな。ならば聞く、捜索隊を出すとして、お前ならどうする?」
「はい、自分は、わざと大隊で捜索すべきだと思っておりました。世間が何事かと思うほどに。しかし、院長様と団長殿のお話を聞くにつけ、アスカンタの国政を考えますと、その策では後々アスカンタの王室との間に溝ができるとわかりました。ですから、ここは精鋭部隊でひっそりと捜索するのがよいと思います。3人から5人くらいで」
「それで?」
「え、あの……」
「どこをどう捜索する?」
「……わかりません。とりあえずカッサンドラ卿の身辺を洗い、秘密裏にアスカンタ王室に話を通して……」
「聖堂騎士団として、か」
「もちろんです」
「カミーユ殿と似た意見だな。いいだろう」
──いいだろう? 兄貴、メルソーと行くのかよ。それならそれでいいさ!
ククールはすっかりへそを曲げています。
「だが、騎士団として捜索隊を出すわけにはいかない。わからないことが多すぎるのだ」
「団長殿、騎士団の力をもってすれば……」
「そうだな。『騎士団』の力をもってすれば」
──だが、って言ったな? だが、って!
すぐに機嫌がよくなるククール。
「マルチェロや、メルソーはよい団員になったのう」
「はい、院長様。将来かならずや騎士団の幹部になるでしょう」
「メルソー、今日のところはこれまでじゃ。何かあればすぐに協力をお願いする。本当に頼りになるのう」
「はい、ありがとうございます。……では失礼いたします!」
メルソーは団長様と院長の二人から大変褒められ、頬を紅潮させたまま礼拝堂を出ていきました。
「さて、面接は終わりだ」
メルソーの姿を見送った団長様が言いました。
「ククール、お前さんはどうする?」
院長はにこにこしています。
ククールはそっぽを向いたまま、唇をかみしめていました。
「どうするもなにも、面接なんて……オレはオレで行く! 兄貴のバカ!」
その時、ひゅん! という空を切る音がして、そのあと、パンという小気味良い音がしました。
スパイ大作戦と言っておいて、なかなか作戦が遂行されていません。次回は決行できるはず。