DQ8 ホイミンとマイエラのひとたち   作:ぽんぽんペイン

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いよいよ魔物捕獲に団長が立ち上がりました。


魔物捕獲大作戦

「おいククール、お前また何かやらかしたのか? お前、今日非番だったろ? 確か50日ぶりの……」

 

 

川岸へ向かって見習い騎士を引率しながら、マリオンは言いました。

 

初夏の風は肌に心地良く、このままこの土手で昼寝でもしたら最高だろうという考えが、マリオンとククールの頭に浮かんでいました。

 

マリオン団員は気さくなかたでございます。新人教育に長けており、騎士団始まって以来の問題児もこの人の手により、まあまあましに育てられたようなものでございました。団長様より歳上でありますが、立身出世などに興味はなく、見習い生たちの教義を一手に引き受け、また様々な事情でこの修道院にやってくる子供たちの勉強を見ることに生き甲斐を感じておりました。上に立つ者特有の物言いもなく、その兄貴肌は団員たちの心の拠り所でありました。

 

「オレの非番なんて数えてんなよ……。それになんもやらかしてねえって。やらかす時間がなかったことくらい知ってるだろ?」

 

マリオンは「そうだったな」と笑いました。

 

 

一週間前から、ククールの日々の祈祷、労作ほか、畑仕事に至るまでありとあらゆる罰則、そしてこの実地演習の監視、夜はおしおきのための地下室へと、ククールの引率は全てこのマリオンがしてきたのです。先ほどの開口一番の言葉、「お前また何かやらかしたのか?」は、ご婦人方に「ごきげんよう、マダム、今日は一段とお美しいですね」と言うのと同じくらい、ごく当たり前の挨拶でした。

 

「ばれたんだよ、あのアレが」

ククールはそう言って、ニッと笑いました。先輩騎士のマリオンも、ついにか、といった表情を、微笑とともに丸みを帯びた顔に浮かべます。

 

「ああ、アレか。怒っていただろう? 団長は」

「それがそんなに。アランはびびってたけど、あんなのオレに『一人草むしり一週間』て言ったのと大差なかったぜ」

 

そりゃ軽いお喋りだな、とマリオンはまた笑いました。

 

なごやかな雰囲気で、いつもの実地演習場所に到着しました。見ると、現場に先入りしていた団長様とアランの姿があります。

 

アランは団長様の隣で、魔物が潜んでいたエルムの木を指差したり、身ぶり手振りで一生懸命に何か説明していました。

 

さて、魔物捕獲のための作戦がいよいよ開始されます。見習い生への指示を出すのはマリオンです。

 

「では、今日の隊列だが……」

見習い生を整列させ、マリオンが丁寧に指示を出します。ククールは、団長様が気になるのでしょうか、見習い生のことなど無視してエルムの木の近くに待機している団長様の姿を探していました。

 

見習い生は言われた通り、隊列を組んで武器を構えました。向こう岸では、こちらへ攻撃してくる気満々の数種の魔物がもうすでにこちらを威嚇しています。

 

見習い生たちは、先輩騎士団員が3人と、まさかの団長様の登場におそれおののき、カチコチになっているようでした。

 

そんな様子を感じ取って、マリオンは、

「いつものようにやればいい。余計なこと考えるな。怪我するぞ! まず深呼吸しろ。肩の力を抜けよ!」

と、にこやかに声をかけます。

 

団長様は、マリオンの合図で騎士見習いたちが構えの姿勢をとると、問題のエルムの木が良く見えるよう、アランと木を挟むような位置で静止なさいました。

 

マリオンにリラックスするように言われはしましたが、やはり団長様がいらっしゃるということで、騎士見習いたちは全員極度の緊張状態にありました。無理もありません。日頃より団長様の鋭い視線は、見習い生を金縛りにあわせるほどでありますのに、今日はさらに研ぎ澄まされ、哀れな見習い生のレイピアの切っ先に翡翠の光が反射しているようでありました。

 

 

訓練が開始されます。いきり立ったサソリがハサミを振り上げ、川を渡ってきます。見習いたちはマニュアル通り、一生懸命駆除を開始しました。

 

バシャバシャと水しぶきをあげてこちらへ渡ってくる大サソリ。カチカチと威嚇の音を出しています。

 

「ひいっ!」

「ああ、ひでえなぁ」

 

サソリの威嚇にあせって、見習い生が一人、足を滑らせて川に落ちてしまいました。ククールはニヤニヤ笑いながら騎士見習いを助けに行きました。団長様は、そちらには一瞥をくべただけで、また木の上をご覧になりました。

 

「動きが良くなってきてるぞ。あせらず確実に! ちゃんとフォーメーション守れよ」

マリオンが声をかけます。

 

隊列を何度か組み直し、剣からヤリ、弓など、武器を変えながらの訓練が続くうち、見習い生たちも必死ですから、団長様がご覧になっていることも少しずつ忘れ、一生懸命武器を振ります。

 

今日の訓練は最近の中で最もまともなようだ、とアランは思いました。団長殿がいるといないではこんなに違うものか、と自分の力不足を恥じたりしています。でも大丈夫です。アランも真面目でよい騎士団員ですから。団長様が特別おそろしいだけです。

 

 

さて、だんだんと日が落ち、訓練時間も終わりに近づいてきました。そろそろ魔物たちにホイミがかかる頃合いです。団長様もアランもマリオンも、今日は珍しくククールも精神を集中させています……。

 

 

* * * * *

 

 

「……来ない日もある、と言いたいのだな」

 

 

団長様が監視に加わってから三日目の夜のことです。団長室の扉を一歩入ったところにアランとククールが立たされておりました。マリオンは窓辺に寄りかかり、笑いをこらえて二人を見ています。団長様は椅子にごく浅く腰を下ろし、執務机に肘をついて、革の手袋を外さぬままに指を組んでいらっしゃいました。

 

「団長よ、敵はよくよくこちらを観察していると見える。明日はエルムの木から離れてみたらどうかな」

「普段より見張りの多いのを察して現れない、ということか」

 

マリオンの提案に、団長様はそれも一考、と言い、椅子に深く座り直してすっと目を伏せました。ランプ一つの団長室にさわさわと聞こえてくるのは、エルムの木でしょうか、夜風とお喋りしているようでした。

 

 

「では、アラン、明日の見張りはお前一人だ。下がってよい」

 

夜風がエルムの魔物にこの後の作戦を伝えると思ったのでしょう。アランが去った後、団長様は窓を閉め、「さて」と団長室に残ったマリオンとククールに話をはじめました。

 

 

* * * * *

 

 

翌日、監視はアラン一名。見習い生の列にマリオンが入って訓練場所に向かいました。団長様とククールは既に持ち場に隠れています。

 

夕べ、アランを退出させた後、団長様は自分が見習い生の列に加わるとおっしゃいました。

ところが。

 

「団長どのが列に入るのはまずいと思うぜ」

 

ククールが珍しく進言しました。しかし、団長様は、お前の意見はどうだ、という目でマリオンを見ます。

 

 

「……ああ、俺もそう思う。お前、目付きが悪いだろう」

 

聖堂騎士団の中で、団長様を「お前」と呼べるのは今やマリオンを含め数人だけでした。このようにくだけた言い方をするのも、気の置けない人間のみのときだけです。

 

「私の目付きが悪いとまずいのか?」

団長様のその質問には、マリオンの代わりにククールが答えました。

 

 

「団長どのが先頭で睨み利かせてたら、ホイミ野郎どころか、オオサソリだってビビって近づかないさ。この半月ずっと鬼ごっこみたいにしてたんだ。いよいよ女神さまのもとに送られるとわかったら来やしないよ」

 

団長様は、実地演習がいつの間にか鬼ごっこ程度の訓練になっていたことを憂いましたが、今はエルムの木にいる魔物のことが先です。渋々二人の意見を次のようにまとめました。

 

──マリオンが見習い生の列に加わり、魔物のホイミ状態を近くでよく観察し、ククールに捕獲の指示を出す。ククールは遠くにいても攻撃できるよう、弓を装備すること。捕獲に失敗し、逃げた場合を想定し、自分はエルムの木の後方、森側に待機する──

 

 

さて、夕べの作戦通り、団長様とククールは離れた場所から目を凝らしています。アランは監視の位置にいて、殺気を出さないようになんとなく立っています。マリオンは魔物の様子を見るためにそっと魔物に近づいていきます。

 

「来てるな、手加減して回数多く攻撃するんだ」

 

マリオンは見習い生に指示を出します。

 

今日は一斉攻撃の訓練です。見習い生は2列に並び、言われた通り、軽い攻撃を数多く繰り出します。こうすると、魔物の体力がじわじわ減っていきます。しばらくすると魔物にホイミがかかり始めました。

 

 

「よし、スライムベスは無視だ。オオサソリは外れてもよいから、会心を狙え。前列、包囲開始!」

 

こちらの手が強まると、スライムベスは逃げ始め、代わって暴れうしどりが集まって来ました。前列の見習い生は、攻撃しながらゆっくりと包囲態勢に入ります。攻撃の手が強くなったことと、包囲網を恐れて、遊びに来た魔物たちは慌てて逃げて行きます。残っているのは好戦的な魔物だけ。

 

 

「暴れうしどりに集中攻撃しろ。サソリは俺がやる」

 

マリオンは弱ったオオサソリを、生かさず殺さず適当に攻撃しながらタイミングを見ていました。見習い生は一生懸命剣を振るい、暴れうしどりに攻撃します。会心の一撃をくらった暴れうしどりたちは、ホイミがかかろうがかかるまいが、へとへとになって必死で逃げて行きます。マリオンが相手している大サソリには、絶え間なくホイミがかかっています。

 

さすがにもう新しくやって来る魔物もなく、暴れうしどりの数が少なくなったとき、マリオンは矢をつがえたククールに合図しました。

 

ククールの放った矢は枝葉に隠れた魔物に命中したようです。魔物は「うっ、」のような声を上げ、バキバキと枝葉を折りながら落ちてきました。

 

「残りの魔物を全て攻撃!」

 

マリオンは見習い生に指示を出し、自分はエルムの魔物がこちらへ来たときのために土手を上がってきました。エルムの木は、自分たちと同じ側にあります。川を渡って逃げるつもりならば、自分がとらえる役目です。

 

矢が当たったはずの魔物は、まだ姿を現しません。木の根元でうずくまっているのでしょうか。

 

ククールは新しい矢をつがえ、魔物が落ちたあたりの木の根元を狙っています。

 

団長様はじりじりと歩を進め、エルムの木に近づいていきます。団長様の視線は、我が騎士団をおちょくった魔物め、八つ裂きにしてやる──などと思っていらっしゃるのでしょうか。魔物も早くそれに気づいて、おとなしくお縄をちょうだいしたほうがいいようですね。素直に「ごめんなさい」すればきっと許してくださるはずです。団長様は本質はとてもお優しいかたなのですから。

 

やがて、暗がりにもぞもぞと動く魔物の姿が。アランの報告通り、そう大きな魔物ではないようです。それでも団長様は慎重に近づいていきます。団長様の耳には魔物のはあはあと苦しそうな息づかいが聞こえてきます。ククールの矢は確実に魔物に当たっているようでした。

 

さあ、あと数歩で魔物に触れようかというところまで近づいたその時です。

 

突然、森の中からオレンジ色のものがこちらへやって来たのです。

 

「なんだありゃ!」

ククールがいち早くオレンジ色に気づいて、声を出しました。

 

オレンジ色の塊は、ざらざらと草を踏みつけ、こちらへやってきます。大きくはありません。どうも、丸っこいようです。一つや二つではなく、数えきれないほどの丸い塊が、色づいた落ち葉が地面を覆うように、森の奥から次々とやってくるのです。

 

「団長殿!」

アランが悲鳴を上げ、団長様が待機していらっしゃるあたりをめがけて走っていきます。オレンジ色の塊に最も近いのは団長様です。アランは、団長様をお守りしようと思ったのでしょうか。しかし、アランが到着するよりもオレンジ色のほうが早いようです。足が生えているようでもなく、全身で小さく飛び跳ねながら移動しています。

 

「なんだあれは!」

エルムの魔物の姿を探していたマリオンも、見習い生たちに安全な場所で待機するように指示を出し、急いでエルムの木に向かいます。

 

「おい、マルチェロ! ククール! アラン!」

マリオンは叫びながら走っていきます。

 

その間にもオレンジ色の塊は、どんどん増えて行き、積み重なりながらこちらへ進んできます。そしてあっという間にエルムの木を取り囲んでしまいました。もの凄い量です。団長様もククールも、アランもオレンジ色の下敷きになってしまったのでしょうか、姿がありません。

 

「マルチェロ! ククール!、アラン!」

 

マリオンの声は辺り一面のオレンジにかき消されました。

 

ぶよぶよしたオレンジ色の塊は、しばらく木の周りをぐるぐるとまわるように移動していましたが、集団のまま川へ入り、東の方へ引き潮のように流れ去ってしまいました。

 

その様子をぽかんと口を開けたまま見ていたマリオンでしたが、すぐに団長様とククールとアランの姿を探します。

 

「おい、マルチェロ、ククール、アラン! どこだ。……誰か、明かりを」

マリオンは、見習い生に振り向き、明かりを持ってくるように言いました。

 

「いてて、いて……」

「ククール、どこだ?」

弱音が聞こえてきます。マリオンは、それがククールだと決めつけ、声を掛けます。

 

見習い生が2名、明かりを持ってやってきました。マリオンは明かりを受け取り、見習い生と一緒に三人を探します。

 

「私はここだ」

マリオンから少し離れたところで小さな炎があがりました。団長様です。木の枝を松明代わりにして、団長様がマリオンの方へやってきました。

 

「大丈夫……みたいだな」

団長様の姿に安堵したマリオン。明りに照らされ、ククールもアランもすぐ近くで無事な姿を見せました。

 

自分たちのうえをぶよぶよと魔物に通過された団長様とククールとアラン。若干顔色が悪いようです。三人は無言で修道院へ向かいます。マリオンも見習い生を引率し、彼らの後を追いました。

 




魔物に逃げられてしまいました。でも、そいつを捕まえないことには、話が進みません。団長室には窓がある設定です。
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