DQ8 ホイミンとマイエラのひとたち   作:ぽんぽんペイン

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ホイミンを探す任務についているマルチェロ団長とククールは、パルミドで知り合ったニコラスと行動を共にすることになります。


スパイ大作戦その5

ホイミンを探す作戦遂行中の団長様とククールは、パルミドで知り合ったニコラスというガタイのいい男とともに、マイエラ修道院近くの朽ち果てた馬小屋に来ていました。

 

 

「あんたたち、俺をどうするつもりだ?」

 

夕べからのよくわからない展開と恐ろしい眼力の団長様に、ニコラスはすっかり怯えきっていました。

 

「どうこうするつもりはない」

ニコラスは、夕べククールの言った「どうこう」と、今の団長様の言う「どうこう」では意味が違う、と悟りました。ククールのいう「どうこうは」貞操にかかわり、団長様の言う「どうこう」は、命にかかわります。

 

なかなか話を始めない団長様を見て、ようやく本来の目的を思い出したククールは、……そういえば、なんで兄貴は会ったばかりのニコラスを初めから信用しているような感じがするんだろうか……と不思議でなりませんでした。

その疑問に答えるかのように、団長様はニコラスに問いました。

 

「ニコラス、貴殿、アスカンタの者であろう」

「こだわるな。……なぜだ?」

「美人局を追っているなどと」

「追っている。それは事実だ」

「それだけではないだろう?」

「……あんたたちに言う筋合いはない」

 

ニコラスは強く言い放ち、二人から目をそらしました。

 

ならば、と、団長様はニコラスの腕を掴み、その力強い腕にはめてある腕輪をさらしました。

「……これがほしいのか?」

「兄貴、これ……」

「コントレック公爵様の下賜の品だ」

ニコラスははっとして腕を引っ込めます。

 

「どうしてそれを……」

「ククール……」

 

団長様に促されて、ククールは革手袋を外し、腕輪を見せました。

ニコラスのものと似ていましたが、ククールのそれは繊細な装飾が施され、翡翠とサファイアがちりばめられています。

「宝物だぜ。公爵様に頂いた」

「あんたたち、公爵様と……」

「いや、ニコラス、今はその話をする気はない。ただ、貴殿のそれを見て、私は賭けたのだ。知っていることを話してほしい」

 

ニコラスは大きく息をつき、言いました。

「……カッサンドラのことか?」

 

団長様は静かに頷きました。

 

ニコラスは、もはや隠せまいと観念して言いました。

「話は長くなるが……」

そして、その場にあぐらをかきました。カリスマ兄弟もそれにならいます。

 

 

「……俺には年の離れた弟がいる。俺が名前をつけたんだ。忘れもしない。だが、あいつらの母親は俺の母じゃない。父はいい歳をしてメイドに子を産ませたんだ。母親は出産と同時に死んじまった。若くて大人しい、きれいなメイドだった。……俺は産まれた赤ん坊の世話をしたかった。だが、仕事がある……お察しの通り、俺はアスカンタの官吏だった。赤ん坊の世話をするのは現実的ではなかった。

 

赤ん坊はじいさんとばあさんがしばらく育てた。しばらく……な。親父が赤ん坊を捨てるまで。なぜなら、双子だったから。二人とも捨てた……。……親父は怖かったんだ。双子が。子を捨てた後は、すっかり腑抜けになっちまって。パルミドで飲んだくれた。そんな親父はすぐに美人局に目をつけられた。いいようにゴールドを巻き上げられ、そのまま身を持ち崩し、死んじまった。……俺は親父を恨んだ。だが、死んだ者を恨んでも何も変わりゃしない。可哀想なのは弟たちだ。何処へ捨てたのか、そのことについてはじいさんもばあさんも何も言わない。生きているかどうかもわからないんだ。

 

……もうひとつ、双子に関しての話がある。俺には姉がいるんだが、姉も双子を産んでいる。俺の弟と同じ頃に産まれた女の双子だ。……子供が3つになった頃だった。カッサンドラの側近という男が来て、双子が産まれると、末代まで呪われると言ったそうだ。姉はそんなの迷信だと言い返した。だが、世間の目があろう、カッサンドラ様の孤児院に預けたらどうか、と持ちかけたんだ。義理の兄は双子の迷信を恐れていた。夫婦で話し合い、一人だけ孤児院に入れたいと言った。しかし、カッサンドラの側近は二人とも預けよ、と言いはった。

姉はどうしてもそれができなかった。だから、しばらく考える、と言って一人を隠し、側近には病気で死んだと言った。

しかし側近はすぐに嘘を見破り、二人とも誘拐した」

 

「ひでえ奴だな」

「ああ。だが、不思議なことに、次の日、子供の一人が戻ってきた。子供のことだから、うまく逃げ出したんだろうと俺たちは思っていた」

「じゃあ、一人はカッサンドラの孤児院にいるのか?」

 

ニコラスはうつむいて首を横に振りました。

「いや、そのあとすぐ、カッサンドラ本人が、側近が申し訳ないことをしたと、ゴールドを持ってやって来た。そしてもう一人はどうした、と言うのだ」

「では行方不明なのか?」

「三歳じゃ魔物に食われちまうだろ?」

「ああ。姉は怒り狂って、ゴールドを叩きつけた。自分たちに構うなと。このとき、俺の弟たちもカッサンドラに声をかけられていたことを知った。生まれてすぐ母親が死んだから、母親の葬儀から情報を得ていたらしい。そのこともあるし、頭に来た俺はアスカンタ王に進言しようとした」

 

「しようとした、ということはしなかったのだな」

ドレス姿で足を思い切り広げて座るククールの白い太ももを隠すように、団長様はご自分の上着をそっとかけながらおっしゃいました。

 

「……あ、ああ。コントレック公爵様に止められたんだ。ちょうど先代のアスカンタ王に黒い噂がたっていた時でな。今のパヴァン王に王位が動くかもしれないと、ゴタゴタしていたんだ。当時のカッサンドラは次期王の妃候補シセル様の親戚であり、じわじわと力をつけているところだった。コントレック公爵様は、官吏の身でカッサンドラに対抗すると消されるぞ、とおっしゃって、俺を止めたんだ」

 

「へえ、さすがだなあ。カッサンドラがこそこそしてるのは公爵様が怖いからだろ?」

 

ニコラスは、美しい女性にしか見えないククールの口のきき方が悪いので、そのギャップに戸惑いながらも、やはりこの女、いや男は攻めなんだな、と思いました。

それにひきかえ、見た目も言動もエリートでスマートな男のほうがマメに弟の世話をしている……、受けなのか……。ニコラスの胸の中に、やわやわと、甘酸っぱいイチゴ味のわた菓子のようなものが生まれるのを感じました。

 

「それで、貴殿は泣き寝入りしたというわけだな」

団長様の容赦ない言葉は、ニコラスの薄桃色の霞のような恋心を一瞬で散らしました。それでも、団長様の冷たい翡翠の瞳はニコラスの心に小さな火種を残したようです。

 

「泣き寝入りなどはしない。俺はカッサンドラの尻尾をつかみたかった。だから、城を辞めた。まず弟と、姉の子を探すために旅に出た、しかし……」

「このザマか」

「キツいわ、お兄さま?」

団長様はふん、と言いながら先を促します。

 

「シセル王妃が亡くなって、カッサンドラは引退したと聞いた。パルミドの山岳地帯で魔法教育をしていると。しかし、魔法使いを輩出して何をするつもりなのかわからないのだ。マイエラの院長のように、身寄りのない子を引き取るなんていう慈善家とも思えないんだ。何かウラがあるとしか思えない……」

「貴殿は、城を辞めるのが早すぎたようだ」

 

団長様に言われ、何だと? という表情をニコラスは見せました。

 

「あんたたち、一体何者なんだ?」

 

ニコラスの問いには答えず、団長様はおっしゃいました。

「密かに探っていれば、もう少し内情がわかったものを。カッサンドラ卿の手の者が随分と城内部を侵食している。……まあいい。ところで、我々に力を貸してもらいたい。我々も人を探している。恐らく、パルミドの山岳地帯に連れて行かれたはずだ。貴殿の尋ね人の手がかりもつかめるかもしれない。さらにカッサンドラ卿の尻尾も……」

 

ニコラスは、団長様の翡翠の瞳の奥に情熱を見た気がしました。

そんな団長様の申し出を、ニコラスには断る理由がありませんでした。

 

 

 

「じゃあ、またねダーリン」

ニコラスと一緒にドニの酒場に入ったククールは、そう言って酒場を後にしました。

 

「随分いいお連れさんだな。また来るのか?」

女のククールは短時間で酒場の噂になりました。事情を全く知らない騎士団員まで好奇の目を向けています。

ニコラスは戸惑いながらも、団長様に言われた通り、余計なことは一切言わず、時間になると宿屋へ引き上げました。

 

一方、団長様と女のククールは、再びパルミドにいました。ニコラスを追っていた人間に接触するためです。

「なあ、ヤバくねえ? 面が割れてるんだぜ? 俺たち」

「よいのだ。美人局と思わせておけば。この町の住民は、美人局に引っ掛かるほうが間抜けだ、くらいにしか思っていない。それより、口の聞き方に気をつけろ! それから膝!」

はいはい、すみませんね、と言いながらも、こうして団長様とラブラブなムードで過ごせることが嬉しくてならないククールなのでした。

 

「……失敬」

テーブルのグラスが倒れました。見ると、二人のテーブルを通りかかった客の、腰の剣が当たったようです。男は済まなそうに話しかけてきます。しかし、その眼差しは団長様と同じくらい鋭いものでした。

 

「申し訳ない。お詫びに一杯奢らせてください」

返事も待たず、男はウェイターに酒を注文し、同じテーブルにつきました。

 

団長様が何もおっしゃらないので、ククールも下を向いたまま黙っていました。

 

「何かの縁でございましょう。遠慮なく頂戴致しますぞ」

酒が運ばれると、団長様はすぐにグラスを持ちました。

 

「……それで、ご用向きは? あいにく鴨場は自分たちで見つけますので……それともショバ代を出せと?」

「いや、そういう話ではない」

男は、注文した酒を飲み干し、団長様たちのワインを自分の空のグラスに注ぎました。

 

「……先日の男、本当に井戸に放り込んだのですか?」

「いいえ」

きたな、とククールが思う間もなく、団長様は即答なさいます。おい、兄貴! と思わず言いそうになったククールのスネに、団長様のケリが入りました。

 

「我々はあの男を探しております。何処へ行ったのかお教え頂きたい」

「そちらの事情がどうか知りませんが、あの男の行方はわかりかねますな。怪しげな井戸の話はしましたので、てっきりそこへ行ったものだと。ああ、我らの仕事はさせてもらいましたよ。大したカモではありませんでした」

団長様は、顔色一つ変えずにおっしゃいました。

 

……すげえポーカーフェイス……。ガチでポーカーしたら、オレ、負けるかも……。と、ククールはうっとりと団長様を見つめます。

その悩ましい表情を一目見ようと、行儀の悪い連中がドヤドヤと集まってきました。男は困った様子で言いました。

「そうですか。では、万一見かけることがあったら、我らに引き渡して頂きたい。話はそれだけです。お邪魔しました」

男は多めのゴールドをテーブルに置き、立ち去りました。

 

「ククール……」

団長様は、何事もなかったかのように振る舞い、目の前の美しい女の姿をした憎らしい弟のあごを、人差し指で上に向かせます。

 

「お兄さま……」

ヒュー!ヒュー! と下品な口笛が酒場に響きます。

見つめ合う二人……のように他からは見てとれますが、団長様は視界の端に先ほどの男を入れ、ククールのことは全く見ていません。

 

「とんだ邪魔が入った。早く二人きりになろう」

男が酒場から出たのを確認し、団長様はそう甘くおっしゃって宿屋へ向かいました。

ククールは、何が起きたかさっぱりわからないまま、団長様の左腕にしっかりへばりついています。

 

「お兄さま……ご一緒にシャワーを……」

「……ああ」

 

部屋に入った二人。ですが、まさか団長様がそんなことをなさるはずがありません。ククールが一人でシャワーを使う間、先ほどの男が自分たちを探りにきてはいまいか、調べていらっしゃいました。

 

「兄貴……さっきの男、ヤツの手先かな?」

ようやくドレスを脱ぐことができたククール。シャワーもあびてとてもさっぱりしたカオをしています。

 

「そうだろうな」

団長様は全裸のククールなどそこにいないかのように振る舞います。

 

「なあ兄貴、ニコラスを信用して大丈夫なのか?」

「私の目に狂いはない。ただ、もっと詳しく見るためにドニへ置いてきたのだ。カミーユ殿が見張っている。お前も仕事はあるんだぞ。それより早く服を着ろ!」

いやん、えっち! と言いながら、ククールは服を身につけました。

 

深夜の宿屋。パルミドが最も活気のある時間。

そんな時間にいい男といい女が宿屋にいる……。

先ほどの男ではなく、品のないノゾキの連中が団長様たちの部屋の両隣で壁に耳を当てています。

 

……先ほどの男は、ニコラスの動きを探っている。もし、私たちを探りに来れば、捕らえて、何のための追跡か吐かせられるのに。そしてカッサンドラの居場所も……。だが、今我々の動きを張っているのは下らない連中だけだ。

 

団長様が作戦の遂行にあたり、あれこれと計画を練っているのに対し、ククールは、酒場で見つめあった続きを、自分の都合のいいように夢に見ていました。

そういう秘密道具を持っているのではないかと思うほど、リアルな夢のようです。

先ほどから、ククールは一人でベッドで身体をくねらせ、悶えるような喘ぎ声を発していたのです。

 

「あっ、お兄さま…だめ…あっ…ああん、もう…イっちゃう…ああん…」

ククールの声はどんどん大きくなります。その恥ずかしい声を隠すため、団長様はククールの口に枕を押し付けました。しかし、苦しげに漏れ出す声は両隣の客をいっそう喜ばせるだけ。

 

団長様は、レイピアをこの変態に向けましたが、今は「極秘任務」の最中。面倒なことは起こせません。

団長様はご自分にラリホーをかけて、ぐっすりと眠りました。

 




別の作品で登場したオリキャラのコントレック公爵にこちらでも登場してもらいました。
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