DQ8 ホイミンとマイエラのひとたち   作:ぽんぽんペイン

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カッサンドラの魔法学校へ入り込んだマルチェロ団長とニコラスの様子です。学校の中はたくさんの子どもたちがいました。


スパイ大作戦その9

ホイミンを探すためカッサンドラの魔法学校を探していた団長様たち。ようやく見つけた地下砦でしたが、ククールが魔方陣から砦の内部へと吸い込まれてしまいました。

 

慎重に周辺を探っていると、団長様が小さな魔方陣を見つけました。

 

 

「マルチェロ殿?」

「見てくれ。ここに魔方陣が3つある」

団長様の示す砦の窪みに、小さな魔方陣がありました。

 

「なぜ3つも」

 

──裏口とトイレと秘密の部屋かな……

 

ニコラスにはさっぱりわかりません。団長様の方をそっとうかがうと、団長様は全て悟ったようなお顔をされておいででした。

 

「3つの魔方陣は、それぞれ火と水と風を表している。火は厨房であり食料貯蔵庫だ。水はおそらく地下水脈、水の確保と緊急避難経路だろう。風は地下換気のために作られた空気の通り道」

 

──なるほど、素晴らしい頭脳だ。マルチェロ、美しいだけでなく、なんと聡明な……

 

「なぜわかる?」

「私ならそうするからだ。何かを成し遂げるには、インフラをしっかり構築せねばならない。目に見える部分……カッサンドラ卿の場合で言えば魔法学校の部分だが、そればかりを重視してはならない。目的と方法の他に大切なことがあるということだ」

「ではカッサンドラは、相当な……」

しっ! と団長様は唇に指をあてました。そして近くの草むらに隠れます。

 

思いがけず至近距離にある団長様の横顔に、ニコラスは己の中心が疼くのを感じました。

 

草むらで息を潜める二人。

すぐに、二人の少年が風の魔方陣から出てきました。

 

「……客が来たって?」

「ああ。ついさっき。先生が入り口に結界を張ってこいって」

「どっから入ってきたんだ?」

「中央口らしいぜ」

「アホだな」

「ああ、アホだ」

 

子どもにアホと言われているククール。

 

「どんなヤツ?」

「若い男だってよ」

「それって……?」

「おい、よせよ、そういうんじゃねえだろ」

「なんだよ、そういうってどういうんだよ!」

「バカ、ふざけんな!」

 

少年たちは下ネタで盛り上がっています。

 

──カッサンドラは少年趣味だったのでは? あの赤い男も少年の部類なのか……いや……そんなことはない

 

団長様は眉をひそめました。

 

少年たちはおしゃべりをはさみながらすいすいと結界を張っていきます。かなりの術者のようです。

 

「俺たち、換気道から戻るのか?」

「いや、客の仲間がいるかもしれないから見張れって。あとで応援もくる。それにあの換気道は出口だろ? あそこから入ったら怒られるぜ。一方通行なんだから」

「あそこが一番通りやすいんだよな」

「まあな。空気ふわふわで気持ちいいんだよな」

「お前も通ったことあるのか?」

「そりゃそうだ。男子たるもの、一度は通る道だ」

「なんだよそれ」

 

あはは、と笑いながら3つの魔方陣に白い紙を乗せ、杖を構えました。白っぽい光が現れ、紙も魔方陣も消えました。

 

団長様は、二人が離れていくのを見計らって、おっしゃいます。

 

「あの阿呆、カッサンドラ卿に会えたようだな。この間にうちの見習いと貴殿の弟を探そう。地下水脈から入る」

「マルチェロ殿? 魔方陣は消えてしまったが?」

「私には見える。……こんな目眩まし」

「だが、結界は……」

「大丈夫だ。強い結界ではあるが、ほころびがある。もう少し丁寧に張られていたら面倒だったが、問題ない」

 

団長様は、ニコラスの腕を掴み、素早く魔方陣へ飛び込みました。

 

 

降り立ったところは、団長様のおっしゃった通り、地下水脈でした。壁にぴったり張り付いて気配を消します。

 

──よかった、誰もいなくて

 

ニコラスは団長様の背後で息をひそめます。

 

団長様は慎重にあたりを見回しました。

またいで越せそうな幅の水路には清潔そうな水が穏やかに流れています。水の流れる音のほかは何の音もしません。壁や天井は石造りですが、水音があまり反響していません。

 

石の砦といっても、地面から上に作り上げたものではなく、そのほとんどが自然の岩場を利用したもの。音や声が砦の内部に反響してもうるさくて困ります。団長様は即座にそのことにお気づきになりました。この砦はかなり考えられて作られていると。自分たちの侵入もすでに露見しているかもしれない、と思いました。

 

ニコラスに黙っているように指示し、水を引きこんでいる方へ注意深く進んで行くと、人の気配がしました。

団長様とニコラスは岩の窪みにさっと隠れます。

 

「……水路の入り口を塞げって」

「どうしたんだろう、先生。やけに慎重だな」

13歳くらいでしょうか、二人の少年は団長様たちが入ってきた辺りで立ち止まり、扉を出現させました。

 

「これで水路から入っても進めない。食料室に入っても、こっちからじゃなきゃ開かないし、換気道から来たら、すごく怒られるしな」

「うん。一方通行だからな……あれ? 誰か来る」

 

すたすたと足音をさせて、10歳くらいの少女がやって来ました。

「先生が、水路口を閉じましたかって」

「あっ、ペトラじゃん。はいはい閉じましたよ」

「表の見張りに行って下さいって」

「はいはい、わかりましたよ」

 

ペトラと呼ばれた少女の言葉に従って、二人の少年は換気道から外へ出たようです。その後も合計して10人くらいの子供たちが見張りのため外へ出ていきました。

 

「……これでよしっと」

ペトラはまっすぐに団長様たちのそばへやってきて、立ち止まりました。ぺトラから団長様たちの姿は見えない位置です。

 

ぺトラは、すうっ、と、細く息を吸い、ゆっくりと口を開きました。

「……ついに救世主さまがいらっしゃいました。私たちを救って下さるでしょう。あなた方はその邪魔をするおつもりですか?」

団長様は、見えていないはずなのになぜ見つかったのか、ペトラの力に舌を巻きました。しかし、子どもにかまけている暇はありません。団長様は、ぺトラの前にそっと姿を現しました。ペトラは驚く様子もなく、団長様の緑の瞳をじっと見つめます。

 

「救世主とは、カッサンドラ卿のことか? だとしたら、そなたと私は杖を合わせねばなるまい」

 

しばしの沈黙。

 

「……救世主さまは突然に外からいらっしゃいました。あなたは救世主さまのお仲間なのですか?」

ペトラは答えず、自分の質問を再び口にしました。

 

「そなたはカッサンドラ卿の生徒であろう。なぜあれを救世主などと申すのか?」

「救世主様のお仲間ではないのですか? それとも、救世主様を捕らえにいらしたのですか? 教会のかた。それに、城のかた」

ペトラは、教会のかた、と団長様を見、城のかた、とニコラスを見ました。

 

 

──何? 俺たちの素性がわかるのか?

 

ペトラの能力に驚くニコラス。思わず拳に力が入ります。

 

「救世主に用はない。しかし、そなたはなぜあれを救世主と言う」

団長様は落ち着いた声で、そしてまるで懺悔を聞こうとするかのような表情をなさいました。

 

「あのかたはまるでゴルドの女神様のよう。あのかたの瞳には慈悲の光が宿っておいででした。硬き楔をうちつけし大いなる力の前に立ちはだかるあのかたは、赤き衣をまとい、銀の髪は月光のように輝き……」

「……その外見に合わぬ口の悪さ、行儀の悪さ、頭の悪さ」

それを聞いて、ペトラはぷっと吹き出しました。

 

──なんだ、笑うとやっぱり子どもだな

 

その子ども相手に、さっきまで自慢の拳に力をためていたニコラス。ペトラの子どもらしい笑顔に、緊張もほぐれました。

 

「本当に救世主さまのお仲間ではないのですか?」

「仲間……身内だな」

「お仲間ではなく、お身内」

 

──こだわるな、マルチェロ

 

心の中でツッコミを入れるニコラス。団長様はどうしてもククールを「仲間」だと言いたくないのです。ニコラスは、身内のほうがよっぽど遺伝子的に近いんじゃないかと思います。

 

──そうか、おとうと、か。同じ目的で集まった仲間じゃない、魂でつながったきょうだいか。

 

ニコラスは、二人が「渡世の義理」のようなもので繋がっている関係だと解釈しました。

 

──だが、マルチェロは「兄と言うな」とずっと言うが。恥ずかしいのか?

 

ニコラスは、団長様とペトラの禅問答のような会話を聞きながら、団長様とククールの関係性についてあれこれ考えていました。また自分の弟たちを探す目的を忘れています。

 

「そなたは我らをなんとする? 楔を打ちつけし大いなる力の前に突き出すか?」

カッサンドラに伝えるのか、ということのようです。

 

「私はペトラといいます。あなたたちの目的を教えてください」

「私はマルチェロ。この者はニコラス。我々は仲間を探しにきた。マロウという……」

「マロウ! 知っています。早く帰らせてあげたい」

「あ、それから、14歳の双子だ。名は……」

ニコラスが自分の本来の目的をはっと思い出し、あわてて付け加えようとしたとき、ペトラは、二人に隠れるよう、合図しました。

 

コツコツと足音が近づいてきます。

 

「ペトラか?」

 

大人の男の声です。団長様には聞き覚えがありました。

 

「はい、ルナール先生……」

 

──ルナールか。こいつはやっかいだな

 

団長様は口のうまいルナールのことが少し苦手でした。

 

「ここはもう見張らなくていいよ。マロウ君の食事を下げて来なさい」

「マロウ、また食べていないんですか?」

「ハンストも大概にしてほしいよね」

「マロウ、先生があんなに教えてるのに、やる気ないんでしょうか。パメラのほうがずっと上手です」

ルナールは、先生に任せましょうね、と優しく言って立ち去りました。

 

パメラは水路をひょいと飛び越え、壁に向かって手を伸ばしました。白い扉が出現します。パメラは団長様たちにも見えるようにゆっくり扉を開けます。扉の内側は、厨房のようでした。

中からシルバートレイを持ち出し、再び扉を消します。もう一度水路を飛び越えようとすると、

 

「ペトラ、扉を消すことを忘れなかったね。いい心がけだ。でも、水路を飛び越えてはいけないよ」

ルナールの声がしました。立ち去った振りをして、実は少し離れたところで見ていたのです。団長様は、もうしばらく様子を見ていようと考え、気配を消すことに専念します。

 

「あっ、ごめんなさい」

ペトラはぺろりと舌を出し、今度は小さな橋を渡って戻ってきました。ルナールはまだペトラを見ています。

 

「ルナール先生、マロウにデザートを差し入れしてもいいですか?」

「うん、仕方ないね。でも食べるかな」

「説得してみます。あの、そのあとは先生の所へ行くんですか?」

「うん、そうだなあ。午後の練習はなしになると思うけど」

「じゃあ、パメラと練習していいですか?」

「だめ。いくら姉妹でもあんまり会っちゃだめだよ。君は違うんだ」

「はい。では、マロウと練習しても? あたし、ラリホーできそうなんです。マロウにかけてもいいですか?」

「うん、いいよ。危ない呪文はかけないでね。なにかあったらすぐに呼び鈴引きなさい」

ペトラは「はい」と言って通路を進んで行きました。

 

ルナールは、ぺトラの様子をまだ見ていましたが、ぺトラが立ち止まり扉を開けると、姿を消しました。

 

「マロウ? またご飯食べないで。死んじゃうよ? オレンジ食べる?」

そう言いながら、ペトラは一度出てきてルナールがいないのを確認し、団長様とニコラスを手招きしました。

 

 

ホイミンは、ごつごつした岩でできた洞窟のような部屋の中、絞ったままの形で乾いた雑巾のように、かさかさと転がっていました。やせ細った貧相な顔をくしゃりとゆがめ、それでも、精一杯の笑顔を向けます。

 

「団長殿!」

「ホイミン!」

「助けに来て下さったのですか?」

「ああ。……またこんなに痩せて。安心しろ。帰るぞ。ペトラ、感謝する」

賢いぺトラは、この長身の黒髪の騎士こそが救世主に見えました。

 

「あなたはマロウの団長さん? では騎士団の団長さんなんですか? あたしも出たい! 連れてって下さい」

ペトラは早口でそう訴えました。

 

「団長殿、お願いします。パメラも」

ホイミンも言います。

 

「パメラ?」

「ペトラの双子の妹です。こっちにはいないんです」

 

どういうことだろうと、団長様はペトラを見ました。

 

「この学校はカッサンドラ先生の部屋で二つに別れてるんです。こっちからあっちには行けるけど、あっちの子は結界を越えられないんです」

 

地下砦は二つのブロックに区切られていて、優秀な子どもだけが、団長様たちが入ってきた通路、つまり自由に出入りのできる水路のあるブロックに来ることができるというのです。団長様は、カッサンドラの部屋の前にも結界が張ってあると予想しました。

 

そして、二人の話をよく聞けば、この砦にいる子どもたちのなかには、逃げ出したい者がたくさんいるというではありませんか。どうやらほとんどの子どもが無理やり、またはうまいこと言いくるめられてここに連れてこられていたのです。自ら望んで来ても、厳しい練習についていけず、すっかりくじけてしまっている者もいます。精神的に弱っている生徒のケアは一切していないとも。

 

未成年者略取誘拐、児童虐待……と、団長様は怒り心頭です。

 

同じ頃、カッサンドラの部屋で、同じ事実を聞いた救世主ククールも、怒っていました。「ロリコン腐れ坊主!」などと暴言を吐いていることでしょう。

 




マイエラ修道院にも来ていたルナール氏も学校にいました。次は脱出を試みます。
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