DQ8 ホイミンとマイエラのひとたち   作:ぽんぽんペイン

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なかなか捕まらない魔物。オディロ院長とのお話です。


魔物は脅かそう

「ぶわっはっはっ!」

 

「笑い事ではございません、院長様」

 

 

エルムの魔物を取り逃がした翌日のことです。団長様は院長室を訪れていました。

団長様が少しイライラなさっているのは、赤い騎士も同席しているからでございます。

 

ご高齢のオディロ院長、今日は体調がすぐれないということで、院長室でお過ごしでした。エルムの魔物のことは騎士団員のマリオンから報告を受けておりましたので、取り逃がした顛末はよく知っていたのです。

 

 

「……だからさ、ほっときゃいいんだよ、団長殿? 見習いの訓練にはなるんだし、これからは、魔物5種類以上は倒すこと、って付け加えるとかしてさ」

 

ククールは、院長に笑顔を向けながら気楽に言いました。院長もにこにこ笑っています。その様子を無表情で見ていた団長様ですが、ククールに返事はなさいません。昔からできるだけ会話をしなくて済むよう、ククールを遠ざけておりましたから。しかし、職務の都合上、話をしないわけにもまいりません。それでもなるべく顔を合わせないよう、常日頃からククールには罰則や様々な職務(雑用)を言い渡していました。もちろん今も、返事をなさらないかわりに、頭の中でククールへの仕置きを考え始めています。

 

──奴は院長様の前で不適切な発言をした。よって、地下牢を掃除し、しばらくそこで寝泊まりすること……こうすれば、夜間、勝手に団長室にはやって来るまい……。

と、不適切な発言の内容を曖昧にし、脳内罰則用紙に記入しました。

 

「……まあ、マルチェロよ、そのような恐ろしい目をするでない、ククールの言うことももっともじゃと思うぞ……」

 

大して恐ろしい目はしていない団長様ですが、オディロ院長には団長様のお心が丸見えのようでした。

 

ところで、例の、魔物にホイミをかける魔物のことですが、実はお隣のアスカンタでも問題になっていたのでございました。

アスカンタでも、というより、どうも先にアスカンタの方で発生したらしいのです。

 

「……アスカンタからこっちへ移動してきたんですよね、院長さま?」

「そうなのじゃ。じゃが、詳しいことはわからぬ」

 

「院長様、アスカンタといえば、このところ、アスカンタ王は王妃様の病気を理由に、国政を大臣以下に任せっきりにされているという報告を受けております」

 

「……そのようじゃ。国全体が暗い雰囲気でのう、町も祝い事など取りやめているそうじゃ」

院長は、ため息交じりに言いました。

 

 

アスカンタのパヴァン王は若くて優しい王さまです。その王妃シセル様は、これがまた若く聡明でそれはそれは美しいお妃さまでございます。

 

「へぇ。王様、よっぽど自分に自信があるか、ヤケになっちまったのかどっちかだな。オレなら、そんな国はさっさと出て行くね。楽しいことを取り上げて、納税だけさせられるなんてさ。もう何か月もだろ? よくクーデター起きねえな」

 

団長様は、ククールが珍しく的を射た発言をしたので、さきほどの脳内罰則用紙に、勝手に発言した罰として地下牢の掃除のほかに、早朝特別見回りをさせることを書き加えました。

 

 

「……うむ、わしもそれを心配しておる。幸い、パヴァン王は民に慕われており、争いを嫌うかた。クーデターが起こる様子はないようじゃが。国民とて、そう何か月も我慢できぬと思うのじゃが、今のところそういった気配は全くないそうじゃ」

 

団長様は、おめでたい王におめでたい民衆か。王妃はめでたさ加減に病に倒れたのではないかと、不謹慎なことをお考えになりました。

 

 

「では、例の魔物のことは誰が?」

 

「うむ、聞いたところによると、城下の監視をしていた兵士が、魔物同士の妙な戦いを見たそうじゃ……」

 

 

野生の魔物同士の争いごとは、アスカンタでは(ほぼどこの国や地方でも)関与しません。しかしながら、国民や旅人が巻き込まれたら大変ですから、兵士は人里から山へ返すような処置をします。その戦いを見かけた兵士も、事の成り行きを見守っていたのでしょう。

 

院長は、お茶で口を潤し、次のような話をしました。

 

 

……アスカンタ周辺で目撃された戦いは、コサックシープとデンデン竜の戦いでした。コサックシープがのんびり昼寝をしているところ、デンデン竜がズシンズシンと楽しそうにやってきました。コサックシープは、昼寝を邪魔されたとたいそう怒り、デンデン竜に食って掛かったそうです。デンデン竜はいきなりケンカを売られ、こちらも怒り、戦いになりました。2体の戦いは互角でしたが、コサックシープが会心の一撃を繰り出し、それをまともに受けたデンデン竜が倒れました。デンデン竜はよたよたと立ち上がり、負けを認めてその場を去ろうとしたのですが、突然、しゃきっと背を伸ばし、パワー全開でくるりとコサックシープに向き直り、再び襲い掛かったのです。コサックシープは、自分が勝ったと思い込んでいたので、弱ったはずのデンデン竜の不意打ちをまともに食らってしまい、今度は自分が倒れてしまいました。デンデン竜はそれを見て勝ち誇り、今度こそその場を引き上げようとしました。ところが、今倒れたはずのコサックシープがやにわに立ち上がり、後ろからデンデン竜に体当たりを食らわせました。とても自分の攻撃を受けた後とは思えない速さで膝カックンされたデンデン竜は、耐え切れずばったりと前に倒れこみました。コサックシープは怒りっぽいですから、とても怒った様子で攻撃を続けました。デンデン竜は、これはもう逃げるしかないと這いつくばってその場を去ろうとしました。しかし、またすっくと立ちあがりました。そしてコサックシープに向き直ります。コサックシープは、また自分が勝ったと思っていたので、にやにやとしていました。デンデン竜の負け惜しみでも聞くつもりだったのでしょう。でも、デンデン竜もニヤリとして、あの巨体をコサックシープにぶつけてきました。コサックシープは5メートルほど飛ばされ、その場で横たわりました。デンデン竜は、しばらく倒れたコサックシープを見ていましたが、動かない様子なので、今度こそもう大丈夫だろうと、その場を去ろうとしました。今度は用心して、ちらちらとコサックシープの様子を見ながら歩きだします。すると、倒れていたコサックシープが急に立ち上がりました。デンデン竜はびっくりして、再びコサックシープと向かい合います……。

 

 

 

「それじゃあ決着がつかないじゃん」

 

「そうじゃ。何度も同じようにやられては復活し、またやられては復活しを繰り返し、あるタイミングで向かい合った2体は、もうやめようか、という顔をして、離れていったそうじゃ」

 

「へえ。あのエルムの木にいたあいつならやりそうだな。それにしても、魔物がやめたくなるまで戦わせるなんて、ある意味鬼畜じゃね?」

 

 

オディロ院長の話をじっと聞き、その様子を頭の中で再現していた団長様は、またククールが的を射た発言をするので、調子に乗った罰として、武器庫の掃除も脳内罰則用紙に書き加えます。

 

 

「その兵士がホイミの魔物を捕え損ねたのですか?」

「いや、兵士ではない」

「では誰が?」

 

団長様は、ご自分がエルムの魔物を捕え損ねたことについて、まだバツの悪さを感じているので、同じ境遇にあった者は誰なのか、とても興味をお持ちでした。

 

「城下の商人たちが雇った傭兵と言われている」

「傭兵? なんでそんなの?」

ククールはきょとんとして聞きました。

 

「なにしろ、国がうまく機能していないから、一部の国民で自治会のようなものをつくっておるらしい。もちろん、城の許可はとっているそうじゃ。ただ、傭兵といっても他所から雇うわけにもいかぬので、引退した老兵とか、流れ者上がりの自称「兵士」なので、あまり当てにはできぬようじゃが。したがって、国の若者などもそれに協力しているようじゃ」

 

王室が国民が自由に武器を取ることを許可する、だと? と、団長様は目が点になってしまいました。

 

「それって、やっぱクーデターおきるんじゃねえ?」

「……うむ。そうじゃ。起きても不思議ではない状況なのじゃが、さらに不思議なことは、何も起きていないのじゃ」

「本当に、不思議でございますな。誰か、うまく統制している者でもいるのでしょうか」

「……うむ、それについては、わしらがここで憂慮しても意味のないことじゃ。国民が無事であり、何も起きていないのだからのう。一つ確かなことは、城下の民を守っているのは、直接的にはその自治会関係の者ということじゃ」

 

まあ、致し方ない、我々の関与すべきことではない、と、団長様も納得されました。

 

「……では、アスカンタの民が武器を取り魔物退治も行っていると?」

「そのようじゃ。幸いにも、あのエルムの魔物は人々に悪さをするわけではないからのう。アスカンタで悪戯していたのはほんの短い期間だったようじゃ。一度捕まえかけたが、逃げられたそうじゃ。そのあとは姿を消した」

 

「そして、魔物はこのマイエラに現れた……」

 

アスカンタで捕まりそうになった魔物は、マイエラへやって来た。そしてマイエラでも捕まりそうになった。また場所を変えるのだろうかと想像できますが、絶対にとも言えません。

 

 

「またやって来るでしょうか」

「それはわからん。アスカンタへ行ったかも知れぬ」

「オレたちだってマイエラ地方だけでも手が一杯なんだ。アスカンタの方まで追って行けねえよ」

 

ククールの言うことはもっともです。それに聖堂騎士団と言えども、王国が支配している地域に正式な依頼もなくのこのこ魔物退治に出かけるわけにも参りません。でも団長様としては、あんな面倒な魔物はとっとと捕まえて灰にしてしまいたいところです。

 

 

「のう、マルチェロよ、しばらくは実地演習を中止したらどうかの?」

ゆっくりとお茶を飲んでいた院長が言いました。

 

「あの魔物を放っておくのですか?」

「来たら来たでまた対策を練ろうぞ」

 

団長様は、あんな魔物はさっさと捕らえて、と言いかけましたが、まんまと逃げられた悔しさを思い出してしまったので、オディロ院長の次の言葉を待ちました。

 

 

「それよりも、じゃ。魔物との関わり方を変えてみたらどうじゃ?」

「関わり方でございますか?」

 

ちょっと意外な提案に、団長様は首をかしげかけました。でも、そんなことをすると、あとでククールになんだかんだ言われそうなので、ぐっとこらえます。

 

「そうじゃ。人々の生活を脅かす魔物は困るじゃろ? きゃつらを野放しにするわけにはゆかぬ。そこで、まずは『脅かす』のじゃ」

「『脅かす』? サーッ! とか言うんだ?」

ククールが元気に両手を挙げて脅かして見せます。

 

「オレはいいぜ。でも団長殿はできねえんじゃねえ? 言うより先にレイピアが降り下ろされちまう」

 

赤い騎士の軽口にも、院長はにこにことなさいます。それがまた団長様のお気に召さず、眉間のしわが一層深くおなりでした。

 

「いやいや、マルチェロよ、そう困った顔をしないでおくれ。日中ならレイピアをちらつかせるとか、出来る者であれば小さくメラを見せるとか、魔物に『ここは怖いな』と思わせればよいのじゃ。それでも逃げない魔物は仕方がない、退治せねばならん」

「またあの魔物が来てホイミをかけられたらいかがいたしましょうか」

「ふむ、そうさの、それでも、魔物に逃げる機会を与えるのじゃ。それで逃げれば無益な殺生にならずに済むじゃろう」

 

団長様は、訓練の内容を変更しなくてはならないと思い、さっそく頭の片隅にメモし始めました。

 

「あ、院長さま? 団長殿なら一睨みですよ、または魅惑の眼差し」

「魅惑の眼差しはだめじゃろ? 与えるダメージが大きすぎる。それに麻痺したら逃げられんじゃろうし」

「ですよね。団長殿はそこにいるだけでおっかないもん」

 

二人は楽しそうに笑っています。院長は体調が優れなかったはずなのに、元気が出てきたようです。

 

「そうじゃ! マルチェロ案山子でも作ろうかの?」

院長は膝を叩きました。

 

「いいね! まじいい! オレ作る。等身大の!」

ククールもそれに乗っかります。あっ、でも、いたずらしたくなっちゃうかも、とククールが言いかけたところで、団長様の大きな咳払いが院長の館中に響き渡りました。

 

「……冗談じゃ、マルチェロよ、そのように怖い顔をしないでおくれ」

 

団長様は、この三人で集まると、自分がいつもいじられ役になってしまうのが苦痛でございました。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

次の日より、これまでの実地演習は中止、代わりに三人一組での見回りが強化されました。日中は、大声で脅かしたり、レイピアを見せたりすれば魔物は逃げていき、順調に思われました。しかし、数少ないとはいえ、夜の魔物に関してはいささかやっかいでした。

 

 

ある夜のことです。団長室で団長様とマリオンが打ち合わせをしていました。

 

「夜はどうしても二人ずつで交代制だな」

 

二人は夜の見回り表をチェックしています。

夜は当たり前ですが暗いので、脅しやレイピアをちらつかせるだけでは効果がないことがわかってきました。それに、夜行性の魔物は気の荒い者が多いため、どうしても戦いは避けられません。苦肉の策として、軽い呪文を唱えて追い払う作戦にシフトすることになったのです。

 

「騎士団員で炎かデイン系の呪文を使える者は一体何人いるんだ?」

団長様は表から目を離さずにおっしゃいました。

 

マリオンは、ええと、と言いながら表を見渡します。

 

「……五人だな。ククールのバギも使える」

「バギが?」

「そうだ。ククールは上手いことつむじ風で枯れ葉や川の水を巻き上げることができるんだ」

「つまらない小細工ばかりができる奴め」

 

普段、赤い騎士ククールに対して無視を決めこんでいる団長様でしたが、マリオンだけにはつい本音をお出しになります。団長様とククールの関係をよくわかっているマリオンは、くすくすと笑いました。

 

「器用な奴だよな、あいつ。まだ若いのに」

「取り柄は顔とイカサマだけだ」

 

まあ、そう言うなよ、とマリオンは言って、見回りの編成を書き換えていきます。

 

「ん? ここは?」

 

お忙しい団長様は、十日に一回の見回りですが、その一回の相方に「ククール」とありました。

 

「ああ、やっぱり嫌か」

「当たり前だ」

「じゃあ、俺が代わる」

「……でも、そうすると、貴殿は三夜連続になるのではないか?」

 

団長様は、マリオンの書いた表を指さし確認しながらおっしゃいます。団長様は歳上のマリオンを自分より辛い勤務に就かせることがお嫌いでございました。

 

「……いや、無理なんだ。ククールはどうしても夜の祈祷が多くて……見回りできる日が限られてるからな。この日はやってもらわねば他の者がかなりキツくなる。だからお前と俺が交代しよう」

 

弟と並んで仕事をしたくない、という理由は、甚だ子供じみていると団長様は思いました。団長としてのプライドがございます。団長様の自尊心は、ゴルドの女神像よりはるか上空にございましたが、自らを深い崖下に落とすかの如く、決死の覚悟でおっしゃいました。

 

「……そのままでいい」

 




どうしても弟と一緒に仕事をしたくない団長です。アスカンタ事情は、ゲーム内容と同じ感じです。
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