DQ8 ホイミンとマイエラのひとたち   作:ぽんぽんペイン

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ホイミンが意外と賢いらしいというお話。


ホイミンの進路

ホイミンの処遇が決まらないまま、数日が経ってしまいました。明日はホイミンの進路を決定しなくてはなりません。そんなおり、中庭の噴水の近くで、団長様とマリオンが話していました。

 

昼休みということで、騎士団員はそれぞれに休息をとっています。

 

団長様は団長室に戻られるところ、マリオンは孤児院から騎士団宿舎に戻るところでした。

 

「……孤児院での学習はどうなのだ?」

「ああ、ホイミンか。あいつはなかなか頭がいいぞ」

 

ホイミンがなかなか賢いということは、言葉や生活習慣を教えていた団長様も感じていたことでした。そう何度も説明しなくても、どんどん吸収していく様子を目の当たりにしていましたから。

 

……野生の中で生きてきた強さというものなのだろうか。大事なことを怠れば命に係わる。必要なことを身に着ける能力が高いということだろう。

 

そんなことを考えていましたが、騎士団員になるためには、体力もなければやっていけません。

 

「私は、やはり修道士向きではないかと思うぞ。あのひ弱さでどう敵と戦うというのだ」

「まあな。ただ、本人の騎士団希望は全く変わっていない。さっきもとっ捕まえられて、騎士団見習いにしてくれってさ。他の孤児院の子どもらも、ホイミンの好きにさせてやれってやいのやいの言われたよ」

マリオンは噴水のふちに腰掛けて、にっこりと団長様を見上げました。

 

団長様は、ふうっと息をおつきになり、腕を組み、おっしゃいます。

「だがな、毎日の訓練を考えると、あいつがやっていけるとは思えんのだ。向き、不向きもあるだろう。大怪我するだけだ」

「ふふ」

「何か?」

笑われる様なことでも言ったのでしょうか。マリオンはくすくす笑っています。

 

「いや、すまん。何でもない………ふふふ」

何でもないと言いながらくすくすが止まらないマリオン。

 

「……マリオン、団長室へ来るか? それとも地下室へ?」

「えっ? ああ、わかったよ、言うよ」

団長様に厳しい口調で言われ、マリオンは仕方なく話すことに。

 

「いや、大した話じゃないんだが……ホイミンの勉強をお前たちが見てやってただろう?」

「そうだが」

「ククールはともかく、お前に教わるのはさぞ怖かっただろうってな、孤児院の子どもらが」

「なに?」

 

そりゃあそうです。孤児院時代からその天才ぶりは伝説であり、見習い生になれば文武両道、そして騎士団始まって以来の海内無双の騎士団長と言われる団長様。泣く子も黙るマイエラ聖堂騎士団の騎士団長様なのですから。

 

「英俊豪傑、極悪非道……これは言い過ぎだな、まあ、そのお前がだぞ、つきっきりで勉強を教えたんだからな。羨ましがる者もいたが、どれほど厳しかったかと勝手に推測し、みんながホイミンを憐れんでな……」

「……」

 

返す言葉が見つからない団長様。自分はそんなに厳しかっただろうか、小さな子供に教えるのに、できるだけ優しくしたつもりなのに……。とちょっぴり悲しいような気がしています。団長様は、ご老人と子供に弱いようです。

 

「……でもな、当のホイミンは全く気にしていないようで、『そんなことはない、団長様は優しいかただ』っていつも言うものだから……」

そうだろう、そうだろう、と、少し安心する団長様です。

 

「……だから、他の連中が、お前にそう言えと脅されている、なんてな」

「何だと?」

ひどい濡れ衣です。そんなこと団長様がおっしゃるはずもありません。

 

「まあまあ、俺だってわかってるさ。お前がホイミンを脅してないことは。面白いのはその後だ……」

面白い? 団長様は嫌な予感がしました。

 

「なら、どんなふうに優しいのか言えと、口の悪い者に言われてな、ホイミンのヤツ……『団長様は勉強をしっかり見てくださいます。わからないことはとても丁寧に教えてくださいます。私が何度も間違う部分も、人は7回以上間違えないとしっかり身につかない、とおっしゃって、根気よく教えてくださいます。まるでお母さんのようです』ってな……ぷっ……ぷはははは!」

お母さん!

 

とうとうマリオンは笑い出してしまいました。

中庭にいた他の騎士団員がびっくりして二人の方を見ています。

 

「おい、マリオン!」

「ああ……悪い悪い、……あはは……」

 

マリオンはしばらく背中をまるめて、ひいひいと笑いをこらえました。

 

──やはり、私の役どころは『母』なのか。院長様やマリオンは父で、私は……。

 

団長様はすっかり困ってしまいました。そんなに深く考えなくてもいいような気がしますけど。

 

「まあ、そんなことで、お前はホイミンのおっかねえ母ちゃんってことになってるからな」

「……」

マリオンは笑い過ぎて出た涙をこぶしでぬぐいました。

 

さて、昼休みもそろそろ終わりです。二人はそれぞれの行先へと向かいました。

 

 

その日の夜のことでございす。

 

「団長どの、お呼びでしょ?」

団長室のドアがノックされ、許可もしていないのにククールが入ってきました。

 

「呼んでいない」

団長様は中庭の見える窓を丁度お閉めになったところでした。

 

「ホイミンのことでオレから何か聞きたいんじゃないかと思いましてね」

 

団長様は苦虫を噛み潰したようなお顔をされました。なぜなら、ククールの言ったことが図星だったからです。しかし、それに気づかれないよう、団長様はククールなどここに存在しないかのように振る舞いました。なぜなら、自分からククールに「何かをたずねる」などということはなさりたくなかったのです。

 

「まっ、いいぜ。どうせ団長どのは聞きたくもないだろうけど、オレは勝手にしゃべる」

 

ホイミンの騎士団入りを賛成したのはククールだけ。それはなぜなのか。団長様は、本人の希望だけではなく、他になにか根拠でもあるのなら聞きたいと思っていました。でも、それを聞けぬまま、ホイミンの進路決定の日を明日に控えてしまっています。団長様は、当日の朝にでもマリオンにククールの考えを聞くようにしむけるおつもりでした。

 

団長様はククールに意識が集中しないよう、事務仕事を片付けるふりをなさいました。そして袖机から、もう何度も目を通した書類を取り出し、椅子におつきになりました。

 

「ホイミン、あいつ、MP高いぜ。少なくともオレより」

「お前より?」

興味のない振りをしておこうと思った団長様ですが、魔力値が高いと聞いて思わずククールを見てしまいました。ククールは騎士団の中でも魔力値が飛び抜けて高いのです。不本意でありますが、団長様よりも高いレベルでした。

 

「あいつ、メシ食わなかっただろ? あれ、ホイミ使えるからなんだぜ。オレ、ホイミンになんでメシ食わないのか聞いたんだ。そしたらあいつ、ママがホイミしてくれてたから、食う必要感じなかったんだとよ」

 

団長様はそのことは知っている、朝昼晩、「ホイミしてととのえる」と言っていたからな、と心の中でだけ返事をしました。でも、本当に何も食べてこなかったのだろうかという疑問は残ります。

 

「では、回復呪文だけで成長してきたと言うのか?」

「多分。物心ついてからは、自分でホイミしてたんだってよ。……ためしにべホイミさせてみたらできた。その先のベホマだっけか、あれの習得もすぐだろうさ。それから、薬草に詳しいとこみると、ホイミで治せない部分を補ってたんだろうな。すげえ複雑な薬の配合とか知ってるぜ」

 

だからと言って騎士団に入れる理由にはならないだろう、と団長様は言いたかったのですが、ククールが執務机にゆっくりと近づいて来たのでまず身構えました。

 

ククールの顔がすっと近づいてきて、細く整った鼻梁が団長様のそれに向かって下りてきました。

 

「だから、なんだ、って顔をしてらっしゃいますぜ。団長どの?」

サファイア色に光るククールの瞳に、執務机におかれたランプの小さな炎が映っています。

 

ククールの瞳は深い海の色。凪いだ海面に優しくたゆたうのは心地よく、誰もがこの海に浮かびたいと手を伸ばし、ククールも船上へといざないます。しかし彼の瞳は、美しいけれども想像を超えてどこまでも深く、溺れてしまったらきっと助かる見込みのない海溝を隠しているようでした。

いつか誰かがその深い苦しみを癒してくれるのでしょうか。団長様はその深い海溝が一瞬見えたような気がして背筋が冷やりとなりました。

 

団長様は翡翠色のご自分の瞳に、サファイアが映っているのをククールが嬉しそうにのぞきこんでいるので、先に目を逸らせました。

 

最近、ククールはすきあらば団長様と二人きりになりたがり、何かにつけて痴漢行為に及ぼうとするのでした。全て未遂に終わっておりますが、日に日にたくましくなる弟にいつか手込めにされるのではないかと、団長様はこのところ警戒しておいででした。

 

団長様は毅然としておっしゃいます。ご自分の心の中に少しでも弟を警戒している気持ちがあることを知られてはなりませんから。

 

「何が言いたい」

「だからさ、実践向きだってことですよ」

「攻撃呪文が使えると言うのか」

「いや、逆だ」

「意味がわからんな」

「回復だよ。医者がわりってやつ」

──医者。

 

団長様はかねてより、騎士団の遠征に回復役の人数がもう少しいればよいのにとお思いでした。ククールは魔力値が高く、回復も攻撃もできますが、最近は剣の腕も上がり、弓も使えるので回復に専念させるのはもったいないのです。ホイミンを回復専門として連れていけば、長引く遠征もかなり楽になる。薬を調合できるとなると尚更使えるのではないだろうか、とお考えになってはいらしたのです。しかし、体力的に問題はないだろうか、また、敵からの不意打ちをかわせるだろうかとも。

 

「なあ、団長どの?」

ククールはまた無駄に顔を近づけてきました。

 

透けてしまいそうな白い肌にいくぶん色素の抜けた朱色の唇が団長様のお心を乱します。

無論、団長様の心の乱れは、いかがわしいものではなく、神はなぜこんな男をかようなまでに美しくおつくりになったのか、という憤怒でありました。ククールの唇と団長様のそれとは小指の幅ほどの距離しかございませんでした。

今度はククールのほうが目を逸らせました。

 

「なあ……」

再びククールが団長様を呼びますが、団長様はその呼びかけには答えになりませんでした。かわりに、

 

「明日、聖堂騎士団員見習いとしてマロウの入団を許可する。ただし、特例として別の訓練スケジュールを組み、見習い期間は三年とする」

とおっしゃいました。

 

通常、見習い期間は一年半から二年です。見習い期間中、出来の良い見習い生はどんどん騎士団員に昇格できます。ちなみに、騎士団始まって以来の問題児ククールは一年という速さでした。

 




次で正式に騎士団見習いになります。
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