DQ8 ホイミンとマイエラのひとたち   作:ぽんぽんペイン

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ホイミンが、無事に聖堂騎士団見習い生になりました。ホイミンに関する不穏な動きもあるようです。


見習い生ホイミン

「さすがじゃな。マリオン」

 

ホイミンは正式な見習い生になり、他の騎士団員とは別の訓練内容で日々を過ごしています。訓練スケジュールは主にマリオンが作っており、順調に訓練が進んでおりました。

 

「お褒めにあずかり、光栄でございます」

マリオンは団長様と共に院長室に呼ばれていました。ホイミンの訓練の件です。

 

「マルチェロ団長とククールのおかげで、一通りの読み書きや基本的な生活リズムができていましたので、訓練にすんなり入ることができました。教義に関しては、全く問題ありません。一生懸命勉強していますよ」

「そうかの。詩編も随分覚えておるようじゃな」

院長は満足げに自分の長いひげをなでています。

 

ホイミンは、どうやらまじめな性格の子だったようで、教育係のマリオンの手を手こずらせることもなく、見習い生として素直に育っているようでした。

 

「まあ、ただ武器を持って戦うのは苦手なようで、それに関して院長様と団長の意見も聞きたいと思っています」

「そうか。魔法が得意のようじゃが?」

「はい、そこはククールに見てもらっています。今はベホマを練習中とか」

「ベホマじゃと? 13歳の子ができる魔法ではないのう。やはりあの子は回復術の才能があるようじゃのう」

 

マリオンの報告を黙って聞いていた団長様は、ククールが真面目にホイミンの指導をしているとわかり、拍子抜けしました。てっきり薬草園でサボっていると思っておりましたから。

 

「ククールから聞いたんですが、ホイミンは魔術の練習に非常に熱心である、と。ああ、そうだ、メモを渡されたんだった。ええと……」

マリオンは上着のポケットの中からくしゃくしゃの羊皮紙の切れっ端を取り出しました。

 

「……報告します。ホイミンは現在ベホマ習得中です。炎、風、氷などの基本的攻撃術は中レベルまで習得済み。毒消し、痺れ消しは既に習得済みでした」

「なんと!」

院長は思わずそう言って、身を乗り出しました。

 

「中レベルまでとな」

「恐ろしい早さでございますな」

団長様も同意されます。これはいよいよホイミンに魔法で抜かされてしまいそうです。

 

「あと、まだあるぞ。……特に団長どのに申し上げます。ホイミンは魔法練習をとても積極的にやっています。川沿いの畑で練習しているのは、サボるのが目的ではありません。魔法が暴発でもしたら大変なので、人に迷惑の掛からない場所でやっているわけであります。決して、サボっているわけではありません。サボりたくてもサボれないほどなんです。今度代わって下さい……だと」

「ぶはははは!」

院長は大笑いです。

 

ククールがサボってないなどありえない、と思う団長様でしたので、少々厳しいお顔つきになりました。

 

「マルチェロ、そんな顔するなよ。ククールがサボっているかどうかは知らないが、ホイミンが魔法の練習に熱心なのは皆知っている。俺じゃあなんの魔法もできないから助けてやれないし、というより、ククールが困るくらいのレベルなら、この修道院でホイミンを見てやれるやつなんていないだろ。お前ならどうだ?」

「そうだな……」

マリオンにそう言われ、少し考えなさる団長様です。

 

「私とククールでは習得している魔術の種類が違う。近いうちに様子を見るとしよう」

ククールよりも魔力値が劣っていることを上手いことごまかす団長様。マリオンは、じゃあ、頼むな、と言って、ククールのメモをしまおうとします。団長様はそのメモをマリオンからもらい、その場でボッと燃やしました。

 

「わっ! 危ないじゃないか、マルチェロ。室内で……」

「魔法は強ければいいわけではない」

団長様は、院長室で火をつけるなどという狼藉を行いましたが、知らんふりです。もちろん、院長も涼しい顔をしています。

 

「魔力の出し方、つまり、魔力をコントロールする技術も必要だ。今はまだ覚えたてで力の向上にばかり意識が向いているのだろうが、無理は危険だ」

「そ、そうか。……とにかく、ククールと一度相談してお前も見てやってくれ」

マリオンは、羊皮紙が煙となって消えていく様子を目を見開いて観察しながらそう言いました。

 

「そうじゃのう。ククールと一緒に見てやるがよい」

「院長様?」

院長は、なにかと団長様とククールを一緒にさせたがります。

 

「その時は、わしも一緒に参ろうぞ」

「院長様が? ……それならば」

団長様がちょっと嬉しそうになったので、マリオンはニヤニヤしています。

 

「それでマリオン、ホイミンは体力的にはどうなのだ?」

「そうじゃそうじゃ、肝心なところじゃの」

「あ、はい、それなんですが、順調に向上してはいるのですが、思いの外、消耗が激しいようです」

「身の守りが弱いということかの?」

院長も心配しています。

 

「そうです。身の守りの強さはそれぞれ限界もあり、強くならない者もおります。ホイミンもあまり上がってこないので、まず逃げたりかわしたりという、受け身を教えました。すばしっこさはピカ一、いやニかな。ククールの次くらいなので。しかし全ての攻撃から身を守れる訳ではありません。他の者が10のダメージのところ、ホイミンは15から20受けてしまいます」

「倍ではないか」

 

「装備を強いものにできぬのか?」

「はい、それも考えましたが、あの体格での重装備は、重すぎてろくに歩けません」

「そうか、鎧をつけるよりは、お前さんの後ろを歩かせる方がましじゃのう」

院長は楽しそうに笑いました。大柄のマリオンは苦笑いです。

 

「院長様、今更ですが、やはり修道士にさせたほうがよかったのではないでしょうか」

「まあお待ち、マルチェロ。ククールではないが、あの子が自分で選んだ道。無理とわかれば自分で言ってくるであろう」

 

団長様は、院長がホイミンに対してものすごく寛容で甘いことにちょっぴり妬いておられました。そんな団長様の胸のうちが手に取るようにわかるマリオンはクスクス笑います。団長様がはっとして咳払いをしたので、マリオンもがんばって真面目な顔を作り、自分が今日最も言いたかったことを言うことにしました。

 

「このまま、聖堂騎士団員として他の者と肩を並べて歩くのは無理と思われます」

教育係マリオンの言葉は真実と重みがありました。

 

「しかし、遠征など、長期にわたる場合や、回復が必須になってくる大きな魔物駆除の場合はホイミンが必要であります。騎士と言うよりは従軍医師のような位置付けをとらせたいのですが、院長様、団長殿のお考えはいかがでしょうか」

 

──医者がわり。

 

ククールがホイミンの騎士団入りを推したのもその回復術の力でした。

 

医者といえば、教会と密でありながら、その質は真逆でありました。ゴールドの亡者のような医者は、ただでホイミやキアリーをかける癒者を敵視しているのです。報酬の少ない遠征に同行してくれる医者もたまにいましたが、あまりの過酷さに途中で帰ってしまったり、無事に勤めあげても、帰るなり「騎士団遠征に同行」を鼻にかけ、やはりゴールドの亡者となってしまうのでした。

 

もしもホイミンが世の医者ほどでなくとも、今よりも応急措置や薬草の知識を持てば、守銭奴のような医者に頼らずとも安心して遠征に行かれます。

 

「しかし、身の守りが不十分では、一般の医者を連れ歩くのと大差ないのでは?」

「マルチェロ、そこは、あいつには自分の身を守ることを徹底して仕込むつもりだ。今後、隊列からは外し、しんがりの者と同行させる。但し、基本的な武術の訓練は受けてもらう」

「そうじゃな。団長であるお前さんがうんと言えば、認められることなのじゃろう? マリオン?」

「はい」

 

院長とククールと三人で極秘に教育を行っていた時とは違い、マリオンはホイミンの正式な指導係。その発言権は強いものです。マリオンの意見は他の指導者の総意でもあります。

 

「何か心配かの? マルチェロ」

「いえ……」

団長様は、ご自分がホイミンの「母」らしいことを心配しているような気がして、何も言えませんでした。

 

「獅子は子を谷へ突き落すという。あの子も自分で強くなろうと思わねば駄目じゃ。お前さんがいつまでもかばってやる事はできない。まして、本人の意思に反し、安全な修道士にさせることはよくないと思わんか?」

院長にそう言われ、団長様はまるで子離れに戸惑っている母ライオンのような気持ちになってしまいました。

 

「見習いから騎士団員になるころには、お前さんが心配していたことなどほんの小さなことだったとわかるじゃろう。今、大切なのは、本人の意志じゃ。本人が挫折感に負けて諦める、というならばそのときは認めてやらねばならん」

「はい」

 

二人のやり取りを見て、姑に諭される嫁のようだな、と、マリオンは笑いをかみ殺しています。

 

「では、よいな。ホイミン、ええと、マロウという名をつけたのじゃったな。まあよいか。わしも賛成じゃ。しかし、しばらくは動きに気をつけよ」

院長がいつになく神妙な面持ちになったので団長様もマリオンも驚き、次の言葉を待ちました。

 

「実は、アスカンタでホイミンを探しているという話を聞いたのじゃ」

「それは、親とか親戚ですか?」

「もし、親や親戚じゃったら、わしも会って話をしなければならんじゃろう」

院長の聞いた話とは、次のようなものでありました。

 

アスカンタでも話題になっていたホイミをかける魔物の本格的な討伐隊が出ている。城からの正式な命令ではないが、軍の一部の者が奨励目的で独自に動いているという。その者たちは公言こそしていないが、魔物が人間の子供で、マイエラ修道院に保護されている、ということまで知っている。

 

「クーデターでしょうか?」

団長様は、いつであったか、ククールがクーデターの心配をしていたのを思い出しました。

 

「まだそうとは言えん。それでのう、マルチェロよ、三日後じゃが、わしの代わりにアスカンタへ行ってはくれぬか?」

「アスカンタへですか?」

「実はもっと前にこちらへ来る、というのを、わしが病気じゃと断っておったのじゃ」

「院長様にどなたが会いたいとおっしゃっているのですか」

「アスカンタの司祭殿じゃ」

「司祭様?」

「カッサンドラ卿じゃ。お前さんも挨拶したことがあったじゃろう? ゴルドで」

 

アスカンタの司祭、カッサンドラはシセル王妃の親戚にあたります。シセル様が王妃になられたので司祭になった、という経緯でございました。団長様は、聖堂騎士団長就任の際、院長とゴルドへ報告に行ったのですが、その時にカッサンドラに会っておいでです。団長様は、カッサンドラはオディロ院長の前では「お若いのに素晴らしい」などと誉めちぎりましたが、帰り際には「身の程知らずめ」とさげすんだ鼻持ちならない嫌な男だということを思い出しました。

 

「院長様、なぜ断っておられたのですか」

マリオンがもっともな質問をしました。

 

「カッサンドラ卿は、マイエラと手を組みたがっておる」

「なんですって?」

それはクーデターではないでしょうか? と団長様が言いかけました。

 

「だから、こちらがアスカンタに出向けば、王へのご機嫌伺いをかねて、あちらの様子を知ることができる。老人のわしがわざわざ行けば向こうも警戒するじゃろう。いっそ、ククールでもよかったのじゃ。そうじゃ、二人で行って参れ」

「院長様、それだけは……」

「そうか? よい考えじゃと思ったが。では供を誰か探しておくれ。一人で行ってはいかんぞ」

 

院長は、たまには兄弟仲良く旅でもすればよいと思いましたが、なかなか思い通りにはいきませんでした。

 

「それから、ホイミンのことはいずれどこからか漏れるであろう。口止めはしてあるがのう。そこで、マリオンの養子として手続きをしておいた。これで万一、親と名乗る者が現れても、マリオンを通さねばホイミンを引き取れん」

 

マリオンはマイエラ地方の貴族出身でした。貴族の後ろ楯は強うございますから、適当な者がホイミンを引き取りに来ても無駄足となるだけでしょう。

 




次は、団長のアスカンタ訪問です。ククールはお供できません。
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