カイロス   作:桜エビ

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プロローグ 遺産、そして予兆

鉄の壁に手をかける男がいた。

彼の後ろには、他にも何人かヘルメットなどの安全対策をした者たちがいる。

その男もまた同じような装備に身を包み、目の前の冷たい壁をくまなく調べていく。

砂埃に塗れたそれは途中で岩壁に変わり、その境は見事なまでの直線だ。

その境の金属側に気になるものを見つけた男は、すぐさまライトを当てその細部を調べ始める。

少し砂埃を払うと、そこにはガラス質の輝きを取り戻した板があった。

とたん、その板は輝きはじめ、テンキーを映し出す。

 

男は胸ポケットから一枚のメモを取り出し、それを見ながら画面を操作していく。

その男は緊張と興奮で目を見開いていた。

最後の入力を終えると、優し気な電子音と共に鉄の壁…否、扉が左へずれ始めた。

 

男も後ろの者たちも歓声を上げた。

開ききると同時に、彼らはその奥へと入っていく。

 

手に持つ懐中電灯だけを頼りに中を見る彼らの正面に現れたのは、跪く巨像の姿だった。

 

 

 

 

渓谷に複数の銃声が響き渡る。

 

薄暗がりのなか、明暗を繰り返す。

その直後、大きな明りと共に轟音が響き続いて金属音が木霊した。

 

巨人が、爆音を響かせながらもう一人の巨人を追いかけまわしている。

後ろに陣取った巨人が手に持つ銃で攻撃を加え続け、振り返るもう一体も負けじと反撃する。

 

「こっちに張り付いてたやつが離れた!」

「ジャッカル2!出すぎだ、引け!」

〔周囲に熱源、包囲されています〕

 

「了解。…ああ、こいつは囮か!」

 

その直後、周囲に複数の巨人が現れる。

ジャッカル2と呼ばれた巨人は、包囲網が完成する一拍前に全速力の後退で窮地に陥らずに済んだ。

 

 その巨人___人型兵器アルマギガス、通称AG__のパイロット、アモル・フリーデンは苛立ち交じりにフットペダルを踏みこむ。

背部と腰部から莫大な陽炎を吐き出し彼のAGは空高く跳躍、敵を眼下に見据える。

だが、彼はトリガーを引かない。

 

「畳み掛けてください。」

 

「ジャッカル1了解。一斉砲撃。」

その直後に彼の後方に位置していた味方のAGが手に持った火器を一斉に放ち始め、敵の集団へと吸い込まれていく。

反応の遅れた敵AGは被弾し、ものによっては機能停止まで追い込まれている。

間に合った敵は回避や防御に回った。

激しい推進剤の燃焼が地を照らし、構えた盾に命中した弾丸が火花を散らす。

 

「ジャッカル2、ライフル、グレネード。」

 

それは全て正面への対応。

故に、上空のアモルに対しての警戒がおろそかになった。

上から放たれたグレネードランチャーとAG用アサルトライフルの雨が、回避や防御に成功して気の緩んだ敵AGに降りかかり、8機残っていたそれを5機にまで減らす。

 

「ジャッカル1、ジャッカル3、もう一発でかいのを頼みます。」

 

「分かったぜ!」

 

そのまま降下ののち着地し、注意を引くことで味方の砲撃の成功率を少しでも上げる囮になった。

後方にいるAGに装備されたマイクロミサイルポッドの蓋が一斉に開き、残存AGに襲い掛かる。

膨大な量の爆炎が敵部隊を包み、焼き払った。

 

 

そんな中、唯一盾を構えその場を凌いだAGがいた。

盾そのものは吹き飛び、左手は肘から下はちぎれているものの、胴体に目立った損傷はない。

そのAGは負けを悟ったか、旋回してその場を去ろうとブースターを焚く。

 

〔増援確認〕

 

が、振り向いたその先に、黒いAGが佇んでいる。

その黒いAGは、一瞬で接近すると手に持った刀に似た形状の武装でAGを腰から両断した。

 

「こちらクロウ1。合流に遅れてすまない。」

 

「こちらジャッカル1、君が例の傭兵か、合流できただけで万々歳だ。」

 

アモルは着地し、その黒いAGの肩に刻まれたエンブレムを眺めるのだった。

 

 

事の始まりは、町の北西部に武装集団が唐突に陣を構えたという情報だった。

何しろそいつらはAGという、何かしらの大きな経済支援が無いと扱えない兵器を持っていたからだ。

 

AGは小火器などとはわけが違う。

制御技術や最新リアクターの発明を機にして生まれたこの兵器は、高い敏捷性と戦車には劣るものの高い火力を持つ。

その上、武装の交換で対空兵器から対戦車兵器、市街地戦から荒野までと広い対応力を持たせることすらできる。

 

のだが、当然商品として売ってもらえるのは軍や公的な傭兵機関などといった後ろ盾の大きい相手だけだ。

つまり、密売や何かしらのバックのある集団という、かつてのこの町の防衛戦力では不安の残る相手だっただろう。

 

この町は、北欧に存在する小さな町だ。

多くの遺跡などが残されており観光業などでそれなりに賑わっているが、規模は決して大きくはない。

それに応じるかのように防衛隊の戦力も多くはなかった。むろん観光客を守るという名義上、町の大きさに比べれば充実しているのだが。

 

…やはりただの増員にしては多すぎる。

彼は転勤して故郷に戻ってきた身だが、この町にいた時に比べると戦力が増強されていたことを思い返す。

 

自分が戻ってきたこともいい証拠だ。

自画自賛にしかならないが、自分はパイロットとしてそれなりの腕があるつもりでいるし、同じクラスのパイロットも何人か付近の基地に転勤となった話を聞いている。

 

しかも、俺は訳アリだ。

奴との戦いで〔この〕機体と、企業との提携がある。

 

それだけではなく戦車隊の増設、攻撃ヘリの追加配備などなど、この町にふさわしくないほどの装備がこの町に集まってきているのだ。

 

もしかしたら、何かあるのか上様は何か情報を握っているのかもしれない。

それを知らない身からすると、憤りを感じた。

 

「やってられるか…」

 

呟きつつコールサインジャッカル2の男、アモルはHMD一体型のヘルメットを脱いだ。

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