カイロス   作:桜エビ

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ストーリー展開や設定に矛盾が無いように作るって大変…


神話再び

にらみ合う異形の巨人二人。

どちらも今の兵器に古代の力を埋め込んだ歪な存在。

「…なんだよ…アレ…」

俺は指令室で戦況を見るところまでは許された。しかしそこで見たのは、アンゲルスフレームとアルマギガスのキメラ…その一騎打ちだった。

モニターの向こう側で向き合う2機。頭部の形状こそ異なるが、そこから下はほとんど同一の…同型機の物だった。

「最近入ってきた特殊部隊とはいえ…こんなものまで隠し持っていたか…」

司令官もまた漏らすように呟く。

先に動いたのは敵の異形。

異常な速さで接近する。剣のような武器から光の刃がのこぎりのように展開され、上から下へ機体そのものの速度を叩きつけるように力のままに振る下ろされる。

その斬撃に対して、ミラム・サーペントだった異形__タナトスも残像を残すような速度で右に跳ねる。跳ねた先で足と左手の三点で異様なまでの低い姿勢で着地した。しかもいつやったのかは分からないが右のコンテナは解放され、中にあったであろう、敵と同じ剣_クルージーンが握られている。

一層低くなる姿勢。その姿はバネが押し縮められていく姿を連想させた。

ならば、解放されるのが道理。蓄えられた力が解放され、軍用のアスファルトで出来た地面を砕きながら異常な初速で飛び出したタナトス。引きずられた光の刃は地面に溝を作る。

瞬きをする間に互いの剣が届く距離になる。その直後、タナトスは空へと飛びあがり、そして敵に弾丸の如く突撃した。身を反らし回避されたのか、お互いに傷無く背中合わせになっていた。

何をしたのか一瞬分からなかったが、敵の手前の地面に何かが激突したような罅が入っていたことで気づいた。行われたのは瞬発的な跳躍、それに合わせるように下から上への斬撃だった。それを剣で防いだ敵に追撃するかのように上空にてスラスターで前方に急降下しながら突き刺しにかかったのだ。

お互い振り向きざまに一閃。それすらもAGとはとても思えない鋭さだった。

「あれじゃまるで…」

「ああ…あのカイロスみたいだ…化け物の…」

そこら中でこの戦闘に目を奪われた者達のつぶやきが聞こえる。

しかし、その一方で

「相変わらずのじゃじゃ馬だよ…お前は…っ!!」

タナトスのランナーは愚痴をこぼす。

必死に操作するが、言うことを聞くのは大雑把な行動や攻撃タイミング程度だった。斬撃方法や角度、着地姿勢や見切るような回避といった操作は勝手にこの機体が動いて言うことを聞かない。

HUDも大部分はエラー表示であり、操縦桿以外の計器系操作は電源を除いて機能していない。

そして、機体は時間を加速させているように尋常ではない動きをする…カイロスを見るに、実際に加速しているのだろうが。その上、その速度によって発生する強力なGに対して慣性制御もまた働いている。

問題はランナーの時間まで加速されない点だ。つまり、異常な速度で言うことを聞かない機体を、自らの動体視力と大雑把な操作だけで制御し、同格の敵を倒せということ。

「敵も同じ状態と信じたいな…ったく」

精神安定剤でトラウマを抑えているが、そう長くない。

出来る限り全力でぶつかり、早急に破壊する。

操縦技術の大半を機体の意図的な暴走で封印されている今、出来ることはそれだけ。

振り向きざまの一閃の後、敵の右上からの袈裟斬りが胴体を狙う。

アモルはその予兆を見るや否や、ぶつけるような斬撃を機体に指示した。

タナトスが繰り出すのは、右足を踏み込んでの右から左の薙ぎ。

光の刃はぶつかり合い、激しく干渉することで激しいスパークが散る。

鍔迫り合いとなった二機は力任せに剣を押し込み始めた。

『どうだい!?あの日の俺のように化け物になった気分は!!』

「薬がなければとっくに卒倒してた、なっ!!」

機体の要望に沿うように、アモルは機体の腰にあるスラスターを点火する。

爆発的な加速を生み出すスラスターは、あっという間に瓜二つの敵との均衡をくずした。

タナトスは咆哮しながら己に与えられた力のすべてを使う。

敵は全力を以て振り抜かれた剣によって宙を舞う。

だが、刃の直撃だけは回避したためダメージはさほどなく、宙で体勢を整え地へと降り立った。

『やるねぇ…なんだかんだでこいつの事分かってるってわけか。』

笑い飛ばすような敵のランナーに、アモルは不機嫌そうな吐息で返事をする。

『…だが…仕事でな…。簡単に引く訳に行かないんだよなぁ!!!』

アモルはまた眼前の敵に意識を向ける。

人知を超える高速戦闘によそ見などできようか。

故に、彼は空に出来た飛行機雲に気づかなかった。

「北西からボギー接近!!!数は1…速度から戦闘機と予測されますが…!!」

「このタイミングで戦闘機だと…!?何がしたい…」

司令室は判断に困っていた。

敵の思惑が読めないが、正体不明機が接近してきたのなら当然スクランブルだ。

パイロットたちは何が起きてもいいようにコックピット待機していたため、即座に空へ飛び立ち…

『…被弾!?警告もなしにどこから…!!クソ、制御不能…!!』

「脱出しろ!!!」

『…チクショウ!!イジェクトっ!!』

 

その直後、パイロットの声は聞こえなくなりその代わりにノイズがその回線を埋め尽くす。一機目が落ちた。それも一瞬で。

「…ビショップ1機体ロスト…ビショップ3からパラシュートが確認したと…」

「レーダーは当てにならんのか?さっき補足していただろう!!」

「それが…ボギーの速度が突然上がって…戦闘機なんて比にならないです…!まるで瞬間移動で…!」

オペレーターの声に悲鳴が混じってきた。

余りにも異常な敵。常識を超えた敵への対処など初見でやれというのは無理だ。

『…エアル…許してください』

「カイロス…!?」

俺のすぐそばにホログラムのカイロスが現れる。

その表情は罪悪感に溢れた悲しいものだった。機械とは思えないほどの…

『私の…当機の同系列機だと思われます。空間の湾曲を感知しました。』

「…アンゲルスフレーム…敵も所有していたか…」

司令に向き合い、カイロスは残酷な事実を告げる。司令はエアルに背を向けていたため、エアルが彼の表情を見ることができなかった。ただ、落胆しているような口調であるのは確かだ。

『司令、このようなことを申し上げるのは心が痛みますが、正直に申し上げますと現在の状態で私以外にアンゲルスフレームを止める手段はありません。』

その声は悲しい確信に満ちていた。

 

「どうしてかね。」

『現代兵器でアンゲルスフレームに対抗するには、時間加速を以てしても回避不能な物量攻撃が手っ取り早くなおかつ数少ない手段の一つです。ですが…』

「主な火力は手が空いてないか…戦車隊は少ないとはいえ損耗している、AGは進行してきた敵に対処中、戦闘機は物量攻撃するには数がない。」

『もともとこの基地が万全な状態で五分五分なのですから、軽微とはいえダメージを受けている状態では…』

二人の表情は、いや、司令室全体が重い空気に包まれる。

再び少年を戦場に出さなければならない。たとえアンゲルスフレームという怪奇といってもいい存在を相手取るとはいえ、一番許しがたい事であった。

『ぅああっ!!こちらビショップ3…!!翼が…右翼が吹っ飛んだ…!!コントロールできない…!!!』

カイロスは静かに禁忌ともいえる最終手段を司令に再度告げる。

『私とエアルに出撃許可を』

 

「…いいだろう…そのかわりエアルを死なすことは許さん。お前の被撃墜もだ。」

 

「上空に高エネルギー反応!!!!」

 

オペレーターの悲鳴がすぐそこまで来ているチェックを告げる。

恐らく基地をの司令部を高出力のレーザーライフルで撃ち抜くつもりだろう。

もうすぐここは蒸発する。

だが

 

『…ありがとうございます』

 

それは直前に防がれる。

カメラから送られてくる映像には、レーザーライフルを寸でのところで受け止めるカイロスの姿があった。

 

『エアル君、このホログラムはドローンで映しいます。この周りなら時間は加速しているから急いで外まで来てください』

 

「分かった…大丈夫なのか…そっちは…」

 

カイロスのホログラムの中から出てきたドローンについて行くように走り出したエアルは、ドローン越しにカイロスに話しかける

 

『話が通じるのなら…しばらくは攻撃しないはずです。兄妹ですから。』

 

「そうか…」

 

 

あと一歩で届くはずだった攻撃は、目の前の歪んだ空間に飲み込まれて消えていった。

 

『どうして…なんで兄さんが防ぐのよ…』

 

空に浮かぶアンゲルスフレーム【アステリア】、そのDクオーツに宿る少女の人格が驚愕の声を上げる。

機体のシルエットは直線的であり、なおかつ全体的に細身であった。

装甲を赤く彩られたその機体の各所には、紫色の水晶質の物質が装甲の隙間からその輝きを放っている。

何せ彼女たちは…

 

「まだ分からん。騙されているのかもしれないのだろう。」

 

『…うん。呼びかけてみる…』

 

目の前にいる存在を助けに来たはずなのだから。

かつて使われていた通信はまだ生きており、目の前の[兄]へと接続する。

 

『兄さん…久しぶり…』

 

『久しぶりですね、アステリア。無事で何よりです』

 

少女の声はどこか戸惑い気に、対して青年の声はどこか冷たさを感じる声で互いにしか伝わらない声を発する。

 

『…兄さん、私は迎えに来たんだよ。そこにいる人たちは兄さんを悪用しようとしてるんだよ!』

 

『悪用…ですか…』

 

『私達は今の時代の技術よりはるかに進んでる。目がくらんだ人たちにお兄さんを研究材料にされたくない!』

 

『…例えそうだとしても…ただの兵器である私を崇め、佇むだけとはいえ営みを共にした者達の末裔を見捨てられるわけがない。』

 

カイロスの口調は冷たさから、後悔の滲む物へと変わる。

 

『…ぇ…?』

 

『栄華も滅びも何度も見てきました…見ているだけでした…ですが今、救えるものがある。』

 

言葉に詰まるアステリア。

アンゲルスフレームのAIであることを差し引けば少女といっても差し控えない彼女は、原初のアンゲルスフレームの感情を超えることはできなかった。

その原初は、自らの同類に銃を向ける。

 

『そのためなら…この選択が間違いでも構わない』

 

『にい…さん』

 

「これ以上はいいさ…あれの説得は骨が折れるな…」

 

その時、倉庫の出入り口の中から人影が飛び出す。しかし、それは人の出す速度ではない。時間が加速されたが故の動き。

少年_エアルだ。

 

それを確認するや否やカイロスは即座に機体を屈ませ、エアルを胎内へと受け入れる。

加速された機体は瞬時に巨体を振り向かせ、敵と相対する。

それだけでなく、ゆっくりと足が地を離れ空へと浮き上がる。

 

『兄さん…』

 

『私は確かにここの軍籍を取得しました。ですがそれは私の意思。これ以上ここの人間を傷つけさせはしない。』

 

その声には再び怒り籠る。

静かな、だが触れれば身を焦がす烈火。

機械に宿った人格。だがそこには確かに肉の体に宿るそれと同じ強い意志があった。

 

『私は私の意思で、貴女を敵とみなします。』

 

 

「…そうか、それが答えか。」

 

アステリアの中にある別の意思が、声を発する。

明らかに男性の、それも恐らく中年の者。

 

『貴方は…今のランナーですか。』

 

「そうだ、原初の天使。太古の昔の人間がそう何人も戦える状態だと思うか。」

 

『そうですね…ぁあ…』

 

悼むようなため息。

機体こそ、AIこそ自らの知るものであるが、その中に居たかつての戦友はもういない。遥か昔の、歴史書にすら載らない太古の記憶として自分の中に残るだけ。

 

その気持ちをエアルは想像しようとして、出来なかった。出来るのは、知っている中では目の前の機体そのものに宿る意志くらいなのかもしれない。

 

「悪いが感傷はここまでだ。こちとら時間を掛けるわけにはいかなくて、ね!!」

 

「っ!!」

 

一瞬で二つの巨大な影の距離が縮まる。エアルが反応出来たのはひとえに彼も時間を加速させているからだろう。

 

左手のプラズマブレードを起動し、アステリアは胴体めがけて鋭く突き刺そうとする。それを寸でのところで右に逸れて躱すと、同じく左手でプラズマブレード発生器付近を握るカイロス。

 

「そっちが…」

 

エアルの感情を反映したかのように、カイロスのプラズマブレードを握る力がみるみる強くなり、アステリアの左腕部装甲が歪み始める。

 

「やるというのなら!!」

 

そしてプラズマブレードの基部を粉砕し、そのままの流れで左腕のプラズマブレードを一閃する。

 

『やめてマスター!!!』

 

「敵に回るなら墜とすまでッ!!!」

 

機体AIの意思を捻じ曲げるように、アステリアのランナーは小破した左手にレーザーサブマシンガンを格納空間から呼び出し牽制射を放った。

エアルは元居た空間からすぐさま後退しながらシールドを展開する。

弾幕は距離が離れるほど回避が容易くなる。そんな当たり前を実行したまでだった。

 

しかし

 

「はぁっ!!」

 

「もう懐に!」

 

解除した途端目の前に一瞬で詰めてくるアステリア、その潰されていない右手のブレードを横一文字に振るわれる。

 

閃光。

 

それはカイロスの左のブレードで防がれた。

しかし咄嗟のために体勢は無理矢理、少しずつ押され始める。

 

『右手に…!!』

 

「分かってるっ!!」

 

カイロスもアステリアも片手が空いている。

 

呼び出されるレーザーライフル。それはアステリアの胴体_コックピットに向けられる。

だが、発砲されることなく穴だらけになってしまった。

アステリアが同じように呼び出したレーザーサブマシンガンの方が取り回しの面で先手を取れるのだから。

 

「恨むなよ…少年」

 

「まずッ!!」

 

当然、次はトドメを刺すべく胴体を狙う。

投げ捨てて新しいライフルを呼ぶには時間が足りない。右手のブレードは体勢的に厳しい。

 

手がない…!!

 

『すみません。勝手を許してください。』

 

 

 

 

次の瞬間、カイロスは消えた。

ブレードは空を切り、レーザーは虚空を穿つ。

 

「っ!…どこに…なぁっ!!」

 

走る衝撃

ステータス画面を見れば左足首から下がごっそりなくなっていた。

下からの攻撃。

 

第二射を乱数機動で躱しながら、カイロスを探すアステリアのランナー。

 

「…一瞬で…!」

 

カイロスがいたのは地上だった。

左腕のライフルで視界外からの攻撃。一瞬で数百メートルも距離を放されたことになる。

人のことは言えないが、瞬間移動のような光景。

 

「あれは…」

 

『時間加速の全開稼働…』

 

「つまり、あの少年は適性を持ってるのか…厄介な…グッ!!」

 

重なる被弾、今度は右肩の翼に見間違えるような装甲を掠め紫色の輝きを露出させる。

すぐさまシールドを張り、連続での被弾を抑えようとする。

 

しかしシールドは一瞬で臨界を迎えた。

 

「ぐぉっ!!」

 

視界に大きく映るカイロスが相対距離を示す。

すぐさま振るわれた右腕のブレードが、アステリアの胸を裂く。

 

『ぁああっ!!』

 

「アステリアっ!!クソ!!」

 

半身を逸らしたため傷は浅いが、機体全体は小破を通り越して中破と言っていい状態だ。

これ以上は持たない。

 

ランナーはアステリアを最大速度で後退させる。

それと同時にサブマシンガンを牽制で放つと、一直線に東に去っていった。

 

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