ハイオーク放浪記   作:ゆっくりいんⅡ

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流行の異世界ものを書いてみました。
……嘘です。twitterで友人が、
「フルプレートのオークが異世界を旅する話を見たい」
 と言ってたので、試しに書いてみることにしました。続くかは評判と私の気力次第です(真顔)


異世界転移、されました。

 気が付くと、見覚えのない渓谷が見えていた。

「……ふむ?」

 男――アトラ=オルクスは、全身を覆う黒い鎧の中で首を傾げる。はて、自分は『長』に頼まれて討伐の仕事を請け負い、森のど真ん中で一休みしていたはずなのだが。

 見慣れない景色があるのは、どこぞの魔術師に強制転移でもされたか、はたまた妖精の悪戯か。思い当たる節は多々あるが、今はそれより優先するべきことがある。

「装備品は不足なし、体調は転移前と変わりなし……ふむ、問題はないですね」

 確認作業を終えて一つ頷き、状況を改めて整理する。

 自分は休憩中、何者かによって転移か攫われた。気付かぬ内に何かされたのだから、高度な魔術式を使ったのだろう。これはいい。

 今見える場所はどこかの渓谷。遠くに見えるのは見覚えのない山々、少なくとも自分が過ごしていた場所近くではないだろう。これもまだいい。

 さて、自分は今見えているものを俯瞰の視点で見ている。何故か? 自分が召喚された場所が雲も近い高さの上空で、絶賛落下中だからである。これが問題だ。

 召喚者の意図的なものか、失敗か偶発か。ここで頭から真っ逆さまに地上へ吸い込まれていくのに任せたら、地上に赤黒い肉塊のアートが刻まれるだろう。

「とりあえず、召喚した方に会ったら失敗か意図したものか、追及しないといけませんね」

 やれやれと溜息を吐いている姿に、焦った様子はない。まあ友人から「お前の心臓はダイヤモンド並で、表情筋は仕事を放棄してる」と言われたので、滅多なことでは驚かないのだが。

「しかし、失礼な話ですね。帰ったらちょっと話し合いが必要です。ダイヤでは砕けてしまうではないですか」

 違う、そうじゃない。

 などと言っている間も、地面はどんどん近付いてくる。間もなく直撃は避けられないのだが、

「ふっ」

 アトラは空中で身を捻り、

「はっ」

 空中で飛び上がる(・・・・・・・)という非常識な動きで落下速度を大幅に落とし、鎧と着地の衝撃が混じった派手な音を立てながら地上に降り立つ。粉塵の舞う中心地、彼は傷一つ負っていない姿で立ち上がる。

「ふむ、魔術の使用は問題なしですか。さて」

 再び地上から周囲を見渡すと、先程見えた山々と緩やかに流れる小川、やや岩肌が多く感じる緑の景色。絵に描いたようなのどかな光景だ。

「…………てくださぁぁぁ~~~ぃ……」

 ……そんな穏やかさをぶち壊す、西側から響く多数の足音と、何者かの悲鳴。着地音に反応したのか偶然なのか、こちらに向かってきている。

「……すけてくださぁぁぁ~~~ぃ……」

 群れから逃げているのは、背中に皮製のリュックを背負い、アジア系の民族風衣装を纏い、頭に尖った耳を生やした、十代前半に見える少女。大きな青の瞳が涙で潤んでおり、余程必死なのか四足走行している。

「助けてくださあぁぁ~~~ぃ!!」

「……さて、他には」

「無視しないでくださいよぉ!?」

 華麗なスルーを行ったのだが、少女の方からこっちにすがり付いてきた。足にくっつかれると咄嗟に逃げられないので、勘弁して欲しい。

「でっかい騎士様、助けてくださぁい! もう足が限界なんですよお!」

「叫ぶくらい元気あるじゃないですか。頑張れば振り切れますよ、あちらより足は速いのですし」

「体力がもたないの分かってますよねえ!? 強そうなんですから助けてください、お礼は出来る範囲でしますからあ!」

「……まあ、それならいいでしょう。踏み倒したら地獄の住人になってもらいますから、そのつもりで」

「ひい!? この騎士様がめついし怖い!?」

 獣人少女(仮)が何か言ってるが、スルーして足から引っぺがす。「ふぎゃあ!?」などと悲鳴を上げているが、くっついたまま戦いに巻き込まれるよりはマシだろう。

 向かってきたのは――緑の体色に尖った耳、ボロ切れと簡素な鎧を纏い、剣や弓を持った小人――そう、ゴブリンである。その数は40ほどで、殺気を出しながらこちらへ接近してくる。

 軍隊とまではいかないが、統率された動き。舐めてかかれば痛い目どころか殺されるかもしれないだろう。

「まあ、こちらとしては好都合ですが」

 呟きつつ、左腕の鎧の隙間に手を突っ込む。

「ギ!?」「グギャ!?」「グギギィ!?」

 アトラが持つそれを見て、ゴブリン達の困惑したような声が上がる。無理もないだろう、2mはある巨体の持ち主を上回る、片刃の巨大な剣が突如出現したのだから。

「な、何あれ…」

 なおかつ、素人でも分かる程の禍々しい気配を纏っていれば。投げ捨てられた少女など、文句を忘れておぞましさに震えている。

「ギィ、ギギィ!!」

 集団の最後列、他より一回り大きいゴブリンが大声を出すと、困惑していた彼等は再び動き出し、前列は槍、剣を構えて突進、後列は弓を引きしぼり、援護体制に入る。目標を全て、鎧の大男に絞って。

「『構うな、そこのデカ鎧からやれ!』ですか。脅威となる存在の優先的排除、理に適った考えですね」

 まあ、勢い任せなところはありますが。迫るゴブリンを見つめながら、上段に大剣を持っていく。

「まだ誰が味方で敵か分からない以上、無闇に殺しはしませんよ」

 槍の間合いギリギリ、そこでアトラは剣を振り下ろす。

 

 

 瞬間、大地が吹き飛んだ。

 

 

 そう錯覚するほどの衝撃だった。少なくとも、後ろで見ていたら吹き飛ばされたものにとっては。

「いたた、何が……え?」

 五連続後転(強制)を決めた少女は、起き上がって見えた光景に唖然とした。大柄な鎧の騎士を起点とし、彼の前方は爆発でもあったかのように地面が抉れ、密集していたゴブリン達は空を舞い、頭から背中から痛そうな感じに落ちている。見た限りでは死んでいないが、痛みに呻いている。

「ふむ、やはり手加減は難しいですね。骨くらいで済ませるつもりだったのですが、中に刺さってる人もいますし」

 まあ死にはしないしいいかと外道なことを言いつつ、騎士様はゴブリンの中を悠然と歩き、少女の元へ向かう。巨躯の相手に見下ろされる少女は、助けを求めた癖にめっちゃ怖い、とか考えていた。

「む、無茶苦茶ですね騎士様……」

「十分に手加減してるんですけどね。で、助けた以上貰えるものをください、じゃないとその辺にいる彼等より酷い結末になりますが」

「いたいけな少女に言うセリフじゃありませんよねえ!?」

「自分でそういうこと言うのはがめついと相場が決まってます。で、払うものですが」

「――オイ」

 会話を遮ったのは、第三者の声。それは倒れているゴブリンではなく――騎士様よりさらに巨大な緑の体色の亜人――オークが棍棒を振りかぶるところだった。

「あ、あぶな「失礼」ぬみゃ!?」

 振り下ろされる渾身の一撃を、騎士様は振り返らず少女を猫掴みしながら避ける。先程の一撃に匹敵する衝撃音が響くが、外したことを悟ったオークが舌打ちをする。

「チッ、鎧ノクセシテ素早イ奴ダ」

「気配を消してても声を出せば意味がないですね。で、何か用ですか巨人殿」

「ソコノガキヲ寄越セ、ソウスレバ子分達ノオ返シハ一発デ済マセテヤル」

「今放ちましたが」

「当タッタラダ。デ、ドウスル?」

「すいませんが、収入源――もとい、依頼者を引き渡す訳にはいかないので」

「今収入源って言いましたふげぶ!?」

 抗議しようとしたらまた投げ捨てられた。あまりの扱いの酷さに泣けてくる、女の子なんですよ私? 

 無論騎士様は振り向きすらしない、泣くぞチクショウ顔面からいったし。

「ガキヲ渡サナイツモリカ?」

「そう言ったつもりですが」

「ソウカ。ジャア――痛イ目ハ覚悟シロ!」

 叫ぶと同時、オークとは思えぬ速度で接近してくる。あの棍棒で殴られたら、騎士様とはいえただではすまな――

 などと考えていたら、騎士様は剣を置いてオークの懐に入り、面食らう相手の足を払ってやった。

「ウゴッ!?」

 そこから脚を片手で掴み、

「ふんっ」

「ナニィ!?」

 自分より1m以上は大きいオークをジャイアントスイングから、ぶん投げた。投げたぁ!?

「オガガガガガガガ!?」

「うわあ……痛そう」

 顔面が地面と仲良く接触、そのまま突き進んでいくオークの姿に、少女は思わず顔を押さえる。見ているだけで痛い気分になる光景だ。

「で、誰をぶっ飛ばすんですか?」

「ウギャギャギャギャ!!?」

 うつ伏せで死んでいたオークの後頭部を片手で掴み、圧力を加える騎士様。何故だろう、オークが悪役に弄ばれる哀れな犠牲者に見えてきた。なんか頭部がミシミシ言ってるし。

「まあこのままフェイスクラッシュしてもいいんですが、聞きたいことに答えてくれたら離しますよ」

「ギギギギギ!? ダ、誰ガオ前ミタイナノニ答エルカ!?」

「おや、そうですか」

 拒否されたが騎士様はめげた様子もなく、オークの頭を掴んだまま立ち上がる。どういう腕力してるのだろう。

「……ふむ。これでいいですか」

 そのまま近くにあった巨大な岩の前に立ち、

「グゴゴゴゴ。オ、オイ何ヲ――」

 ドゴン。と音を立てながら、オークの顔面を思いっきり叩きつけた。うわ、顔の形にへこんでるし。

「グガァ!?」

 ドゴン。

「チョ、チョットマ」

 ドゴン。

「ワカッタ、答エルカラモウヤメ」

 ドゴン。

「すいませんもう何でも話すのでやめてくださいお願いします……」

「最初からそう言えばいいんですよ。というか普通に喋れるじゃないですか」

「オークの声帯だと普通に喋るの疲れるんですよ……重ねてお願いなのですが離してください、頭割れそうです」

 その言葉を聞いて、ようやく手を離した騎士様。オークの顔面は……うん、元々酷いのが見ていられないレベルになってしまった。具体的には涙と流血と凹みで造形が滅茶苦茶である。

「うう、あんまりじゃないっすか旦那ぁ……」

「拷問も殺してもいないのだから優しい方でしょう。あと旦那じゃありません、独身です」

 今のを拷問じゃないと言い切るのだろうか。

「で、質問なんですが」

「アッハイ、答えるんで剣を持たないでください怖いです」

「答えなければ真っ二つになるだけですよ。で、聞きたいのですが。そこの依頼者と何かあったのですか?」

 剣を向けないでください、邪気と合わさって超怖いです。じゃない、この展開はまずい。

「いや、この小娘が勝手にウチの領土へ侵入して、悪戯と称して迷惑を掛けられたもんで、手下のゴブリンどもを先行隊として向かわせてたんですよ」

「…………」

 騎士様が振り向く前に、私は全力ダッシュで逃げていた。良し、ここまで離れれば――

 

 

「どこに行くんですか?」

 

 

「イギギギギギギギ!?」

 ハイ、無理でした☆ どんな速度してるんだろというか痛い痛い頭が割れるぅ!?

 

 

「すいませんでした、事情も知らずに殴りかかってしまって」

「いやいいんすよ、こっちも話を聞かずに襲い掛かっちまったんで。ゴブリン達の治療もしてもらいましたし、お相子ということで」

「そうしていただけると助かります」

(おっかねえけど常識的な旦那で良かった……というかここで手打ちにしないととんでもねえことになりそうだしな。俺達もそうだし)

「いぎいいいぃぃぃ助けてくださぁい……」

(……あの嬢ちゃんみたいになりたくねえ)

 騎士とオーク、二人の巨体が謝罪をしている中、少女は騎士によって両手足を縛られ、石版らしきものを膝に載せられていた。間違いなく放っておけば足が潰れるのだが、やった本人は見向きもしない。

「……旦那、何の拷問ですかあれ」

「拷問ではありません、石抱きの刑罰ですよ。本当なら足元に剣山――針を置いて二重苦にするんですが、生憎手持ちに無かったので」

「騎士様の鬼いいいいぃぃぃ……!」

「余裕ありますね、追加いきますか」

「ごめんなさい心の底から謝るのでそれだけは勘弁してください!」

「では石抱きは継続ですね」

「しまったあああぁぁぁぁ……!」

「……あの、俺達はもう怒ってないんで、大丈夫ですぜ?」

 というか吹っ飛ばされたゴブリン達も引いていた。騎士を怖がっているのもあるが。

「本気で反省したらやめますよ。それで、聞きたいことなのですが」

(あ、そのまま継続なのな。……怖いから何も言わないでおこう)

 一連の流れで、完全に力関係が決定したオークである。

「へい、答えられることなら。ただ、そんなに頭良くないので、ご期待に答えられるかは」

「別に難しいことではないですよ。と、その前に自己紹介をした方がいいですね」

 そう言うと、騎士はおもむろに兜を取り、素顔を露にする。

 中から出てきたのは、灰色に近い黒の肌と銀の髪、右が紫、左が真紅の異色虹彩(ヘクロテミア)、尖った耳。低音の美声もあいまって、美男と言っていい容姿の男だった。

「……エルフ?」

 彼の顔を見て、オークはそう呟いたが、アトラは首を横に振る。

「いえ、エルフではないですよ。

 

 

 私はアトラ=オルクス、ハイオーガと呼ばれる種族のものです。

 で、多分ここは私がいた世界と違うのですが。ここがどこか、世界情勢など、一般的な常識を教えていただけませんか?」

 

 

「……は?」

 目の前の美男騎士が珍妙なことを言い、オークは思わず間抜けな声を漏らしてしまった。

「お願いだから忘れないでくださあああぁぁぁい……」

 当然のように少女の懇願はスルー。ヤベー奴に関わってしまったと内心嘆きながら、石の重みに耐えていた。

 

 

 




後書き
 というわけでハイオークのアトラさん、異世界に立つでした。え、ヤベー奴だって? いえいえ、まだまだ序の口ですよ(真顔)
 気紛れ更新なので、次回はいつになるか未定です。
 もし気に入ったら、感想や評価などいただけると嬉しいです。
 ではお読みいただき、ありがとうございました。
 
 
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