憑依先は顔芸おじさん。 作:恐怖こそが神なのだ
「さて、オハラの誇り高き学者たち。助かりたいのならばあの船に乗るといい」
エネルは片手に持つ黄金で作られた長棒で人々に降り注ぐ砲弾をはじき返しながら指を指した。
その方向にオハラの人々が目を向けると、空から船が降ってきていた。数隻の小型の船だ。シャボンのようなもので浮かんでいるのだろうか。世にも珍しい空飛ぶ船がそこにはあった。人々は唖然としながらも助かるために学術書や研究書を持てるだけ持って船に乗り始める。
「ま、まで! 貴様らァ! 大罪を犯しておいて逃げるなど……グギャァァァ!?」
辛うじて意識を保っていたスパンダインが逃げようとする学者たちを見て妨害しようとしたがエネルに電気を流されてまた倒れた。
「ヤハハ、元気な男だ。神の裁きを受けてもなお意識があるとは」
エネルは笑いながらスパンダインが持っていた電伝虫を拾い、電話をかける。
「何だ、スパンダイン。バスターコールが終わったのか?」
五老星は再びスパンダインからあまりにも早く連絡が来たことに違和感を感じながらも電話に応じた。しかし、その質問に答えた声は聞いたこともない声だった。
「へそ! 初めまして、五老星」
「……スパンダインではないな、誰だ?」
五老星は相手がスパンダインでないことで、何か不慮の事態が起こったのだと察して警戒感を強めるが、エネルはいつも通りにこやかな表情で会話を続ける。
「ほう、私が誰かだと?まあ、初対面だから無知であるのも仕方ないか。私はこの世界唯一の神、エネルという」
「神だと?」
五老星は不敬にも唯一神を名乗るエネルに目を見開いた。この世界では天竜人が神にして頂点であるからだ。最も誇り高く気高き血族であり、800年前に世界政府を創設し、聖地マリージョアに移り住んだ20人の王たちの末裔。五老星ももちろんその一人であり、彼らに向かって神を名乗るエネルの不敬に驚愕を隠せない。
ましてやエネルはスパンダインの電伝虫から通話をかけてきている。つまり中将たちの軍艦に囲まれ、今なお砲撃に晒されているオハラにエネルはいるのだ。
その不敬さ、豪胆さに五老星たちは世間で流れている噂を思い出す。海賊王ゴール・D・ロジャーの死から始まった大海賊時代という荒れた時代に救いの神が天より舞い降りたという噂を。天上に住む唯一絶対の神が人々を救っているという噂を。
「まさか貴様は、雷神教の……!?」
「然り。雷神教徒たちは私の守るべき信者たちだとも。まさか、もう貴様らまで情報は広まっているとは。世界政府も舐めたものじゃないな。ま、そんなことはどうでもいい。交渉しようじゃないか、オハラについて」
エネルは不敵に笑いながら交渉内容を告げる。
「私が要求することは今のところ1つだ。私が助けたオハラの学者たちを追わないこと、ただそれだけ」
「そのような要求、私たちが呑むと思っているのか?」
当たり前のように要求を呑まない五老星。それもそうだ。オハラに対するバスターコールは、空白の100年を探る者への見せしめ。禁じたことを行った者たちにたいしての罰なのだ。学者たちが生きていたら意味は半減するだろう。
「いいや、貴様らたちは呑まなければならない。そうだな……これは関係のない話になるが、ウラヌスを知っているかね? 私が所有しているお気に入りのおもちゃなのだが。それを貴様らに使って遊んでやってもいい。ハッタリだと思うのならば構わないが、私はビルカの出身だ。この意味がわかるだろう?」
五老星は古代兵器の名前が出てきたことに驚きを隠せない。古代兵器プルトン、ポセイドン、そしてウラヌス。それらは強力な兵器にして禁忌の存在。世界政府もどこに存在するかなど詳細をきちんと把握できているわけではないが、ある程度情報は知っている。
空島ビルカ。ウラヌスと何らかの関係があると言われている島だ。そこの出身ならばウラヌスを持っていないとは言い切れない。しかも、ここで断れば徐々に勢力を広げている雷神教を敵に回しかねないというリスクもあるのだ。もし、雷神教まで敵に回すと革命軍や海賊たちの他にも敵を作るほどの余裕はない世界政府にとっては厳しい状況になる。
その為黙りこくる五老星たちに対してエネルは笑いながら話し続ける。
「ヤハハ、まあ島を滅ぼすことができるのだ。見せしめについては充分に見せしめになる。ゆえに問題あるまい。そして、私も彼らの研究成果について言いふらす気もない。これで問題ないだろう?」
めちゃくちゃなハッタリだぁ…