King of chicken   作:新藤大智

2 / 7
お気に入りや評価、感想をして頂きありがとうございます。こんな思い付きの設定ガバガバな作品ですが、続きを望んでくれている方々がいらっしゃるようなので、更新頻度は富樫仕事しろ状態になると思いますが、ちまちま書かせてもらおうかと思います。

※ヒソカ設定捏造、及び技のみクロスオーバーが入ります。


続いてしまった第二話

「やあ、待ってたよ♦歓迎するよ♥」

 

 第287期ハンター試験会場。

 ザバン市にある定食屋の地下深くに作られた会場は、現在物々しい雰囲気に包まれていた。元々ハンター試験を受ける者達は全員が競争相手であり、敵とも言える間柄なので和気あいあいとした雰囲気とはかけ離れているのだが、例年と比べても明らかに空気の質が異なっている。

 

 その原因はたった二人の受験生。受験番号44番、奇術師ヒソカとそれに相対する目付きの鋭い青年、メルエム。ヒソカが放つ禍々しい気配とそれを真っ向から受け止めるメルエムの間では、まるで空間が歪んだ様にすら見える。もはや物理的な圧力すら感じられる異質な空気に、周囲の受験生たちは可能な限り二人から距離を取り、固唾をのんで事の二人の様子を窺っていた。

 

「………失せろ。道化に用はない」

 

 暫し対峙していた両者だったが、メルエムが言い放つ。温度を一切感じさせない冷たい声に凍えるような視線。周囲の受験生達は、ただそれだけで気温が急激に下がったかのような感覚すら覚えた。しかし、それを真っ向から受けているヒソカは全く動じない。

 

「そんなこと言わずにさ、今すぐ戦ろうよ♦そんな力を見せつけられて僕が我慢出来る訳ないだろ?」

 

 いや、むしろ余計にその禍々しいまでの気配を滾らせ、今にも襲い掛からんばかりの狂相を浮かべる。

 

「見せつけた覚えなどない上に、貴様の趣味趣向など知った事ではない。余はここに試験を受けに来ただけだ」

 

 ふん、と鼻を鳴らして視線を切る。そして、ビーンズを探しに歩き出すが、その行く手を遮る様に数枚のトランプが彼の目の前を通り過ぎた。ただの紙であるはずのトランプは、目の前を横切ると通路の壁に容易く突き刺さる。

 

「………道化とは言え戯けが過ぎるぞ?」

「くく、ごめんごめん♠君が遊んでくれない所為で悲しくてつい手が滑ってしまったみたいだ♦」

 

 返ってきたのは見事なまでに謝罪の気持ちが込められてない謝罪。無論、挑発だという事は分かり切っているので、それに容易く乗るつもりはない。だが、このまま無視を決め込んだところで、ヒソカが諦めることはまずないだろう。試験の道中ちょっかいを出され続けるのは、火を見るより明らか。それでは余りにも鬱陶しい。故にメルエムは一つ提案をする。

 

「いいだろう。それほど涅槃に行きたいのであれば送ってやる」

「いいね。やっとその気にな───」

「ただし、それは試験が終わってからだ」

 

 戦うのは構わないが、それは試験が終わった後。それを条件としてヒソカに提示する。

 

「今ここじゃ駄目なのかい?」

「余はライセンスを取りに来たと言ったはずだ。余計な雑事で試験官に悪印象を与えて落ちたらどうしてくれる」

「んー、確かに僕も三度試験を受けるのはだるいかもね。でも、試験終了後か………♦」

 

 考え込むヒソカに、これが飲めないようなら貴様を相手にすることは一生ないと思え、と言って話を打ち切る。

 

「………分かった。それじゃあ、試験が終わるまで君との逢瀬を楽しみにしているよ♥」

 

 出来れば今すぐにでも戦いたいヒソカだが、変にゴネて戦いそのものがなくなるよりかはマシだと判断する。それに、よくよく考えれば、ここで戦闘を開始すれば試験官が邪魔に入りかねない。ただのイザコザならまだしも、念での戦闘となれば黙って見過ごす試験官はいないだろう。ならば余計な横槍で興ざめするよりも、美味しい物は最後の最後に取っておくのもまた一興かと戦意を収める。

 

「虫唾が走る。試験中は近づいてくれるなよ?」

「くく、酷いなぁ。くれぐれも約束を忘れないでね♦」

 

 粘着質な笑みを浮かべるヒソカを心底気持ちの悪い物を見た、と言った表情で一瞥するとメルエムはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験会場に設置されたトイレの一室。そこに先程までヒソカと対峙していたメルエムの姿があった。胸には406番のナンバープレートが付けられている。そんな彼は王の尊顔を解除し、便座に深く腰掛けて疲れ切った様子でぐったりしている。

 

「あのマジキチ試験中に死なないかなぁ………無理か」

 

 肉体的な疲れとは無縁だが、精神的な疲労から死んだ魚のような目をして呟く。先程はボロが出る前に反射的に王の尊顔を発動させたお蔭で、無様を晒すことなく切り抜けることが出来たが、ヒソカに完全にロックオンされてしまうという恐れていた事態が起こってしまった。まあ、これに関しては同じハンター試験を受ける以上、遅かれ早かれ同じような事態になっていただろう。ただ、会場入りして一歩目とは流石に思いもしなかったのでダメージが大きかったのだが。

 

「………でも、やってやった」

 

 彼の精神はヒソカとのやり取りで試験が始まる前からボロ雑巾のようになっていたが、一つ大きな収獲があった。戦闘は試験終了後と約束を取り付けたこと。これがかなり大きい。ヒソカの他にもイルミといった脅威はいるが、寝込みを変態に襲われる心配が減っただけでもかなり違うはずだ。代わりに試験終了後にヒソカの相手をしなくてはいけないが、これに関しては考えがあった。

 

「四次元アパート最強説。ライセンス貰ったら速攻逃げよう」

 

 この男、貰う物を貰ったら四次元アパートで別大陸に高飛びを決める気満々だった。いや、約束を破る気はない。基本的に臆病者かつ小物根性全開な彼だが、約束したことは守ると心に決めていた。だから、ヒソカの相手は勿論するつもりでいる。

 

 ただし、それは数十年後の話だ。

 

 彼は試験終了後と言ったが、期間は指定していない。つまり1年後でも10年後でも100年後でも試験終了後に変わりない。どこぞの帝○グループ最高幹部のような理屈だが、嘘は吐いていないので彼の中ではセーフ。で、逃げ回っている間にゴンやらイルミやら旅団がヒソカを始末してくれれば万々歳、という訳だ。

 

 もっとも、いくら言葉の上でその通りであったとしてもそれでヒソカが納得するはずもなく、将来クロロを狙う事すら放り投げ、彼に執着するとは想像もしていなかった。

 

 ちなみに、出会った時に王の尊顔を発動させなかったら情けない姿を見たヒソカが幻滅してロックオンしなかった可能性もあるのだが、幸か不幸か本人は気づいていなかったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジリリリ、と試験開始を知らせるベルが鳴り響く。受験生達は、一斉にベルが鳴った方に顔を向け、試験官であるサトツの後に付いて行く。

 

 試験内容は至ってシンプル。第二次試験会場までサトツに付いて行く事。これだけである。内容は簡単なように思えて難易度は決して低くない。当たり前だが、これはハンター試験。生易しい試験があるはずがなかった。

 

 移動を始めてすぐに受験生たちが異変に気が付く。サトツはただ歩いているだけのはずなのに、何故か徐々に追いつかなくなってくる。早歩きからジョギング、そして完全に走り出すまで時間はかからなかった。第一次試験はどれほど走ればいいのか先が見えない中でのマラソンであり、持久力は勿論のこと精神力も試される試験となっている。

 

 試験が始まって二時間ほどが経っただろうか。既にフルマラソン以上の距離を走っているが、脱落者はゼロ。ハンターを目指しているだけあり、全員がプロアスリート以上の身体能力を持っているため、ギブアップするものはまだ居ない。もっとも、レオリオを筆頭に辛そうにしている者がチラホラと見受けられるのだが、彼等はなんとか踏ん張って走り続けている。

 

(やっぱり、お家に帰るぅ………)

 

 メルエムもその中の一人だった。もっとも体力的に辛い連中とは違い、彼の場合は精神的なダメージが原因だったりする。王の尊顔を発動させているため、表面上は息一つ乱さないで余裕に見えるが、その心は折れ掛けていた。

 

 無論、先の見えないマラソンに精神を消耗した訳ではない。数時間ほど走り続けないといけない事は知っているし、無尽蔵の体力を持つメルエムの肉体であればどうとでもなるのでその辺は全く心配していない。

 

 原因は試験開始時から彼を中心にポッカリと空いた空間の所為だ。まるで小魚の群れに突っ込んだサメを避けているかのように、周囲数メートルに渡り空白地帯が出来上がっていた。彼が左に視線を向ければビクッとしたように慌てて目を逸らされ、右を向けば左に同じ反応が返される。ちょっと左側に寄ればその分彼等も左に寄り、右に寄れば右に寄る。決して彼等との距離が縮まることはない。完全にアンタッチャブル扱いだった。

 

(イジメ………いくない………)

 

 正直この反応にはちょっと泣きたくなった。原因は分かっている。十中八九試験開始前の騒動の所為だ。あ、アカン奴や、と一発で分かるヒソカと、そいつに目を付けられたこれまたヤバそうな奴。ただでさえ超難関の試験中だというのに、そんな厄い連中に一体誰が近づくというのか。

 

 結果、触らぬ神に祟りなし、とばかりに近寄る事すら避け、目も合わせようとしない。肉体面では紛れもなくチートスペックでも、メンタル面くそざこナメクジの彼にとっては思わぬ大打撃となっていた。

 

「あの、すみません」

 

 もういっそのこと全てぶん投げて、四次元アパートに引き篭もろうか本気で考え始めた時だった。背後から突然声を掛けられる。何処かで聞き覚えのあるような少年の声。まさかと思い、振り返ってみればそこにはツンツン頭の少年の姿。見間違うはずもない。我らが主人公、ゴン=フリークスがそこにいた。

 

「………なんだ?」

 

 内心で盛大に驚きながら尋ねる。この状況でわざわざ声を掛けて来るなど一体どんな用件だろうか。

 

「はい、これ。お兄さんのだよね?落したみたいだよ」

 

 差し出されたのは見覚えのある長財布。ブランド物でもなんでもない1000ジェニーのワゴンセールで適当に購入した物だ。後ろポケットに入れておいたはずだが、どうやら心が折れそうになっていた時に落としたようで全く気が付かなかった。

 

「………どうやら考え事が過ぎたらしい。礼を言う」

「いいえ、どういたしまして」

 

 一点の曇りもない純粋な笑顔でニカッと笑うゴンに、なんやこの子は天使なんやろか?と思わずエセ関西弁になる。

 

 あれだけ周囲から避けられているのを見れば、普通は近づこうなどとは思わないだろう。財布だってそのまま放っておくか、中身だけ抜き取って捨てればいいだろうにわざわざ届けてくれるなんて、と感動に打ち震える。

 

 ただ財布を拾って届けただけなのに大袈裟なと思うかもしれないが、この状況はヤクザが女を惚れさせる手法に近かったりする。わざと暴力を振るい、その後に優しく接するとマイナスの感情とプラスの感情の落差が激しくなり、相手に好感を抱きやすくなるとかなんとか。今の状況やヒソカと言う特大のマイナスに打ちのめされたメルエムが、ゴンという究極のプラスに触れたせいでそれと似たような事が起きているのだ。

 

「余の名はメルエム。少年、名はなんという?」

「俺?俺の名前はゴン、ゴン=フリークスっていうんだ」

「ゴンか。よい名だ。この借りは後で返す」

「え、別にいいよ。俺は財布拾って届けただけだし、借りなんて思わなくて大丈夫。それよりも後ろポケットに財布を入れておくと危ないからせめてこの糸で服の何処かと結んだ方がいいよ」

 

 言いながら釣り糸を差し出してくるゴン。やはり天使、いや大天使であると確信を深める。もはやゴンに対する好感度は鰻上りを通り越して鯉の滝登りレベル。一瞬でメーターを振り切って天にまで届いていた。好感度ランキングぶっちぎりの1位である。………メルエムと名乗ったが、チョロエムに改名したほうがいいのかもしれない。

 

「いや、余の矜持の問題だ。受けた借りは必ず返す」

「うーん、そこまで言うなら、なんか困ったことがあったら助けて貰おうっかな」

「ああ、困り事があればすぐに駆けつけよう」

 

 その後、ゴンは遠巻きに見ていたキルア達と合流すると、じゃあねーと手を振りながらペースを上げて前の方に行ってしまった。それを一つ頷いて見送る。

 

(あぁ^~荒んだ心が癒されるんじゃぁ^~)

 

 今までキメラアントのやばい奴とか表現規制の奴とか、ちょっとあれな連中としかまともに会話をしてこなかったので大天使たるゴンとの触れ合いはメルエムの心を大いに癒した。つい先程までは割と真剣に引き篭もろうと考えていたが、ゴンのお蔭でもうちょっと試験を頑張ってみようと考え直す。

 

 もっとも、この後ヒソカがゴンにちょっかいを掛ける場面があることを思い出してすぐに頭を抱える羽目になるのだが、それに気が付くまでもう少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザバン市の定食屋の地下から走り続けること数時間。地下道の長い階段を昇り切ると、そこはヌメーレ湿原と呼ばれる湿地帯が広がっていた。ここがマラソンの第二ステージとなる。

 

 この湿地帯は、僅か数メートル前を走る人の背中も見えなくなるほど濃い霧が一年を通して多発しているので、遭難者が後を絶たない。また、何より人間をも欺いて食料としてしまう狡猾で貪欲な動物たちが数多く生息している。そのことから詐欺師の塒と呼ばれるほどだ。

 

 実際、湿原の危険性をサトツが説明している最中に人面猿という肉食の猿の乱入があり、一部の受験者は騙されかけるというハプニングもあった。とっとと試験を終わらせたいヒソカが邪魔だと言わんばかりに瞬殺して事なきを得たが、ヌメーレ湿原ではこうした命がけの騙し合いが日夜行われている。

 

 ちょっとしたハプニングもあったが、その後も休む間もなくマラソンが再開される。湿地に足を取られながら走るのは、地下道を走るのとは比べ物にならないほど体力を消耗し、体力の消耗は判断力の低下を招く。ただでさえ濃い霧の所為で前がよく見えない受験者達は、判断力の低下も相まっていつの間にか詐欺師達の罠に嵌ってしまう。結果、気が付けばあちらこちらで悲鳴が上がり、あっと言う間に百人単位で受験者が減っていた。

 

(………そろそろだよなぁ。どうしよう)

 

 そんな危険地帯を内心でビクつきながら走るメルエムは、悩んでいた。原因はヒソカの試験官ごっこである。

 

 原作でヒソカはこの霧に乗じて試験官ごっこと称し、大量殺人を行っていた。はっきり言ってそれ自体は別に構わない。薄情かも知れないが自分に害がなく、関係のない人間が死のうともお気の毒にと思う程度でしかない。問題はそれにゴンが巻き込まれる、というかわざわざ首を突っ込んでしまうことだ。

 

 原作通りに事が進めば問題ない。ゴンはヒソカという高い壁を意識し、それが後の成長に繋がるのだから必要な事でもある。しかし、所謂虫の知らせという奴だろうか。どうにも嫌な予感が纏わり付いて離れなかった。

 

(………すげー嫌だけど、念のためにちょっと様子を見に行くか)

 

 ヒソカはゴンを青い果実と称し、熟れるまでは本気で手を出すことはないはず。だが、万が一という事もあり得る。メルエムは自分の勘に従って、何時でも介入できるようにその時が来たら近くで見守ることにした。

 

「いってえええええっ!」

 

 そろそろかと身構えていると、後方から幾つかの悲鳴が上がる。その中にはレオリオと思わしき声もあった。それを聞いたゴンが弾かれたように元来た道を引き返して行くのを確認。戻ってこられる保証もないのに無謀としか思えない行為だが、こういった行動を迷いなく出来るからこそのゴンなのだろう。メルエムも集団から少し外れると、反転。悲鳴のする方へと向かう。

 

 気づかれないように茂みに身を潜め、絶の状態で潜伏。辿り着いた時には、レオリオがピンチの場面をゴンが釣り竿で一撃入れて助けたところだった。いくら不意打ちとは言え、ヒソカに一発かますとは素晴らしいと感嘆の念を禁じ得ない。出来ればそのまま再起不能になるまでフルボッコにしてくれと願うが、ゴンさんにでもならないと無理だろう。

 

 で、この後は原作通りに事が進めば何も問題はない、はずだった。

 

「仲間を助けに来たのかい?いい子だね、君も合格。試験を頑張りなよ────と言いたいところなんだけど♦」

 

 ヒソカは歪な笑みを浮かべ、一瞬で間合いを詰めるとトランプを振りかざす。

 

「ごめんね、お腹が空き過ぎて青い果実でも食べちゃいたいんだ♠」

「………うぁっ」

「「ゴン!」」

 

 纏わりつく様な殺意と、その愉悦に歪んだ表情から本気で殺す気なのは明白だった。いつの間にか戻って来たクラピカとレオリオが叫びながら助けようと駆け出すが、間に合いそうにない。

 

 あ、これアカンやつや。メルエムはやっぱり嫌な予感が当たりやがったと思わず白目を剥くが、そんな事してる場合じゃねえと一足飛びに両者の間に割って入り、振り下ろされる腕を掴む。

 

「ゴン、少し下がっていろ」

「っ!メルエムさん!?どうしてここに?」

「なに、早速借りを返しに来ただけだ」

 

 ヒソカは一瞬驚いたように目を見開くが、割って入った人物が誰か分かると口角をこれでもかと吊り上げる。

 

「誰かと思えばキミか。やっぱり気が変わって今すぐ僕とシたくなったのかい?それなら大歓迎だよ♥」

(もう、ほんとやだこいつ………)

 

 勢いよく飛び出して来たのはいいものの、至近距離でヒソカのねっとりとした視線をもろに浴びてしまった彼は、またしても心が折れ掛けていた。今日で既に三度目である。

 

「貴様は試験中だけでも大人しく出来ないのか?」

「くく、そんなこと言われても君の所為で色々と滾っちゃってさ、抑制が利かなくなっちゃったんだから仕方ないじゃないか♦」

「………道化ではなく、もはや狂犬か」

 

 メルエムは内心で冷汗が止まらない。バタフライエフェクト。自分という異物が居た所為で危うくゴン達が殺されるところだった。原作の流れは既にぶっ壊れているのでそこまで気にかけている訳ではないが、大天使であり、借りがあるゴンを殺させる訳にはいかない。

 

 目を合わせるだけで精神力とか何かがガリガリと削れていく音が聞こえるが、気にしない、気にしてはいけないと自分に言い聞かせる。深いため息。相手はヒソカだと思わない。相手は犬。それも飛び切りの狂犬だと思い込む。辺り構わず噛み散らかす狂犬には、教え込まなければいけない。

 

「ゴン、お前は犬を飼ったことはあるか?」

「え、ないけど………」

 

 唐突に犬を飼ったことがあるかと聞かれたゴンは、困惑気味に首を傾げる。

 

「そうか、ならば聞き分けのない犬はどうすればいいのか、見ておくといい」

 

 ヒソカの腕を放すと軽くバックステップ。距離を取って軽く重心を落とす。

 

「おや、まさか本当に君が相手をしてくれるのかい?」

 

 禍々しく立ち上るオーラに、内心ではやっぱり逃げようかなと考えが脳裏を過ったメルエムだったが、ゴンに借りを返すと約束したからにはここは引けない。

 

「戯けが。貴様との戦闘は試験の終了後と言ったはずだ」

「じゃあ、一体如何するつもりだい?」

「ふん、これから行うのは───」

 

 ヒソカとの戦闘は試験終了後。故にこれは戦闘行為ではなく、

 

 

「ただの躾だ」

 

 

 そう、言っても聞かない狂犬はどちらが上なのか教えなければならない。どうせやるなら徹底的に。ヒソカですら戦闘意欲を失ってしまう程の差を見せつける。

 

 イメージするは、とある世界で人類最強と言われる英雄。

 

 より正確に言えば、怪人と呼称される化け物共がはびこる世界で地球を滅亡させる“災害レベル:神”の怪人を屑ったと言われる技能の一つ。人智を超えた怪人達ですらその音を耳にしてしまえば戦意を喪失してしまうという。その音を聞いて生き延びた怪人はいない。破滅の足音。終焉を告げる音色。その世界の人は敬意を込めてそれをこう呼んだ。

 

 

 

 

 

 

「“王の鼓動(キングエンジン)”」

 

 

 

 

 

 

 ドクン、と世界が脈動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、ヌメーレ湿原では詐欺師達の異常行動が観測された。その異常行動とは、滅多な事では塒から出ない彼等が湿原から這い出てきたこと。人面猿やキリヒトノセガメ、サイミンチョウ、マチボッケ、その他の夜行性や昼行性を問わず様々な種が数万~十数万単位の数で一斉に移動を開始する。

 

 異様な光景だった。ヌーの大移動のような単一の種による行動ではなく、様々な種が入り乱れ、しかもこれほどの規模の大移動など過去にも殆ど例がない。

 

 その後の調査において、一部からはハンター試験の第一次試験が行われていたこともあり、実力者が大挙して押し寄せたことが原因ではないか?という意見も出たが、この地に詳しい研究者達は寧ろ試験の参加者達を餌にしようと喜々として襲い掛かるはずだと反論し、その意見は否定される。

 

 結局、様々な仮説が提唱されるものの、原因を特定するまでには至らなかった。最終的な見解としては、特殊災害による因果関係が~~~といった曖昧な物に終わるが、それも仕方ないことなのかもしれない。真実は、たった一人の男を恐れ、湿原中の動物達が一斉に逃げ出したなどとは誰も思いもしないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メルエムの心臓が大きく脈打つ。

 

 その音を例えるなら削岩機だろうか。ドドドドドと工事現場から発せられたかのような重低音が辺りに鳴り響くと共に、全身から湯気のような水蒸気が立ち上る。

 

「メ、メルエムさん、この音って、それに体から湯気が………」

「案ずるな、ゴン。これは元々こういった技法だ」

 

 “王の鼓動”とは心臓を強化し、血液量及び身体を巡る血流の速さを通常の何十倍にも高め、身体能力を劇的に上昇させる強化系能力。

 

 所謂バンプアップの応用であり、原理自体は単純なので念なしでも肉体操作で似たようなことは再現可能だ。だが、“王の鼓動(キングエンジン)”ほどの出力は素で途方もなく強靭な肉体性能を持つメルエムか、或いは体中がゴムのような柔軟性を持った特異体質でもなければ扱う事はできない。仮に普通の念能力者がメルエムと同じ強化率でこれを行えば、一秒持たずに体中の血管が破裂。真っ赤な風船のようになってしまうことだろう。

 

 ただでさえ隔絶した身体能力を持つと言うのに、これを発動したメルエムの身体能力は圧倒的を通り越してもはや異次元の領域。世界で一番高いと言われる1784mの世界樹を素手で引っこ抜き、それを武器(彼○島的な感じで)にして戦うことも可能。

 

 何故、ただでさえ最強とも言える力を手にしたはずの彼がさらに戦闘力を強化したのかといえば、万が一暗黒大陸の生物に出会ってしまった時の為の備えだ。V5の中では間違いなくぶっちぎりで最強。しかし、広大過ぎる暗黒大陸にはメルエムに匹敵する常識外の化け物が潜んでいるかもしれない。それに、暗黒大陸に行く気などさらさらないが、ナニカのように内側の世界に来ている連中もいる。そんな奴等と偶然出会わないと言う保証もなかった。

 

 本来であれば身体能力は十分すぎるので、メンタル面を強化する念でも作った方がいいのだろうが、精神に作用する念能力ってなんか怖くね?との思いから断念。

 

 どうしようか悩んだあげくに何を血迷ったかネカフェでスレを立てた結果、幾つかのアドバイスを得ることが出来た。曰く、力こそパワー、レベルを上げて物理で殴ればいいじゃない、と。その言葉に感銘を受けて考え付いた能力が“王の鼓動(キングエンジン)”であり、史上最強のフィジカルモンスターの爆誕となった。

 

 仮に今のメルエムが軽く頭を撫でてやればヒソカの首は容易く千切れる。それは纏をしていようが堅をしていようが変わらない。ただでさえ赤ん坊と象程の力の差があったのだ。王の鼓動を発動した今となっては、赤ん坊と戦艦まで差が広がっている。

 

「さて、始める前に一度だけ慈悲をくれてやる。このまま素直に退けば追いはせぬ。だが、暴れ足りないと言うのであればこの場にて余が手ずから躾けてやろう」

 

 僅かに目を見開いて驚いている(であろう)ヒソカに最終勧告。まあ、どうせ退いてくれないんだろうな、と思いつつも可能な限り穏便に済ませたいところだった。

 

 彼はこの世で戦いたくない相手の№1は誰かと聞かれたら、ちょっと悩んだ末にヒソカの名前を挙げる。薔薇装備のネテロも怖いが、あれは周囲に誰も居ない場所だからこそ使う事の出来た禁じ手であり、街中で使うことなど絶対に出来ない。それでも単純な強さで言えばヒソカよりもネテロの方が断然上だが、ヒソカの怖さはその精神性も勿論だが、何をしでかすか分からない所にある。万が一、いや億が一も負ける要素はないと言っても、それでも得体のしれない何かをヒソカに感じていた。

 

「………」

 

 対するヒソカは、僅かに目を見開いたまま無言で佇んでいた。だが、すぐにいつもの薄ら笑いの表情に戻ると両手を上に上げ、思いもよらない言葉を口にした。

 

「分かったよ、今は退かせてもらおうかな♦」

 

 内心で、え、マジで?と思わず素に戻りそうになるがなんとか踏みとどまる。

 

「………ほう、貴様にしては殊勝な心掛けだな?」

「ま、僕にだってそういう時もあるさ♠」

 

 あの戦闘狂が一体どういった風の吹き回しか分からないが、本当に退くようだ。まさか死を恐れた、という訳でもなさそうなのだが、戦わずに済むならそれに越したことはない。

 

「ならば疾く去ね。余の気分が変わらぬうちにな」

「くく、怖い怖い。それじゃあお暇させてもらうよ♦」

 

 またね、と軽く手を振りながら去っていくヒソカ。その背中を見送り、王の鼓動を解除するとキリッとした真顔のまま内心で小躍りする。

 

 最恐たるヒソカを戦わずに退けられたことはかなり大きい。幾ら異次元の身体能力を持っていようとも彼自身は言うまでもなく戦闘のど素人であり、ポッキーの方がまだ頑丈じゃね?と言われる精神力の持ち主である。どうしても引けない理由があったので泣く泣く割って入ったが、戦闘はなるべく避けたいところだった。

 

 今回は何故かヒソカが素直に引いてくれたので万々歳。ゴンにも借りを返せたし、まさしく言う事なしである───と思っていた。

 

 この時彼は浮かれていて気が付かなかった。

 自分がどれだけヤバい地雷を踏んでしまったのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒソカは二次試験会場へとただ一人走る。

 

 つい先程の出来事を何度も反芻しながら、しかしその表情は無だ。喜怒哀楽がすっぽりと抜け落ちたかのような完全なる無表情。まるで針を外したイルミを彷彿とさせる。

 

「メルエム」

 

 微かに呟く。ヒソカをこのような状態にした元凶の名。

 

「………あは」

 

 その名を口にしたと同時、無表情だったヒソカに変化が現れた。口元は異様に歪み、その瞳にはコールタールよりもドロドロとしたどす黒い光が灯る。

 

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」

 

 狂ったように嗤い続ける。常人がこの場面に遭遇してしまったら、それだけで卒倒しかねない。プロハンターでも踵を返して全力でこの場を離れるだろう。ただただ狂喜だけがそこにあった。

 

「………見つけた」

 

 それだけヒソカは嬉しくてたまらなかった。なにせずっと探していたものが遂に見つかったのだから。

 

「これで僕はやっと生を感じることが出来る」

 

 ヒソカ=モロウ。

 性格は気まぐれで嘘つき。天才的な戦闘センスを持ち、才ある難敵と殺し合う事で興奮を得る。戦いの中で己が傷つくことや死すら厭わず戦闘を楽しむ生粋の戦闘狂。

 

 ヒソカに対する周囲の認識だ。人によってはそこに快楽主義者や変態、殺人狂なども付くだろうが、彼を知る人物は皆こう語る。

 

 概ね正解である。ヒソカも自身がそう呼ばれても仕方がないことを十分に理解していた。だが、それだけでは彼を語るに足りない。彼の根底にはまだ誰にも知られていない、何よりも求めるものがある。

 

 それは、生への渇望。

 

 ヒソカは、生まれてから今まで自分が生きているという実感を得たことがない。美味しい物を食べても、極上の音楽を聞いても、素晴らしい演劇を見ても、心に響いたことは一度たりともなかった。

 

 無論、彼に全く感情が無いという訳ではない。五感はきちんとあるし、戦闘を楽しんでいるのも本当だ。ただ、言うなれば世界がテレビゲームであり、自分はそのゲームの中の一キャラクターのような感覚が纏わりついて離れなかった。故に生きている実感がない。全てが薄っぺらい嘘のように感じている。

 

 そんな彼に転機が訪れたのは十年以上も前のこと。とある男を戯れになぶり殺しにしている最中に、生きるという事への興味が芽生えた。

 

 その男は何てことない弱者だった。特殊な技能もなければ、ハンター試験に到達できるかどうかという凡百の頭脳に身体能力しかない。しかし、生きようとする意思はヒソカをして驚かせるほど強かった。どれほどの屈辱を味わわせようとも、絶望させようとも生を諦めない。泥水を啜り他者を蹴落とし、石に噛り付いてでも生き抜く意思を感じ取る。その時に思った。

 

(あぁ、なんて綺麗なんだろう)

 

 見苦しいと思う者もいるかもしれないが、そこに生命の輝きがあるのもまた事実。人は死の運命から逃れようとする時に一際大きく輝く。さながら燃え尽きる前の星のように。それだけがこの薄っぺらい世界の中で本物のように感じられた。人は自らにないものを欲する。世界をゲームのように捉えていたヒソカにその輝きは手に入らない。

 

 だからこそ、たまらなく欲しくなるのだ。

 

 それからだ。彼が特に強き者との戦いを望むようになったのは。強者との戦いの中で自らを死の淵へと追い込み、その輝きに触れんが為、そしてこの手に入れる為に。

 

 そして、強者との戦闘を繰り返していく内に何度か死闘になったことはある。能力の相性から負けそうになったこともある。しかし、面白いと感じることはあれど、終ぞ彼に生を実感させることはなかった。

 

 故に考えた。ただの死闘程度では足りない。絶対的な強者が必要だと。

 

 世界でも有数の実力を誇る自分が手も足も出ない化物のような存在が。その化物に死力を尽くして打ち勝った時にこそ自分は生を実感できる。ヒソカはそう考えて、そして見つけた。

 

「メルエム、キミだ。僕の執着点にして終着点」

 

 彼こそが生態系の頂点、生命の極致。自らが求めてやまない絶対者であると先程はっきりと理解した。本来であればハンター試験なんぞ放り投げて襲ってしまいたかったが、惜しむらくは実力差が想定より余りにもかけ離れ過ぎていたことか。

 

 流石のヒソカでも戦闘にすらならない程の実力差では戦いを挑む気にはなれない。万に一でも、いや、億に一つでもいい。勝ち目がほんの僅かでもあれば喜々として襲い掛かっていただろう。しかし、勝ち目が文字通りのゼロ。戦闘にすらならないのでは意味がない。今の自分では、仮に命を賭けた重い制約を課したとしてもそれは変わらないだろう。だからこそ“今は”素直に退いたのだ。

 

 メルエムとの戦いに備えて色々準備をしなくてはならない。

 

 道具を準備し、環境を整え、時期を待つ。そして何より念能力を向上させる必要がある。一朝一夕に行えることではないが、心当たりがないこともない。制約と誓約の見直しは勿論のこと、世界には念に関わる様々な遺物がある。利用出来る物は全て利用して、力を極限にまで高めた時にこそメルエムへと挑む。

 

 もっとも、万全に準備を重ね、もう終わってもいいと命を賭けても、勝ち目は万に一つあればいい方だと予想している。だが、ヒソカにはそれでよかった。否、それがいい。

 

 人の生死の境に命の輝きがある。彼はそれを超越した全てを照らす光のような存在。その光に打ち勝つことが出来たのなら、自分は間違いなく生を実感できる。生きることが出来る。例え負けて殺されようとも、その一瞬だけは自分は生きていると感じることが出来るだろう。

 

「あぁ、もう少し待ってておくれ。キミを殺すのは僕だ。そして僕を殺すのもキミだけ♥」

 

 将来訪れるであろう甘美な逢瀬を思い描くだけで体が震える。感情の抑制が、溢れ出るオーラが抑えられない。

 

 もしこの場にイルミがいたら、その能面のような無表情を僅かに崩して驚愕の表情を見せた事だろう。ヒソカから溢れ出ているオーラは、イルミの知るそれよりも明らかに強大に、そしてより禍々しくなっていた。

 

 メルエムに手が届く領域までは果てしなく遠い。しかし、生を欲する異端の死神は着実に一歩ずつ階段を昇りつめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2話要約

ヒソカ「メルエムゥ!お前はオレにとっての新たな光だ!」
メルエム「」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。