ビギニング・オブ・ザ・ナイトメア ~深紅の絶望は、ここに~ 作:暁葵
第一章 第一スペルカード
「仕事場……?もしかして俺はこの紅魔館とやらで働かなくちゃいけないのか!?」
前代未聞だろう、十七歳の高校生が本格的に働くというのは。
アルバイトならやってことはある。だがこんな如何にもな場所で働くというのは、どうも鳥肌が立つ。
他の人の様子も、少し不機嫌そうな感じがする。
だが、ここで「嫌だ!」と切り捨てれば、恐らく切り殺されて湖に捨てられるだろう……。
「ワタシは貴方を専属の護衛にしようと思うの、構わないかしら?」
レミリアは微笑しながら首を傾げる。この質問には「NO」という選択肢はない。つまりここは「YES」と返答するしか道は無いのだ!
「分かった。だが、その代わりきちんと給与は高く――」
俺は給料を高くしろと言おうとしたその瞬間、右耳スレスレのところに白銀のナイフが超高速で飛んでくる。そのナイフには殺意が込められていたように思える。
「………ッッ‼‼????」
心臓が止まったかと思った。
そのナイフを投擲したのは、メイド服を装備し、銀色のナイフを数本隠し持っていた十八歳くらいの美少女だった。最近の女の子はこんな物騒なこともするのかよ……
俺は驚かざるを得なかった。
「お嬢様に、馴れ馴れしいですよ。少しは身を弁えなさい」
彼女の名前はどうやら十六夜咲夜というらしい。俺は鋭い眼光で睨みつけてくる咲夜に委縮――しなかった。
「あいあい。んじゃ早速だが”お嬢”、俺がこれから働く紅魔館を案内してはくれないだろうか?」
「分かったわ。それと――」
と、言葉を中断しレミリアは耳元で囁く。ロリに囁かれるというのは、少しむず痒いものだ。
「給料は、ワタシのことを一生懸命護ったら、上げてもいいわよ?」
「――じゃあ、全力でお嬢を護ってやるよ」
俺は欲望に塗れた表情で宣言する。レミリアの頬は薄紅色に、淡く染まっていた。
†
「大体の場所は分かったかしら? 統魔」
いきなり呼び捨てにするレミリアに少し驚くが、俺は頷く。
「ああ、大体だがな。…で、だ。俺の持ち場はどこなんだ?」
風呂場や図書館、食卓や業務室などは案内してもらったが、肝心の持ち場が不明だったら意味がない。レミリアは「ふぅん」と息を吐いて横のやけに大きな扉を開ける。
如何にもラスボスが居るかのような部屋だ。
内装としては、最奥に赤を基調とした玉座とダークウッドで出来た机、その後ろには美しいステンドグラスがある。俺はどんどん部屋の中へと足を踏み入れるレミリアに付いていく。
「ここはどこなんだ?」
「ワタシの部屋よ。ここが統魔の持ち場よ」
……意味が解らない。え? ここが俺の持ち場? 嘘だろ? ご主人様と同じ部屋で仕事するなんて部下界隈では前代未聞な事象だろう。
しかもロリと同室で働くなんて、現実だったら絶対に通報されていただろう。
だがここは幻想郷――現実とは非なる世界だ。ゆえにそんなことを気にしなくて済むのだ! 俺は思い切り溜息を吐く。
「はぁぁぁ、分かったよお嬢。つまり、護衛である俺は主の近くに置くべき……てことだろ?」
「そうね、そういうことだわ。ワタシのカリスマ溢れる体と心を護るために働いてもらうわ!」
実に高慢なご主人様ではあるが、俺は「あいあい」と適当に返事をする。そしてレミリアは全員に解散を命令し、全員は人が現れた時の烏のごとく散り、レミリアと俺の二人きりとなった。
「………なぁお嬢」
「何かしら?」
「ちょっとそこらへん歩いてきていいか?」
「ダメよ」
どこまで我が儘なお嬢様なんだこの吸血鬼は。そんなに自分の身を護ってほしいんだ?
俺は溜息を吐き、椅子に座る。
「どうしてほしいんだ?」
レミリアは吸血鬼特有の鋭い犬歯を剥き出しにして、舌なめずりをする。
「貴方の血を頂戴? そうしたら歩かせてあげてもいいわ」
「……分かった、ほら。早くしてくれよ」
「もうっ、主人を急かすなんて、生意気な下僕ね」
頬を膨らませる可愛らしい幼女に対し、俺は黒いパーカーを脱いで首筋を魅せる。レミリアは口角をつり上げ、牙を輝かせる。
そして、俺の首筋に注射のような痛みが迸る。
段々と血が外に流れゆく感覚を感じる。吸血鬼というのはやはりこういうものなのだろうか?
「よし、もういいだろ? 俺は行くからな」
「全くケチなんだからっ!」
†
俺は今、紅魔館の地下一階に併設されている大図書館に向かっている。その理由は「スペルカードを作成」するためである。
未だ弾幕や能力の理解すら覚束ない状況で、「スペルカード」を作成できるはずもない。
更に言えば、スペルカードが無ければ護衛と言う任務すら果たせない可能性もある。誰もかれも強い能力や理解力を持っているわけではない。
恐らく、あくまで俺の憶測だが、「スペルカード」を作成するには相当な苦労が必要だろうと、思う。
「大図書館……さっきはチラッとしか見ていなかったから分からなかったが、結構広いな」
本棚の数は約七千以上……と言っていたが、そんなに本棚を消費するほどの本が蔵書されているのだろうか? 階段を下りて図書館を散策する。
「……なんだこれ? 全ッ然読めない……魔導書かなんかか? だったら弾幕に関することの一つや二つ――」
魔導書を棚から引き抜こうとしたその時――一つの声が響く。
「それ、スペカの本じゃないわよ」
寝間着姿のような恰好をして歩いてきたのは、確か――そうだ。パチュリー・ノーレッジだ。
確か大図書館の管理人だったな。俺は知識を持っていそうなパチュリーに問いかける。
「スペルカードって、どうやって作るんだ? 俺、スペルカード欲しいんだが……」
「そんなの私に聞かないでちょうだい。スペカなんて簡単に作れるわよ?」
パチュリーは平坦な声色でアドバイスをくれる。簡単に作れる……? 俺は少し疑心感を抱きながらも乗ることにする。
†
「まず、弾幕の形状を想像しなさい。好きな形をね」
パチュリーは俺の手にそっと手を重ね、念を流し込む。俺は言われるがままに形状を考える。
(そうだな……剣とクリスタルとか、出来るかなぁ……)
「そう、で。次は好きな陣形にしてみて」
今度は陣形を考える。例えば単純なもので言うと円陣とかそういったものなのだろう。
(今度はそうだな……翼みたいにして、それから鋸のような形状を連続で――)
陣形を完全に構築した俺は、パチュリーの顔を窺う。
「できたのね。そしたら威力とか数の微調整を行うの、やってみて」
威力は最初の翼型の弾幕を全体的に強化し、あとの鋸型の弾幕は弱い威力のモノと強力なモノを交互に並べよう。俺は再び構築を終え、一旦息を吐く。
「出来たらこれで終了よ。…どう? 意外と簡単だったでしょ?」
さっきまで無表情だったパチュリーがほんの少し表情を弛緩させ、問いかける。
「だな。有難うな、パチュリー。…そういえば、名前とか決めなくてもいいのか?」
「パチェでいいわ。そうね、名前は決めておいた方が威力は上がるわね……付けてみたら? 名前」
俺はパチェの言葉に従って名前を考える。
そういえば、俺があの初めて紅魔館のメンバーと出会ったときに発動した「イヴィルノヴァ」は彼の有名な大魔王ルシフェルの魔剣と聞く。つまり――
「このスペルカードの名前は、罪符【ルシフェルの暁光】だ‼」
ルシフェルという単語に関連して、この名前を付けた。
刹那、スペルカードが浮遊しだし、そして輝きを放つ。パチェ曰く、スペルカードに命名するとその命名主しか使えなくなるそうだ。
この輝きによって、俺の罪符【ルシフェルの暁光】は俺のものとなった。
これが、俺の新たな第一歩であった――――。