ビギニング・オブ・ザ・ナイトメア ~深紅の絶望は、ここに~ 作:暁葵
第三章 我が儘お嬢と紅霧異変
「あーもう! 面倒クセー主だなぁ畜生ッ‼」
愚痴をこぼすばかりの俺は、館内を延々と無我夢中で疾走する。
そして一つ、探していない場所があったのを思い出す。
「あ……外か! って、まだ太陽は沈んでいないし、吸血鬼って太陽大丈夫なのかなぁ?」
吸血鬼は太陽が天敵…伝承でも云われていることだ。恐らくレミリアにもそれは該当するだろう。
俺は兎に角そんなこと気にせずに外へと走り出す。
†
「お嬢ッ‼」
いくら叫んでも、レミリアは反応しなかった。俺の声はもう聞きたくないのだろうか…それは実に肩身が狭くなりそうな事態だ。
フラン曰く、レミリアは『何でも言うこと聞くから』と言えば機嫌を治してくれる…らしいが正直完全に信用は出来ない。
そんな程度の言葉で簡単にあんな我が儘ハートを落とせるはずもないだろう。
――だが、踏み込まなければ何も始まらない。俺は勇気を振り絞り、イメージする。
何をイメージするのかというと”空を飛ぶ”ことだ。どうやらこの世界ではどの種族でも飛行が出来るのは常識らしい。
俺は足場が謎の旋風によって上昇するというイメージを浮かべて、思い切り跳躍してみる。
すると想像通り一気に跳躍した俺は、紅魔館の屋根を確かめる。俺はそれと同時に空を見上げてみる。
「何だ……これ……ッ‼」
蒼く澄み切った空が、気づけば鮮血のような深紅に覆われていた。何かしらの能力なのか、俺は引き続きレミリアの捜索をする。
数分後――――。
俺は意外と広い紅魔館の屋根から下を眺めたり、屋根を見渡した結果、やっとの思いでレミリアを見つける。
レミリアはやはりというか、泣いていた。まるで子供のように。
「ぐずっ……何よ、何よ! ワタシに逆らっちゃって……折角従順な下僕が増えたと思ったのに……‼」
その光景に、俺は下唇を強く噛む。
悔しさからなる行動、主としてではなく、一人の”少女”を泣かせた罪というのは、万引き以上に重いというコトを、ここで理解する。
息を呑み、いざ――!
「お嬢、いいか?」
「何よっ、歯向かった下僕」
レミリアは屋根を思い切り叩いて俺のことを”歯向かった下僕”と蔑称する。
事実ではあるが、刺さりはしない。恐らく、レミリアの負った傷は俺以上だろうから。
「……実はな、よくよく考えたらお嬢に救われているような気がするんだよ」
「何を今更――」
「俺な、学校でもよく怒られてさ、親からも敬遠されてたの。んでここに来てさ、非現実的な力を手に入れたわけ」
「………」
「でな、いかんせん俺の能力は”あらゆる魔を操る程度の能力”なわけで、いつ誰からも嫌われても可笑しくない能力なんだよ」
「……で、それが?」
「お嬢はな、そんな嫌われ者の俺を拾ってくれた。給料上げろとか言っても寛容に受け入れた……ホント、感謝しているんだ」
レミリアは気づくと、泣くことを止め、俺の勝手な語りを聞いていた。
「……そうなの?」
「ああ、寧ろ《輪廻の烙印》を貰って感謝しているところもあるんだよ。実質的な不老不死ってのは、結構多様性がある。寝れないってのは不便だが、もう能力を手に入れている俺が今更そんなこと言っても無駄なんだな……って思った」
「……ホント? ワタシ、邪魔してなかったの?」
「寧ろ俺が悪いことしちまった。………俺は」
ここだ! 俺はフランから教えられた機嫌を治すための言葉を宣言する。
「お前の言うコト、全て聞く。どんな無茶ぶりだって、この身体さえあればできるだろ?」
レミリアはまるで暖かい息吹を受けたような弛緩した感情となり、いきなり俺に飛びついてくる。
「ありがとうね……これからワタシ、身勝手なことはしないわ」
「ああ……」
二人はお互いにハグをした――。
†
「……でだよ。これなんだ? 目に悪い風景なんだが……」
「ワタシが拗ねて外に出たら軽く羽が日光で燃やされたから、ワタシの魔法で空を紅の霧で覆ったわ」
「なるほどな……確かにこんな時間に太陽が見えないってのも、乙なもんだな」
「でしょ?」
俺は屋根の上で濃厚な赤を見ながらしみじみとする。
そんなことをしていたら―――湖の方で物凄い轟音が聞こえる。
ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ‼‼‼‼
「何だ!? もしかして自然災害!?!?」
俺はいきなりのことで混乱してしまう。一方レミリアはやけに冷静だった。…というより、優雅だった。
「あのバカ巫女ね。――そうだわ! 統魔、ワタシのことを護ってよ」
「そういえば俺護衛だったな。じゃあ、護衛らしい常套句を言いますかな、っと」
俺は立ち上がり、レミリアを庇うように前に立つ。
「お嬢は安全な場所に逃げてろ。俺が外敵を倒してやるからなぁ!」
一度は行ってみたかった決め台詞を威風堂々と宣言し、俺はさっきと同じように空中を移動する。